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+ '08年07月19日(SAT) ... はれくいん〜08,07,14 +

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こんにちは、びーこです。

Y子さん、遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます。
とりあえずプレゼントです。
遅くなりましたがお受け取りください。

※※※
音楽家は一年の大半を演奏旅行で過ごすことが多い。
今や人気実力共に呼び声の高い、指揮者のトップであるセフィロスもそんな日常を過ごしている一人であった。
常任指揮者であるベルリンフィルハーモニーの定期演奏ツアーで、アジアからアメリカ、その後海を越えヨーロッパに戻ってきたのは良いが、ゆっくりとは出来ない。
クラシック文化の根強いヨーロッパは、やはり指揮する気の張りようが自ずと違ってくるものだ。
今回はヨーロッパでは大ホールばかりではなく、地方にある古い、普段ならば地元のクラシック愛好家がオーケストラの真似事に使われているような小さなホールを中心に演奏を行った。
異文化であるアジアの各都市ではもちろんのこと、まだ文化の若いアメリカでも、演奏したのはどれも万人単位で収容できる大ホールばかりである。
大きなハコはそれはそれで遣り甲斐もあるものだが、やはりどこかゲストでしかないと感じられてしまい観客との距離が他人行儀で終わってしまう。
感動を共有して、観客も参加して演奏を完成させるという部分が欠けてしまうのだ。
さしもの英雄と呼ばれるセフィロスも、消化不良のまま演奏を続けていた。
そうして帰ってきたヨーロッパでは、小さなハコばかりでの演奏。
これまで求めていても得られずずっと欠けていた、観客との一体感は充分に果たせた。
少なければ百も入らないくらい。多くても千が精一杯。
舞台と観客との距離もほとんどなく、観客の反応が率直に伝わってしまう。
セフィロスはここまでの不完全燃焼をはらすかのように、情熱的な指揮を振るってきた。
クラシック文化が日常となっているヨーロッパの観客の反応はシビアで、皆がいっぱしの批評家ばかり。
心地よいスリリングな緊張感をもって、演奏を続けてきた。
ツアーは大成功。口やかましいヨーロッパの批評家たちも、みなこぞってセフィロスの成功を讃えた。
完璧主義者であるセフィロスとしても、満足のいくものであったが――それでも彼には不満ばかりが残った。
理由はひとつだけ。クラウドが今回のツアーにはついてこなかったから。

クラウドはセフィロスの恋人だ。
単純に恋愛関係にあるだけではない。
彼はセフィロスにとって、必要な他人である要素を全て含んでいる。
兄であり弟でもある。父親でもあり息子でもある。母親でもあり娘でもある。師でもあり弟子でもある。セフィロスを狩るハンターでもあり、最高の獲物でもある。気の置けない友人でもあり、誓いをたてるべき無二の相手でもある。
つまりセフィロスが自分以外の他者に求めている存在を、クラウドは一人で網羅出来るのだ。
そして何よりも、クラウドはセフィロス最大の謎だ。神秘でもある。
クラウドという少年と青年の狭間にいる人間について、全て解ったような気になる時もある。だが、次の瞬間、クラウドはセフィロスにとっての永遠の未知となるのだ。
何度ベッドの中で恥ずかしい部分をさらけ出しても、彼を泣かせて許しを請わせようとも、次の瞬間のクラウドはセフィロスの手の届かない至高となってしまう。
だからなのだろう。クラウドは時々とても難しくなる。
ツアーに出発するまでもそうだった。本当ならばクラウドも同行する予定だったのに、彼は急に行かないと言い出したのだ。
理由はがんとして言わず、ただ絶対に行かないというばかり。
クラウドが頑固なのは解りきっていたが、理由を話してもらえないことに、セフィロスは穏やかではいられなくなってしまう。
第一、 ツアーの期間は長い。同行しなければ3ヶ月は離ればなれとなってしまうというの
に、クラウドはそれでも平気なのか。
――耐えられない。
セフィロスは必死で説得したが、クラウドは首を縦に振ることも、己の主張を変えることもなく。
結局セフィロスは、クラウドが同行しないと言い出した理由さえ解らないまま、ツアーに出発したのだった。
クラウドと出会ってから、ここまで長く離れているのは初めてのこと。
ツアー中、セフィロスは表情の変わらない鉄仮面の下で、ずいぶんとやきもきしたものだ。
何度もせめて電話くらいはしようと思った。思ってはやめ…決断してはどうしても出来ず。
ならばせめてメールでもしようと思ったのはいいが、やはりどうしても出来なかった。
原因は不安だ。
セフィロスにとって、クラウドという永遠に解けないであろうパズルは、難しすぎたのだ。
かといって到底手放せるはずなどなく。セフィロスはクラウドを永遠に抱きしめているしかない。


セフィロスは身の回り最小限の荷物だけを持って、自分のフラットの目に立ちつくしている。
春先にフラットを出て、今は夏。
きつくなった日の光と、いっそう突き抜けた空の青が、セフィロスの見事な銀糸に降り注いでいる。
当初の予定では、帰宅はもう少し先だった。が、クラウドという永遠に解けない謎を抱えるセフィロスは、離れている間とても気が気ではなく、結局最後の講演が終わるやいなや、強引に帰途についたのだ。
手荷物は小さなキャリーバックひとつだけ。石畳の上を転がして、ただ真っ直ぐに前だけを見て、セフィロスはクラウドの待つ家路に向かったのだが、――玄関先でこの勢いも止まってしまう。
入れば良いのだ。自分の家だ。
目の前のインターフォンを押せば良いのだ。
インターフォンを押すのが気が進まないのならば、鍵を使ってさっさと入ってしまえば良い。
そう…そうすれば良いだけなのに、それがどうしても出来ないのだ。
――俺は、情けないな。
自分でも女々しいと思う。
永遠の謎を、やはり解けないままでいるセフィロスにとっては、クラウドがいるであろう部屋に入ることは、とてもハードルが高いのだ。
有り体に言えば、クラウドの反応が――恐ろしい。
セフィロスを前にして、クラウドはどんな反応を示すのか。
ケンカなど何事もなかったかのように、振る舞うのか。
それともまだ怒ったままでいるのか。
怒っているのだとすれば、口も利いてくれないほどなのか。それとも不器用な嫌み程度のものなのか。
いや、もしかしたら、
――この家にいないかも知れない…
怒っているのならば、まだいい。
セフィロスの前から消えようとしているとしたら。
本当にセフィロスとの縁を切ろうとしていたとすれば…
ここまで考えると、足下から焦燥感が込みあがってきた。
さっきまでの躊躇などそっちのけで、セフィロスは乱暴に鍵を取り出し、暗証番号を打ち込む。
認証されるまでのわずかの時間も惜しくてしょうがない。
ロックがオフになった瞬間、セフィロスは手荒にドアを開く。長身で割り込むようにドアを開けて、キャリーバックを持ち上げて走り出す。
小走りなどというものではない。全速力での疾走だ。
――クラウド!
声には出さずに、必死で呼ぶ。
まずはリビング。次はクラウドの私室となっている部屋。ノックもせずにいきなり開くが、誰もいない。
クラウドは元から私物というものをあまり持ってはいないが、久しぶりに入ったクラウドの部屋は、殺風景でがらんどうのようだ。
人が暮らしているという生活の匂いが感じられない。
再びリビングへと戻る。キッチンまで覗くと、ひとまず安堵する。
食事をとっているという、はっきりした生活の証があったのだ。
クラウドはここにいる。とすれば、今クラウドはどこだ。
――クラウド。クラウド!
トイレとバスを覗いてみた。シャワーブースまで確認したが、誰もいない。
そう言えば人が動く音も聞こえない。
――あそこか!?
セフィロスが仕事部屋にしている、防音が施された空間を連想した。
そう言えばよくクラウドはあの部屋にいるではないか。
いい加減必要もないのに手に持ち続けているキャリーバックを放り出して、セフィロスは仕事部屋を覗いた。
が――誰もいない。
――クラウド…いないのか……
外出したのだろうか。
人見知りが激しく、安易に他者に心を開かないクラウドが、一人きりで訪れる場所は知れている。
ましてや一人で出向き、長居をするような場所はほとんどないし。
――待っていれば戻ってくるだろう…
それでも落胆する気持ちを抑えきれないままで、セフィロスは放り出したままのキャリーバックを掴むと、荷物の整理をすべく自室へと入った。

3ヶ月ぶりとなる自室は、使う者などいなかっただろうに、不思議と湿っぽくなかった。
昼間だというのにカーテンがしっかりと閉ざされている。
カーテンで遮光された中、ベッドカバーが掛けられたベッドがこんもりと盛り上がっているではないか。
――!?
息を殺してそっとベッドへと近づく。
こんもりとしたシルエットは人型である。
――まさか…
セフィロスの予想は当たっていた。
――クラウド…
クラウドは眠っている。セフィロスのベッドの上に、何もかけないで。
シャツに綿のパンツは、クラウドお気に入りの部屋着だ。もちろんセフィロスが選んだものだった。
久しぶりの恋人が、寝ているというのは少しばかり寂しいものだが、セフィロスは同時にホッと安堵もしている。
少なくともクラウドが目覚めるまで、言い合いをすることはなくなった。
セフィロスはここぞとばかりに、息を殺して顔を寄せ、恋人の寝姿を堪能することに決める。
普段は勘の良いクラウドなのに、余程疲れているのだろうか。顔を近づけても気がつこうともしていない。
綿のパンツから出ている素足。形の良い踝の骨が、囓りたいほどに可愛らしい。
足の指は細くて長い。親指よりも人差し指と中指の方が背が高かった。
足の爪は少しばかり乱雑になっている。セフィロスがいる時は、爪の手入れはセフィロスの仕事だった。
爪切りでそろえ、きっちりとやすりまで掛けていたのだが、クラウド一人ならば自分にそんな手間はしない。切ったままで放置されているのだろう。
金髪は少し伸びたようだ。襟足がすっかりと隠れてしまっている。
この3ヶ月前とは違ってしまっているところが、そのまま二人会えなかった時間に繋がる。

クラウドを閉じこめておこうと思っているのではない。
確かに年はクラウドの方が下だが、だからと言ってセフィロスは恋人を尊重したいと思っている。
クラウドは男とも女とも確定していない、まるでセクサレスのような外見よりもずっと男らしい性質をしているし、人見知りはすれども独立心がないのでもない。
自己主張もあるし、自分の頭で考えて行動もする。
勇気もあるし知恵もある。一人で生きていくのも不足はない。
――そうだ…
――クラウドが、ではない。
――俺が、クラウドを必要としているのだ。
クラウドが必要だ。愛しているから側にいて欲しいからではなく、もっと確定として必要なのだ。
いつもよりも不格好に切られた足の爪が気になる。
衝動そのままで、指先で不格好な爪をそっと辿った。
指先にあたる爪の感触は丸くはない。これではどこかに引っかけてしまうに違いない。
――後で切りそろえなくてはな。
もう一度丸く整えて、しっかりとやすりをかけてやろう。
そんなことを考えながら、クラウドの寝顔を堪能する。
ふと視界に入ったものがあった。クラウドが抱き込んで眠っている、その何か。
それは布であった。クラウドの胸元から僅かばかり覗いているその布は、広げるとかなりの大きさがあるのだろう。
抱き込んだまま眠っているから、しわくちゃになっている。
だがこの布、セフィロスにはどことなく見覚えがあった。
気になってじっと観察する。
――これは…まさか!
遮光カーテンによって色味が違って見えるが、これはセフィロスのシャツではないか。
ややクリーム色がかって見える、シルバーグレイの色味。セフィロスが愛用しているシャツの一枚に違いない。
覗いているのは袖の部分だ。タックの入ったこのデザインは間違いない。
――クラウド…
離れている間、クラウドも恋しがってくれていたのだ。
セフィロスが恋しいからこそ、こうやってセフィロスの寝室で、セフィロス愛用のシャツを抱き込んで眠ってくれている。
きっと目覚めたら、そんな本音を不器用に隠したままで、セフィロスに接してくれるのだろう。
少しつっけんどんに。怒っているかのように。
でもクラウドの本音はここにある。
セフィロスと同様に、恋人を恋しがってくれているのだ。

不意にオペラ『椿姫』の一節が浮かぶ。
第一幕で歌われる、『花から花へ』のワンフレーズだ。

 いつも自由で 快楽から快楽へ 夢中になりましょう
 私の生活は 享楽の小径を 歩き廻ることなのだわ
 昼であろうと 夜であろうと いつもそこに楽しみをみいだそう
 いつも新しい楽しみに 思いをはせよう
 愛 愛は全世界に脈打っている

――俺の愛は全世界には脈打っていない。
――俺の愛はそこら辺りで見いだせるようなものではない。
――クラウド。
――お前だ。
――お前がいるところが、俺にとっての、愛が脈打つ場所。


セフィロスは起こさないようにそっとベッドにあがる。
眠っているクラウドを背後からそっと抱きしめた。
長い足で、クラウドの小さな素足を挟み込む。
――クラウドは何を想って眠るのか…
恋人が目覚めるまでの間、セフィロスはこの永遠に解けない謎を楽しんだ。
※※※

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