こんにちはびーこです。 ちょっと間が空いてしまいました。すみません。 では続きをば。
※※※ このある意味一世一代のセフィロスからの告白とも言える言葉に、クラウドの反応はひたすら鈍かった。 赤面どころか、魂までもとろけるような美貌を前にしたまま、むしろうっとうしそうに金色の眉をひそめると、 「――……あんた、どっか悪いのか…?」 「――悪い、とは?」 さすがに動じないセフィロスも、聞き返してしまう。 「だってそうだろ」 「第一、 オレはファティマなんかじゃない」 「少なくとも、あんたのファティマなどでは、絶対にない!」 「次にオレを試すからという理由で、こんなところに竜王を召還するなんて、あんた、普通じゃない」 ――だがな。 と、クラウドは両腕で己の顎を取ったままのセフィロスの腕をはたく。 下から上へと、まるでセフィロスの腕を吹き飛ばすような動きは、素早く切れがあった。 セフィロスの手が顎から放れていってしまう。 黒革のグローブ越しではあったものの、まだまだ柔らかい肌の下に感じた、尖った骨の感触はあっという間に遠ざかってしまった。 セフィロスは名残惜しく、感触を逃さぬように指を掌に抱え込む。 セフィロス自身自覚していなかったが、“名残惜しい”というのは、彼が初めて遭遇する感情であった。
そんなセフィロスの目の前で、クラウドはミニマムにして携帯していた剣を取り出す。 解除をさせると、掌に収まっていた剣は、瞬く間にクラウド自身よりも巨大な大剣となった。 重量も質量も、明らかにクラウドよりもある。 どう考えても手に余る大剣を、クラウドは片手だけで滑らかに扱ってみせる。 ファティマの性能をよく理解しているセフィロスでさえも、クラウドの大剣を扱う手並みには唸った。 なぜならば彼が大剣を扱っている動きは、人以上の力を持つファティマの動きではなく、戦士たる剣士としての洗練された無駄のない動きだったからだ。 ――ファティマではなく、この剣捌きは騎士のそれだ。 しかしそれも、 ――望むところだ。 セフィロスは見てくれが美しい鑑賞用の人形が欲しいのでもなければ、高性能のダッチワイフが必要なのでもない。 マスターの行動に盲従するだけのペット人形など飽き飽きだ。 戦闘能力においても、剣技においても、自分と肩を並べるだけのパートナーが欲しいのだ。 この条件さえクリアしていれば、極端なところ、クラウドがファティマでなくともセフィロスは別に構わないのだから。 セフィロスから一定の距離をとったクラウドは、青い眼差しをきりりとあげて、じっとたたずむ英雄を睨む。 「バハムートとは闘ってやろう――」 ただし、 「条件がある」 「オレが勝てば、もう二度とそのツラをオレの前に見せるな」 言い放つクラウドの周囲が変化する。 彼は大剣を華奢な肩に、無造作に担いだ。 クラウドが本格的な戦闘態勢に入ったのだ。
しなやかな肢体から放たれる闘気に、セフィロスはとっさに大きく飛んだ。 同時にバリアを張ると、クラウドへと全神経の焦点を当てる。 セフィロスの目前で、クラウドは高く飛んだ。その背に羽根が生えていないのがおかしなくらい、軽々と飛ぶ。 一方の竜王バハムートは、己目掛けて飛んでくる小さな金色の人に僅かに動揺したようだ。 ごご、と牙を剥き出しにしながら、そのものが太い凶器である腕を一閃させる。 竜王の放った一閃。人では交わしようのないスピードに、クラウドは為す術もなく吹き飛ぶかのように見えた。 セフィロスは目と感覚をこらす。 ――いた。あそこだ。 クラウドは竜王の腕をかいくぐっていた。 正に人以上のスピードと反射神経の成せる技だと言えよう。 この動きによってクラウドは何よりも雄弁に、自分が人ではなくファティマなのだと証明したに等しい。 だがファティマであるとしても、クラウドの動きはセフィロスの目からみても卓越したものであった。 何よりも思い切りが良い。戦いへの迷いがないのだ。 バハムートの一閃を巧みに交わしたクラウドは、そのまま思い切りよく竜王の懐に飛び込んでいる。 普通避けるのならば、横か後ろへと逃げてしまうのが防衛本能というものだ。 クラウドというファティマは本能までもコントロールしているのか。彼は更に前へ、敵の側近くへと進んでいる。 あっという間にクラウドはバハムートの鼻先まで迫った。 その位置で大剣を構えたところに、バハムートの爪が再び襲う。 こうなると逃げ場の少ないクラウドが不利だ。竜王の鼻先まで迫ったことで、クラウドが自由に身動き出来る空間は限られてしまっているからだ。 前に進めば竜王の口が、その尖った牙が待っている。 斜め上から背後にかけては、竜王の太い腕とクラウドなど一撃で引き裂いてしまう、鋭い爪が襲ってくる。 ガギっ!硬いものと硬いもの。鋼と鋼が真っ向からぶつかる音が大気に重く響く。 クラウドの大剣は飾りではなかった。 クラウドは逃げていない。彼は襲ってきた鋭い爪に真っ向から勝負を挑んだのだ。 右肩に背負った大剣をクラウドは鮮やかに翻す。 と言ってもその動きは高速である上に、あくまでも最小限のみにとどめられたものであった。 背負っているポーズそのままで、右手だけで握っていた柄に左手も合わせて、両手持ちにする。 両手持ちになった瞬間、大剣の角度が変わった。クラウドの右肩に刃先があたらないように添わしていたものが、肩から必要なだけ浮き上がり、刃先を立てたのだ。 そうしてそのまま竜王に背を向けた格好で、大剣をそのまま肩口から上空へと跳ね上げる。 それらは全て、バハムートの攻撃を完全に計算しての行動であった。 大剣が跳ね上がってすぐ、鋼がぶつかる音がした。 バハムートの爪と見事なタイミングと角度でぶつかったのだ。 爪とぶつかり合っただけでは、クラウドの大剣は止まらない。 渾身のものではないにしろ、竜王の爪にまともにぶつかった筈の大剣は、勢いそのままにバハムートの爪と腕を弾いた。 ただの大剣ではない。大きく重いだけの、鉄の塊ではないのだ。 そうでなければ、たとえクラウドがどれほど剣技に長けていようとも、ファティマとしての能力がけた外れのゲージであろうとも、竜王の一閃をこれだけあっさりとは弾けまい。 セフィロスは騎士の視覚を大剣にこらす。 ――あれか! 大剣の表面に何かが動いている。波間にたつさざ波のような、そんな動きだ。 現れては消え、次に現れる時には、別の部分へと移動している。 大きく現れたり、小さな部分にだけ現れたり。動きはランダムで予想も出来ず、またいかなる法則にも則っていないかのようだ。 よってクラウドの大剣は時折うねってさえ感じられる。 それは何か生き物にも見えた。指ほどの小さな生き物が数匹、大剣に巣くっていて、あちこちへと移動しているようにも思えたのだ。 だがその実は、 ――あれは内側からだ。 竜王の腕と爪の一閃を弾いたクラウドの大剣は、その勢いのままに竜王の鼻先を襲う。 剣先が竜王に届くかに見えた時、大剣の表面にさざ波が現れた。 じっと焦点を当てて凝らしていたセフィロスには、その動きがはっきりと見える。 生き物なのは、確かに生き物〜少なくとも生きてはいるのだろう〜に思えた。 ただし通常の生き物のカテゴリーではない。 内側、つまり大剣の内部から、その動きは現れているのだ。 もちろんいくら大きな剣であるといえども、所詮剣は剣。中になんらかの生き物が閉じこめられるような空間はない。 ――あの剣がどこか異空間に繋がっているとも考えられにくい。 ――召還とも違っているな… 鼻先への一撃を竜王はその巨体に似合わない動きで避けた。 避ける竜王の動きを計算しつくして、さらにクラウドは大剣を振るう。 巨大な翼をはばたかせて、バハムートは遙か上空へと、クラウドの大剣から逃れようとする。 竜王のはばたきの力は凄まじく、クラウドの剣先は遙かに届かない筈だったのに―― ――!? セフィロスは目撃する。 ――伸びた、のか… 絶対に届かない距離を、大剣は自ら形を変えることによって飛び越えた。熱せられたガラスが自在に形を変えるのに似て、大剣はうねりながら剣先を伸ばしたのだ。 剣先が見事に届き、バハムートの翼を切り裂く。 致命傷にはほど遠い傷ではあったが、クラウドの大剣が届いたのだ。 バハムートが怒りの咆吼を上げる。
※※※ 本日はここまで。
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