オレのミスターポリスマン






no.2


なめらかプリンを食べて安らかなる眠りにつく予定だったオレは水心を得るために魚心を発揮する羽目に陥っていた。
やつは頭に来ることにあの場でオレに部屋の鍵を寄こすとまるで長年連れ添った女房にでも言うようにさらっと言ってのけた。
「俺ぁ明けで帰るのが11時だ。その後また深夜勤になる。その間に飯作っとけよ」
言いながらさらさらと名刺の裏に住所を書く。
「へぇ〜警察官も名刺なんか持ってるんだ」
「ま、一応な。水心が欲しいんなら、せいぜい気張れよ」
不適に口元だけ上げるとそのままヤツはバイクに跨って行ってしまった。
なめらかプリンの買い置きを忘れたばっかりに、オレは非常に面倒くさい目にあうことになってしまったのだ。
ちくしょ〜〜〜〜!!!

錆びた階段を上がり廊下を一番奥まで進む。外に出されている洗濯機とか自転車とか色々な荷物を避けて鍵を回す。
と、その部屋はまさにカオスだった。
思わず回れ右したくなる部屋。
玄関を入ってすぐ右が狭いキッチンらしきもの。湯沸かし器すらない蛇口が1個に流しらしきもの。
ゴミの山。
左は風呂場なのか、異臭を放つ服の山。
その奥には・・・・・・。
見るのも目が腐りそうだった。
この部屋で飯なんか作れるわけない。
泣きそうな気持ちを抱えながらも、俺はもう一度部屋に鍵をかけると、近所でみかけたドンキーに向かった。


買って来た靴下を靴の上から履いて2重にすると、タオルを頭に巻いて、ともかくゴミを全部纏める。
端から捨ててゆく。
洗濯機もフル回転で脱衣所から飛び出すほどの山を洗いまくる。
雑誌にカップ麺の空箱、テレビで良く見る汚部屋そのままの部屋に何度も吐きそうになりながら、ゴミを捨てまくると、ようやく布団が見えてきた。
布団は外に出して現れた床が畳みではなかったことに胸を撫で下ろす。
これが畳みだったら絶対に腐ってる。
腐って違う物体になっていたはずだ。
纏まったゴミをどんどん外に出しているとろこで、偉そうなヤツが玄関で立ち竦んでいた。
「てめ・・・何・・・」
「床を拭け」
何か言いたそうなヤツに雑巾を投げつけ、オレは冷蔵庫の中にとりかかる。
どんなに酷いありさまなのか覚悟して開けたそこは・・・・見事に酒しか入っていなかった。
かつては食べ物だった物体が飛び出さなかったことにほっとしながら、使用済みでいっぱいになった皿やコップの山を洗いまくる。
チラっと時折振り返ればヤツは素直に雑巾掛けをしている。
よしよし。
「オマエ、2回は拭き取れよ!で、終わったらこっちの床も拭いて、んで終わったら言え!!」
偉そうに怒鳴るオレの背中に「オウ」と返事が聞こえた。


「おし、準備OKだな」
手を腰に当てて一服を決めればヤツが脇から顔を出す。
「飯出来たのか?」
「バカか!テメエ!!この汚部屋で飯作れるわけねぇだろうがよ。掃除が終わったんだよ!!!」
「オウそうか。すまねえ。で、飯は?」
「これから買出しだ!」
「そうか」
「そうだよ」
一応拭き清めた部屋は見れるレベルにまで復活したようだった。
「買出しに行ってくる」
「その袋は違うのか?」
「これは材料だけだ。テメエの家には調味料が見事にねえ。誤算だった。塩も味噌も醤油すらねえ家がこの世に存在することを考えておかなかったオレのミスだ」
「醤油はあったろ?」
「バカ!!!カビが浮いてたよ!!!いったどうやったら醤油をカビさせることが出来んだって!!!」
オレの迫力に押され気味になったのか、制服を着ていたときと違ってヤツは妙に神妙にしている。
「いいか!汚すんじゃねえぞ!」
それだけ言いおくとオレは部屋を後にした。

しばらくして戻ると、ヤツの気配が無い。
小さなテーブルの上には紙切れ一枚。
≪深夜勤なんで出る≫
それだけ書いてあった。
そういやぁヤツはなんて言ってた?
11時に上がって一旦帰って深夜勤に出るって言ってなかったけっか?
オイそれって・・・腹っぺらしのまま出て行ったってことかよ。
メモをギュウっと握り締めながらめちゃくちゃ腹が立った。
なんだってそう言わねえんだよ。
ちくしょ〜〜何時に戻るかわかんねえけど、涙出るくれえに美味い飯用意しておいてやる。
ちきしょ〜〜〜!!!


オレはこの夜2度目の「ちきしょ〜〜〜〜〜!!!」を連発した。



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