メモ

<< < - > >>
1 2* 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15* 16 17* 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31


+ '08年07月09日(WED) ... 金銀Bその8 +

data/no.gif (x..kb)

こんばんは、びーこです。
♪、毎回押してくださってありがとうございます。
読んでいただけた印ですね。
嬉しいです。

注意:ちょっとグロっぽい表現あり。

※※※
魂が吸い込まれたように、一心にこの異様な縄を見つめていたクラウドの手に、不意に痛みが走る。
原因はティファだった。彼女がクラウドの手をきつく握りしめながら、小刻みに震えている。
彼女の眼差しは、灰色の不吉な雲を突き抜けて、降りてくるいびつな縄へと注がれていた。
大きく限界まで見開かれた黒い瞳は血走っている。目を背けたくとも、自分の意志では背けられないのだ。
こんなに禍々しい光景など、見たくもないのに。
闇の一族が絡み合い、血と肉で形作っている“縄”は、異質のまがまがしさで出来ている。
このまがまがしさは死すらでもない。
もっともっとおぞましいものだ。
クラウドやティファを初めとする、この星に生きる物では想像すら出来ないものだ。
凄惨で酸鼻なこの“縄”を編むのに、いったいどのくらいの数の一族がいるのか、クラウドには考えもつかない。
ただはっきりしているのは、ニブルヘイムの村はおろか、このエリア近辺に住む人々を全て集めても、これほどの縄は編めないだろうということだけだ。

おぞましさと恐怖に魅入られている幼い二人の目の前で、縄から枝がにょっきりと生えてきた。
遠目からでもわかる、ぬらりとした質感を持つ“枝”は、ぐるりと円の軌道を描くと、その先端を幼い二人の方向へと向けてくる。
と、いきなり枝の先端に“目”が生まれた。
初めは点の大きさでしかなかった目は、どんどんと巨大になる。ついには枝の先端全てが巨大な目となった。
――ひっ!
ティファが喉奥で息を詰めるのが伝わってくる。
悲鳴を発してしまわないのが不思議なくらいだ。さぞや思いっきり叫びたいだろう。
だが…もし叫んだとしたならば、大きな声を上げたとしたら、どうなるのか――
ティファがぎりぎりのところで耐えていられるのは、この恐怖のせいであったのだ。

巨大な目の巨大な眼球は、ぐりぐりと辺りを観察する。
観察しながら目は、再び様子を変えた。
巨大な目の中に、更に小さな疣のような目がわき上がってきたのだ。
巨大な目の中に出来た、ランダムな大きさの疣は、見る見るうちのその数を増やしていく。
「…――!」
手を握りしめてくるティファの爪がきつく立てられる。
そのうちの一本が、柔らかいクラウドの皮膚を破った。僅かではあるものの、血がじんわりと滲んでくる。
この血臭をかぎ取ったのか。巨大な目に宿る無数の疣となった目が、一斉にクラウドとティファを捕らえる。
最後に巨大な眼球もこちらを見た。
焦点が向けられて、確かに巨大な眼球はにたりと笑ったのだ。


巨大な眼球の内にある、疣のような無数の目。
ひしめきあったそれらの間から、粘液が滲み、垂れてきた。
いくつもの筋となった粘液は、ニブルヘイムの村に向かって垂れ下がってくる。
人の、いや、生き物の本能としてあらかじめ備わっている、原始的な嫌悪感を否応なく掻き立てる光景だ。
愛すべき故郷の土地が、今巨大な眼球から滲む粘液で汚されようとしている。しかもクラウドやティファは、この汚らわしい光景を凝視するしかなく、阻む術などもっていない。
ねちゃり、と垂れ下がってくる粘液だったが、ふと落ちてくる動きが止まり、そのまま滑るように横の方向へと流れてしまう。
それは一筋だけのことではない。ニブルヘイムを汚そうとしていた、全ての粘液がそうなのだ。
まるで目では見えない、村全体をすっぽりと覆う透明な何かに弾かれたかのように。
無数に落ちてくる粘液だったが、どれもその見えない何かにふさがれて、流れていってしまう。一滴たりとも村へは滴ってこない。
「…――ウソ…」
思わず声となったのだろう。
ティファが喘ぐように呟く。
これが合図となり、クラウドの脳裏にまともな思考が甦ってきた。
――なぜ?
――どうして?
――どうやったんだ?
悩むまでもない、答えなどひとつしかない。
――村の大人達だ!
毎夜集会を開いて戦いの準備をしてきたという大人達。
彼らがザンカンの力を借りて、この目に見えない仕掛けを用意したのだ。
「ティファ!」
「集会場へ行こう」
幼なじみの少年の言葉に、ティファも賛成する。
彼女も同じ考えに至っていたのだから。

安全な日常に囲われていた家から自ら出ていくのは勇気が必要だった。
二人は手をしっかりと繋ぎあい、気力を振り絞ってストライフ家のドアを開く。
禍々しい雲は上空を支配したままだ。この雲により、村が昼夜の区別を失ってから数日は経つ。
家を飛び出した瞬間から、二人はひしひしと感じていた。
あの眼球が、自分たちをじっと観察しているのを。
吐き気がしそうな恐怖を、繋いだ手の温もりで耐え、二人は気力を振り絞って走り続ける。
クラウドもティファも周囲を一切構わずに、集会場だけを目指す。
二人にはとてつもなく長い時間に感じたが、実際はほんの数分しか走っていなかっただろう。
必死な二人の耳に、唐突に聞き知っている声が飛び込んできた。
「おおい」
二人はハッと顔をあげ、声の方向へと向ける。
そこにいたのは村人の一人だ。狩猟の上手い初老の男で、クラウドやティファよりも年上の子供をもっている。
男は二人を見ると、安心したように手を差し伸べてきた。
どうやら彼は二人を迎えに来てくれたようだ。
そう言えば、とやっと辺りを気にしてみると、大人達がそれぞれの家に残っている子供たちを迎えにやってきているではないか。
迎えに来ているのは全て男で、しかも皆手に武器を携えている。
立ち止まってしまった二人を、彼はせき立てた。
「早く集会場に行くんだ」
二人の返事も聞かず、彼はクラウドの空いている方の手を掴む。
ティファのとは正反対の、大きくて分厚いがさついた手だ。
「いいか。走るぞ」
彼はそのままクラウドの手を掴んで走り出す。
大人の男の力に引きずられるようにして、二人は再び集会場へと向かって走り出した。
※※※


| + 07-July-Menu +
 

*年月/日/用/鍵

 

+Simple + *Jinny +1.5 © s*m
Paint-Applet ©しぃちゃん