ラブ・プロフュージョン

裏側の世界シリーズ


2、


浴室へと入っていくと、待ちこがれてくれていた長い腕が迎えてくれる。
絡みつかれて、抱き上げられて。
「遅かったな。のぼせるところだった」
悪かったな――と言おうとしたところを口づけされた。
「昔はよくキスしてくれたな」
唇にじゃない。唇にはしなかった。頬や額には、家族として請われるままによくしたが。
抗議に身を捩るが、セフィロスはキスをやめない。
だんだんと深く。クラウドの舌を吸い上げると、思うままにしゃぶる。
自分を求めるセフィロスの“飢え”を肌から感じて、勃つ。
「クラウド――」
「お前の体中を舐めてもいいか」
「ダメだ。あんた変なトコ舐める気だろうっ」
ささやかな抵抗でしかないと、自分でもそう思う。
セフィロスは哀しそうな表情を態と作った。こうなると美しすぎる男は、憂いによってさえ飾られてしまう。
「お前の嫌がる場所は舐めない」
――良いだろう?
こう舌出に出られるとクラウドは受け入れるしかなく。
「……わかったよ」
小さくぶっきらぼうに言った。
途端、セフィロスの魔晄が満足げに細められた。禍々しさが消え、本当に美しい天然の宝石となる。
幾度も目にした光景ではあるが、やはり見惚れてしまうのだ。
「ありがとう――クラウド」
まずは髪から。浴槽は張り出し窓へと続いている。そこはかなり広いスペースがとってあり、のぼせた身体をそこで冷ますことが出来るようになっていた。セフィロスはクラウドを座らせる。
銀の髪が濡れて、立ちあがったセフィロスの肢体に絡みつく。
逞しい身体の中央には、巨大な勃起。
湯ではなく、そんなセフィロスに、クラウドはのぼせるしかない。

奔放に跳ねている髪も、濡れてしまえば少しは大人しくなる。
分け目から地肌を舐めて、毛先へと。
額と髪の生え際を辿って、男にしては細い眉を弓なりに辿っていく。
つんと摘んで出来たような鼻筋を通り過ぎると、次は目だ。
クラウドはきゅっと閉じてしまった。閉じられた瞼を眼球の形に追いかけてから吸った。
頬から唇へ。ふっくらと欲望に色づく唇は、とても魅力的だが、今は優しく触れるだけ。
小さな三角形になっている顎の形をなぞり、ささやかな喉仏へと。くっと上下するのが愛らしい。
くっきりと浮かび上がった鎖骨は、下方にある腰骨と対になっているかのようだ。
どちらも骨の形さえ端正なのだ。
ささやかな乳首は丁寧に舐めて吸った。
己でもおかしく思うが、これは愛撫ではない。乳児が母の乳を吸うのと同じ行為だ。

セフィロスはクラウドと出会う6歳過ぎまで、ずっと己という存在は、正式にはこの世に生まれていなかったのだと認識している。
正確に言うと、母の胎内から産まれていたのは確かにそうだが、ずっと仮死状態だったのだと。
クラウドと出会い接触し、感じることによって、セフィロスはやっと産声を上げたのだ。
産声によって肺呼吸へと変わるのと同じで、セフィロスという個はクラウドと出会うことによって独立した存在となり、外界との接点を持てたのだ、と。
セフィロスは特別だった。記憶だけならば、産まれたその直後から覚えている。それなのにセフィロスには母乳の記憶はない。ミルクの記憶もない。
よって女性に対する敬意も、ない。
セフィロスにとって乳とはひとつだけ。この小さくて何も分泌されない、それでもほのかに甘い、吸っても吸っても飽きない、クラウドの乳だけだ。

大剣を扱うべく、細身ながら鍛え抜かれた上腕を持つクラウドは、上腕を引き上げ引き下げる動きの元となっている大胸筋と僧帽筋も発達している。
それがどちらもセフィロスの筋肉の付き方とは、あまりにも違う。
発達しているのに厚味はない。ごつごつしていない。
滑らかでしなやかに出来ている。
乳首を吸いながら胸をつぶさに観賞すると、それがとても良くわかる。
骨や筋肉までも、きっと血や血管もなのだろう。クラウドはとこもかしこもきれいなのだ。

縦長の臍は靨のようだ。チュッと音を立てて口づけてやると、敏感に腹筋が震える。
本当ならばここから下へと。そう、すでに勃ちあがり始め、先端が濡れて光っているペニスへと移るところだが、セフィロスは態と避ける。
もっと下へと。足の指へと滑らせていったのだ。
クラウドの足は大人の男としても小さい方なのだろう。セフィロスよりはかなり小さい。
足の指先、爪の形まで、とても端正に出来ていた。
サイズと比べると足の指が長い。親指よりも人差し指と中指の方が長いのだ。だから余計に指が長く見えるのだろう。
透明感のある白い肌は、足にもくすみがない。ほんのりと桜色に染まっているのが、美味しそうだ。
セフィロスは丸い踵を強く噛んだ。
「いっ」
かなり強く噛んだから、歯型が付いた。
肌よりも朱に近い色となった己の痕に、セフィロスは歓ぶ。
「――噛むなよ」
「悪かった」
素直に非を認めれば、クラウドはそれ以上責めない。これは昔からずっとだ。
生まれ持っての性格だろうか。それともセトラという種がそう出来ているのか〜これは認められないが〜クラウドは己の痛みには鈍感で、他人の痛みには殊更敏感なのだ。
セフィロスの我が侭な甘えをどこまでも受け入れてくれるのも、この性格によるところが大きいのではないのか。
両方の足を舐めてから、内股へと上っていく。
すね毛はほぼない。体毛自体が金色だから目立たないのもあるだろうが、こうして舐めてみても、ほんの産毛程度しかないのだ。
クラウドの身体ならば、別に体毛がどうであれ、気にもしないが、それでもやはりこの手触りは気に入っている。
足の付け根のかなり際どい部分まで達すると、易々と握り込める細い足首を掴み、大きく開いてやった。
同時に腰の部分から、クラウドを二つに折る。
大きく広げられた足の間から、クラウドの顔が覗いている。
羞恥、驚き、そして僅かに、でも確かにある、ここから先にまっている快楽への期待と。それらがごっちゃになった愛しい人の隅々までをも、セフィロスは存分に愛してやりたい。
「見ていてくれ。俺がどこを舐めるのか」
二つに折られた身体。大きく広げられ恥部を丸出しにした下半身。中心にあるのはペニスではなくアナルだ。
セフィロスは魔晄の焦点をクラウドの顔へと当てたまま、舌を伸ばす。
やけにヒンヤリとした舌先が、熱っぽくなっているアナルに当たった。
クラウドの顔が切なげになる。
「…汚いから、やめろよ」
――汚いだと!?
セフィロスは笑いたくなった。
こんなにきれいで、こんなに愛らしくて、セフィロスとクラウドを一つに繋ぐ大切な場所だというのに。
「クラウド。見てるんだ」
舌先でアナルの皺、一本一本までまさぐる。
快楽をしっているアナルはすぐに解れてくれた。舐めるという約束だから、とセフィロスは舌先での愛撫を止めない。
アナルの口には多くの神経が走っている。敏感な場所なのだ。
舌全体を使いこってりと舐め回していると、アナルの口が開いていく。くすみのない肌にある蕾が開くのだ。鮮やかな肉の色が淫らで美しい。
目にしただけでペニスが張り裂けんばかりとなるが、ここはまだ堪えるところ。
クラウド自身からの許可を貰わなければ、意味はない。
セフィロスは舐め続けた。

暫く舐めていると、クラウドの身体が物足りなさにのたうつのを感じた。
そんな反応を気づかれたくはないのか、クラウドは舌だけで充分勃起している己のペニスを隠すように腰を揺すってから、
「足が、痛い」
これでは、誘惑されているようにしか思えないだろうが。
「わかった――」
セフィロスは両足を解放して、軽々とクラウドの身体をひっくり返す。尻を突き出す格好にさせると、両手で尻を開いた。そうして再びアナルを舐め出す。
うつ伏せになった上半身。尻だけ高く掲げて、これはまるで交尾のポーズだ。張りつめた乳首と勃起している亀頭の部分が、己の体温によってぬるくなった床にこすれて、むずがゆく感じる。クラウドはそんな自分の反応におののく。
耐えようと思っていても、セフィロスの舌にあわせて、腰が動きペニスを擦りつけてしまう。
こうなるとセフィロスに溺れるまで、あと僅か。
ペニスでの射精以外の、それよりももっと極上の快楽を、もう知ってしまっているのだから。
「クラウド。腰が動いているぞ」
「アナルもひくついている」
――おや?
「濡れてきているぞ」
嘘。そんなの嘘。
でも、
「何か挿れて欲しそうだな」
「だが、俺は舐めるだけという約束だしな」
――意地悪!
わかっていて言わせようとする。こうなるまで追い込んでくる。
セフィロスは意地悪だが、でも…それを待っている自分は――

「…お願い」
「何だ?クラウド」
――恥ずかしいけど、欲しい。
唇を何度も舐めて、クラウドは愛される生き物となる。
セトラでもなく、セフィロスの保護者でもない。別の生き物へと変貌するのだ。
「フィー――挿れてくれ」
フィーというのは幼い頃、クラウドが呼んでいてセフィロスの愛称だ。
もっともセフィロスがソルジャーになってからは、セックスの時以外は呼ばないようにしているが。
フィーという呼ばれ方をセフィロスは気に入っている。
いつも呼ばれる度に思うのだ。己の名がこんなに甘い響きをしていたなんて、と認識を新たにするのだ。
こんなことでさえ、クラウドはいつもセフィロスに宝物を与えてくれる。
――ありがとう。
「クラウド。ありがとう」
ゆっくりとセフィロスのペニスが挿ってくる。
一対の剣と鞘のように、セフィロスとクラウドはピッタリと収まってしまった。
セフィロスの陰毛の感触を尻に感じて、本当に繋がっているのだと実感する。
「イイ…ああ」
快感が頭まで突き抜ける。堪えきれないまま、クラウドは達してしまう。
二回、三回、と腰を振って、セフィロスも達した。
体内に注ぎ込まれる感触に、クラウドは呻く。
だが、どちらもこれで終わりではない。
「顔を見せてくれ」
クラウドの感じている顔は至高だ。
「キス、して…フィー」
「何度でも」
繋がったまま座位になる。
唇をしゃぶりあい、固く抱きしめあいながら、二人は互いを満足いくまで、堪能するのだ。


人ならばとうにのぼせていただろうが、セフィロスもクラウドもただの人ではない。
セックスの後始末まで浴槽でした後で、裸のまま二人で広いベッドに潜り込む。
まだクラウドのペニスに執着しようとするセフィロスに、笑いながら、
「もう一滴も出ないよ」
「当たり前だ。俺以外には一滴だって許さん」
――セフィロス…
「エアリスとは結婚しないよ…」
「当然だ。俺がさせない」
そもそも、だ。
「どうしても子が欲しいのならば、人工授精にすればいいだろうが」
「その為の精子ならば、俺が採取してやるからな」
全く、わがままな。
「普通そういうのに使う精子って、自分で採るんだろ」
普通はもちろんそうだ。
「ダメだ」
いいか、クラウド。
「お前が自分でココを弄るのもダメなのだからな」
「セフィロス…」
「ココは俺のだ――いいな」
翠の魔晄が煌めく。
セフィロスは冗談は言わない。特にこんなくだらない冗談など。
クラウドに関することにおいては、いつも本気だ。
それすらも可愛いと嬉しくなるなんて。セフィロスがおかしいのならば、クラウドもおかしい。それは、認めるしかない。

ペニスから手を放したセフィロスは、クラウドの胸にそっと頬を置く。
「今度は何時行くんだ?」
クラウドはミッドガルに住んでいるのではない。
星の痕跡を求めて、世界中を旅しているのだ。ミッドガルに滞在している時間の方が、ずっと短い。
胸に溢れんばかりに広がる銀髪を整えながら、
「明日くらいにナナキがやってくる。それから宝条博士とプレジデントに話しをして…それが終わってから、次は古代種の神殿に行ってみようと思ってるんだ」
「古代種の神殿?」
ああ、
「南の孤島にある神殿のことか?」
「うんそう。そこで星の声が聞こえるかどうか試してみようと思うんだ」

星はもうずっと、クラウドの父の死以来、セトラから失われている。
星は哀しみの余り狂ったのだ。それでもなんとかクラウドの父が生きている頃は、星の声は聞くことが出来ていた。
それが、もう――完全に聞こえない。完全に狂ってしまっているのだ。
星は狂った力のままで、凶器ウェポンを作り続けている。
クラウドはセトラの末として、又星の狂気を止めようとして、ウェポンに殺されてしまった父の遺志を継ぐべく、星を癒そうとしている。
星を癒して、狂気から救う。そしてウェポンを一体残らず倒す。
セフィロスは星を癒すことなど出来ない。星の狂気の原因となったのはセフィロスの持つ遺伝子、ジェノバなのだから。
クラウドの使命を知ったとき、セフィロスはウェポンと戦う道を選んだ。
クラウドの力となる為に。

「でも、暫くはミッドガルにいるよ」
そうしないとこの大きな養い子は収まりがつかないだろうし。
何よりクラウドだって、ずっと離ればなれなのは寂しい。
「是非そうしてくれ」
旅立つのは止めないから。

二人はじゃれあいながらキスをしあう。
やがて――安眠につくまでは。



END


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