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赤白〜短い話

'08/08/10 (SUN)

こんにちは、お久しぶりのびーこです。

先月終わりから素敵なコメントをいただいております。
返信不要なのがもったいないくらいの、ありがたいコメントでした。
本当にありがとうございます。
本来ならば不要というご指定でしたので、必要ないのですが、一言だけ。
連載はまだつづきます。
あそこでぶっちぎりということもありませんので、
その点だけはご安心くださいませ。
ただ予定は未定というのが、辛いところなのですがね。

もうすぐ夏祭りですが、私のように遊びに行けない方、避ければ暇つぶしにどうぞ。
赤白の短い話です。

※※※
忘らるる都を出てサンゴ谷を抜ける。
クラウドとセフィロスはボーンビレッジへと歩いていた。
忘らるる都から侵入者を拒むためにある眠りの森も、セトラの血をひくクラウドにはあくまでも優しい。
一歩踏み出すごとに木々や草花が、子守歌を歌うようにざわめく。そんな小さな歌の一節ごとに、クラウドは目を輝かせるのだ。
その様子はとても愛らしく、側にいるセフィロスをも楽しませる。
今鳥が梢から飛び立った。偶然などではない。クラウドの視線を充分計算しての、見せる為の動きだ。
きらびやかな羽根を持つのでもないただの鳥であったが、クラウドは鳥の飛ぶ先へと小走りになる。
その小さな背中に、セフィロスは思わず声をかけた。
「クラウド。あまり走るな」
「大丈夫。転ばないから」
ちょっとだけ、と言いながら、クラウドは鳥の軌道を追うべく、上を見ながら走る。
元より山育ち田舎育ちのクラウドだ。運動神経はかなり発達していた。
上を見上げながら走っても、足下がおぼつかなくなることなどない。
だがそうだと解っていても、心情とはそんなにあっさりときれいに割り切れたりしないもの。
セフィロスは自然とクラウドの後を追いかけていった。

本来野生の鳥とは、自分の巣を隠すもの。だがこの森の鳥たちは違うようだ。
一羽の鳥を追いかけるクラウドの前に、我もと言わんばかりに他の鳥が現れてくる。
ちちち、と高く鳴きながら、クラウドを誘うのだ。
クラウドの関心が、そちらに注がれる。
それが気に入らないのか、クラウドを誘っていた鳥が舞い戻ってきた。
クラウドの側にまで降りてきて、羽根を見せつけるように羽ばたかせる。
「うわあ」
側近くのこのパフォーマンスに、クラウドは歓声を上げる。
手を伸ばそうとしたとき、また別の場所から鳴き声がした。
ちっちち、と鳴く鳥は、また別の鳥だ。
こうやって鳥は次々と現れては、クラウドの関心をひこうと様々なパフォーマンスを繰り返す。
――まったく、いつからこの森に住む生き物はこうなったんだ。
鳥だけではない。木々も草花もクラウドの関心をひくのに必死だ。
木々は枝を振るわせて、キラキラと輝く木漏れ日を演出する。
確かに星に近い生き物であればあるほど、セトラに敬意を払い特別視するものだ。
セトラという種は、それだけ星に愛されているということか。
だが、今目の前で起こっていることは、いくらセトラ相手だとしても、やりすぎなのではないのか。
本来ならば微笑ましいであろう、セトラと生き物たちの交流なのに、自然と眉間に皺がよっていくのは、これがクラウドを取り巻いて行われていることだからなのか。
――つまり、
――俺は森や鳥たちに嫉妬しているということなのか…
セフィロスの秀麗な口元に、微苦笑が浮かぶ。

木々は木漏れ日を演出し、草花は心地よいざわめきを歌っている。
小鳥たちは数多く集まり、クラウドの周りで踊っているようだ。
その中心にいる少年、クラウドは白い滑らかな頬を上気させて、自分に対する好意に歓声をあげるばかり。
ずっと閉鎖的な村で、大切にはされてきたが隠されてきた少年にとっては、このような好意が嬉しくてしかたないのだろう。
セトラとして認められたばかりの少年の繊細な心は、はっきりと訴えてこないだけ根深いのだ。
――クラウド…
――俺のセトラよ。
クラウドにもセフィロスにも、時間はたくさんある。
これから二人ずっと共に過ごして、たくさんのことを体験させてやろう。
クラウドがこれまで知らなかった、嬉しいことや楽しいことを、セフィロスが見せてやろう。
クラウドの金色の髪が木漏れ日を弾く。細かなプリズムのように乱反射した輝きは、青い瞳に吸い込まれていくようだ。
クラウドが声を上げて笑う。滅多と聞けない朗らかな笑い声に、セフィロスの心が和んだ。
同時に、見せつけたくもなる。
どれだけ森の生き物がクラウドの関心をひこうとしても、セトラのパートナーはソルジャーなのだと。
セトラであるクラウドのパートナーは、ソルジャーの中でも自分しかいないのだと主張したくなるのだ。
「クラウド、――おいで」
名を呼ばれて素直にクラウドが反応した。
少年の視線が自分に向けられているのを確認するように、セフィロスはことさらゆっくりと動く。
己の右手を上げる。口元へと持っていき、右手の人差し指の一部を自らの歯で噛み千切った。
肉が覗いたのはほんの一瞬だけ。見る見る血が盛り上がってくる。
盛り上がった血は重力に作用によって、大地にしたたり落ちていった。
その様子を凝視するクラウドが変化する。さっきまでの無邪気な少年の顔が消えて、淫らで貪欲な発情しきったセトラのものへと。
セトラの食欲と性欲を満たせるのは、ソルジャーのみ。
「クラウド――お腹が空いただろう」
――おいで。
低く甘く囁くと、クラウドの世界には、もうセフィロスと彼の血しか存在しなくなってしまう。
小鳥のさえずりも、草花の音楽も、木々の演出も、意味を成さなくなるのだ。
自分に寄せられる好意を全部振り切って、クラウドが歩いてくる。その歩みがどこかおぼつかないのは、欲情しているからに違いない。
「…セフィロス……」
「良い子だ。クラウド」
「さあ、口を開けなさい」
少年のふっくらとした唇が開く。
粒の揃った真っ白な歯。その中にある一対の鋭い牙に、うごめく舌の赤い色味が鮮やかだ。
まだ血の止まらない指をそっと近づける。
ぽたり。と滴った血が舌にこぼれ落ちていく光景にセフィロスも酔う。
我慢できなくなったのだろう。クラウドの両手がセフィロスの右手を捕らえる。
強い力だ。そして同じくらいの強さで、セフィロスの傷口が吸われる。
血が体内から抜け出る感覚に、セフィロスは激しく勃起した。
※※※