メモ |
■ Draw ? ■ |
クラファティマその8&御礼
'08/10/08 (WED) こんにちは、びーこです。
開店休業状態になっておりますY4ですが、 毎日拍手&♪をいただいており、嬉しい限りです。 また、クラファティマへのコメントもいただいております。 本当にありがとうございます。 予定は未定となりますので、あまり大きなことは言えませんが、 週一回でも覗いていただければ、 少なくともこのメモは動いている状態をキープしていきたいです。 私びーこ一人では不十分でしょうが、 これからもY4と遊んでいただければなあ、と思います。 では続きです。 ※※※ クラウドは蒼い大剣を一振り、何かを振り払う仕草をする。 今やバハムートの名残となった、淡い煌めきは、その一振りで霧散してしまった。 セフィロスの持つ召還マテリアが熱を持つ。竜王バハムートが現世から、マテリアで繋がれた異世界に戻ってきた証だ。 召還獣は現世において、生き物と同じ意味での死は存在しない。 元より本当ならば現世に実体のない存在。切り刻まれようが焼き尽くされようが、儚く消えてしまうだけで消滅という死はないのだ。 クラウドは蒼剣を構えたままで、無造作にセフィロスへと歩み寄る。 きつく睨み付けてくる眼差しは、従順なだけのファティマにはあり得ない輝きだった。 自分よりもずっと高い位置にあるセフィロスの喉元へ、クラウドは剣先をあてがう。 「さあ、竜王は倒した」 次はお前の番だ。 「オレの目の前から消えろ」 そうやって挑まれているのに、セフィロスにあるの好奇心だけ。 「さっき、バハムートはなぜ消えたのだ?」 「召還獣は異世界の住人」 「普通の攻撃などでは消えることなどない」 喉元にある剣先にも構わず、セフィロスはクラウドへと迫ってくる。 白い喉元に切っ先が食い込みそうになり、これにはクラウドが面食らう。剣先を僅かに引くが、それすらも気にならないのか、セフィロスは更に身体を前へと乗り出してきた。 ぶつり。表皮が破れる手応えが伝わってきた。青みのある白い喉元に剣先が潜る。 大して力を入れていないから、傷は浅い。だがそれでも血が滲んできた。 僅かに喉元に刺さった剣先を取り巻くようにして、血が沸いてくる。 まさか英雄と呼ばれるこの男が、このような無謀な行動をとるとは――予想外の展開に、クラウドは気圧されてしまう。 「答えろ――なぜバハムートは消えた?」 「どのような攻撃をしたんだ?」 「…アルテマウェポンは、力を喰らうことが出来る――」 気圧されてしまったクラウドは、セフィロスの疑問に素直に答えていた。 「アルテマウェポン?」 「それがその蒼い大剣の名か?」 「そ、そうだ」 「アルテマウェポンは竜王の放ったメガフレアを喰ったんだ」 「喰ったメガフレアを竜王の体内で爆発させてやった…」 ――そうか! メガフレアが蒼剣に吸い込まれたかのように見えたのは、間違いではなかったのだ。 蒼い大剣、アルテマウェポンはメガフレアを文字通り喰った。 そうして自らの内に納めたメガフレアのエネルギーを止める。クラウドが竜王に剣を突き刺したその時に、アルテマウェポンは、止めて置いたメガフレアのエネルギーを、竜王の身体の内側で放ったのだ。 メガフレアは竜王バハムートが放つ必殺技。そのエネルギーは普通のこの現世に有り得るものではない。 「確かに――」 「それならば竜王が消えたのも納得出来るな」 頷こうとしたセフィロスの動きが止まる。不審セフィロスの眼差しが自分の喉元へと注がれた。 頷こうとしたが、喉元に刺さっている大剣によってその動きが止まってしまった、というところだろう。 己の喉元から血が滲んで、すでに胸元にまで届いているというのに、この男、自身の痛みには相当鈍感であるようだ。 騎士とは確かに超人だ。ケガの治りも早い。小さな傷ならば瞬く間に再生してしまうものだが、だからと言ってここまで鈍感なのも問題だろう。 クラウドはそこにセフィロスの精神にある“歪み”を見いだす。 そこに、 「クラウド、お前は今何を思った?」 考えていた当の本人に問われ、クラウドは眉をひそめる。 まさか「あんたのことだ」などとは口が裂けても言えない。 なのに、 「俺のことだろう」 「――!」 セフィロスは確信している口振りで続ける。 「お前は俺のことを考えている」 そうだろう、クラウド。 「俺が傷ついているのを考えている」 「喉に刺さった剣先を、俺が気にとめてもいないことを考えている」 「肉体の傷など、大したものではない」 セフィロスはここでやっと喉元に刺さっている剣先を掴んで、無造作に引き抜いた。 剣先が突き刺さっている部分は、小さいものの穴が空いている。 白い喉にぽかりと空いた肉色の空洞は、この無機質な男からは考えられないくらい、やけに艶めいて見えた。 そこに、内側から血が盛り上がってくる。 「傷など、どうでも良いのだ――」 それよりも、 「俺のことを考えていたお前の顔、そちらの方が余程重要だ」 ――俺の、顔!? 「俺のファティマになれクラウド」 「いいや、ファティマとして扱われるのがイヤならば、それでも良い」 とにかく、 「俺の側にいろ」 「俺の隣に立つんだ――」 「その、蒼剣を持って」 「な…、なんで俺が!」 やや掠れた自分の声が、とても頼りなく感じ、クラウドは大きく息を吸う。 「竜王と闘ったら、あんた、俺の目の前から消えるって…」 「それはお前が勝手に言っただけのこと」 「俺にはそんなつもりはない」 「あんた!」 激高しそうになるクラウドを前に、セフィロスはむしろ悠然と続ける。 「お前はずっとこの村にいるつもりか?」 「こんな小さな村で、ずっと“ストライフ夫人の息子”の役を演じるつもりなのか?」 「あんた…知ってるのか!?」 ああ、 「ストライフ夫人の息子は死んだのだな」 不幸な事故だったのだ。 彼は自分の母親の目の前で死んでしまった。 父親はすでにいなかった。母と息子。ずっと二人だけで肩を寄せ合って生きてきたのに。 かけがえのない息子の死を前にして、ストライフ夫人は狂う。 最初は小さな歪みだけだったのに、歪みは日を増すごとにだんだんと大きく深くなっていき、ついには永遠にゆがんだ世界から戻れないだろうと危ぶまれたその時、彼女の前にクラウドが現れたのだ。 彼の息子と同じ色同じ髪の、そして名前さえ同じ少年が。 ストライフ夫人は、辛い現実から目を背けるのは簡単だった。 髪と瞳の色以外は似ていないというのに、クラウドを自分の息子「クラウド」だと認識し、そのように振る舞い始めたのだ。 周囲の村人は皆困惑する。もちろん当の本人となったクラウドでさえも。 だがゆく宛などなく、ファティマという自分の存在に疑問を感じていたクラウドにとって、例え狂っていても優しい母であるストライフ夫人は、とても魅力的だった。 「私のクラウド」と呼ばれることは、新鮮な歓びであったのだ。 結局この魅力にクラウドは従うようになり、村人もストライフ夫人の安定を優先してしまい、そのままクラウドはストライフ夫人の息子となった。 そうしてそのまま今日まで来ている。 いびつではあるが、なま暖かい、ここは繭の世界。 そんな繭の世界をセフィロスは打ち壊そうとしている。 現実という動かしがたくシビアなものを、クラウドに突きつけて。 「死んだ息子のフリをするのは楽しいのか?」 本当に、心底イヤな男だ。 「きっと楽しいのだろうなあ…――俺にはわからんが」 「オレは、楽しいなんて思っていない!」 「本当にそうか?」 ――ウソをつくな。 「楽しいからやっているのだろう」 「そんなにファティマであるのは不満なのか」 「いいや!不満なんかじゃない!」 父親となってくれたガスト博士には、何の不満もない。 ただ…ただちょっとだけ――立ち止まってみたかっただけなのだ。 「ほう。ならば、こんなソープオペラいつまで続けるつもりなのだ」 猿芝居。確かにそう評されても仕方がないだろう。 「そんな…ソープオペラだなんて」 「そうではないか」 「お前と村人達は、皆でよってたかって息子を失った女をだましているだけなんだ」 安っぽく薄っぺらい親切心と同情でコーティングしながら。 とんだお涙ちょうだいの物語だ。 「いつまで続けるつもりなのだ?」 「女が死ぬまでか?」 「…」 「だが覚えておけ」 「お前が息子のフリをし続けている限り、女は死んでしまった息子の死を悼むことが出来ないままなのだと」 「全ては止まったままだ――」 「止めたままで時間だけは無為に過ぎていく」 「お前は女にそんな残酷な時間を、どこまで過ごさせるつもりなのだ」 「解っている……そんなコト、あんたに言われるまでもない」 解っている。クラウドはちゃんと解っているのだ。もちろん村人だって。 ストライフ夫人は死んでしまった息子の墓にまだ一度も参っていない。 それは当然だろう。なぜならば、彼女の「クラウド」はまだ生きているのだから。 生きていて、ストライフ夫人と共に生活しているのだから。 でも、それは間違っている。間違っているのだと… 「解っているのならば、間違いは早く訂正すべきだ」 「訂正をしろ。そして女を狂った世界から、普通の世界へと戻してやれ」 「なま暖かいだけの世界しか認められないのならば、その者に生きている意義などない」 「あんた……酷い男だ」 「そうか。お前達よりも俺の方が、ずっと女の人生を考えてやっていると思うがな」 「あんたが嫌いだ」 「それはそれは――」 セフィロスを嫌いだと言い、そっぽを向いてしまいファティマの、頬のラインが愛おしい。 「俺はこんなに惚れていると言うのにな」 「いい加減にしろっ」 剣ではなく、拳を振り上げる。 そんなクラウドに、セフィロスは彼を手に入れられると確信する。 だが、さすがにマゾではない。いくら気に入っている相手にでも、むやみと殴られるのは趣味ではない。まあ別のシチュエーションならば、少しくらい手荒いのも良いエッセンスとなり、それなりに興味深くなるだろうが。 セフィロスは拳を軽く交わして、 「俺は神羅の軍基地に滞在している」 「一度訪ねてこい」 「なんで?」 「なんで、俺があんたに会いに行かなくちゃならないんだ」 「俺のファティマになるにしろならないにしろ、俺の愛機を見ておいても良いだろうが」 「あんたのMHか!」 やはりファティマだ。MHと聞いただけで目の色が変わる。 「正宗という。星団一のMHだ」 セフィロスは英雄だ。英雄の愛機の噂はクラウドも耳にしていた。 噂を総合すれば、星団一だと自称するのも頷ける。決してセフィロスの誇張ではなかった。 ファティマにとって優秀なMHとはとてつもない魅惑だ。そもそもファティマとは、騎士を補佐しMHを操縦する為に創造された、人工生命体なのだから。 「しばらくは滞在している」 「必ず訪ねて来い」 ――いいな。 あっという間だった。セフィロスの冷たい唇がクラウドの額に押し当てられる。 ――キスされた!? 我に返る間もなかった。 セフィロスは結局言いたいだけ言ったままで、悠然とニブル山を下っていったのだ。 ※※※ 次回でおしまいです。 |
▲ |