あの日あいつは朝になっても戻ってこなかった。
一応食事は置いてきたわけだし、免停は免れたわけだ。
オレにはなんの義務はねえ。
そう思っているのに、電子レンジすらなかったあの部屋で冷めた飯食ったのかと思うとどうにもイライラする。
ランチタイムに綺麗なOLさんたちに美味い飯を届けて「サンジ君ありがと〜〜」なんてハートを飛ばしてもらって幸せなはずなのに、どうも小骨の刺さったように気になる。
ちくしょ〜〜〜。
仕事の後の風呂上り、寝る前に食うなめらかプリン。
オレの唯一の贅沢。
そんな至福の時間なのに、オレに怒鳴られたまましょんぼりしていたヤツの顔が浮かんじまうなんて!!!
もうやってらんねえ。
オレは深い溜息を一つつくと仕方なく台所へ立った。
居るのか居ねえのかもわかんねえけど、とにかく冷めても美味い弁当を作って特大タッパーに詰めるだけ詰めた。
コンビニの袋にタッパーを押し込みながら、テメエでも少しバカだなと思う。
だけど気になる。
気になって仕方ねえ・・・・。
錆びた階段を、ギシギシ音を立てて上がりながらも、まだテメエの行動の理由がテメエでもわからない。
そうして・・・・玄関まで来て灯りが点いていないことに、ほっとしたのか、がっかりしたのか・・・・。
弁当の袋を戸口に置くとサンジは大きく溜息をつくと来た道を戻った。
そして翌日も、そのまた翌日も、弁当を届けていた。
戸口にはサンジの置いた弁当は無くなっていて、3日目にデカイタッパーが無くなったので、ホイルに詰めて、それでも運んだ。
食べているのか、食べていないのかもわからなかったが、あの腹の空いた情けない顔が瞼に焼き付いてしまったのか、今夜こそやめようと思っても、弁当を作ってしまうのだ。
こうして4日目になった時。
オレがなめらかプリンの入った袋を提げ陽気に歩いていると、アパートの下に見忘れるわけもない緑の頭が目に飛び込んできた。
「よう!」
あっけにとられているオレをよそにゾロは紙袋を掲げる。
「なんだよ。それ」
「飯の入っていた箱だ。昨日ホイルになっていたから。無いんだと思って返しに来た。美味かった。」
笑いながら差し出す袋を受取りながら動揺してしまう。
「お・・・おう。美味くて当たりめえだ。プロが作ってんだ」
「そうだな。本当に美味い。早く礼言いに来たかったんだけどよ。なかなか明け番になんなくて、悪かったな」
「お・・おう。そ、そうだ。テメエ食っていたなら礼くらいきっちり入れやがれ」
ストレートに褒められて耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。
こっぱずかしくて仕方ない。
紙袋をボンボン振り回しながら、オレはアパートの階段を駆け上った。
階段の下からぼーっとしてオレを見上げているゾロに向かって振り返ると一言叫ぶ。
「腹減ってるんだろ?」
その言葉でゾロは顔いっぱいに笑顔を浮かべた。
「いただきます」
意外に礼儀正しくゾロは両手を合わせる。
「おう。食え。クソ美味いぞ」
言いながらオレは缶ビールのプルトップを上げると口をつける。
ごくごくと喉を鳴らしながらゾロを窺えば、ヤツは味噌汁に手をつけて一口啜ると口端が上がっているのが見える。
そうか、そうか、美味いか。
あまりにわかりやすい表情にオレの気分は一気の上昇していく。
弁当は冷めても美味いものしか作れなかった。
だから、味噌汁は外せない。
冬仕込みの味噌はオレの手製の自信作だ。
米は今朝出かけ前に炊いたものだったが、必ずお櫃に移すことにしている。
お櫃に移した飯はいつまでも、最後のひとつぶまで臭くならず美味いまま食える。
チンで暖めれば炊きたてのように甘い香りがするんだ。
味噌汁を飲んで、飯をほうばりながら、ゾロはオレの作った皿をどんどん空にしていく。
気持ちいい食いっぷりだ。
本当に美味そうに食う。
こいつこんな顔して食ってたんだな。
そう思いながらオレはビールを呑みながらゾロの食べっぷりを眺めていた。
皿が半分くらい空いたところで、ゾロの手が止った。
「テメエは?」
「ン?」
「テメエの分は?」
「オレは店の賄い食ってるからいいんだよ」
「腹減ってないのか?」
「おう。チビチビ呑んでッから心配しねえで食え。全部オマエんだ」
「そうか。全部食っていんだな?」
キラキラした目で聞いてくるからおかしくなる。
「おう。全部テメエのだ」
オレの駄目押しの言葉でゾロは安心したのか、さらにがつがつと食いだした。