Justify My Love

裏側の世界シリーズ


3,


本社ビル地下駐車場から、クラウドを乗せたセフィロスの車が、帰途へと急ぐ。
車内で二人は無言だ。視線も合わせない。手さえ握らない。
もし一言でも喋ってしまえば、自分の名を呼ぶ声を聞いてしまえば…視線を一瞬でも交差させてしまえば、万が一触れ合ってしまい、互いを求める体温を感じてしまったら――もう抑えは効かない。タガが外れ、ここが例え観衆のど真ん中だとしても、二人は求めあってしまうに違いない。
互いにそうなると解っているからこそ、車内では一切の接触をもたないでいるのだ。

だがそれもセフィロスの自宅のひとつに着くまでのこと。
セフィロスにはミッドガルに複数の自宅と、世界各所にいくつかの別荘がある。どれも防犯の都合上セフィロス名義ではない。
そのうちのひとつ、ミッドガルを一望出来る高層マンションの駐車場スペースに車は入った。直通エレベーターに乗り込むと数秒で部屋まで到着する。玄関をくぐり入室。一番奥のベッドルームに入り、ドアが自動ロックされた瞬間、二人はぶつかりあって抱き合った。
「…フィー――」
もつれ合いながら二人は口づけあう。唇だけではない。どこもかしこも。
そのままキングサイズのベッドの上へと。暫くはもつれあったままであったが、その動きが止まった時、マウントポジションはクラウドがとっていた。
仰向けに横たわるセフィロスの上に乗り上げる。手はそのまま滑り黒い革パンツの股間へと。すでにそこは隆々と勃起をしていた。
「…もうこんなに大きい!」
欲情に震え思い通りにならない指先を叱咤して、クラウドは革パンツのフロントを外し、ジッパーを下げる。
下着に包まれたセフィロスのペニスは、フィットした下着からはみ出しそうな勢いだ。下着から覗く髪と同じ銀色の陰毛すら、クラウドには快楽のエッセンスだ。
股間に覆い被さると、下着ごとむしゃぶりつく。
「うっ」
セフィロスが快感に唸る。
イイ所はすでに知り尽くしていた。セフィロスがクラウドの身体の隅々までをよく知るように、クラウドだって本人以上に知り尽くしているのだ。
下着の上から亀頭を甘噛みする。手は睾丸へと。
興奮していつもより大きく膨れている双球を、下着の上からやんわりと揉みこんだ。
「っ!」
一際大きく、セフィロスが鳴く。美しい顔が快楽に浸る。
浸りながらもセフィロスの双眸は、いつになく積極的で淫らな恋人から離れない。
普段はセックスとは無関係としか思えないクラウドが、全身を上気させ、下着ごとセフィロスの生殖器にむしゃぶりついているのだ。
伏せられた金色の睫毛が、上気した頬に淫靡な影を作る。
口唇愛など滅多にしてくれないのに。そもそも余程行為に没頭しない限りは、セフィロスのペニスに触れもしてくれないのだ。
それが今は――5日間離れていた状況に肉体ごと飢えていたのは、セフィロスだけではなくクラウドも同じだったのだ。

人体はどこか海の味がする。やはり人が海から上がってきて進化したからだろうか。
涙も汗も肌も、分泌する体液も、濃度が増せば増すほど海の味となる。
こうして交わるたびに思うのだ。セフィロスには味がない。
涙と汗は純水の味しかしない。肌には味さえない。そう言えば匂いもない。
たださすがに精液だけは――苦い。セフィロスの味がする唯一のものである。
恋人の味を求め、クラウドは口腔全体を使う。下着越しに苦味が増してくるのが嬉しい。
指先を使い、べっとりと張り付いた下着を下げていく。
クラウドの唾液と、セフィロス自身の体液によって、下着はぐちょぐちょだ。
どうにか尻までは引き下ろしたが、そこからはどうしてもおろせない。前も睾丸がやっと出るくらいまでで止まってしまう。
クラウドはそのまま構わずに、睾丸を掴みながら尿道口へと舌を突き刺す。
そんなクラウドを愛でて、
「美味そうにしゃぶるんだな」
掠れたセフィロスの声がする。
「美味しいよ。フィーのは」
――フィーの味がする。
味?
「どんな味がする?」
セフィロスは己のペニスから離れない恋人の髪を撫でた。
「苦い――でも美味しい」
クラウドはむしろあどけない。
だがセフィロスはこう答えたクラウドに煽られた。射精を耐えられない。
汚してみたい。このきれいな青年に己の精をぶちまけたい。
クラウドの髪を撫でていた手に力がこもる。頭を掴んだ。
びくびく。赤紫に充血したペニスが大きく震える。クラウドも男だ。こういう時男同士というのは誤魔化せやしない。
「呑むから、出して」
「…っクラウド」
パクリと銜えたのと同時に、セフィロスは恋人の暖かい口内に、精を放った。

ペニスを銜えたままで喉仏が動く。青い瞳はセフィロスを見上げたままだ。自分の口戯に達した美しい顔をうっとりと観賞しながら、クラウドは放たれた精液を嚥下する。
――苦い…
でもこれこそがセフィロスの味。ずっとずっとこの味を愛している。
苦痛に苛まれたかのような、それでいて官能的なセフィロスの表情。エクスタシーとは己の命の源を放出することだ。そう考えると苦痛と紙一重の表情になるのも頷ける。
顰めた眉。いつもは冴えた翠の瞳も快楽に濡れている。全身で荒い息を付きながら奥歯を噛みしめていた。
戦場ではどんなハードな局面でも、眉一つ動かさず悠然としているこの英雄が、クラウドには欲望を剥き出しにして全身でぶつかってくる。
こんなセフィロスを愛している。永遠に離さない。
これからも未来永劫、クラウドだけのもの。
こういう時、やはり自分も男なのだと実感する。セフィロスに抱かれながらも、どこかで彼を支配したい。
精液を残らず吸い出そうと更に深く銜えるクラウドを、セフィロスは頭ごとで引っ張った。口からペニスが弾け出てしまう。とくり、小さくペニスが動いて、少しだけ精液が出た。まだ力のあるペニスに流れていく。まるでペニスというメインディッシュに注がれる、特製ソースみたいに。
「今度は俺がクラウドを味わう番だ」
黒革のロングコートと下肢に引っかかっている黒革のパンツを脱ぎ捨てた。下着はなかなか脱げず、セフィロスは己の手で引き裂いてしまう。
こうして現れたのは、美しい、完璧な裸だ。
憧憬と、優れた芸術を目の当たりにした感動と。そしてやはりこの美しい男に犯されるんだという欲望がせり上がってきて、クラウドは熱く溶け出す。
クラウドの手は自然と動きだし、己の手で服を脱ぎ出す。セフィロスは手を貸さずに、だんだんと露わになっていく白い肌を無心に食べ始めた。
「オレ、美味しい?」
セフィロスは本当に美味しそうに食べているから。
小さな乳首を噛んだまま軽く引っ張る。その間も手は休みなく動き、尻を揉み込んでいく。
「お前は甘いな」
「甘いの嫌いじゃなかった?」
食べ物の嗜好すら感じないセフィロスだが、甘い物はあまり好まないようだ。特にチープな菓子類は、幼い頃から口にはしない。
「俺の一番好む食べ物は、お前だ。クラウド」
セフィロスは己の身体をずらして、膝立ちとなっているクラウドの股間の真下に顔を寄せた。
クラウドの腰を落とさせて細い足を大きく割り、アナルへと吸い付く。
解さなくても良いほど、充分に解れているのが嬉しい。それでもゆっくりと指を挿入させると、体内は熱く濡れていた。狭いが柔軟だ。柔らかい。
指先でまさぐると目の前にあるクラウドのペニスから体液が零れた。
いつもはキスのひとつにも、愛撫を施すのも、受けるのにも、いちいち理由を必要としていたクラウドが、今はもう違う。
恋人としてのセフィロスを受け入れ、認めている。恋人とのセックスを堪能するのに、理由など必要とはしない。すでにクラウドは発情しきってとろけているのだ。
すっかり勃起しているペニスは、生々しさがなく、きれいだ。生殖器というものは、原始的なグロテスクさがあからさまなものだが、クラウドのは別だ。ペニスもアナルも睾丸も皆、生臭さがなく整っている。クラウドがセトラだからだろうか?
――違う。クラウドだから、だ。
他のセトラの生殖器など、見たくもない。

すでに解けて綻んでいるアナルに口づけてから、セフィロスはクラウドの細い腰を持つ。本当に細い腰だ。女よりも細いだろう。くっきりと浮き出た腰骨が、しなやかな肢体を飾るアクセントとなっている。
尻も小さい。セフィロスの両手で腰を持つと、それだけで腰も尻も隠れてしまいそうだ。
だが、細いだけではない。こうやって触れていると良く解る。白い滑らかな肌の下には、良質の筋肉があるのだ。
クラウドの筋肉は質の良い筋肉だ。しなやかでよくたわむ。瞬発力と敏捷性はここからきている。
だが反面、いくら鍛えても厚味がつかない。硬くはならない。
この肢体をセフィロスはこの上なく愛おしんでいる。
と、フッとある考えが過ぎった。やってみるべきだと考えたら、即実行するのがセフィロスという男だ。左手でクラウドの腰を支えたまま、右手を伸ばす。
ベッドのすぐ傍にはチェストがある。ここの収まっているモノは、大半がただの小物だが、中にはセックスを円滑にする道具もあった。
そのひとつを取り出す。誰でも縁のある、もっともポピュラーな避妊具。ゴムだ。
「…?」
セフィロスの手にあるゴムを認めて、クラウドが小首を傾げる。
セフィロスはこれまで避妊具を使ったことはない。やるときはいつも中に射精する。
クラウドは男だから妊娠の危険もないし、二人には性病の心配もないから、使う理由もないのだが。
セフィロスはパッケージを破り、薄いゴムを出す。そしてゴムを己のモノではなく、クラウドのペニスに被せたのだ。
「フィー!?」
「お前がもう迷わないための保険だ。すぐに外す」
言葉の意味が解らず困惑するクラウドを、セフィロスはゆっくりと下から貫いた。
すでに充分濡れてとろけているアナルだが、セフィロスのペニスが長大すぎる。挿入はいつも苦しい。
「あ・あ…」
圧迫感に腹が押される。痛みこそないが、直接内臓を貫かれるのはやはり不快だ。
だがこれはすぐ倍の歓びとなるのだ。
自重も手伝い、根本まで挿入しきった。セフィロスの陰毛が腹に当たる。鍛えられた腹筋はゴム越しにクラウドのペニスを擦った。
クラウドは両手を精一杯伸ばして、逞しい背中を抱きしめる。長い銀髪がクラウドも覆った。
そして互いを味わい尽くす、長い長いキス。
吸われている唇からと、ペニスを挿入されているアナルの奥から、光が広がっていくのをクラウドは感じた。
――ああ…くる。
光は全身に広がっていく。どん、と痺れる甘い疼痛と共に。

何回射精したのか。どれほど注ぎ込まれたのか。クラウドは記憶がない。
ただとても――幸せだった。


翌朝、すこやかな眠りに浸っているクラウドをベッドに残して、セフィロスは神羅本社ビルに向かう。
用事さえ済ませれば、休みをもぎ取りすぐ戻るつもりだ。ただその用事が問題なのだが。
セフィロスは真っ直ぐに67階へと向かった。
宝条ラボ。普段は決して足を向けない場所だ。
IDを通し入室すると、宝条を探す。探し人はすぐに見つかった。
針金の身体によれた白衣を引っかけている。伸ばし放題の銀髪は、セフィロスと同じ色なのにも関わらず、汚れをそのままに放置して手入れをしていない為、くすみきっていた。
この男を目にするだけで、苛つく。この男が必要なのは解っている。ジェノバの為に、何よりクラウドの為にはこの男は欠かせないが――嫌いだ。憎んでいると言いきっても過言ではない。
「――おい」
不愉快なことは速く済ませたくて、セフィロスは自ら声をかけた。
宝条はゆっくりと振り向く。眼鏡の奥にある瞳の色が、やはり似ていて腹立たしい。
本当ならば、ここで回れ右をして退室したいくらいだが、そうも言っていられない。用事とはこの男にある。
セフィロスはいきなり家から持ってきたモノをつきつけた。
金属製の小さな、掌大の保管ケースだ。主にピルケースとして使用されているが、かなり高性能で冷凍保存も出来る代物だった。
「なんだ、これは」
宝条がうさんくさそうに睨む。
セフィロスは殊更簡潔に、
「クラウドの精液だ。昨夜採取した」
さしもの宝条も目を見開く。
「冷凍してあるから、精子の保存は出来ているはずだ」
「これをお前に渡す――」
「セトラが作りたければ、この精子を使え」
その代わり、
「これ以上この問題でクラウドを煩わせるな」
セフィロスはこれだけを一気に言うと、保管ケースを傍のトレイの上に置く。


神羅本社ビルから出るセフィロスは晴れ晴れとしている。
家には恋人が待ってくれている。クラウドは完全な恋人となったのだ。
ずっと二人を悩ませていたセトラの問題も、これでどうにかなるだろう。宝条は性格は最悪の男だが、科学者としては優秀だ。
クラウドの精子を渡したのはちと勿体ないが、あれでどうにかしてくれるのならば、仕方あるまい。
クラウドはまだきっと眠っているだろう。
その隣に潜り込んで、恋人を抱いて眠ろう。

俺達の愛は――正当なのだ。







END




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