びーこです。
ミッションばかりいってストーリーが進まない私のCC。 でもいいんです。 セフィとクラのDMW発動に胸をときめかせつつ、 じっくりと楽しんでいきたいです。 楽しいことはなるべく長く反芻しながら続けるのが、 私のやり方ですので。
♪に拍手、ありがとうございます。 では続きを。
※※※ 基地に戻り兵達に話を聞いてみた。セフィロスの質問に兵は疑問を差し挟むよりも前に、答えるだけで精一杯だったのが幸いする。 誰もセフィロスがどうしてそのような、村人について尋ねるのか、疑問には思わなかったのである。 そうしてフードの人物の情報を手に入れたセフィロスは、様々な考察に没頭する。 彼は少年だった。村はずれに母親と二人で暮らしている。 名はクラウド。親しく会話を交わしていた兵はいなかったが、それでも表面だけはわかった。 クラウドはまだ十代半ばの少年でしかないが、狩りにはかなりの才能を持っているようだ。 ハンターと共にニブル山に入り、モンスターを狩って、それを慎ましい生計の足しにしているらしいと言う。 無口な少年でいつもフード付きのマントを着ている為、兵のほとんどは彼の姿形を知らなかった。 ただ一人だけ、偶然にクラウドの顔を目にしたことがあったそうだ。 兵の中でも特にニブルヘイムの村人と親交が深いそうで、ハンターの大がかりな狩りに同行したのだと言う。 (あのフードをとっても顔の半分以上を覆うデカいゴーグルを掛けているんですけどね…) だから狩りの間ははっきりと顔が見えなかったそうだ。 同行した兵も、それ以上特に少年の素顔に関心はなく、ハンター達と共に狩りを楽しんでいたのだが、 (もうくたばっちまってるって思ってたモンスターが急に起きあがりまして) 死んでいるのが当たり前の致命傷を受けたのにも関わらず、まさしく死力を振り絞り、最後の抵抗を示したのだ。 その場には数名のハンターがいたが、皆すでに銃口を下げてしまっている。 ただ一人だけ、少年が銃を構えたままだった。そこに目掛けてモンスターが襲い掛かっていく。 (ダメかと、一瞬ヒヤりとしたんですが) 自分目掛けて襲いかかってくるモンスターを目前にしても、少年は怯まない。 しっかりと照準を合わせ、一発必中へと挑む。 そして、銃が轟音を立てた時、 (見事にモンスターの額を打ち抜いてまして) 熟練の兵である男の目から見ても、それは見事な手腕であった。 無駄のない、しかも流麗な動作は、人の反射神経の限界を超えてさえいた。 モンスターはそれで事切れたのだが、死力を振り絞った最後の一撃は、少年のゴーグルを破壊していた。 (いやー、そりゃあ目が覚めるようなキレイな顔でした) 見事な金髪に相応しい蒼穹の青。二つの青をはめ込んだ瞳は、非の打ち所のない絶妙のラインを描いていた。 (俺も騎士のファティマを見たことはありますが) (あそこまでキレイな顔は、ファティマでもありませんぜ) 輝いていた――と、対して語彙もない無骨な兵はそう言って、セフィロスの前だというのにうっとりとした眼差しを空へと投げる。 きっとその時の少年の顔を思い出しているのだろうが、セフィロスはそんな兵がやけに不快だった。 セフィロスは普段よりも無機質な音声で、続きを促す。 兵は慌てて我に返るが、そこからは大した話はないのだと言う。 (それがね、ゴーグルが壊れたのが解ったとたん、その場にいたハンター達が駆け寄ってきて) 兵から少年の顔を隠したのだという。 次に少年を目にした時には、すでにフードを深く被っていた。 だから、素顔を見たのはほんの一瞬だったのだ、と。 ――やはりそうか… ハンター達は少年の存在を、村の外の人間に隠そうとしているのだ。 セフィロスはその部分の詳細を兵に求めたが、彼の答えはシンプルなものでしかなく、セフィロスの求めている確信とはズレていた。 (隠してる!?) (そりゃあそうでしょうよ) (あんなキレイな男の子、下手したら襲われちまいますからな) ニブルヘイムという村は、閉鎖的な風土が根強い。軍の基地が建設され、軍関連の施設も側にあるというのに、村の気質は以前の通り辺境にある小さな村そのままなのだ。 村人たちは皆知り合いで、父母祖父母どころか村人同士ならばご先祖までもが知人なのだ。 血も複雑に絡み合っており、根元まで紐解けば、村人は皆血縁関係にあると断言しても過言ではない。 そんな環境が当たり前の村において、あんなに奇麗な子ならば、例え男の子だろうが村全体で庇うのは当然ではないか。 これまで幾度となく村の閉鎖性を目の当たりにしてきた兵の、これが実感であった。
セフィロスがこの基地に属しているのではないからなのだろうか。 それとも、村の閉鎖性というものを知らないからなのか。 やはりセフィロスにはどう考えてみても、少年を庇う村人の真意は、兵が言うような単純な問題ではないのだとしか納得出来ない。 短く事務的なねぎらいの言葉を兵に与えてから、セフィロスは考え込む。 手慰みにタバコに火をつけてみるが、吸う気は一向に起こらない。 ただ紫煙だけを目で追っていて、ふとある言葉が過ぎる。 さっき兵が何の気なしに言った、ある単語。 ――…そうだ!ファティマだ! これは騎士であるセフィロスだから感じたことなのかも知れない。 はっきりとした感覚ではなかったために、ちゃんとした形にはなっていなかったが、他の騎士よりも数多くのファティマを目にしてきたセフィロスは、確かにあのフードの人物を前にした瞬間、感じたのだ。 それはファティマを前にしたのと同じ感覚だった。 セフィロスはリアリストだ。勘や感覚など閃いた経験すらない。 でも今回だけは違っていた。思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほどに、閃きは頑強になる。騎士としての本能が、彼こそファティマなのだと、強く訴えかけてくるのだ。 あのほっそりとした、触れれば折れてしまいそうな体つきといい、どこにも歪みや癖がないあの動きのバランスといい、天才マイトが手がけたファティマにそっくりではないか。 それに少年の素顔はファティマ以上の美しさだったという。 ――もし、クラウドという少年がファティマだとすれば… あそこまで人と遜色ない、いや人以上のファティマを創り出せるのは、星団広しといえどもほんの一握りしかいない。 しかもセフィロスの知る限り、それほどまで高名なマイトの作品で、あの少年に当てはまるファティマは存在していない。 何よりそこまで高名なマイトが、このような騎士もろくにいない辺境になど住んでいないのだ。 天才レベルのマイトで―― ニブル近辺に住んでいて―― 作品が知られていなくてもおかしくはなくて―― 一人のマイトの名が、脳裏でわんわんと響く。 ――ガスト博士… それは今回のセフィロスの旅の目的となる人物である。
ガスト博士――神羅軍に属する宝条を超えるであろう、この五つの星団最高の天才マイトである。 いや、あったと言うべきか。 ガスト博士は今から十年ばかり前に、消息不明になったのだ。 それは突然だった。ある日、何の前触れもなく、まさしく消えてしまったのだ。 当時、ガスト博士は神羅に所属していた。宝条博士の上司として、神羅化学部門を統括していたのだ。 無論セフィロスもガスト博士と面識がある。いや、セフィロスとしては、ガスト博士との関係は、“面識がある”程度では済まされないものがあるのだ。 幼い頃からすでに騎士として覚醒していたセフィロスは、ガスト博士とある約束を交わしていた。 自身がファティマのような美麗な少年。ただし人形のように存在そのものが無機質。 感情の乏しい――いや、感情などなかったセフィロス。己にも己を取り巻く環境、この世界そのものすら、セフィロスにはなんの感慨もなかった。 だから小さな事柄でも、大きな…そう漠然とした運命のようなものにも、セフィロスは無関心という以前に、関心というものすら判別できなかったのだ。 騎士という、超人の中でも特に飛び抜けて優れている自分の能力にさえも、セフィロスは何も感じてはおらず、ただ与えられたカリキュラムを淡々とこなしているだけだったのだ。 他者から注がれるの畏怖も、賛美も、好意的な感情もその反対のものも、セフィロスにはどうでも良かった。 そんなセフィロスに初めて感情という発露を手助けしてくれたのが、ガスト博士。 (セフィロス…君はとても優秀な騎士だ) 銀色の髪をそっと撫でて、顔を近づけてくれた人。 (ファティマを知っているかい?) セフィロスは機械的に頷く。 すでに幾人もの神羅に所属する騎士を見知っていたセフィロスは、出会ったの騎士と同じ数だけのファティマも知っていた。 ファティマは人工生命体。男型と女型があるが、どちらもとても美しい。 だがセフィロスは「美しい」と実感することもなければ、それ以上の感情も怒らないまま。 当時のセフィロスにとってファティマとは、皆が思うような優れた存在でも特別な宝物でもなかったのだ。 (ファティマというのはとても不思議な生き物だ) セフィロスはこの言葉に初めて反応を示す。 (博士。ファティマは人工生命体です) (そうだよ、セフィロス。君の言うとおりだ) だがね、 (ただの人工生命体ではないのだよ) (私はファティママイトだ。これまで多くのファティマを手がけてきた) だからこそ、そう思うのだ、と。 (博士。私には博士のおっしゃる意味がわかりません) (いいんだよ――) (セフィロス。君はまだわからなくて当たり前なんだ) (約束をしよう) (いつか君にファティマを見せよう) (博士のファティマですか?) いくら騎士としての才能が優れているとしても、高名なマイトに対するにはあまりにも不遜なセフィロスであったが、ガスト博士は怒るどころかむしろ面白がった風に、言葉を続ける。 (そうだよ) (だが、これまで私が手がけたことのない、誰も見たことのないような素敵なファティマを君に見せたいんだ) ファティマを見せたい――この意味をセフィロスは推し量る。 (私にそのファティマを娶れとおっしゃっているのですか?) 騎士にファティマと言えば、それしか考えられない。 だがガスト博士はゆっくりと首を振る。 (それは違うよ) (私のファティマをもし君が気に入ったのならば、君がその子を口説くといい) (セフィロス――) (君はこれからも多くの人に望まれるだろう) 君が何もしなくても。そうだと思わなくても。 良い意味にも、悪い意味にも、セフィロスの美麗さと才能はあまたの人を魅了するに違いない。 (でもセフィロス) (私のその子だけは違うよ) (君がその子を欲しいのならば、君が努力してその子に選んでもらわなければならない) ガストのファティマだけは、違うのだ、と。 (セフィロス。約束しよう)
(君がこれまでもこれからも見たことのない、一目見て君が素晴らしいと欲しくなるような、そんなファティマを造ってあげよう) (いいね――約束だよ) これはセフィロスにとって生まれて初めての約束であった。 ※※※ 今回はここまで。
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