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びーこ > 俺のとうさんその3再投稿分
こんにちは、びーこです。 削除したものと同じのを再投稿いたします。 ※※※ 古い小さな家。これがセフィロスが養父と共に暮らしている家だ。 二階建てで一階にはリビングとキッチンとバストイレ。二階に三間、セフィロストクラウドそれぞれの部屋とクローゼットになっている場所と。 二人で暮らすには充分だが、それでも小さな家だ。だがここはセフィロスにとって最も大切なテリトリーである。 セフィロスはこの小さな家のリビングで待っていた。 時刻はもう日付変更線を越えてしまっている。でもクラウドは――まだ帰ってこない。 本日はなんでも屋の仕事はなかった筈。 だとすればきっとどこかで誰かと会っているのだろう。 クラウドはセフィロスが言うのもなんだが、あまり社交的な性格ではない。 警戒心も強い上に、なかなか心を許さないのだ。 こんな養父が会う相手など決まっている。 その相手を一人づつ脳裏に浮かべてしまい、心が怒りにとらわれてしまう。 いつもこうだ。これが自分という生き物の業なのか。 ――クラウド… どうして自分という存在は、当たり前のようにクラウドしか愛せないのだろうか。 クラウドしか――認められないのだろうか。 彼を中心に据えて、そうしてからやっとセフィロスの世界は滞りなく働くのだ。 彼が中心にいなければ、セフィロスにとって己を取り巻く全ては無意味になってしまう。 怒りと苛立たしさで波立つ心は、用意に押さえられはしない。 クラウドに関してはいつもこうだ。とにかく感情が激しくなりすぎる。 このまま放置して感情の激しくなるに任せてしまうと、どういう結果となるのか。 クラウドに関して、セフィロスは己を信用などしていない。 きっとこのまま感情の激しさが募れば、クラウドを探して走り回るのだろう。 なあにクラウドの行く先など見当はつく。 ティファの店だ。このままだとセフィロスはティファの店に乱入して破壊しつくすだろう。 そうなるのだと想像するのは甘美だ。クラウドに自分のところ以外の行き先を取り上げてしまう、そうなってしまえばクラウドはセフィロスの元にしか戻らなくなるのだ。 甘美な欲望はあまりにも魅惑的すぎて―― だが同時にセフィロスはわかりすぎていた。 例えそのようなことをしても、何も解決しないどころか、最悪クラウドと引き離されるかも知れないという現実を。 セフィロスは大きく深呼吸して、己の感情を抑える。 こういうときどのようにすれば一番効果的なのかはわかっていた。 セフィロスはゆっくりと眼差しをキッチンへと向ける。 ――クラウドはいつも料理を作ってくれる。 決して手の込んだメニューではない。あくまでも男の料理だ。 だがクラウドの作ってくれた料理ほどセフィロスを満足させるものはない。 フッと無人のキッチンにクラウドの後ろ姿が輝いた。 背中をじっと見つめていると振り向いてくれて、彼はこういうのだ。 (もうちょっとだから待ってくれ) (お腹空いたのか) 柔らかい表情。緩んだ口元。 セフィロスの眼差しはキッチンを離れて、二階への階段付近に至る。 セフィロスよりもやや小柄なクラウドだが、やはり彼は戦士だ。 背中、特に僧坊筋はよく発達している。腕にも筋肉がしっかりとついており、だからこそ彼はあれだけの大剣を存分に振るえるのだろう。 耳に甦るのはクラウドの足音だ。戦士らしい直線的な動き。バランスがよい。 セフィロスが想像したクラウドの後を追いかけて、二階へと上がった。 そしてそのままクラウドの部屋へと。 ここはこの家で一番クラウドの匂いが強い。 ほとんど私物のないがらんとした部屋。仕事に使っているデスクの周りだけが雑多だ。 セフィロスはそのままクラウドの匂いが更に濃い、ベッドへと辿り着く。 シンプルな木製のベッドは、セフィロスの部屋のと同じデザインだ。 男にしては細身のクラウドに当てはめると、やや大きめのベッド。 洗い晒しのシーツ。寒さに強いクラウドの使っている掛け布団は薄い。 以前どうして寒さに強いのか?と問うたことがあった。 その時クラウドは瞬間だけ視線をセフィロスからそらして、 (寒い場所で生まれ育ったんだ) とだけ教えてくれた。 その後色々と聞きかじった会話を考えてみて、クラウドの故郷とあのティファの故郷が同じなのでは、と思い至ったのだ。つまり二人は子供時代からの知り合いで、幼なじみであったのだと。 ――ティファ…あの女め。 苛立たしくなりベッドに転がった。 顔を押しつけた寝具からは、清潔な感触と洗っても抜けないクラウドの匂いが伝わってくる。 上半身だけクラウドのベッドに投げ出した格好で、セフィロスはデスクへと目をやった。 そこには二枚の写真が、それぞれ別の写真立てに入れられて飾ってあった。 一枚の写真にはクラウドとその他数名が〜腹立たしいことにティファも〜写っている。 この写真の中のクラウドはぎこちない表情だ。彼は写真が苦手なのだと後から知った。 その苦手なクラウドに頼み込んで撮ったのが、もう一枚の写真だ。 数年前のセフィロスとクラウドが並んで写っている。 当時のセフィロスはまだほんの少年の大きさしかなく、クラウドより小さい。 だが精一杯背筋を伸ばしてクラウドに寄り添う姿は、自分でもお気に入りなのだ。 そんなセフィロスの隣にいるクラウドの表情は柔らかい。 きれいで優しくて、それでいて深い。このクラウドの表情は共に暮らしているセフィロスでも滅多に見られないのだ。 だからこそこの一枚は貴重である。 ――クラウド…早く帰ってきてくれ。 ――俺の元に。 遠くでエンジン音がする。異常なセフィロスの聴覚が捕らえたのだ。 まだ遠い。聴覚が感知する範囲ぎりぎりだが、その音はだんだんとこちらに近づいてきているのは間違いない。 クラウド愛用のバイクのエンジン音ではない。これは四輪のものだ。 つまり誰かが車に乗ってこちらに向かってきているということになる。 セフィロスは素早く身体を起こすと滑らかな動作で階下に向かった。 こんな夜中に前触れもなく訪ねてくるなど―― ――敵か… 敵という言葉が頭に浮かんで、反射的にクローゼットの奥で見つけた一振りの刀を思い出した。 あれならばどのような敵が来ようとも、負けることなどないだろう。 ――いいや、あれは二度と触れない。 クラウドと約束をしたのだ。あの刀には二度と触れない、と。 刀の存在を頭から追い出すべく、セフィロスはやってくる相手が敵ではないという推論を組み立ててみた。 こんな郊外に特に自分の存在を隠すような行動もとらずに、真夜中堂々と車でやってきているのだ。 少しでもクラウドの実力を知っている者ならば、まるで「さあこれからあなたを襲いますよ」と大声でわめいているのと同じではないか。 ――敵だとすればかなりお粗末な相手だな。 一階に下りたセフィロスは、それでも念のためだと用心にマテリアを持った。 クラウドの持つ雷のマスターマテリアだ。 マテリアを媒体とする魔法は、セフィロスが大きな魔力を有していると判明してすぐから、クラウドの手ほどきを受けている。 そうしてある程度魔力を放出してコントロールさせるのを覚えないと、魔力が暴走する危険性があるからだ。 雷のマテリアをバングルにはめて、じっと目を暗闇へと向ける。 普通ならば街灯さえないこの暗闇の中で、何かを判別するのはとても不可能だろう。 だがセフィロスは異常なのだ。縦に裂けた瞳孔がきゅっと細くなり、瞳自体が不思議な輝きを帯びていく。 そうやって捕らえた映像に、セフィロスの様子が変わった。 あの年代物の車は記憶にある。いつもクラウドの周りをちょろちょろしている赤毛の男のものだ。 そして漂ってくる匂い。酒とタバコと、その中に確かにあるあの匂いは。 ――クラウドだ! セフィロスは玄関のドアを開けて駆けだした。 ――帰ってきたんだ。 セフィロスは迷わず走ってくる車の前に飛び出す。 キキーっ。激しいブレーキ音。 いきなり飛び出してきたセフィロスに、驚いたドライバーが急ブレーキを踏んだのだ。 かなり腕の良いドライバーなのだろう。音は派手だったが車は見事にセフィロスの前で停止する。 半回転スピンして停止した車の助手席にセフィロスは走り寄る。 ドアを開けると同時に、 「クラウド。お帰り」 だが返事はなく、助手席にシートベルトで固定されたクラウドは寝入っているようだ。 目尻までびっしりと生えそろった金色の睫毛は、これだけの騒動にも関わらずしっかりと閉じられている。 「しーっ」 「クラウドは眠ってるんだぞ、と」 「静かにするんだぞ、と」 運転席にいたのは車の所有者レノだ。 彼が何者であるのかはよく知らないが、どうやら古いなじみの一人であり、クラウドのなんでも屋の仕事にも関わっている人物のようだ。 「酒を飲んでいるのか?」 疑問系だが確信だ。酒臭い上に眠っているクラウドの身体はアルコールで体温が高くなっている。 「ああ、酔いつぶれちまってな、泊まっていけってティファが言ったんだがな、と…」 「どうしてもお前のトコに帰るって聞かなくて、俺が送ってきたんだぞ、と」 「そうか。クラウドは俺が面倒を見る」 セフィロスはシートベルトを外すと、力無く滑り落ちそうになる身体を軽々と抱え上げた。 その行動の端々からは強すぎるクラウドへの執着が滲み出ている。 ――英雄さんはどこまでいっても英雄さんだな、と。 以前ちらりとだけお目にかかったことのあるデジャヴ。 英雄が狂う前、彼は一般兵でしかなかったクラウドに激しい執着を示していた。 人目もはばからなくなっていくその行動に、レノは危機感ではなくむしろ微笑ましさを感じていた者だが。 ――昔と同じだな、と。 これでは、 ――クラウドが悩むのも無理はないぞ、と。 あっさりと自分の感情を割り切ってしまえるような立ち回りの上手さがあれば、クラウドが過去と現在のセフィロスとのアンビバレンツで懊悩することもなかったのだろう。 簡単なことだ。どちらもセフィロスだから、の一言で全てを処理してしまえば良いのに。 ――昔の英雄さんにも義理立てして、現在の息子にも義理立てして… ――愛されすぎるのが辛いってホントなんだな、と。 これが英雄と呼ばれた男の心を独り占めした代償なのだろうか。 クラウドをしっかりと抱えたセフィロスはそのまま家へと向かっていく。 その強固な背中は昔の英雄に勝るとも劣らない。つまりは同一だ。 「なあ、養子さんよぉ」 足を止めたセフィロスが心持ち顔だけをレノへと向けた。 「あんた、クラウドの息子で幸せかな、と」 「――…」 この場合の沈黙は肯定だ。 「じゃあ、あんたを息子にして育ててきたクラウドは幸せなのかなあ、と」 「お前――」 「何が言いたい」 感情と音量を抑えた声は、それでも腕にある養父を気遣っている。 クラウドが眠ったままセフィロスに抱きかかえられていて良かった。 そうでなければこの不穏な質問をした瞬間に、レノは攻撃を受けていただろう。 もっともレノもセフィロスが手出し出来ないとわかっていて、こんな質問をぶつけたのだが。 「いいや、別に――」 レノはティファ達のようにクラウドとセフィロスが離れてしまえば良いと考えているのではない。 ――クラウドがいなくなったら英雄さん、また暴走するだろ。 というのが大きな理由なのだが。 「俺はただクラウドが幸せになれば良いと思ってるだけだぞ、と」 それだけ言うとレノはそそくさと車に乗り込んだ。 さすがはタークスという鮮やかなテクニックで車を発進させてしまう。 じゃあな、と後ろ手に手だけ振って。 車が小さくなるのを見送りながら、セフィロスはさっきのレノとのやりとりを思い出す。 「クラウドの幸せだと…――」 ――当たり前だ。 ――俺は絶対にクラウドと共に生きてやる。 そうしていれば俺もクラウドも自ずと幸せという形になるのだろう。 確たる根拠はないが、絶対にそうだとセフィロスは微塵の疑いもなく信じ切っているのだ。 だから 「クラウド――俺から逃げようなどとは考えるなよ」 寝入ったままでいる養父の、小さな額に口づけた。 ※※※
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