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+ '08年07月13日(SUN) ... ちょっと寄り道〜赤と白 +

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金銀の寄り道で思いつきました。
ある意味吸血鬼ネタだけど、金銀とは関係ない世界観です。
全体的にエログロ。
後半は特にその傾向が強くなります。
今回は前半だけで説明文みたいなもの。
セフィクラ。ショタ警戒警報、特に後半発令。
スルースキルをあげて、さあどうぞ。

※※※
永遠の忠誠を誓うセトラの女王、エアリスの帰還の知らせにセフィロスは動きを止める。
鍛錬に振るっていた愛刀を、滑るように鞘へと戻すと、無言のまま女王の元へと向かう。
セフィロスはソルジャーだ。しかも1st、2nd、3rdとランクづけされているソルジャーのトップ。
永遠にセトラへと仕えるべき存在であるセフィロスだが、彼は女王の騎士であるロマンチシズムとは無縁の男であった。
月光のような銀髪に縦に裂けた翠の瞳。美麗すぎる容貌を支えるのは、一際高い長身にしなやかで逞しい戦士の身体。
彼はセトラを護るためのソルジャーなのだ。

セトラとはこの星に生きる最も古い種族である。
星の声を聞き自然を愛して、この星を豊かにしてきたのはセトラだ。
そういう意味ではセトラはこの星の守り手であり、光の存在であるともいえよう。
だが強い光は強い闇を産む。反剋。ネガとポジ。
光と闇は反するものにも思えるが、その実背中合わせに立っているだけのひとつなのだ。
セトラとは闇の存在でもあったのだ。
いわく――糧。
セトラは普通の食事を摂らない。
セトラのエネルギーは精気〜エナジー〜である。
自分たちが育てた花や木々、そして人からセトラはエナジーを吸って己の糧とするのだ。
エナジーとは生物の体内に循環するライフストリームである。
手や唇で触れただけでもエナジーは摂取出来るが、セトラが好む濃厚なエナジーは精液と血液からであった。

またセトラは非常に長命である。エナジーを糧としているからなのか、そもそも寿命というものがないのだ。
マテリアを扱い魔法もよく出来、病からも老いからも無縁のセトラであったが、だからと言って敵がないのでもない。死とも無縁ではない。
まずセトラはモンスターから狙われていた。食物としてのセトラが人や動物よりも美味であるのもあろうが、星の正規の循環から外れたいびつな存在であるモンスターにとって、星のライフストリームを正常にさせるセトラはやはり敵なのだろう。
モンスターはセトラを選んで襲い、髪の一筋までも好んで喰らった。
だがモンスターと敵対しているものは、この星のほとんど全てである。セトラにとってモンスターは驚異ではない。
魔法により身を守る術を心得ているセトラが、モンスターに喰われることはほとんどないのだ。
それよりも遙かに驚異の敵は残念かな一部の人間であった。
セトラの卓越した能力を前に、人間の反応は大きくふたつに分かれる。
敬意をもつ者と悪意とする者だ。
前者はセトラを崇めた奉ってきた。神と同じだけの神聖な存在であると考えたのだ。
それに比べ後者は惨いものである。彼らはまずセトラの能力をねたみ羨んだ。
そうしてどうにかしてセトラの能力を我が物にできないかと考えたのである。
セトラの能力はあくまでも血統の成せる業。そうだと解っていても人は諦めなかった。
彼らは集団となりセトラを狩る。偽りの優しさでセトラをおびき寄せ、捕らえると様々な実験を施したのだ。
ある者は不老不死を求め。ある者は魔法を求める。
だがそのどちらも帰結するところは、セトラの虐殺でしかなかった。
セトラがエナジーを糧とすると解っていたからなのか、セトラの能力が普通の方法ではどうやっても我が物にならないと悟ると、人はセトラの生き血を飲み干し肉を喰ったのだ。
まるでモンスターのように。
長寿ということは生殖能力が低いということ。元々個体数の少なかったセトラだったが、長い間人に狩られてしまい、種族としてはほぼ滅亡状態となる。
星はこの事態を深く憂いた。
星にはセトラが必要だったのだ。セトラだけが星の声を聞き、星を正常に機能させることが出来る唯一。
星はセトラを護るべくジェノバと呼ばれている、全く異質の生命体を呼んだ。
そしてジェノバと星は交わり、ソルジャーを生み出す。
セトラの為だけの最強の戦士。セトラの血統だけに忠誠を誓う不滅の騎士を。
ソルジャーの出現によって、セトラは絶滅の危機から救われる。

だがこの星に散らばるセトラの個体数はまだまだ少ない。
現在セトラを納めているのはエアリスという。セトラの証ともなる栗色の髪と緑の瞳を持つ少女だ。
もっとも少女なのはあくまでも外見だけのこと。
人の年齢で当てはめたとするならば、エアリスはすでに人の数世代分は有に生きている。
ある時エアリスはこう言ったのだ。
――セトラ、見つけた。
と。
エアリスは優秀な魔導師だ。特に白魔法はセトラ随一である。
だがそうだと解っていても、セフィロスはエアリスの言葉をまず疑った。
セトラの血統は太古から管理されている。セトラの能力はセトラの血統しか出ないため、セトラと他の種族〜人間だが〜の血が交わらないようにされてきたのだ。
ソルジャーにとってセトラの護衛と共に、血統の管理も重要な使命のひとつ。
よってソルジャートップであるセフィロスは、セトラの血統については全て知り尽くしている筈なのに…
――でも、いたの。
――わかるの。
エアリスはこの意見を曲げなかった。
挙げ句の果てにソルジャーの供を一人だけ連れて、そのセトラを迎えに出ていってしまったのだ。
そして、今日、この忘らるる都にやっと戻ってきたと言う。

エアリスが呼びつけてきたのは公式の間ではなく、客間であった。
エアリスの私室にも近いその客間は、外交上の賓客だけではなく本当に近しい者を泊める場所である。
このことからも連れて帰ってきたというセトラにエアリスがどれほど大きな期待をかけているのがわかるというもの。
エアリスがセトラだと認めているのだから、連れ帰ってきた者がセトラなのは間違いない。
だがだからこそセフィロスはその者について詳しく知らねばならない。
セフィロスが静かにノックすると、応答はすぐにあった。
「どうぞ」
エアリスだ。
重々しいドアを開けるとまずこの客間のリビングが広がっている。
この星の自然をこよなく愛するセトラの住む場所は、どこも共通点があった。それは自然物をふんだんに取り込んで、加工の手をあまり加えないことだ。
この客間もそうだった。
太古は海であった忘らるる都のエアリスが住むこの城は、海の生物が結晶化した貝の形をしている。
内部も鉄やコンクリートではなく、驚くほど丈夫で耐久性と魔法防御に優れた海の生物の化石で出来ていた。
部屋の窓枠から滑るように張り出している部分が、そのままリビングのテーブルとなっている。カーテンなどの布類も色調を合わせた淡く白く青い海の色。
どこまでも淡い海の世界の中で、女王エアリスは立っていた。
セトラという種は元来素朴で純真だ。それは容姿にも現れている。
エアリスは年若い娘の姿をしている。女王として身に付いた気品と威厳は滲むものの、外見だけしてみればただの可愛らしい娘としか映らないだろう。
単純な美醜だけで計るならば、セフィロスの方がエアリスよりも遙かに美しい。
それでもやはりエアリスはセトラの女王だ。セトラに忠誠を誓うという本能が、セフィロスを惹き付けてやまない。精神的なものだけではなく、肉体的にも、だ。

星はソルジャーを創造する際、セトラとソルジャーが運命を共にするべく、ある仕掛けを施した。これによってどれだけ狩られようが、人との接触をしてしまうセトラの弱味を克服したと言えよう。
すなわちセトラの糧の問題である。
セトラはエナジーを糧とする。生物からでもエナジーは搾取出来るが、もっとも好む濃厚なエナジーは精液と血液。それは人の精液と血液なのだ。
セトラは美味なる糧を入手するべく、人と肉体的な交わりを持つ。
セックスの最中にセトラは人に牙を立てるのだ。セトラにエナジーを搾取されるのは、すさまじい快感を人にもたらす。それはどのようなセックスでも到達できない、精神と肉体が感じられる最高の極致なのだ。
陶酔の最高潮に押しやられ、人は血液だけではなく精液をセトラに捧げる。
人とは快楽に弱い。セトラ狩りが広まったのも、このセトラでしか為し得ない最高の極致を欲したのも一因であろう。
またセトラも狩られると解っていながらも、糧を求め人と交わることになる。
どれだけ強い魔力を有していようが、セックスの際にはセトラとて無防備となってしまう。ここを人に狩られてきたのだ。
星はセトラの糧となる運命をソルジャーに与えたのだ。ソルジャーの精液と血液はセトラにとってのごちそう。
またセトラという種自体が、ソルジャーにとっての媚薬とした。
よってセトラは数多くのソルジャーと交わり、糧を得る。
ソルジャーも求められれば歓んでセトラと交わってきた。
需要と供給の関係はあくまでも情が介在しないシビアなもので、多くのセトラは特定のソルジャーを指定せずに、食事を日替わりに楽しむように数多くのソルジャーと交わっている。
セトラにとってソルジャーとは、あくまでも下僕なのだ。
同様にソルジャーにとってもセトラとは、仕えるべく主でしかなく、特定の誰に忠誠を誓うのではなく、セトラという種自体に仕えてきた。
特にセトラの数が減ってしまってからは、セトラはソルジャー皆の共有財産であるのだが――例外とはどこにでもあること。


セフィロスは例外の片割れである女王へと頭を垂れる。
セフィロスの苦々しい心中など見通しているエアリスは、殊更純真そうな笑顔を作って応じた。
「ただいま、セフィロス」
「ご無事のお戻り、なによりです」
セフィロスのフラットすぎる態度に、エアリスは心中舌を出す。
――きっと驚くヨ。
この鉄面皮なセフィロスが、どれほど驚喜するか。
想像するだけでエアリスは楽しくてたまらない。
「エアリス様。セトラを連れ帰ってきたと聞きましたが」
「うん。そうだヨ」
「わたしの血を与えたから、今は眠ったままなの」
「エアリス様の血をお与えになったのですか」
うん。
「だってあの子、ずっと人間として育てられてきたんだもの」
セトラを敬虔に信仰している山奥の小さな村に隠されていた少年。
彼はセトラの血統を強く引きながらも、人として生きていたのだ。
セトラ狩りを知った周囲から、人として育てられることで護られてきたのだ。
少年は自分がセトラであることは知らずにいた。
そこにエアリスが現れたのだ。少年を護ることに不安を抱えていた村人は、エアリスの登場に安堵し、女王に少年を託す。
だがセトラであることすら自覚のなかった少年には、この状況の変化についていけない。
そこでまずエアリスは、もっとも濃い己の血を少年に与えたのだ。セトラとしての覚醒を促すべく。
血を与えた時、エアリスは見た。
「あの子、わたしと同じ」
セフィロスが翠の目を細める。
「わたしと同じ、ハーフセトラだヨ」
セトラと人が恋に落ちることは、ままある。
エアリスもそうだった。母イファルナは人である父ガストと恋に落ちる。
セトラと人の混血は生まれないとされているのだが、その実稀に、天文学的な確率、つまり奇跡の確率で出来ることがあるのだ。
エアリスもそうであった。出来ないとされていたガストの子供をイファルナは身籠もる。
そしてエアリスが生まれた。
セトラと人との混血は素晴らしく高い能力を有している。
エアリスは生まれながらに強い魔力を持ち、セトラの女王となったのだ。
セフィロスもむろんこの事実を知っている。
「――それでは…お連れになったセトラも…」
「わたしと同じか、もっと強い力を持っているのヨ」
「しかも、あの子、男の子だしネ」
「男…――」
セフィロスの鉄面皮が崩れる。
セトラはどうしてだか、男に恵まれない種なのだ。男と女の比率がアンバランスで、女200に対して男1。ただでさえ子供に恵まれないというのに、これではどうしようもない。
セトラの種が衰退する大きな内因であったのだ。
「男の…ハーフセトラが――」
「すごいでしょ」
「…はい」
セフィロスは未だ夢がさめやらぬ面もちだ。こんな顔のセフィロスを、エアリスは初めてみる。
――あの子を見たら、セフィロスもっと驚くヨ。
「寝室で眠ってるから、見に行けば」
「良いのでしょうか」
「ザックスが側にいるから、彼と交代してくれれば助かるヨ」
ザックスはエアリスだけのソルジャーなのだから、出来れば他のセトラの側には置きたくはない。
「わかりました。では失礼いたします」
「あの子、目覚めたら教えてね」
「はい」
長い足を早く動かして、セフィロスはあっという間に寝室に向かっていった。
突進、とも言えるその行動に、エアリスはついに笑いが堪えきれなくなってしまったのだ。

寝室には天蓋のついた大きなベッドがひとつだけある。
このベッドも天蓋も、すべて淡く白く青い海の色だ。
セフィロスが入室すると、天蓋の内側から一人のソルジャーが出てきた。
ソルジャーザックス。女王エアリスの例外。
彼はソルジャーでありながら、エアリスとしか交わらない。またエアリスもザックスの血しか吸わない。
セトラとソルジャーでありながら、彼らは恋仲。例外なのだ。
セフィロスに上背こそ劣るが、逞しさは遜色ない。実力もかなりのもので、魔法を使わない戦闘だけならば、セフィロスをもしのぐ。
「よお」
気安い態度のザックスなど今のセフィロスの眼中にはなかった。
「お姫様はまだお休みだぜ」
「姫様…?」
「男だと聞いたが…」
「そーそー。確かに男の子だな」
でもな、
「エアリスよりもずっとお姫様みたいなんだよなあ」
ま、見てみろって。
ザックスは天蓋をめくると、セフィロスをベッドの側へと導いた。
大きなベッドの中央で、すやすやと眠っているその姿を認めて、セフィロスは衝撃に打たれる。
――これは!?
透き通る白い肌。血管や骨でさえ透けてしまいそうだ。
ふっくらしたバラ色の頬に、花弁のような淡い唇。眠っているというのにその繊細な容貌は疑いようのない美であった。
産毛の一本一本までもがかぐわしい。
セトラはこんな隅々まで、こんなにきれいに出来てはいないのに。
男でもなく、女でもない。名前を付けることさえ出来ない。そんなとても特別な何かに思えた。
ただ大きな目にびっしりと生えている長いまつげも、作り物のようにととのった眉も、なによりも髪も、どれもセトラにはあり得ない色、金だったのだ。
セフィロスは無意識のうちに身を乗り出してしまう。
そんなセフィロスの行動などザックスにとっては当然であった。
セフィロスの驚愕はザックスの驚愕でもある。ザックスとて初めてこの少年を目にした時、驚きで死ぬかと思うほどの衝撃を受けたのだから。
少年の外見はセトラとは似てもにつかずに、きれいだ。
それなのに彼は確かにセトラなのだ。ソルジャーが永遠の忠誠を誓っている媚薬、セトラを間違える筈などない。
だがそれでもしばらくは信じられなかったのだから。
「目の色もスッゲーぜ」
ザックスは一拍おいて、
「緑じゃねえ。――青だ」
「青みがかった緑じゃねえ。緑がかった青でもない。本物の、濁りのない青だった」
それはそれは美しい、青。
「そのような…セトラなのに」
信じられないとセフィロスは力無く首を振る。
「ハーフセトラだからか知らねえが、この子は特別だな」
すやすやと眠る少年。年の頃は10代半ばだろうか。もっともセトラだ。外見と実年齢がイコールであるとは言えないが。
「エアリスに血を与えられたからすぐに眠ちまったから、俺もあんまり動いてるとこ見てねえが――」
ザックスはこの男にしては珍しくこっそりと、
「怯えてる様子なんか、めちゃくちゃ可愛かったゼ」
エアリスに血を与えられた瞬間の少年の様子は、舐め回したいくらい壮絶に愛らしかった。びくびくと震えすっかりと怯えて、それでも最後はセトラの本能によって、血を吸ってしまう。エアリスの例外であるザックスでさえ、惑わされそうになったくらい、この子は強烈な媚薬である。
「ザックス、――お前…」
「これ、エアリスには内緒な」
ザックスはそう言うと、少年の額に掛かった金髪を指先で払う。
セフィロスはそんなザックスの行動に強い不快感を覚えた。手でむんずとザックスの手首を捕まえると、彼が文句を言うよりも先に、
「気安く触れるな」
「なんで?セトラはソルジャーみんなの大切な主だろ」
確かにザックスの意見は正しいのだが、この少年に限りセフィロスはその理屈を認めることなど出来ない。
「触るな。お前はエアリスでも好きなだけ触っていろ」
「ええー!触るくらいいいだろ」
「なにもセックスするって言ってるんじゃないんだし」
「それでも駄目だ。この子は俺が面倒をみる」
「おいおい!それは聞き捨てならねえな」
ザックスが言葉を続けようとしたその時、不意に寝室を流れている風が変わる。
ソルジャー二人はぴたりと言い合いを止めると、眼差しをベッドへと向けた。
少年の薄い瞼が揺れる。
そしてゆっくりと目が開いていく。
ザックスの言う以上に美しい、それは生まれたての青であった。
※※※
あんまり長くしないように、次くらいでおしまいです。


+ '08年07月12日(SAT) ... 金銀Bその9 +

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こんばんは、びーこです。
続きです。

※※※
村の集会場はそう立派なものではない。
クラウドやティファが生まれるよりもかなり前に造られた集会場は、簡素だが村人全員が集まれるだけの広さは充分にあった。
木と石の組み合わせで出来た造りは、村にある他の家の大差はない。
ただそれでも有事に備えて、家よりは頑丈に造られてはあった。
この場合想定されていた有事とは、主にモンスターの来襲を指す。
過去幾度か、ニブルヘイムはモンスターの驚異に晒されたことがあったのだ。
数百年に一度やってくる大寒波の年のこと。あまりにも寒すぎて、獲物が捕れなくなったモンスターの群が村を襲ってきたのだ。
そういう時、村人はこの集会場に立てこもり、モンスターと対抗したのだと言う。
だがそれも遠い昔の話し。
今生きている村人達で、そんな昔話を体験した者はいない。
ましてや誰が闇の一族と闘うなど想像したであろうか。
辺境の小さな村でしかないニブルヘイムなのに、今正に人知を越えた異常事態が起ころうとしているなどと。

クラウドやティファが飛び込んだ時、すでに集会場には村人のほとんどが集まっていた。
元から集会場にいた大人達の他にも、家で待っていた老人や子供も、クラウドやティファのように迎えによって連れてこられていたのだ。
皆着の身着のままの格好で、一塊りとなっている。
「ティファ!」
村長ロックハートは、愛娘の姿を認めて駆け寄ってきた。
気の強いティファも父に向かって素直に飛びつく。村で一番逞しい大柄の父に抱きしめられて、ティファの姿はすっかりと見えなくなってしまう。
父と娘は短いが充分に親愛のこもった抱擁を交わしていた。
その光景を前に、クラウドはずっと無意識に詰めていた息を吐く。
「クラウド……」
集会場の一角に備え付けられている台所から、ストライフ夫人が顔を覗かせてきた。
どうやら他の主婦達と共に、台所で作業を行っていたらしい。
ゆったりとした簡素な服の上につけたエプロンはいつもの見慣れたもので、クラウドはこんな時なのに酷く安心してしまう。
「…母さん」
小走りでやってくる息子を母は柔らかく抱き取ってくれた。
こうして見てみると、ストライフ母子はよく似ている。
混じりけのない見事な金髪も、他の村人とは違う透き通る白い肌も、そして不思議なほどに澄み切った青い瞳も。どれをとってもこんな辺鄙な村には似つかわしくない容姿だ。
クラウドの父が何者なのか村の者は誰も知らない。
そもそも母ストライフ夫人の父、クラウドから言えば祖父が何者であるのかも、村の者は知らないのだ。
クラウドの祖母は村の者で、彼女は村人と代わらない容姿の持ち主であったのだから、クラウド母子は身も知らない祖父の血を強く引いているのだろう。
自分の父が何者か知らないで育った少女は、皮肉なことに自身も同じように父の知らない息子を産んだのだ。
それでも村人はストライフ夫人が、クラウドの父である人物をまだ想っているのだけは、よくわかっていた。
今から約13年ほど前、ストライフ夫人は独り身籠もった状態でこの故郷の村に戻ってきたのだが、身重でも良いからと彼女に求婚する男は村の内外を問わずに数多くいた。
どんな良い条件の求婚であろうと、彼女は決して首を縦に振らないまま、クラウドを産み落としたのだ。
辺境の狭い村の世界の中で、これといった確たる後ろ盾のないストライフ母子は、口さがない村人達に心ない仕打ちも受けてきたが、ストライフ夫人は常に堂々と暮らしてきた。
その姿は知らず知らずのうちに、村にはびこる偏見を和らげてきたのだ。
よってストライフ母子は、村人達の中では浮いた存在ではあるものの、爪弾きにされてはいない。むしろ一目置かれた立場となっているのだ。
クラウドにとって親しいと呼べる友人はティファしかいないが、それは決して他の子供達がクラウドを私生児だと嫌っているからではない。
自分たちのがさつな手で触れてしまえば、今にも汚してしまいそうな、そんな容姿のクラウドにどう接して良いのか解らなかっただけなのだ。
ティファのように近づきたいものの、どうしても側には近寄れず、距離をとった場所から様子を窺うしか出来なかった。

この場もそうであった。
村人達はよく似た奇麗な母子が行っている、村長親子に比べると控えめな抱擁を盗み見るしか出来ないでいる。
ストライフ夫人は美しい顔を息子へと近づける。
「ケガはないわね、クラウド」
「うん」
「ティファと二人きりで怖かったでしょうね」
でもね、
「もう心配はいらないわ」
「助けてくれる人がやってくるまで、ここでみんなで過ごしましょうね」
ストライフ夫人はそっと息子の細い肩を抱く。
いきなりあのようなおぞましいものが、空から現れたのだ。ティファと二人きりで家にいたクラウドは、さぞや恐ろしい思いをしたのに違いないが、少なくとも今確かめる限りでは、クラウドの心に大きなダメージはない。
ストライフ夫人は、そんな息子を頼もしく感じる。
――やはりこの子も男なのだわ。
自分の産み育てた息子が頼もしく感じられるのは、誇りである。
ストライフ夫人は、クラウドに役目を与えることにした。
彼女はほっそりした身をかがめ、息子に話しかける。
「クラウド――」
集会場の隅に集まっている、老人とクラウドよりも幼い子供を指し示す。
「あの人達のお世話を手伝ってくれないかしら」
聡明な青い眼差しが、母をひたりとみあげる。
「何をすればいいの?」
「食事の支度をするから、運んであげてほしいの。その他にも身の回りのこととか、何かお困りだったら力になってあげてちょうだい」
このような異常事態の中においても、表面上はいつもの日常と変わらない母の様子に、クラウドにも余裕が生まれてくる。
もっとも余裕と言っても本当のものではない。
開き直りに例えた方が正しいのだろうが、これまでの人生において、村の社会から常に浮いてきたこの母子は、村人の誰よりも日常への依存度が低いのだ。
異常事態や突発事態に対応する能力が高い。
このことは母の精神を強靱にし、息子を年齢以上に賢くさせてきた。
今回もそうだ。クラウドは控えめながら聡明な眼差しを、不安に怯える村人に向けてから、
「わかった。何でも手伝うよ」
「そう、ありがとう。クラウド」
母の優しい手が奔放な息子の金髪を優しく撫でていく。

母の信頼を得てうっとりするクラウドに、ティファは見守るだけではいられなくなる。
父の抱擁を抜け出して、クラウドの側に近づく。
この時のティファの心中は、とても複雑であった。もちろん自身にすらその正確なところは把握出来ていない。
彼女はクラウド母子の絆に嫉妬もしている。自分がどんなことをしても、クラウドをこんなにうっとりなどさせられない。
自分こそがクラウドの一番でありたいのに――ここから根ざすストライフ夫人への悋気。
自分と同じ片親でありながらも、自分と父の間の絆とはまた別である強い結びつきに対する不快感。
また母にならば容易く全てを明け渡してしまう、クラウドへの苛立ち。
同じ片親の関係といえども、父と娘のと母と息子の関係はやはり違っている。
個人差はあれども、女の子が早く大人になって精神的に父親から独立してしまうのに引き替え、母と息子の結びつきは一種の疑似恋愛でもある。
まだ幼いながらもティファの“女”の部分が、ストライフ母子を妬ましく思わせるのだ。
ティファ自身、まだ定かではないものの。
ティファは生来の勝ち気さを全面に押し出して、クラウドを呼ぶ。
「クラウド――」
――こっちを向いて。私を見て。
ティファの思いは伝わった。
クラウドは母から幼なじみへと視線を移す。
こんな異常事態での父との再会でさすがのティファも気が緩んだのだろう。大きな黒い眼差しはいつもより濡れていた。
「私も手伝うわ」
「無理しなくてもいいんだよ」
あくまでもクラウドはティファに優しい。
だが今回はこの優しさが他人行儀に感じられて、ティファはもどかしかった。
「ううん。無理なんかしてないの」
それに、
「何かしていないとかえって落ち着かなくて…――」
それが、怖いの。と続けて口に出すことはティファには出来なかった。
口に出して形にしてしまえば、全てが現実になってしまいそうだったから。
こんなティファの怯えをクラウドはくみ取ってしまう。
「そうだね。ティファと一緒なら僕も助かるよ」
母の側から離れ、クラウドはティファに寄り添う。
※※※
今回はここまで。

みなさま、良い日曜を!


+ '08年07月09日(WED) ... 金銀Bその8 +

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こんばんは、びーこです。
♪、毎回押してくださってありがとうございます。
読んでいただけた印ですね。
嬉しいです。

注意:ちょっとグロっぽい表現あり。

※※※
魂が吸い込まれたように、一心にこの異様な縄を見つめていたクラウドの手に、不意に痛みが走る。
原因はティファだった。彼女がクラウドの手をきつく握りしめながら、小刻みに震えている。
彼女の眼差しは、灰色の不吉な雲を突き抜けて、降りてくるいびつな縄へと注がれていた。
大きく限界まで見開かれた黒い瞳は血走っている。目を背けたくとも、自分の意志では背けられないのだ。
こんなに禍々しい光景など、見たくもないのに。
闇の一族が絡み合い、血と肉で形作っている“縄”は、異質のまがまがしさで出来ている。
このまがまがしさは死すらでもない。
もっともっとおぞましいものだ。
クラウドやティファを初めとする、この星に生きる物では想像すら出来ないものだ。
凄惨で酸鼻なこの“縄”を編むのに、いったいどのくらいの数の一族がいるのか、クラウドには考えもつかない。
ただはっきりしているのは、ニブルヘイムの村はおろか、このエリア近辺に住む人々を全て集めても、これほどの縄は編めないだろうということだけだ。

おぞましさと恐怖に魅入られている幼い二人の目の前で、縄から枝がにょっきりと生えてきた。
遠目からでもわかる、ぬらりとした質感を持つ“枝”は、ぐるりと円の軌道を描くと、その先端を幼い二人の方向へと向けてくる。
と、いきなり枝の先端に“目”が生まれた。
初めは点の大きさでしかなかった目は、どんどんと巨大になる。ついには枝の先端全てが巨大な目となった。
――ひっ!
ティファが喉奥で息を詰めるのが伝わってくる。
悲鳴を発してしまわないのが不思議なくらいだ。さぞや思いっきり叫びたいだろう。
だが…もし叫んだとしたならば、大きな声を上げたとしたら、どうなるのか――
ティファがぎりぎりのところで耐えていられるのは、この恐怖のせいであったのだ。

巨大な目の巨大な眼球は、ぐりぐりと辺りを観察する。
観察しながら目は、再び様子を変えた。
巨大な目の中に、更に小さな疣のような目がわき上がってきたのだ。
巨大な目の中に出来た、ランダムな大きさの疣は、見る見るうちのその数を増やしていく。
「…――!」
手を握りしめてくるティファの爪がきつく立てられる。
そのうちの一本が、柔らかいクラウドの皮膚を破った。僅かではあるものの、血がじんわりと滲んでくる。
この血臭をかぎ取ったのか。巨大な目に宿る無数の疣となった目が、一斉にクラウドとティファを捕らえる。
最後に巨大な眼球もこちらを見た。
焦点が向けられて、確かに巨大な眼球はにたりと笑ったのだ。


巨大な眼球の内にある、疣のような無数の目。
ひしめきあったそれらの間から、粘液が滲み、垂れてきた。
いくつもの筋となった粘液は、ニブルヘイムの村に向かって垂れ下がってくる。
人の、いや、生き物の本能としてあらかじめ備わっている、原始的な嫌悪感を否応なく掻き立てる光景だ。
愛すべき故郷の土地が、今巨大な眼球から滲む粘液で汚されようとしている。しかもクラウドやティファは、この汚らわしい光景を凝視するしかなく、阻む術などもっていない。
ねちゃり、と垂れ下がってくる粘液だったが、ふと落ちてくる動きが止まり、そのまま滑るように横の方向へと流れてしまう。
それは一筋だけのことではない。ニブルヘイムを汚そうとしていた、全ての粘液がそうなのだ。
まるで目では見えない、村全体をすっぽりと覆う透明な何かに弾かれたかのように。
無数に落ちてくる粘液だったが、どれもその見えない何かにふさがれて、流れていってしまう。一滴たりとも村へは滴ってこない。
「…――ウソ…」
思わず声となったのだろう。
ティファが喘ぐように呟く。
これが合図となり、クラウドの脳裏にまともな思考が甦ってきた。
――なぜ?
――どうして?
――どうやったんだ?
悩むまでもない、答えなどひとつしかない。
――村の大人達だ!
毎夜集会を開いて戦いの準備をしてきたという大人達。
彼らがザンカンの力を借りて、この目に見えない仕掛けを用意したのだ。
「ティファ!」
「集会場へ行こう」
幼なじみの少年の言葉に、ティファも賛成する。
彼女も同じ考えに至っていたのだから。

安全な日常に囲われていた家から自ら出ていくのは勇気が必要だった。
二人は手をしっかりと繋ぎあい、気力を振り絞ってストライフ家のドアを開く。
禍々しい雲は上空を支配したままだ。この雲により、村が昼夜の区別を失ってから数日は経つ。
家を飛び出した瞬間から、二人はひしひしと感じていた。
あの眼球が、自分たちをじっと観察しているのを。
吐き気がしそうな恐怖を、繋いだ手の温もりで耐え、二人は気力を振り絞って走り続ける。
クラウドもティファも周囲を一切構わずに、集会場だけを目指す。
二人にはとてつもなく長い時間に感じたが、実際はほんの数分しか走っていなかっただろう。
必死な二人の耳に、唐突に聞き知っている声が飛び込んできた。
「おおい」
二人はハッと顔をあげ、声の方向へと向ける。
そこにいたのは村人の一人だ。狩猟の上手い初老の男で、クラウドやティファよりも年上の子供をもっている。
男は二人を見ると、安心したように手を差し伸べてきた。
どうやら彼は二人を迎えに来てくれたようだ。
そう言えば、とやっと辺りを気にしてみると、大人達がそれぞれの家に残っている子供たちを迎えにやってきているではないか。
迎えに来ているのは全て男で、しかも皆手に武器を携えている。
立ち止まってしまった二人を、彼はせき立てた。
「早く集会場に行くんだ」
二人の返事も聞かず、彼はクラウドの空いている方の手を掴む。
ティファのとは正反対の、大きくて分厚いがさついた手だ。
「いいか。走るぞ」
彼はそのままクラウドの手を掴んで走り出す。
大人の男の力に引きずられるようにして、二人は再び集会場へと向かって走り出した。
※※※


+ '08年07月05日(SAT) ... 金銀Bその7 +

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こんばんは、びーこです。

4日23時のRさま>
いつも素敵なコメントをありがとうございます。

では、続きです。
※※※
クラウドとティファ。二人の幼なじみの役回りは決まっていた。
ティファが話を多少強引に押し進めてしまい、早く結論を得たがるのに対し、クラウドはひとつひとつをじっくりと吟味していき、疑問を提示していく。
ティファだけでは、結論を急ぎすぎるあまりに、間違った答えを導き出すだろうし、クラウドだけならば吟味に時間がかかり考え込んでしまうだけで終わってしまう。
ちょうど二人で考えるのが一番なのかも知れない。
「だったら上位と下位の一族の姿は違うのかしら?」
「下位のはモンスターに似ているって言うよね」
だとすると、
「モンスターには似ていない…」
モンスターに似ていなければ――
二人の頭に同じ答えが浮かぶ。
「…人間――…」
こう口に出したのはティファだ。
だが音にしたティファはもとより、聞いているクラウドにも怖気が走った。
この怖気の根元を、二人の本能は考えることを避ける。
二人は推理を止め、口を閉じて互いを不安に窺う。
自然と二人の間隔は近づいていき、こっそりと肩がぶつかったそのタイミングで、音がした。
ばちん。
とも。
ぱちん。
とも。
目に見えない限界ぎりぎりにまで膨れあがっていた何かが、切れた合図であった。
“音”と行ったが、本当の聴覚で捕らえられる音ではない。
それはニブルヘイム一帯の大気を揺るがせる振動であった。
魔法や結界に詳しい者が聞いたならば、この音の正体はすぐに思い当たるだろう。
これは目では決して捕らえられない、魔力が造り出した“力場”が、更に大きな魔力によって、無理矢理引き千切られた証だったのだ。
これこそが闇の一族が作り出す地獄が始まる合図だった。


音ではない、“力場”となっている大気の破裂する振動を肌で感じたクラウドとティファは、何事が起こったのかとまず顔を見合わせる。
――あの雲だ!
二人が互いの顔から導き出した答えは同じであった。
ストライフ家の窓際に駆け寄ると、窓を開いて飛び出すように空を見上げる。
雲――幾重にも層を成した、禍々しい蛇を二人は仰ぎ見る。
この行動は本能であり反射でもあった。
この村で今何事かが起こるとすれば、この雲以外に異変の原因はないのだと、幼い二人にもわかっているのだ。
そしてこれは正しい。
仰ぎ見た雲は、それぞれの層が別の生き物のように、何重にも重なり合ってとぐろを巻いている。
よく見るとそのとぐろは動いていた。
巨大な蛇が獲物を締め上げるような残酷な緩慢さで、雲はじりじりと動いているのだ。
そして雲の中心部分らしきところが、徐々に口を開いている。
「…あっ――」
声を上げたのは、クラウドだったのかティファだったのか、それは本人たちにすら定かではない。
口は見る見るうちに大きく開いていくのだ。
虚無のような深淵が、こちらからもはっきりと窺える。
――来る!
予感などという生やさしいものではなかった。
これは絶対の確信である。
来る、と閃いてすぐ、口の虚無を通路として、何かが降りてくる。
それは巨大でいびつな縄に思えた。さらにじっと目を凝らしていると、いびつな縄に思えるものは、様々な何かが雑多に絡み合っているものだということに気がつく。
何かとは――青い目をいっぱいに、クラウドは息をのむ。
少しだけ遅れてティファもそれが何なのかがわかった。

それらは生き物であった。
いや、クラウドが知る“生き物”にはカテゴライズされないが、たぶん…生き物なのだろう。
この地上にある生き物とは似ていても非なるもの。もちろんモンスターとも全く別。一見似てはいても違う。
これこそが、この星に住む生き物とは根本から異なり別種である、闇の一族なのだ。
よく観察してみると、蛇に似ている一族もいる。モンスターのミッドガルズオルムを彷彿とさせるが、やはり根本がねじ曲がっていた。
あるいは狼に似ている一族も見える。カームファングに似ているようで、やはり明確に違う。
ドラゴンを思わせる一族。
昆虫を思わせる一族。
どこが手やら足やら、判別すら出来ない形の一族。
ともかくそれら全てが何の法則もなく捩れあい、共食いにも似た絡み合いを繰り返して、一本の太い縄を成しているのだ。
吐き気が込みあがってくるいびつな光景でありながらも、どうしてだか視線がそらせない。
※※※
毎日暑い日が続いています。
もう身体がとけそうです。


+ '08年07月02日(WED) ... 金銀Bその6 +

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続きです。

※※※
それから改めてティファの話を聞いてみたが、やはり大人達は戦いの準備をしているようだ。
詳しく聞けば聞くほど、そうとしか思えない。
そしてその相手こそ、予想通りの闇の一族であり、しかもどうやら一族のうちでも上位の階級ではないかと考えられた。
闇の一族〜吸血鬼〜といえども様々である。
文字通りに人の生き血やエナジーを吸い取り糧とするのは、闇の一族でもかなり上位の階級であるらしい。
下位に行けば行くほど、人ではなく獣の形をとる。糧も生き血やエナジーだけではなく、むしろ死肉を好むのだ。
クラウドが幼い頃から聞かされてきたのは、下位の一族達だった。
こいつらはいわばモンスターの亜種であるとも言えるだろう。よって戦う方法もモンスターのそれとそう変わりはない。
ニブルヘイムは辺境の地だけあって、レベルの高いモンスターが住んでいる地である。
村人達もモンスターとの戦い方は、よく心得ているのだ。
下位の一族相手に戦うのならば、夜ごとに大人達が集団で集まり、大勢でわざわざ準備をすることもない。
こう考えてみると、大人達が敵として想定しているのは、一族の上位であるとするのが自然だろう。
特にその目で実際に戦いの準備しているところを目撃したティファは、はっきりとこう言い切ったのだ。
「下位じゃないわ」
下等な獣の一族ではないのだと。
「だって下等の一族ならば、村のみんなが持っている装備で充分じゃないの」
「わざわざお師匠様がやってくるのもおかしいし、ましてやマテリアや装備を渡すのなんてヘンだわ」
下位の一族ならばよほど大量に襲いかかられるのでもない限り、村中が力を合わせさえすれば対処出来ないものでもない。
実際一族の下位と戦い、生きて帰ってきた者は幾人もいる。
ティファの父村長ロックハートともその一人だ。高名な武闘家の弟子であるロックハートは、彼の拳で幾たびもの危機を乗り越えてきたと言われている。
クラウドやティファは直接には知らないが、下位の一族と闘ったこともあるそうだ。
「じゃあ上位の一族が村に襲いかかってくるってコト!?」
――闇の一族の上位ってどんなだろうか…
上位に関する情報はほとんどなく、その姿形は記録には残っていないのだ。
誰もはっきりとは目にしたことのない上位の一族たち。闇の一族そのものが遠い遠い存在なのに、その上位ともなれば夢物語か恐ろしげなおとぎ話としか思えない。

首を傾げるクラウドの心中に、ティファも同じであるとばかりに代弁する。
「上位ってどんなのかしら?」
「ティファ、なにか知ってる?」
「知らないに決まっているでしょ」
クラウドは?
「僕も知らないよ…」
「――そうよねぇ……」
ティファは少女らしく可愛らしいため息を吐き、
「もしかしたら世界中の人たちのうちで、一人か二人くらいは会っているのかも知れないけど――」
「ニブルヘイムでは誰も会ったこともないもんね」
ニブルヘイムは本当に田舎なのだ。普段から親しく他の村との交流はない。
それはこの村を取り巻く自然環境のせいもあるだろう。
雪深く寒さに厳しいこの村では、冬がとても長い。
他の土地よりもずっと早くから冬がやってくると、村はすぐに雪で覆われてしまう。
村へと続く街道もすぐに雪で埋もれてしまう。レベルの高いモンスターが出現することもあって、他の土地からは誰も入ってこなくなるのだ。村は正に雪で閉ざされてしまう。
一年の半分ほどの期間、ニブルヘイムこうして雪で閉ざされてしまい、村人だけの狭い世界の中だけで暮らしていくのだ。
こんな狭い村に、他のエリアの情報などほとんど入ってこないのは当然。
ザンカンや稀にやってくる商人、もしくはニブル山で狩猟するハンター達ぐらいが、本格的に雪が積もる前の短い期間にやってきて、他の土地での話しを落としていくだけで。
ましてやクラウドもティファもほんの子供だ。他の土地での出来事など全く知らないに等しい。
二人は想像力を精一杯駆使する。
「上位の一族ってどんな姿なのかしら?」
「下位のとは違うのかなあ…やっぱり」
「じゃあモンスターみたいな姿じゃないってコトなのかしら?」
姿形で上位と下位の区別がつくのだろうか。
しばらく考え込んでいたクラウドが口を開く。
「そうだよなあ。上位と下位の姿が似ていたとしたら…――おかしくないかな?」
「おかしいって?」
「たとえば上位と下位の一族の外見が同じだったら。これまで現れていた一族の中に、もしかしたら人間には区別がつかなくて解らなかっただけで、上位もいたってことも考えられるんだよね」
「でも上位の一族はこれまでやってきたことはない、って…これは絶対とされているんだよね」
外見がそっくり、もしくは同じだということは、見た目だけでは見分けがつかないという意味だ。
ならばこれまでの人間の長い歴史の中で、外見だけでの見分けがつかないまま、下位だと思って上位の一族とも闘っていた。なんてことも有り得た可能性は高い。
でも未だ人の世界に上位の一族が登場したことがないというのは、くつがえされない定説となっているのはなぜか?
クラウドの疑問はここの集約されている。
ティファは長い黒髪を邪魔そうに掻き上げた。
幼い頃からずっとのばし続けてきた黒髪は、ティファの亡くなった母にそっくりだ。
※※※
やおいのやにもかすらなくてすみません。
この話は淡々と続きます。



※イラスト追加しました(Y)


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