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+ '08年09月30日(TUE) ... クラファティマその7 +

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びーこです。
続きです。どうぞ。

※※※
掌で握りつぶせるほど小さな人の予想外の逆襲に、竜王の怒りが強く掻き立てられる。
翼が大きく動く。風圧で周りの木々がたわんだ。
クラウドから一気に距離をとる。
普通の人ならば立っていられない強い風の中で、クラウドは青い清冽なる眼差しを、ひたりとバハムートに向けて、瞬きさえしていない。
天高くニブル山の頂上に迫るまでに飛び上がったバハムートは、翼を大きく広げ、天を覆ってしまう。
胸を前へと突き出す。鱗に似た硬い皮膚の下から、発達した胸筋が大きく膨れあがっていった。
胸の内部から何かが込みあがってこようとしている。
その何かは胸を通り喉元へと。首が、喉が膨らむ。
閉じられている牙の間から光が漏れてきた。首までせり上がってきたその何かは、光を発しているのだ。
青とも金ともつかない強い輝きは、うっすらと煙るようだ。
ブレスだ。しかもただのドラゴンの放つブレスではない。
メガフレア――竜王バハムートのみが発する、強力なフレアである。
バハムートは胸うちから押しあがってきたエネルギーを吐き出すように、大きく口を開く。
カッと限界まで開かれた口に、光が集まってくる。内側からせり上がってきたものだけではない。大気から空間から、遙かなる高みにある宇宙から、竜王はメガフレアのエネルギーを集めているのだ。
そのような膨大なエネルギーが発射されれば、被害は絶大であろう。
クラウドのみの消滅では済むまい。ニブル山が、いやニブルヘイムだけではなく、このエリア一帯が消し飛ぶのは間違いない。

竜王が放とうとするメガフレアのエネルギーは、クラウドにもびしびしと伝わってきていた。肌が焼けるようだ。これほどまで凄まじいエネルギーに遭遇するのは初めて。
だがクラウドに恐怖はない。
バハムートのメガフレアの高まりに呼応するかのように、クラウドも自身の身の内から押しあがってくる力を感じていた。
全身が力に満たされていく。びりりと全身が震えてきて、止められない。
クラウドの体に渦巻く力は、腕と手と指先とを通り掌から握りしめる大剣へと伝わっていった。
――ぎゃわー。
クラウドの手の中で、大剣が声もなく鳴いた。
これは真の力を発揮できるという、歓びの雄叫びだ。
(クラウド。この剣をあげよう)
蒼剣、アルテマウェポン。ガスト博士が与えてくれた、クラウドの為にだけある剣だ。
ミスリルのケースに収められた大剣を手に取った瞬間、クラウドは理解する。
――生きている!
この剣は生き物なのだと。
マルテマウェポンには明確な意志がある。意志というには原始的な、もっと本能に近いものであろうが、それでもアルテマウェポンは求め欲していた。
敵と、闘いを。
だが闘いに身を置かず、ただの人として生きてきたクラウドに、アルテマウェポンを存分に振るうだけの機会はなかった。
人目に触れない場所での鍛錬は続けてきたが、本当の意味でアルテマウェポンの欲求はずっと満たされていなかったのだ。
それが今、偉大なる竜王を敵として、満たされようとしている。
メガフレアを前にして、アルテマウェポンは歓喜しているのだ。

アルテマウェポンの歓喜は柄を握っている掌を伝って、クラウドにも伝わってくる。
セフィロスが現れなければずっと隠されたままであっただろう、クラウドの闘争本能がアルテマの歓喜と共に燃え立った。
――逃げるのは止めだ。
クラウドは腰を落として、真っ向から挑む。
アルテマの本当の力が解放されたことはないが、この剣ならば竜王にも立ち向かえるであろうと。
いや、そこまで考えていたのではない。
クラウドの闘争本能が、アルテマの歓喜が、真っ向勝負を選んだのだ。
それしかなかった。
己の身体の正面にアルテマを出す。
今やアルテマは大剣としての仮の姿をかなぐり捨てていた。
鈍い金属の輝きに似た蒼剣は、クラウドの手の中でぶるりと震える。これは恐れではない。歓喜の震えだ。
震えながらもアルテマは質量を変えていった。形としてはそっくりそのままではあるが、明らかに一回り以上大きく成長している。更に巨大な剣となったのだ。
こうなると持ち主であるクラウドよりも、アルテマの方がはっきりと大きい。
その時大気を圧するメガフレアが、竜王より放たれた。
真っ直ぐに。クラウドへと。
肉や骨どころか、クラウドという存在さえ焼き尽くしてしまわんばかりの勢いで放たれるメガフレアを、竜王の召還主たるセフィロスは止めない。
庇おうとも思わない。
なぜならば、
――クラウドならば。
クラウドならば、メガフレアの一撃も耐え抜くであろう。
さてどうやってメガフレアを払うのか。あの不可思議な大剣で斬るのか。それとももっと別の戦い方を選ぶのか。
――その様がみたい。
あのきれいなファティマがどう戦い抜き、勝つのか。
その様子を誰にも、己自身すら邪魔されずに、充分に堪能したい。
セフィロスの唇が自然と笑いの形をとった。
それは本人も自覚のない、驚くほど豊かな笑みである。


空間自体を焦がしながら放たれたメガフレアは、クラウドへと向かっていく。
障害物はなにもない。
クラウドはメガフレアが迫っているにも関わらず、その場から動こうともしなかった。逃げようともしていない。
ただ青く澄んだ眼差しをひたりと向け、蒼剣アルテマウェポンを静かに構えているだけで。
一直線に放たれたメガフレアは、その膨大なエネルギーでクラウドを制圧するかのようだ。
どんどん近づいていき、今にもクラウドを飲み込もうかと思われたそのタイミングで、クラウドが大剣を動かす。
大きな動きではない。
噴!クラウドの華奢な身体に気が集中されたのがわかった。
メガフレアにより赤く、青く染まっていくクラウドの肢体が、一瞬膨れあがったかのように見える。
両手で握っている蒼剣がくるりと小さな円を描く。
――なんだ?
疑問はほんの僅かのこと。
次にセフィロスは驚くべき光景を目にする。
蒼剣がまた形を変えたのだ。しかも大きくなったとか、変化したとかそういうレベルのものではない。
あの蒼剣はやはり生き物であった。
セフィロスは見た。巨大な蒼剣が蠢く様を。
蒼剣は蠢きながら、剣としての体裁を捨て去った。
そして、
――口があるのか!?
ぐにゃりと蠢いた蒼剣が、くわっとばかりに広がった。
それはどう考えても“口”だとしか見えない。
大きな空間が蒼剣に出来た。果てもそこも知れない深淵の口だ。
その口にメガフレアがぶつかった。そのままメガフレアのエネルギーが吸い込まれていく。
まるで大きな黒い口が、メガフレアを丸飲みしているようだ。
しかもその口には容量に際限がないのか。吐き出すこともなく。また溢れることもなく、どんどんと飲み干しているのだ。
そしてついに、――メガフレアのエネルギーはただの輝きだけを残して、全てが蒼剣に吸い込まれてしまった。
メガフレアの漂う余韻だけを残して、蒼剣の口が静かに閉じてしまう。
後に残るのは、剣を構えたクラウドだけ。
きしゃああーーー。己の必殺技メガフレアを、しかも吸い込まれて避けられたと知った竜王は、天高くにて怒りに震えている。
炯々とつり上がったバハムートの目が、静かに立つクラウドへと怒りで注がれ、次の瞬間に竜王はクラウドに向かって滑降していった。
――クラウドを喰らう気か…
自分の口と牙で、クラウドを屠ってしまうつもりなのだ。
――さてどうするのか。
メガフレアは避けた。だがそれはクラウドの力と言うよりも、あの蒼剣の力。
クラウドが早く動けるのはさっき目にした。
バハムート相手にも怯まない強靱さも、見た。
ならば次はどれだけあの蒼剣を使いこなしているのか、そんなクラウドの戦いが見たい。
しっかりと見定めることさえ出来ない高速で滑降してくる竜王に向かって、クラウドは腰をすっと落とすと次の瞬間、跳んだ。
逃げたのではない。今正に自分を喰らいに向かってきている竜王に、自らが跳んだのだ。
金色の一筋となって、クラウドは竜王に挑む。
両者がぶつかる寸前、クラウドが剣を大きな動作で構える。右後方へと剣先を引くと、そのまま真っ直ぐ前方に剣を突き刺したのだ。
クラウドの突き出した前方、そこに見事なタイミングで向かって滑空してきた、竜王バハムートの頭部がぶつかってくる。
勝負は一瞬。バハムートの鼻筋部分に、クラウドの蒼剣が突き刺さっていく。
硬い硬い大砲の弾丸でさえも拒む竜王の皮膚が、驚くほど易々と蒼剣に貫かれてしまう。
あぎゃあああー。
柄部分まで深く突き刺さった蒼剣が、竜王の貫かれている内部ごと膨らんだ。
ごおおおぉぉぉ。大気が振動する音の後。蒼剣に貫かれたままでいる、竜王の内部はどう変化しているのか。
竜王の巨体は悶えながら苦しんでいる。
と、膨らんでいる内部に輝きが生まれた。
そして、――
ばんっ。大きな破裂音と共に、竜王の頭部が文字通り弾けた。
――!
身を乗り出し息をのむセフィロスにも、はっきりとした事の次第は解らない。
ただ竜王はクラウドに敗れたのだ。残っていた胴体部分も薄く儚くなっていき、召還獣竜王バハムートは、この現世から霞のように消えてしまった。

※※※
今回はココまで。
あともうちょっとでおしまいです。
最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。


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