クソ暑い夏のさなかでもしっかり制服を着込まなくてはならないのは辛い。
正直夏も冬も辛い仕事だ。
それでも俺には楽しみが出来た、時間の許す限り蜂蜜色を見るためにヤツの出没する周辺でこっそり眺めるのだ。
名前はサンジ
22歳(運命のように同じ歳だった)
バラティエという洋食屋のコック(女房にするなら料理上手が良いと思ってたので問題無しの仕事だ)
オンナに甘い(甘いが実を結ぶことはなさそうなので安心だ)
どうも目つきの怪しいストーカーがへばりついていたので油断できねえ(この辺は警察官らしく職質かけてしっかり脅しておいた。ヤツの貞操は俺がきっちり守る)
職場から50ccで20分の静かな住宅街安っぽいコーポの3階に住んでいる(角部屋で二面光。広めのキッチンが契約のポイントだったらしい。間取りも押さえてある俺に抜かりはねえ)
毎晩ampmに寄ってプリンを買うのが日課らしい(甘いモンは好きじゃねえけど、ヤツが作ったもんなら食ってもいいと思う)
新しく手帳に蜂蜜の情報が増えてゆくのが嬉しい。
(署内では黒革の手帳と呼ばれ揶揄されていたことは随分後になってから知った)
こうして、夏が終わろうとしていた。
ウソップの恨めしい顔やナミの満足気な顔が気にはなったが、集る情報とは裏腹にどうにも今一歩きっかけが掴めないままさすがの俺も焦れ始めていた。
いつものようにパトロールの帰り道、ヤツの済むコーポの角から部屋を眺める。
愛車のべスパが無いから珍しく何処かへ出かけたらしい。
仕事の終わった夜に出かけるなんて、いってえ何処へ行きやがったのだろう?
誰かと会っているんだろうか?
焦れ焦れとした気持ちが込み上げてきてまったく嫌になる。
今まで白か黒かで生きてきた。
なのに・・・・この俺の女々しさは何事なんだろうか?
手帳には蜂蜜色の情報が増えている。
だけど、俺はヤツが何に喜び、何に怒り、何が好きで、何が嫌いなのかも何も知らない。
記号のような見かけの情報は知っていても、どんな生き方をしてきて、何故料理人になったのか?
どんな友だちが居るのか?
何も知らない。
そして、ヤツは俺のことなんか本当に知らないのだ。
気分が滅入りかけてそろそろ署に戻ろうと、そう思ったその時、聞きなれたべスパの音が聞こえた。
まるでファンファーレのようだ。
蜂蜜色は、あのバカは俺の目の前でノーヘルだった。
神様確かに俺はこの時、祝福のラッパの音を聞きました。
ウシ!
これが運命の出会いだ。
ぜってえいにゲットしてやる。
みてろよ!ウソップ賭けは俺たちの勝ちだ。
俺はニヤリと笑いながら、蜂蜜色の前へ立ちはだかった。
蒸し暑い夜のことだった。
魚心あれば水心あり
先人は良いことを言うと思う。
あの運命の夜、サンジを頂くつもりだったのにうっかり大掃除をさせられて、腹っぺらしのまま深夜勤に突入したのは辛かったが、
部屋に戻るのが楽しみだなんて初めてのことだ。
サンジが掴んで振り回した手のひらを何度も眺めてはつい頬が緩んでしまう。
鼻歌まで歌いながら陽気なゾロは生活安全課からの要請で○暴対策に借り出され張り込んでいてもウキウキが隠せない。
ただでさえ目つきがきつく人相の悪いゾロが陽気なのだ。
それは恐ろしく、言葉ひとつ発していないのに、陽気に微笑みかけられたヤクザたちは、死にたくねえと口々に言いながら素直になってゆく。
「ゾロ、なんかいいことあったのか?」
ウソップの言葉にゾロが更に凶悪な笑顔になる。
「オウ。賭けは勝てそうだぞ」
「え?」
「ふふん。蜂蜜は今俺の家に居る」
「ゾ・・・ゾ・・・ゾロ!!拉致監禁は・・・・」
「バカ!んなことしたくったてするか」
「やっぱり、したかったのか・・・」
「そこじゃねえだろう?蜂蜜が俺に飯作ってる」
「め、飯ぃ?」
驚くウソップの顔にまた頬が揺るんじまう。
「おうよ。ダチになった」
「ダチイ?いつのまに」
「なりゆきだ。ダチから恋人っていうのは実に自然でありえる話だろうが!」
ふふんと笑いながら俺の人生は薔薇色に輝きはじめた。