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びーこ > クラファティマラスト
こんにちは、びーこです。 クラファティマ、ラストになります。 ※※※ 暫くしてからクラウドもニブル山を下っていく。 麓への入り口で、共に猟に出た男達と遭遇した。男達はクラウドを助けにニブル山へと登ろうとしていたそうだ。 相手がバハムートだと解っていながらも、それでもクラウド一人だけに闘わせる訳にはいかない。そんな優しい男達に、クラウドは考える。 男達と共に村へと戻った時、一番に迎え出てくれたのはストライフ夫人であった。 「クラウド……どこもケガはない?」 愛で見えている分だけでは納得出来ないのだろう。 彼女はクラウドの腕や背中を自分の手でさすって、息子の無事を確かめる。 特に腹部。彼女の手が何度も何度も、無事だと確かめた筈なのにまた腹へと戻っていくのを実際に感じながら、クラウドはセフィロスの言葉の正しさを痛感した。 彼女の息子は腹に大きな傷を負って死んだのだ。 ストライフ夫人のは、本当の自分の息子の死を、完全に忘れているのではない。 ――ソープオペラ… クラウドがストライフ夫人の息子を演じることによって、ストライフ夫人本人も必然的にソープオペラの出演者と定められてしまっているのだ。 幾度も幾度も腹に触れてくる母の手は、死んでしまった息子を悼んでいるのだろう。 これがどんなにストライフ夫人にとって残酷なことか―― 脳裏にガスト博士の顔が浮かぶ。 彼はファティマとしてはまだまだ経験の浅いクラウドを、それでも手元から送り出してくれた。 内心はとても心配であっただろう。だが自分の心配を隠して、クラウドを独り立ちさせてくれたのだ。 これはガスト博士からクラウドへ向ける信頼であるとしか考えようがない。 ――母さん。 彼女が望むならば、ずっと最後まで側にいて“息子”で有り続けたかったが、やはり彼女の息子は生きていても死んでしまっていても、一人しかいない。 そしてそれは、クラウドではない。 ――母さんごめん。 そして、 ――ありがとう。 月が変わってすぐ、軍基地で暇をもてあましているセフィロスの元に来客があった。 待ち焦がれていた来客に、セフィロスの機嫌は久しぶりに上昇してしまう。 もっとも、その機嫌の良さを外に出すことはしないのが、セフィロスのセフィロスたるところなのだが。 「よく来たな、クラウド」 仕官用の休憩スペースでセフィロスとクラウドは再会した。 クラウドの青い眼差しが、素早くセフィロスの全身を観察して、 「あんた…そんな格好もするんだな」 「俺もいつも軍用コートという訳ではない」 本日のセフィロスは私服である。光沢のあるドレスシャツから覗いている逞しい胸元と、嫌みとしか考えられない長い足に、クラウドはあからさまにイヤそうな顔になった。 ファティマだから仕方がないのだが、クラウドは密かに己の発育不全な少年体型が不満なのだ。 その外見がどれだけファティマとして価値があるのかについては、無自覚なのだろう。 「それよりもクラウド、やっと俺のファティマとして娶られる決意が出来たのだな」 「あんた、やはり頭がおかしいんだろう」 「俺はあんたに娶られるつもりはない」 さすがはコントロールされていないファティマだ。 騎士にこのような口をきくとは、 ――なかなか愉しませてくれるな。 「ほほう。ではお前は何をしに俺に会いに来たんだ」 クラウドの視線が一度伏せられた。金色の長い睫毛の作る影が、少年ファティマに似合わない色香を与える。 そんな風情を鑑賞する暇もなく、クラウドは再び視線をきっと上げ、 「オレは…やはりファティマなんだ」 「いつまでも人の真似は出来ない」 「――村を出る」 「そうか――」 元よりセフィロスに異存はない。 こうしてここにクラウドが現れたということは、ストライフ夫人の息子という役の、後始末もちゃんとついたのだろう。 ――さて、問題はここからだな。 戦いというものはいつも先手をとらなくてはならないものだ。 先手必勝という言葉は、あれは正しい。そうして戦場を支配した者が常に勝利者となる。 ――クラウド、今のお前につけ込ませてもらうぞ。 「クラウド。知っているとは思うが、マスターのいないファティマの扱いは酷いものだ」 「……――知ってるよ」 ファティマは人ではない。よって人権は認められていない。 マスターのいないファティマはロスト(はぐれファティマ)として扱われる。 ロストの扱いはそれは酷い者だ。人以上の能力を持つファティマだが、その力を己を護る為には行使出来ない。 よって人からどんな理不尽な扱いを受けようとも、抵抗は禁じられているのだ。 つまり美しいファティマが犯されようとも、暴力を振るわれようとも、売買されようとも、ファティマは抵抗すら出来ずに、甘んじて受け続けなければならない。 これまでのクラウドはずっと人として振る舞ってきた為に、そのような暴力を心配することもなかった。 だがこれからファティマに戻るということは、必ず身の危険に遭遇するということだ。 クラウドとて充分承知しているのだろう。その表情は硬い。 「ならば話は簡単だな――」 「俺はお前をそのような目には遭わせたくない」 「…あんた」 「形だけでも良い。暫くの間、俺をマスターとしておけ」 「英雄のファティマならば、誰も文句のつけようもないだろうしな」 クラウドの瞳がいっぱいに見開かれる。 ただでさえ大きな瞳が更に大きくなり、小作りな顔にある様は、本当にこぼれ落ちそうだ。 その瞳に自分が映し出されているのを確認して、セフィロスは優越を覚える。 「あんた、それでいいのか?」 「オレはあんたを、マスターだと認める気はないんだぞ」 「お前が犯されて売られるのに比べれば、このくらい容易いものだ」 それに、 「クラウドはこれからガスト博士の元に戻るつもりなんだろう?」 「そうだけど…――」 「ならばちょうど良い」 「俺もガスト博士に会いに行く途中だったんだ」 クラウドと共にガスト博士の前に現れたのならば、博士はさぞや驚くだろう。 我ながら良い考えだと、セフィロスは自然と微笑する。 皮肉が交じった微笑みでも、達観したり突き放したりしたような笑みでもなく、心の底から出た自然な笑顔であった。 その笑顔にクラウドは引きよせられてしまう。 ――こいつ、こんな顔も出来るんだ。 つんと澄ましたイヤな顔しか出来ないんだと思っていたのに。 ざわめいて、手足が熱い。なんだかやたらとドキドキする。 慌ててクラウドは視線を逸らした。 その頬がうっすらと上気しているのを、セフィロスは見逃さない。 セフィロスがファティマを娶る日は、かなり近い未来かも知れなかった。 おしまい ※※※ 色っぽいシーンが全然なかったですねえ。 これってひょっとして強気受けというヤツか!? なにはともあれ、最後までお付き合いくださいまして、 ありがとうございました。
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