こんにちは、お久しぶりのびーこです。
先月終わりから素敵なコメントをいただいております。 返信不要なのがもったいないくらいの、ありがたいコメントでした。 本当にありがとうございます。 本来ならば不要というご指定でしたので、必要ないのですが、一言だけ。 連載はまだつづきます。 あそこでぶっちぎりということもありませんので、 その点だけはご安心くださいませ。 ただ予定は未定というのが、辛いところなのですがね。
もうすぐ夏祭りですが、私のように遊びに行けない方、避ければ暇つぶしにどうぞ。 赤白の短い話です。
※※※ 忘らるる都を出てサンゴ谷を抜ける。 クラウドとセフィロスはボーンビレッジへと歩いていた。 忘らるる都から侵入者を拒むためにある眠りの森も、セトラの血をひくクラウドにはあくまでも優しい。 一歩踏み出すごとに木々や草花が、子守歌を歌うようにざわめく。そんな小さな歌の一節ごとに、クラウドは目を輝かせるのだ。 その様子はとても愛らしく、側にいるセフィロスをも楽しませる。 今鳥が梢から飛び立った。偶然などではない。クラウドの視線を充分計算しての、見せる為の動きだ。 きらびやかな羽根を持つのでもないただの鳥であったが、クラウドは鳥の飛ぶ先へと小走りになる。 その小さな背中に、セフィロスは思わず声をかけた。 「クラウド。あまり走るな」 「大丈夫。転ばないから」 ちょっとだけ、と言いながら、クラウドは鳥の軌道を追うべく、上を見ながら走る。 元より山育ち田舎育ちのクラウドだ。運動神経はかなり発達していた。 上を見上げながら走っても、足下がおぼつかなくなることなどない。 だがそうだと解っていても、心情とはそんなにあっさりときれいに割り切れたりしないもの。 セフィロスは自然とクラウドの後を追いかけていった。
本来野生の鳥とは、自分の巣を隠すもの。だがこの森の鳥たちは違うようだ。 一羽の鳥を追いかけるクラウドの前に、我もと言わんばかりに他の鳥が現れてくる。 ちちち、と高く鳴きながら、クラウドを誘うのだ。 クラウドの関心が、そちらに注がれる。 それが気に入らないのか、クラウドを誘っていた鳥が舞い戻ってきた。 クラウドの側にまで降りてきて、羽根を見せつけるように羽ばたかせる。 「うわあ」 側近くのこのパフォーマンスに、クラウドは歓声を上げる。 手を伸ばそうとしたとき、また別の場所から鳴き声がした。 ちっちち、と鳴く鳥は、また別の鳥だ。 こうやって鳥は次々と現れては、クラウドの関心をひこうと様々なパフォーマンスを繰り返す。 ――まったく、いつからこの森に住む生き物はこうなったんだ。 鳥だけではない。木々も草花もクラウドの関心をひくのに必死だ。 木々は枝を振るわせて、キラキラと輝く木漏れ日を演出する。 確かに星に近い生き物であればあるほど、セトラに敬意を払い特別視するものだ。 セトラという種は、それだけ星に愛されているということか。 だが、今目の前で起こっていることは、いくらセトラ相手だとしても、やりすぎなのではないのか。 本来ならば微笑ましいであろう、セトラと生き物たちの交流なのに、自然と眉間に皺がよっていくのは、これがクラウドを取り巻いて行われていることだからなのか。 ――つまり、 ――俺は森や鳥たちに嫉妬しているということなのか… セフィロスの秀麗な口元に、微苦笑が浮かぶ。
木々は木漏れ日を演出し、草花は心地よいざわめきを歌っている。 小鳥たちは数多く集まり、クラウドの周りで踊っているようだ。 その中心にいる少年、クラウドは白い滑らかな頬を上気させて、自分に対する好意に歓声をあげるばかり。 ずっと閉鎖的な村で、大切にはされてきたが隠されてきた少年にとっては、このような好意が嬉しくてしかたないのだろう。 セトラとして認められたばかりの少年の繊細な心は、はっきりと訴えてこないだけ根深いのだ。 ――クラウド… ――俺のセトラよ。 クラウドにもセフィロスにも、時間はたくさんある。 これから二人ずっと共に過ごして、たくさんのことを体験させてやろう。 クラウドがこれまで知らなかった、嬉しいことや楽しいことを、セフィロスが見せてやろう。 クラウドの金色の髪が木漏れ日を弾く。細かなプリズムのように乱反射した輝きは、青い瞳に吸い込まれていくようだ。 クラウドが声を上げて笑う。滅多と聞けない朗らかな笑い声に、セフィロスの心が和んだ。 同時に、見せつけたくもなる。 どれだけ森の生き物がクラウドの関心をひこうとしても、セトラのパートナーはソルジャーなのだと。 セトラであるクラウドのパートナーは、ソルジャーの中でも自分しかいないのだと主張したくなるのだ。 「クラウド、――おいで」 名を呼ばれて素直にクラウドが反応した。 少年の視線が自分に向けられているのを確認するように、セフィロスはことさらゆっくりと動く。 己の右手を上げる。口元へと持っていき、右手の人差し指の一部を自らの歯で噛み千切った。 肉が覗いたのはほんの一瞬だけ。見る見る血が盛り上がってくる。 盛り上がった血は重力に作用によって、大地にしたたり落ちていった。 その様子を凝視するクラウドが変化する。さっきまでの無邪気な少年の顔が消えて、淫らで貪欲な発情しきったセトラのものへと。 セトラの食欲と性欲を満たせるのは、ソルジャーのみ。 「クラウド――お腹が空いただろう」 ――おいで。 低く甘く囁くと、クラウドの世界には、もうセフィロスと彼の血しか存在しなくなってしまう。 小鳥のさえずりも、草花の音楽も、木々の演出も、意味を成さなくなるのだ。 自分に寄せられる好意を全部振り切って、クラウドが歩いてくる。その歩みがどこかおぼつかないのは、欲情しているからに違いない。 「…セフィロス……」 「良い子だ。クラウド」 「さあ、口を開けなさい」 少年のふっくらとした唇が開く。 粒の揃った真っ白な歯。その中にある一対の鋭い牙に、うごめく舌の赤い色味が鮮やかだ。 まだ血の止まらない指をそっと近づける。 ぽたり。と滴った血が舌にこぼれ落ちていく光景にセフィロスも酔う。 我慢できなくなったのだろう。クラウドの両手がセフィロスの右手を捕らえる。 強い力だ。そして同じくらいの強さで、セフィロスの傷口が吸われる。 血が体内から抜け出る感覚に、セフィロスは激しく勃起した。 ※※※
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