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+ '08年08月22日(FRI) ... クラファティマ話その2 +

びーこです。

ミッションばかりいってストーリーが進まない私のCC。
でもいいんです。
セフィとクラのDMW発動に胸をときめかせつつ、
じっくりと楽しんでいきたいです。
楽しいことはなるべく長く反芻しながら続けるのが、
私のやり方ですので。

♪に拍手、ありがとうございます。
では続きを。

※※※
基地に戻り兵達に話を聞いてみた。セフィロスの質問に兵は疑問を差し挟むよりも前に、答えるだけで精一杯だったのが幸いする。
誰もセフィロスがどうしてそのような、村人について尋ねるのか、疑問には思わなかったのである。
そうしてフードの人物の情報を手に入れたセフィロスは、様々な考察に没頭する。
彼は少年だった。村はずれに母親と二人で暮らしている。
名はクラウド。親しく会話を交わしていた兵はいなかったが、それでも表面だけはわかった。
クラウドはまだ十代半ばの少年でしかないが、狩りにはかなりの才能を持っているようだ。
ハンターと共にニブル山に入り、モンスターを狩って、それを慎ましい生計の足しにしているらしいと言う。
無口な少年でいつもフード付きのマントを着ている為、兵のほとんどは彼の姿形を知らなかった。
ただ一人だけ、偶然にクラウドの顔を目にしたことがあったそうだ。
兵の中でも特にニブルヘイムの村人と親交が深いそうで、ハンターの大がかりな狩りに同行したのだと言う。
(あのフードをとっても顔の半分以上を覆うデカいゴーグルを掛けているんですけどね…)
だから狩りの間ははっきりと顔が見えなかったそうだ。
同行した兵も、それ以上特に少年の素顔に関心はなく、ハンター達と共に狩りを楽しんでいたのだが、
(もうくたばっちまってるって思ってたモンスターが急に起きあがりまして)
死んでいるのが当たり前の致命傷を受けたのにも関わらず、まさしく死力を振り絞り、最後の抵抗を示したのだ。
その場には数名のハンターがいたが、皆すでに銃口を下げてしまっている。
ただ一人だけ、少年が銃を構えたままだった。そこに目掛けてモンスターが襲い掛かっていく。
(ダメかと、一瞬ヒヤりとしたんですが)
自分目掛けて襲いかかってくるモンスターを目前にしても、少年は怯まない。
しっかりと照準を合わせ、一発必中へと挑む。
そして、銃が轟音を立てた時、
(見事にモンスターの額を打ち抜いてまして)
熟練の兵である男の目から見ても、それは見事な手腕であった。
無駄のない、しかも流麗な動作は、人の反射神経の限界を超えてさえいた。
モンスターはそれで事切れたのだが、死力を振り絞った最後の一撃は、少年のゴーグルを破壊していた。
(いやー、そりゃあ目が覚めるようなキレイな顔でした)
見事な金髪に相応しい蒼穹の青。二つの青をはめ込んだ瞳は、非の打ち所のない絶妙のラインを描いていた。
(俺も騎士のファティマを見たことはありますが)
(あそこまでキレイな顔は、ファティマでもありませんぜ)
輝いていた――と、対して語彙もない無骨な兵はそう言って、セフィロスの前だというのにうっとりとした眼差しを空へと投げる。
きっとその時の少年の顔を思い出しているのだろうが、セフィロスはそんな兵がやけに不快だった。
セフィロスは普段よりも無機質な音声で、続きを促す。
兵は慌てて我に返るが、そこからは大した話はないのだと言う。
(それがね、ゴーグルが壊れたのが解ったとたん、その場にいたハンター達が駆け寄ってきて)
兵から少年の顔を隠したのだという。
次に少年を目にした時には、すでにフードを深く被っていた。
だから、素顔を見たのはほんの一瞬だったのだ、と。
――やはりそうか…
ハンター達は少年の存在を、村の外の人間に隠そうとしているのだ。
セフィロスはその部分の詳細を兵に求めたが、彼の答えはシンプルなものでしかなく、セフィロスの求めている確信とはズレていた。
(隠してる!?)
(そりゃあそうでしょうよ)
(あんなキレイな男の子、下手したら襲われちまいますからな)
ニブルヘイムという村は、閉鎖的な風土が根強い。軍の基地が建設され、軍関連の施設も側にあるというのに、村の気質は以前の通り辺境にある小さな村そのままなのだ。
村人たちは皆知り合いで、父母祖父母どころか村人同士ならばご先祖までもが知人なのだ。
血も複雑に絡み合っており、根元まで紐解けば、村人は皆血縁関係にあると断言しても過言ではない。
そんな環境が当たり前の村において、あんなに奇麗な子ならば、例え男の子だろうが村全体で庇うのは当然ではないか。
これまで幾度となく村の閉鎖性を目の当たりにしてきた兵の、これが実感であった。

セフィロスがこの基地に属しているのではないからなのだろうか。
それとも、村の閉鎖性というものを知らないからなのか。
やはりセフィロスにはどう考えてみても、少年を庇う村人の真意は、兵が言うような単純な問題ではないのだとしか納得出来ない。
短く事務的なねぎらいの言葉を兵に与えてから、セフィロスは考え込む。
手慰みにタバコに火をつけてみるが、吸う気は一向に起こらない。
ただ紫煙だけを目で追っていて、ふとある言葉が過ぎる。
さっき兵が何の気なしに言った、ある単語。
――…そうだ!ファティマだ!
これは騎士であるセフィロスだから感じたことなのかも知れない。
はっきりとした感覚ではなかったために、ちゃんとした形にはなっていなかったが、他の騎士よりも数多くのファティマを目にしてきたセフィロスは、確かにあのフードの人物を前にした瞬間、感じたのだ。
それはファティマを前にしたのと同じ感覚だった。
セフィロスはリアリストだ。勘や感覚など閃いた経験すらない。
でも今回だけは違っていた。思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほどに、閃きは頑強になる。騎士としての本能が、彼こそファティマなのだと、強く訴えかけてくるのだ。
あのほっそりとした、触れれば折れてしまいそうな体つきといい、どこにも歪みや癖がないあの動きのバランスといい、天才マイトが手がけたファティマにそっくりではないか。
それに少年の素顔はファティマ以上の美しさだったという。
――もし、クラウドという少年がファティマだとすれば…
あそこまで人と遜色ない、いや人以上のファティマを創り出せるのは、星団広しといえどもほんの一握りしかいない。
しかもセフィロスの知る限り、それほどまで高名なマイトの作品で、あの少年に当てはまるファティマは存在していない。
何よりそこまで高名なマイトが、このような騎士もろくにいない辺境になど住んでいないのだ。
天才レベルのマイトで――
ニブル近辺に住んでいて――
作品が知られていなくてもおかしくはなくて――
一人のマイトの名が、脳裏でわんわんと響く。
――ガスト博士…
それは今回のセフィロスの旅の目的となる人物である。


ガスト博士――神羅軍に属する宝条を超えるであろう、この五つの星団最高の天才マイトである。
いや、あったと言うべきか。
ガスト博士は今から十年ばかり前に、消息不明になったのだ。
それは突然だった。ある日、何の前触れもなく、まさしく消えてしまったのだ。
当時、ガスト博士は神羅に所属していた。宝条博士の上司として、神羅化学部門を統括していたのだ。
無論セフィロスもガスト博士と面識がある。いや、セフィロスとしては、ガスト博士との関係は、“面識がある”程度では済まされないものがあるのだ。
幼い頃からすでに騎士として覚醒していたセフィロスは、ガスト博士とある約束を交わしていた。
自身がファティマのような美麗な少年。ただし人形のように存在そのものが無機質。
感情の乏しい――いや、感情などなかったセフィロス。己にも己を取り巻く環境、この世界そのものすら、セフィロスにはなんの感慨もなかった。
だから小さな事柄でも、大きな…そう漠然とした運命のようなものにも、セフィロスは無関心という以前に、関心というものすら判別できなかったのだ。
騎士という、超人の中でも特に飛び抜けて優れている自分の能力にさえも、セフィロスは何も感じてはおらず、ただ与えられたカリキュラムを淡々とこなしているだけだったのだ。
他者から注がれるの畏怖も、賛美も、好意的な感情もその反対のものも、セフィロスにはどうでも良かった。
そんなセフィロスに初めて感情という発露を手助けしてくれたのが、ガスト博士。
(セフィロス…君はとても優秀な騎士だ)
銀色の髪をそっと撫でて、顔を近づけてくれた人。
(ファティマを知っているかい?)
セフィロスは機械的に頷く。
すでに幾人もの神羅に所属する騎士を見知っていたセフィロスは、出会ったの騎士と同じ数だけのファティマも知っていた。
ファティマは人工生命体。男型と女型があるが、どちらもとても美しい。
だがセフィロスは「美しい」と実感することもなければ、それ以上の感情も怒らないまま。
当時のセフィロスにとってファティマとは、皆が思うような優れた存在でも特別な宝物でもなかったのだ。
(ファティマというのはとても不思議な生き物だ)
セフィロスはこの言葉に初めて反応を示す。
(博士。ファティマは人工生命体です)
(そうだよ、セフィロス。君の言うとおりだ)
だがね、
(ただの人工生命体ではないのだよ)
(私はファティママイトだ。これまで多くのファティマを手がけてきた)
だからこそ、そう思うのだ、と。
(博士。私には博士のおっしゃる意味がわかりません)
(いいんだよ――)
(セフィロス。君はまだわからなくて当たり前なんだ)
(約束をしよう)
(いつか君にファティマを見せよう)
(博士のファティマですか?)
いくら騎士としての才能が優れているとしても、高名なマイトに対するにはあまりにも不遜なセフィロスであったが、ガスト博士は怒るどころかむしろ面白がった風に、言葉を続ける。
(そうだよ)
(だが、これまで私が手がけたことのない、誰も見たことのないような素敵なファティマを君に見せたいんだ)
ファティマを見せたい――この意味をセフィロスは推し量る。
(私にそのファティマを娶れとおっしゃっているのですか?)
騎士にファティマと言えば、それしか考えられない。
だがガスト博士はゆっくりと首を振る。
(それは違うよ)
(私のファティマをもし君が気に入ったのならば、君がその子を口説くといい)
(セフィロス――)
(君はこれからも多くの人に望まれるだろう)
君が何もしなくても。そうだと思わなくても。
良い意味にも、悪い意味にも、セフィロスの美麗さと才能はあまたの人を魅了するに違いない。
(でもセフィロス)
(私のその子だけは違うよ)
(君がその子を欲しいのならば、君が努力してその子に選んでもらわなければならない)
ガストのファティマだけは、違うのだ、と。
(セフィロス。約束しよう)

(君がこれまでもこれからも見たことのない、一目見て君が素晴らしいと欲しくなるような、そんなファティマを造ってあげよう)
(いいね――約束だよ)
これはセフィロスにとって生まれて初めての約束であった。
※※※
今回はここまで。


+ '08年08月19日(TUE) ... クラファティマ話その1 +

びーこです。
やっとやり始めたよCC記念(我ながら遅し!)
タイトル通りクラウドファティマ話を貼り付けます。
そんなに長くはなりませんが、数回は続きますのでよろしく。

※※※
MH〜最強の兵器である。
最強の能力を持つ兵器でありながらも、操縦者の意志により移動できるため、戦略戦術面でも重要な役割を占める。
MHを最強たらしめんのは、その性能のみではない。
MHを操る操縦者のスキルにもよるのだ。
MHは選ばれた者のみが駆ることが出来る。
彼らは敬意と畏怖をこめて騎士と呼ばれる、人間以上の超人なのだ。

五つの星団はここ百年ばかり戦闘状態にあった。
だがこの戦争も緩やかに終わろうとしている過程にある。
五つの星団は主に3つの勢力に分かれている。
最大の勢力は神羅。主星ミッドガルを中心に五つの星団のうちの三つまでも、勢力下に納めていた。
豊富な資源。大量の物資。資本主義社会の権化たる強欲さは、敵味方関係ない。
戦争で一番利益を受けているのは紛れもなく神羅だろう。なにせ戦争状態にある敵にも、物資を供給しているからだ。
戦争とは大きなビジネスだ。神羅はビジネスの為に戦争を長引かせていると、まことしやかに囁かれているのも、まんざら見当違いではない。
敵味方関係なく、この星団で神羅に関わっていない者はいないだろう。
この神羅と敵対しているのがウータイだ。
五つの星団の辺境にあるひとつであるウータイは、歴史が古くこれまで一度たりとも他国の侵略を許したことがないのを誇りとしている部族だ。
すでに人種や種族というものが、個性のひとつの意味しかなくなって数世紀たつが、ウータイだけは頑なに己の血統を護り続けてきた。
これが頑なな鎖国に繋がっている。神羅に反する勢力は数多くあれども、どの勢力も面だってウータイの味方はしなかった。
鎖国をし続けているウータイに味方をしても、誰も何の利益も被らないからだ。
ウータイにも味方しない。かといって神羅の支配下にも積極的に入ってはいない。
これが第三の勢力となる。

神羅はウータイへの侵攻をますます激しくしている。
初めはウータイの予想外の健闘にもより、膠着状態にあったのだが、ここに戦況を左右する英雄が現れる。
彼の名はセフィロス。五つの星団最強の騎士。天位を持つ剣士でもある。
彼を英雄たらしめんのはそのずば抜けた強さだけではない。
その美貌である。血肉を感じさせない非人間的な容姿。手足の長い長身。無駄のない逞しい体つき。
銀色の長い髪は月光のごとく輝き。縦に裂けた翠の瞳は神秘的である。
“美しい”ことと“逞しい”ことと“強い”ことと“賢い”ことと。
この相反する要素をセフィロスはどれも遜色なく兼ね備えているのだ。
セフィロスは神羅軍を率いて、指揮を執り、もっとも激しい激戦では自ら先陣に立って闘っていった。
セフィロスが携わった戦闘での神羅軍は全戦全勝。
ウータイの三分の二は神羅によってもぎとられる。ウータイ軍もほぼ壊滅に誓い打撃を受けた。
これによってウータイはゲリラ戦を余儀なくされる。

英雄となったセフィロスではあるが、同じ騎士の間では彼の強さに尊敬をする者がいる一方で、こうも囁かれている。
「ファティマ殺し」――と。
セフィロスにはパートナーとなる、定まったファティマはいない。
いや、「いない」のではなく、厳密に言えば「いなくなってしまった」のだが。
セフィロスはこれまで数多くのファティマを、己のMH正宗に乗せてきた。
星団至上最高のスペックを有する正宗は、並大抵のファティマに扱うことは出来ない。
その上パートナーとなる騎士はセフィロスなのだ。
ファティマには己の備え持つ性能以上を常に求められてしまう。
銘を持つファティマがセフィロスを選んだ。だがそのファティマはどれも一年とは持たない。酷い時は僅か一度の戦闘で、ファティマは耐えきれなくなってしまう。
どれだけ名の通った有名なマイトのファティマであろうとも、それは変わらない。
少女型のファティマも、少年型のファティマも、成人型のファティマも、どれもファティマの耐用年数からは考えられない僅かの間で、クリスタルを崩壊させてしまい廃人となってしまう。
英雄のファティマ殺しの噂は騎士や関係者の間で広まっていく。
この噂を逆手にとろうと、ファティママイトとしての自分の名をあげるべく、セフィロスの元には、様々なファティマが送り込まれてきた。
ファティマ殺しで有名な、英雄のファティマの制作者ともなれば、それは星団最高のファティママイトであるとの証明になるからだ。
ファティマ達は皆、騎士としては最高であるセフィロスを選ぶ。
セフィロス自身にはこれといって不足はないため、希望するファティマ達は皆セフィロスのファティマとなり、そしてすぐに使い物にならなくなっていくのだ。
さすがのセフィロスもこのような事態ばかりが続くのは本意ではなかったのだろう。
彼はそのうちにエトラムル、無形人工頭脳のみのファティマを搭乗させるようになった。
エトラムルならば安易に使い捨てが出来るからだ。
いくらファティマが人工生命体であろうとも、可愛らしい少年や少女の形をし自らの意志を持つ者を使い捨てては寝覚めが悪い。
その点、エトラムルならば無用の感情など持つこともない。
だがもちろんエトラムルには大きな欠点がある。
やはり性能がファティマよりも劣るというところだ。エトラムルは単純にプログラムされた機能を正確に果たすだけであり、セフィロスの細かな癖や、彼自身無自覚なポイントを補うことは出来ない。
不足の事態や突発的な行動にも弱く、星団最強の騎士であるセフィロスにも、また星団最高のMHである正宗にも、相応しくはなかった。
セフィロスには彼に相応しい優秀なファティマが必要なのだ。
セフィロスの為だけに造られた、特別なファティマが。
セフィロス自身自分専用となるファティマの必然性を痛切に感じており、天才マイトとして名高い、神羅の科学者宝条にファティマ制作を依頼。宝条は何体かのファティマをセフィロスに提供したが、どれもセフィロスと正宗を満足させることはない。

このような時節に、セフィロスは単機にて正宗を駆りミッドガルを出発した。
軍事行動ではない。彼はすでに伝説と化している天才マイトを求めて旅立つ。
目的地はアイシクルエリア。神羅支配地域で一番寒い氷の惑星であった。


漆黒に銀。MH正宗は見る者に恐怖を与えてしまう外見をしている。
これは高みからおしつけられる類の“恐怖”ではなく、心の奥底からわき上がってくるもっと原始的なものだ。
セフィロスは英雄視されている己の存在というものを、殊更隠そうとはしない。
どのような評価を得ようとも、どのように特別視されようとも、セフィロスは意に介さないのだ。
有り体に言いきってしまえば、セフィロスは何事にも関心が薄い。
己自身に関しても、また他者に関しても、セフィロスにとっては取るに足らない些細な出来事にしか過ぎないのだ。関心の対象にもなりはしない。
正宗を駆ったセフィロスは、アイシクルエリアの中継点としてニブルエリアに到着した。
ここはエリアの規模としては小さいものの、神羅の軍基地がある。
基地に正宗を預けて、セフィロスは身一つだけでアイシクルエリアに向かう予定なのだ。
軍基地にいる全ての軍属と関係者の注目を一身に浴びながらも、セフィロスの態度は平然としたもの。
まさしく一挙手一投足まだをも注目されているというのに、セフィロスにとっては他者からの重苦しい関心でさえ、どうでも良いのだ。
そよ風ほども感じていないのだろう。
注がれる多くの憧憬にも妬みにも全く反応を示さずに、堂々たる所作であくまでも事務的に行動する様は、別の世界のステージに立っているかのよう。
正宗の管理だけ言葉短く伝えると、セフィロスはすぐに基地を出ていく。
基地に接する場所にある小さな村で、アイシクルエリアへの装備を揃えるつもりなのだ。
ニブルヘイムは本当に小さな村だ。
古くから何世代にも渡りくらしている村人が、今も頑なに村を護り続けている。
軍基地さえなければ、この村は閉鎖的なままであっただろう。
軍基地の側にあり、神羅軍の恩恵を受けている今でも、村人達は幹線に軍基地には依存していないのが、何よりの証。
村に一軒しかない雑貨屋で寒冷地への装備を調える。
村の雑貨屋にしては、品物の種類が豊富で、村人だけではなく軍関係者達も多く立ち寄っていた。
その間を抜け、セフィロスは品物を選ぶ。
いつものように注目の焦点がセフィロスにだけ集まってくる。いつもは気にもならずに黙殺するだけなのに、今回はなぜだか気に掛かった。
なぜか、――と考えて、ふと気がつく。
憧憬や嫉妬ではない。張り合おうとするようなものでもない。
もっと違う…これは、
――警戒だ。
セフィロスは警戒されている。
軍関係者ではない。ニブルヘイムの村人に、だ。
この店にいる村人たちは、セフィロスに対して無関心に振る舞いながらも、鋭く警戒しているのだ。
しかもこの警戒心はただごとではない。
明確な理由があり、セフィロスを警戒しているとしか思えないのだ。
そうだ。これは敵が警戒している様子によく似ている。
セフィロスは差し迫ってくる違和感を覚え、気取られないよういつも通りの落ち着き払った動きで辺りをチェックしてみた。
己を取り巻く世界において、常に“他”を排除してきたセフィロスは、どのような場面においても尊大であった。
他に無関心なだけで、尊大と例えるに相応しいであろうに、彼を英雄と呼ぶ者たちは尊大ではなく、それこそが英雄の風格であると言う。
またセフィロスの非人間的なまでの圧倒的すぎる美貌に心奪われた者たちは、彼の存在こそが“美”なのだと崇める。
他人が己に下す評価など気にもならないセフィロスであるが、今回はこんな無関心な様子が役に立つ。
品物を吟味している動きそのままで、視線すらも動かさずに、セフィロスは村人達の警戒心の行き着くところを探った。
ミッドガルの大きく華やかな店舗に比べると、狭くてこぢんまりとしている。
店内の装飾はあくまでも素朴。飾り付けやディスプレイはされていない。
木で立てられている店内は、アロマの香りではなく、そのまま木の匂いだ。
店への入り口はひとつだけ。奥まった一角に仕切られたカウンターの向こうに、武器などの高額商品が、それでもガラスケースの中に納められている。
かなり良い商品なのに、ミッドガルと比べると無造作な扱いなのは、ここがニブルだからだろう。
ニブルはモンスターもレベルが高いものが多い。よって強い武器というものは、この地での生活必需品なのだ。
入り口右手側にはごちゃごちゃとした雑貨が。ポーションなどもここに並んでいる。
左手側には装備が、無造作に並べられていた。
カウンターの向こうに中年の女性がおり、愛想良い笑顔を浮かべながらレジをしている。
店の主人であろう男性は、軍関係者であろう客と装備の説明をしている最中だ。
レジの女性は如才なく客と世間話をしながら。店の主人は細かな説明を加えながら。だが双方ともに本当の関心は客には向いていない。
店内にいる他の村人もそうだ。店内を物色したり、くだらない雑談に興じているフリをしながらも、鋭い警戒心をしきりと払っている。
この警戒心の行き着く先。一方はもちろんセフィロスだ。
そしてもう一方は――
セフィロスは一人一人を吟味していく。
そして、
――あれか!?
店の隅で立ち話をしている小柄な姿。フードつきのマントで顔はおろか、足下までよく見えない。
立ち話をしていると言っても、小柄な人物は先ほどからほとんど喋っていなかった。
村のハンターなのだろう。大柄な男が陽気に話しているのに、数少ない相づちをうつ程度。
それもハンターの大声にかき消されており、セフィロスの聴力をもってしても、まだ透き通った子供の声だとしかわからなかった。
セフィロスは関心の焦点を当てる。

大柄なハンターに隠れてしまい、全身像は窺えない。
その上フードつきのマントはすっぽりと身体を覆っているため、正確な身体のラインを辿ることも難しい。
ただ足下から覗くブーツのサイズは小さそうだ。小柄で小作りな体つきらしい。
年齢もまだ幼いのだろうが、それにしては不相応な落ち着きがある。
ハンターの言葉に頷き、時折小さく応じている様を強く凝視していると、フードの人物がこちらを見た。
さすがにセフィロスの強すぎた視線に気がついたのだろう。
フードを上げることはしなくて、セフィロスへと顔を向ける。
大きなフードは顔の半分以上を隠していた。セフィロスから見えるのは、透き通った白磁のような白い肌と、尖った小さな顎。淡い色合いのふっくらとした唇であった。
唇がきゅっと引き締められる。
その光景にセフィロスは震えた。これまでに遭遇したことのない、恐ろしくも歓喜なる、甘美な戦慄である。
だがこの邂逅もほんの一瞬。セフィロスのただ事でない反応に気がついたハンターが、フードの人物をさり気なく促す。店を出ようとしているのだ。
セフィロスは慌てて後を追いかけようとするが、ハンターに促されているフードの人物とセフィロスの間に村人が数名割って入ってきた。
商品を選んでいるような素振りをしているものの、セフィロスから見れば邪魔をしているようにしか思えない。
だからといって騎士の力で邪険にすることも出来ず、セフィロスは完全に引き留める出鼻をくじかれてしまったのだ。
店をでていってしまう小さな背中を追いかけたいのはやまやまであるが、さすがに今そのような暴挙は出来なかった。
なにせセフィロスはこの村にとっては異邦人。
今ここでむやみに追いすがるのは、賢くはない。
――基地に戻り情報を手に入れるのだ。
はやる気持ちを宥めながら、セフィロスはいくつかの防寒用具を整えた。
入ってきた時と同様の無表情さで、静かに店から出ていく。ただし、その翠の双眸はかつてない渇望を讃えていたとは、本人とて知らない。
※※※
とりあえずここまで。




+ '08年08月10日(SUN) ... 赤白〜短い話 +

こんにちは、お久しぶりのびーこです。

先月終わりから素敵なコメントをいただいております。
返信不要なのがもったいないくらいの、ありがたいコメントでした。
本当にありがとうございます。
本来ならば不要というご指定でしたので、必要ないのですが、一言だけ。
連載はまだつづきます。
あそこでぶっちぎりということもありませんので、
その点だけはご安心くださいませ。
ただ予定は未定というのが、辛いところなのですがね。

もうすぐ夏祭りですが、私のように遊びに行けない方、避ければ暇つぶしにどうぞ。
赤白の短い話です。

※※※
忘らるる都を出てサンゴ谷を抜ける。
クラウドとセフィロスはボーンビレッジへと歩いていた。
忘らるる都から侵入者を拒むためにある眠りの森も、セトラの血をひくクラウドにはあくまでも優しい。
一歩踏み出すごとに木々や草花が、子守歌を歌うようにざわめく。そんな小さな歌の一節ごとに、クラウドは目を輝かせるのだ。
その様子はとても愛らしく、側にいるセフィロスをも楽しませる。
今鳥が梢から飛び立った。偶然などではない。クラウドの視線を充分計算しての、見せる為の動きだ。
きらびやかな羽根を持つのでもないただの鳥であったが、クラウドは鳥の飛ぶ先へと小走りになる。
その小さな背中に、セフィロスは思わず声をかけた。
「クラウド。あまり走るな」
「大丈夫。転ばないから」
ちょっとだけ、と言いながら、クラウドは鳥の軌道を追うべく、上を見ながら走る。
元より山育ち田舎育ちのクラウドだ。運動神経はかなり発達していた。
上を見上げながら走っても、足下がおぼつかなくなることなどない。
だがそうだと解っていても、心情とはそんなにあっさりときれいに割り切れたりしないもの。
セフィロスは自然とクラウドの後を追いかけていった。

本来野生の鳥とは、自分の巣を隠すもの。だがこの森の鳥たちは違うようだ。
一羽の鳥を追いかけるクラウドの前に、我もと言わんばかりに他の鳥が現れてくる。
ちちち、と高く鳴きながら、クラウドを誘うのだ。
クラウドの関心が、そちらに注がれる。
それが気に入らないのか、クラウドを誘っていた鳥が舞い戻ってきた。
クラウドの側にまで降りてきて、羽根を見せつけるように羽ばたかせる。
「うわあ」
側近くのこのパフォーマンスに、クラウドは歓声を上げる。
手を伸ばそうとしたとき、また別の場所から鳴き声がした。
ちっちち、と鳴く鳥は、また別の鳥だ。
こうやって鳥は次々と現れては、クラウドの関心をひこうと様々なパフォーマンスを繰り返す。
――まったく、いつからこの森に住む生き物はこうなったんだ。
鳥だけではない。木々も草花もクラウドの関心をひくのに必死だ。
木々は枝を振るわせて、キラキラと輝く木漏れ日を演出する。
確かに星に近い生き物であればあるほど、セトラに敬意を払い特別視するものだ。
セトラという種は、それだけ星に愛されているということか。
だが、今目の前で起こっていることは、いくらセトラ相手だとしても、やりすぎなのではないのか。
本来ならば微笑ましいであろう、セトラと生き物たちの交流なのに、自然と眉間に皺がよっていくのは、これがクラウドを取り巻いて行われていることだからなのか。
――つまり、
――俺は森や鳥たちに嫉妬しているということなのか…
セフィロスの秀麗な口元に、微苦笑が浮かぶ。

木々は木漏れ日を演出し、草花は心地よいざわめきを歌っている。
小鳥たちは数多く集まり、クラウドの周りで踊っているようだ。
その中心にいる少年、クラウドは白い滑らかな頬を上気させて、自分に対する好意に歓声をあげるばかり。
ずっと閉鎖的な村で、大切にはされてきたが隠されてきた少年にとっては、このような好意が嬉しくてしかたないのだろう。
セトラとして認められたばかりの少年の繊細な心は、はっきりと訴えてこないだけ根深いのだ。
――クラウド…
――俺のセトラよ。
クラウドにもセフィロスにも、時間はたくさんある。
これから二人ずっと共に過ごして、たくさんのことを体験させてやろう。
クラウドがこれまで知らなかった、嬉しいことや楽しいことを、セフィロスが見せてやろう。
クラウドの金色の髪が木漏れ日を弾く。細かなプリズムのように乱反射した輝きは、青い瞳に吸い込まれていくようだ。
クラウドが声を上げて笑う。滅多と聞けない朗らかな笑い声に、セフィロスの心が和んだ。
同時に、見せつけたくもなる。
どれだけ森の生き物がクラウドの関心をひこうとしても、セトラのパートナーはソルジャーなのだと。
セトラであるクラウドのパートナーは、ソルジャーの中でも自分しかいないのだと主張したくなるのだ。
「クラウド、――おいで」
名を呼ばれて素直にクラウドが反応した。
少年の視線が自分に向けられているのを確認するように、セフィロスはことさらゆっくりと動く。
己の右手を上げる。口元へと持っていき、右手の人差し指の一部を自らの歯で噛み千切った。
肉が覗いたのはほんの一瞬だけ。見る見る血が盛り上がってくる。
盛り上がった血は重力に作用によって、大地にしたたり落ちていった。
その様子を凝視するクラウドが変化する。さっきまでの無邪気な少年の顔が消えて、淫らで貪欲な発情しきったセトラのものへと。
セトラの食欲と性欲を満たせるのは、ソルジャーのみ。
「クラウド――お腹が空いただろう」
――おいで。
低く甘く囁くと、クラウドの世界には、もうセフィロスと彼の血しか存在しなくなってしまう。
小鳥のさえずりも、草花の音楽も、木々の演出も、意味を成さなくなるのだ。
自分に寄せられる好意を全部振り切って、クラウドが歩いてくる。その歩みがどこかおぼつかないのは、欲情しているからに違いない。
「…セフィロス……」
「良い子だ。クラウド」
「さあ、口を開けなさい」
少年のふっくらとした唇が開く。
粒の揃った真っ白な歯。その中にある一対の鋭い牙に、うごめく舌の赤い色味が鮮やかだ。
まだ血の止まらない指をそっと近づける。
ぽたり。と滴った血が舌にこぼれ落ちていく光景にセフィロスも酔う。
我慢できなくなったのだろう。クラウドの両手がセフィロスの右手を捕らえる。
強い力だ。そして同じくらいの強さで、セフィロスの傷口が吸われる。
血が体内から抜け出る感覚に、セフィロスは激しく勃起した。
※※※


+ '08年07月23日(WED) ... 拍手レス&くだらないこと +

こんにちは、びーこです。

毎日毎日暑いですねー。もううんざりしてしまいます。
みなさまも暑さ対策をお忘れなきように。

拍手&♪、いつもいつもありがとうございます。
返信不要のコメントにつきましても、ありがとうございます。

赤白についてですが、
金銀を書いているうちに、思いついたものです。
金銀Bがちっともやおいちっくではないので、
その反動で、ああいうのが出てくる吸血鬼ものを書きたくまりました。
基本メモにはR指定っぽいものは書かないつもりでしたので、
ちょっとびくびくしながら貼り付けました。
楽しんでいただけましたのならば、嬉しいです。
タイトルについてですが、私は気の利いたタイトルが思い浮かばないもので、
単純にセトラの好物の色としてみました。
ですが打ち込むたびに”あかとしろ”ではなく、
”こうはく”と脳内で変換してしまうので、
紅白まんじゅうとか連想していました。
色が出てくるタイトルというのも、観念が固定されやすいので、
難しいものですね。

はれくいんは、Y子さんからのリクでした。
この二人のいつものパターンですが、
機会が有れば(私が覚えていれば)
逆パターンも書きたいです。
とにかく、お誕生日おめでとうございました。

21日13時、Rさま>
いつもステキなコメントをありがとうございます。
赤白、気に入っていただけたようで、良かったです。
金銀Bは長くなりますが、最後までお付き合いいただけましたら、有り難いです。




+ '08年07月19日(SAT) ... はれくいん〜08,07,14 +

こんにちは、びーこです。

Y子さん、遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます。
とりあえずプレゼントです。
遅くなりましたがお受け取りください。

※※※
音楽家は一年の大半を演奏旅行で過ごすことが多い。
今や人気実力共に呼び声の高い、指揮者のトップであるセフィロスもそんな日常を過ごしている一人であった。
常任指揮者であるベルリンフィルハーモニーの定期演奏ツアーで、アジアからアメリカ、その後海を越えヨーロッパに戻ってきたのは良いが、ゆっくりとは出来ない。
クラシック文化の根強いヨーロッパは、やはり指揮する気の張りようが自ずと違ってくるものだ。
今回はヨーロッパでは大ホールばかりではなく、地方にある古い、普段ならば地元のクラシック愛好家がオーケストラの真似事に使われているような小さなホールを中心に演奏を行った。
異文化であるアジアの各都市ではもちろんのこと、まだ文化の若いアメリカでも、演奏したのはどれも万人単位で収容できる大ホールばかりである。
大きなハコはそれはそれで遣り甲斐もあるものだが、やはりどこかゲストでしかないと感じられてしまい観客との距離が他人行儀で終わってしまう。
感動を共有して、観客も参加して演奏を完成させるという部分が欠けてしまうのだ。
さしもの英雄と呼ばれるセフィロスも、消化不良のまま演奏を続けていた。
そうして帰ってきたヨーロッパでは、小さなハコばかりでの演奏。
これまで求めていても得られずずっと欠けていた、観客との一体感は充分に果たせた。
少なければ百も入らないくらい。多くても千が精一杯。
舞台と観客との距離もほとんどなく、観客の反応が率直に伝わってしまう。
セフィロスはここまでの不完全燃焼をはらすかのように、情熱的な指揮を振るってきた。
クラシック文化が日常となっているヨーロッパの観客の反応はシビアで、皆がいっぱしの批評家ばかり。
心地よいスリリングな緊張感をもって、演奏を続けてきた。
ツアーは大成功。口やかましいヨーロッパの批評家たちも、みなこぞってセフィロスの成功を讃えた。
完璧主義者であるセフィロスとしても、満足のいくものであったが――それでも彼には不満ばかりが残った。
理由はひとつだけ。クラウドが今回のツアーにはついてこなかったから。

クラウドはセフィロスの恋人だ。
単純に恋愛関係にあるだけではない。
彼はセフィロスにとって、必要な他人である要素を全て含んでいる。
兄であり弟でもある。父親でもあり息子でもある。母親でもあり娘でもある。師でもあり弟子でもある。セフィロスを狩るハンターでもあり、最高の獲物でもある。気の置けない友人でもあり、誓いをたてるべき無二の相手でもある。
つまりセフィロスが自分以外の他者に求めている存在を、クラウドは一人で網羅出来るのだ。
そして何よりも、クラウドはセフィロス最大の謎だ。神秘でもある。
クラウドという少年と青年の狭間にいる人間について、全て解ったような気になる時もある。だが、次の瞬間、クラウドはセフィロスにとっての永遠の未知となるのだ。
何度ベッドの中で恥ずかしい部分をさらけ出しても、彼を泣かせて許しを請わせようとも、次の瞬間のクラウドはセフィロスの手の届かない至高となってしまう。
だからなのだろう。クラウドは時々とても難しくなる。
ツアーに出発するまでもそうだった。本当ならばクラウドも同行する予定だったのに、彼は急に行かないと言い出したのだ。
理由はがんとして言わず、ただ絶対に行かないというばかり。
クラウドが頑固なのは解りきっていたが、理由を話してもらえないことに、セフィロスは穏やかではいられなくなってしまう。
第一、 ツアーの期間は長い。同行しなければ3ヶ月は離ればなれとなってしまうというの
に、クラウドはそれでも平気なのか。
――耐えられない。
セフィロスは必死で説得したが、クラウドは首を縦に振ることも、己の主張を変えることもなく。
結局セフィロスは、クラウドが同行しないと言い出した理由さえ解らないまま、ツアーに出発したのだった。
クラウドと出会ってから、ここまで長く離れているのは初めてのこと。
ツアー中、セフィロスは表情の変わらない鉄仮面の下で、ずいぶんとやきもきしたものだ。
何度もせめて電話くらいはしようと思った。思ってはやめ…決断してはどうしても出来ず。
ならばせめてメールでもしようと思ったのはいいが、やはりどうしても出来なかった。
原因は不安だ。
セフィロスにとって、クラウドという永遠に解けないであろうパズルは、難しすぎたのだ。
かといって到底手放せるはずなどなく。セフィロスはクラウドを永遠に抱きしめているしかない。


セフィロスは身の回り最小限の荷物だけを持って、自分のフラットの目に立ちつくしている。
春先にフラットを出て、今は夏。
きつくなった日の光と、いっそう突き抜けた空の青が、セフィロスの見事な銀糸に降り注いでいる。
当初の予定では、帰宅はもう少し先だった。が、クラウドという永遠に解けない謎を抱えるセフィロスは、離れている間とても気が気ではなく、結局最後の講演が終わるやいなや、強引に帰途についたのだ。
手荷物は小さなキャリーバックひとつだけ。石畳の上を転がして、ただ真っ直ぐに前だけを見て、セフィロスはクラウドの待つ家路に向かったのだが、――玄関先でこの勢いも止まってしまう。
入れば良いのだ。自分の家だ。
目の前のインターフォンを押せば良いのだ。
インターフォンを押すのが気が進まないのならば、鍵を使ってさっさと入ってしまえば良い。
そう…そうすれば良いだけなのに、それがどうしても出来ないのだ。
――俺は、情けないな。
自分でも女々しいと思う。
永遠の謎を、やはり解けないままでいるセフィロスにとっては、クラウドがいるであろう部屋に入ることは、とてもハードルが高いのだ。
有り体に言えば、クラウドの反応が――恐ろしい。
セフィロスを前にして、クラウドはどんな反応を示すのか。
ケンカなど何事もなかったかのように、振る舞うのか。
それともまだ怒ったままでいるのか。
怒っているのだとすれば、口も利いてくれないほどなのか。それとも不器用な嫌み程度のものなのか。
いや、もしかしたら、
――この家にいないかも知れない…
怒っているのならば、まだいい。
セフィロスの前から消えようとしているとしたら。
本当にセフィロスとの縁を切ろうとしていたとすれば…
ここまで考えると、足下から焦燥感が込みあがってきた。
さっきまでの躊躇などそっちのけで、セフィロスは乱暴に鍵を取り出し、暗証番号を打ち込む。
認証されるまでのわずかの時間も惜しくてしょうがない。
ロックがオフになった瞬間、セフィロスは手荒にドアを開く。長身で割り込むようにドアを開けて、キャリーバックを持ち上げて走り出す。
小走りなどというものではない。全速力での疾走だ。
――クラウド!
声には出さずに、必死で呼ぶ。
まずはリビング。次はクラウドの私室となっている部屋。ノックもせずにいきなり開くが、誰もいない。
クラウドは元から私物というものをあまり持ってはいないが、久しぶりに入ったクラウドの部屋は、殺風景でがらんどうのようだ。
人が暮らしているという生活の匂いが感じられない。
再びリビングへと戻る。キッチンまで覗くと、ひとまず安堵する。
食事をとっているという、はっきりした生活の証があったのだ。
クラウドはここにいる。とすれば、今クラウドはどこだ。
――クラウド。クラウド!
トイレとバスを覗いてみた。シャワーブースまで確認したが、誰もいない。
そう言えば人が動く音も聞こえない。
――あそこか!?
セフィロスが仕事部屋にしている、防音が施された空間を連想した。
そう言えばよくクラウドはあの部屋にいるではないか。
いい加減必要もないのに手に持ち続けているキャリーバックを放り出して、セフィロスは仕事部屋を覗いた。
が――誰もいない。
――クラウド…いないのか……
外出したのだろうか。
人見知りが激しく、安易に他者に心を開かないクラウドが、一人きりで訪れる場所は知れている。
ましてや一人で出向き、長居をするような場所はほとんどないし。
――待っていれば戻ってくるだろう…
それでも落胆する気持ちを抑えきれないままで、セフィロスは放り出したままのキャリーバックを掴むと、荷物の整理をすべく自室へと入った。

3ヶ月ぶりとなる自室は、使う者などいなかっただろうに、不思議と湿っぽくなかった。
昼間だというのにカーテンがしっかりと閉ざされている。
カーテンで遮光された中、ベッドカバーが掛けられたベッドがこんもりと盛り上がっているではないか。
――!?
息を殺してそっとベッドへと近づく。
こんもりとしたシルエットは人型である。
――まさか…
セフィロスの予想は当たっていた。
――クラウド…
クラウドは眠っている。セフィロスのベッドの上に、何もかけないで。
シャツに綿のパンツは、クラウドお気に入りの部屋着だ。もちろんセフィロスが選んだものだった。
久しぶりの恋人が、寝ているというのは少しばかり寂しいものだが、セフィロスは同時にホッと安堵もしている。
少なくともクラウドが目覚めるまで、言い合いをすることはなくなった。
セフィロスはここぞとばかりに、息を殺して顔を寄せ、恋人の寝姿を堪能することに決める。
普段は勘の良いクラウドなのに、余程疲れているのだろうか。顔を近づけても気がつこうともしていない。
綿のパンツから出ている素足。形の良い踝の骨が、囓りたいほどに可愛らしい。
足の指は細くて長い。親指よりも人差し指と中指の方が背が高かった。
足の爪は少しばかり乱雑になっている。セフィロスがいる時は、爪の手入れはセフィロスの仕事だった。
爪切りでそろえ、きっちりとやすりまで掛けていたのだが、クラウド一人ならば自分にそんな手間はしない。切ったままで放置されているのだろう。
金髪は少し伸びたようだ。襟足がすっかりと隠れてしまっている。
この3ヶ月前とは違ってしまっているところが、そのまま二人会えなかった時間に繋がる。

クラウドを閉じこめておこうと思っているのではない。
確かに年はクラウドの方が下だが、だからと言ってセフィロスは恋人を尊重したいと思っている。
クラウドは男とも女とも確定していない、まるでセクサレスのような外見よりもずっと男らしい性質をしているし、人見知りはすれども独立心がないのでもない。
自己主張もあるし、自分の頭で考えて行動もする。
勇気もあるし知恵もある。一人で生きていくのも不足はない。
――そうだ…
――クラウドが、ではない。
――俺が、クラウドを必要としているのだ。
クラウドが必要だ。愛しているから側にいて欲しいからではなく、もっと確定として必要なのだ。
いつもよりも不格好に切られた足の爪が気になる。
衝動そのままで、指先で不格好な爪をそっと辿った。
指先にあたる爪の感触は丸くはない。これではどこかに引っかけてしまうに違いない。
――後で切りそろえなくてはな。
もう一度丸く整えて、しっかりとやすりをかけてやろう。
そんなことを考えながら、クラウドの寝顔を堪能する。
ふと視界に入ったものがあった。クラウドが抱き込んで眠っている、その何か。
それは布であった。クラウドの胸元から僅かばかり覗いているその布は、広げるとかなりの大きさがあるのだろう。
抱き込んだまま眠っているから、しわくちゃになっている。
だがこの布、セフィロスにはどことなく見覚えがあった。
気になってじっと観察する。
――これは…まさか!
遮光カーテンによって色味が違って見えるが、これはセフィロスのシャツではないか。
ややクリーム色がかって見える、シルバーグレイの色味。セフィロスが愛用しているシャツの一枚に違いない。
覗いているのは袖の部分だ。タックの入ったこのデザインは間違いない。
――クラウド…
離れている間、クラウドも恋しがってくれていたのだ。
セフィロスが恋しいからこそ、こうやってセフィロスの寝室で、セフィロス愛用のシャツを抱き込んで眠ってくれている。
きっと目覚めたら、そんな本音を不器用に隠したままで、セフィロスに接してくれるのだろう。
少しつっけんどんに。怒っているかのように。
でもクラウドの本音はここにある。
セフィロスと同様に、恋人を恋しがってくれているのだ。

不意にオペラ『椿姫』の一節が浮かぶ。
第一幕で歌われる、『花から花へ』のワンフレーズだ。

 いつも自由で 快楽から快楽へ 夢中になりましょう
 私の生活は 享楽の小径を 歩き廻ることなのだわ
 昼であろうと 夜であろうと いつもそこに楽しみをみいだそう
 いつも新しい楽しみに 思いをはせよう
 愛 愛は全世界に脈打っている

――俺の愛は全世界には脈打っていない。
――俺の愛はそこら辺りで見いだせるようなものではない。
――クラウド。
――お前だ。
――お前がいるところが、俺にとっての、愛が脈打つ場所。


セフィロスは起こさないようにそっとベッドにあがる。
眠っているクラウドを背後からそっと抱きしめた。
長い足で、クラウドの小さな素足を挟み込む。
――クラウドは何を想って眠るのか…
恋人が目覚めるまでの間、セフィロスはこの永遠に解けない謎を楽しんだ。
※※※

拍手&コメント&♪、いつもありがとうございます。
レスに関しましては連休明けでご容赦ください。


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