こんにちは、びーこです。 梅雨らしいといいますか、うっとうしい日が続いていますね。 先日来より家人からもらった咳が抜けません。 こういう季節は身体の抵抗力もなくなってくるのか。 それとも私がババアだからなのか。 と一層鬱陶しくてなりません。
と、せんのない繰り言はさておき、続きです。
※※※ それからあの事件が起こるまでの数日間、ティファはストライフ家で過ごした。 クラウドと共にベッドこそ違え同じ部屋で眠り、同じ時間に目覚める。 同じ物を食べて、共に過ごした。 あの不吉な雲は益々濃く広大に、さらに厚味を増していき、上空いっぱいに覆われたニブルヘイムは昼間でも完全な暗闇のままとなってしまう。 すでにニブル山も上半分は雲に飲まれた。 子供達はこれまで遊びのテリトリーだった村の広場や山では遊ばなくなり、一歩も家の外からでなくなってしまったのだ。 だが大人はそうもしていられない。 畑を持つ者は畑に出て、狩猟を生業としている者は村近くの外へと向かう。 それでも作業はほんの短時間だけにとどめ、みんな最低限の用事さえ済ませると背中を丸め、不吉な雲から逃れるように足早に帰途につく。 帰ってきた大人達は夕方になるとこぞって集会場へと向かうのだ。 この毎夜の集会を呼びかけているのは、ティファの父、村長であるロックハートとその師ザンカン。 ティファやクラウドを含め村の子供達は、具体的に大人達がどういう用件で夜ごとに寄り集まってどんな風に話が進められて、また何をしているのかは知らされていない。 この件に関しては大人達は皆一様に口が堅く、全く漏らさないのだ。 でも子供達は生き物としての本能で感じ取っている。 これは全てただならぬ事態が起こる前兆であるのだ、と。 そんな感覚が精神だけではなく、皮膚を通してひしひしと押し迫ってきている。 そう。――きっととてつもなく良くないことが起きるのだ。 その大きな原因であり良くないことが起きるという印なのが、この村をすっぽりと覆い尽くしてしまっている不吉な雲だ。 今となっては果てさえも見えないほど広がった雲に対する恐れは、クラウドや子供達だけではなく、村人全てが同じ恐怖を抱いている。 こうして頭上一面に恐怖の元凶を仰ぎつつ、ニブルヘイムの村人たちは異様な緊迫感のただ中に置かれていたのだ。 そしてついに時はやってくる。恐れていた事件が起こったのだ。 地獄の扉が開いたのだ。
事件当日はその瞬間まで前日と変わりない時間が流れていた。 不吉な雲の下で村人達は短時間だけそれぞれに働く。その後すぐに大人達は集会場へと集まり、前日と同じように何かを行動をしていた。 大人達の集会だが、最初の幾日かは活発な意見交換を繰り返しながら、何かを話し合っていたようだ。 だがそのうちに何らかの意見の統一を果たしたのだろう。話し合いが落ち着くとザンカンと村長ロックハートの指図の元計画を立てて行動を進めていた。 この行動はどうやら佳境に入っているらしく、大人達の帰宅は日に日に遅くなっている。 「…戦うんだわ」 ティファはそんな大人達を見てこう断言する。 この年頃の女の子は、同年代の男の子よりも遙かに鋭い。 特に幼い頃に母を亡くしたティファは、どうしても早く大人になりたがっている傾向にあった。 よってクラウドと同じものを見ても、更に深く掘り下げて未来にまで目を向けようとする。 「戦い」と聞いてクラウドはすっかりと落ち着かなくなってしまう。 臆病だとクラウドを攻めるのは筋違いだ。まだ子供だから仕方ないと考えるべきものでもない。 なぜならばクラウドは解っていたのだから。 この状況でティファが指す戦いの相手とは、闇の一族であるのは間違いないのだと。 つまりこれからニブルヘイムの村人たちは、人間以上である闇の一族と戦わなければならないのだ。 「村長さんがはっきりそう言ってたの?」 闇の一族を敵にするのだと。 「ううん――父さんは何も言わないけれど…」 けれど、わかるの。 「解るってどういうコト!?」 ティファを信じていないのではない。 でもこれから村や、そして母や自分が闇の一族と戦わねばならなくなるというのは――怖い。 人が無意識に暗闇を恐れてしまうのと似た原始的な恐怖がクラウドを襲ってきて、怖くて、怖くて。 そんな幼なじみの少年の心中を悟ったのだろうか。ティファは具体的な話しを始める。 「お師匠様はたくさんのマテリアと武器を持ってきていたの」 「そして持ってきたマテリアや武器を村の人たちに配っているみたい」 もちろんただ配っているだけではなく。 「魔法が使える人には、お師匠様が持ってきた武器にそのマテリアを装備させて戦いの練習をさせているみたいなの」 まるでティファは見てきたように語る。クラウドの知らないことばかりを。 「待って。どうしてティファがそんなことを知っているの?」 村長である父親から教えてもらっているのでもなく、ましてやティファは現在四六時中クラウドと一緒なのだ。 クラウドの知らないことを、どうしてティファだけが知っているのか。 クラウドのこの疑問は当然であると言えるだろう。 ティファの返答は明快であった。 「覗いたのよ」 「どこを?」 「集会場よ」 「いつ!」 「クラウドが眠った後…」 「それって……夜中ってこと!?」 それがどれほど危険な行為なのか。 クラウドはすっかりと驚いてしまい、言葉さえ出ない。 「これでも私、強いのよ」 「ティファ!」 そうしう問題ではないだろう。と、語気が強くなってしまうクラウドに、 「――怒らないで」 「だってとても知りたかったの」 今いったい村に何が起こっているのか。大人達は、父やお師匠様は何をしようとしているのか。 僅かな手がかりだけでも良いから、事実を知りたかったのだ。 もとよりティファは少女にしては強い。 性格も強く精神も強い。ザンカンの教えを受け、肉体的にも修行で鍛えているのもあり、自分の強さには自信を持っているのだ。 だからといって夜中に家を出ていくのは無謀である。ティファ自身もそれは解っている上でのこと。 今更起こってしまった過去をクラウドが責めても効果があるとは思えない。 ティファは無謀だと解った上で、やってしまったのだから。 金色の細い眉を寄せて複雑な表情を作ると、まだ幼い少年の容貌はとても繊細な憂いとなる。 その表情にティファが怯む。彼女はどれだけ強く叱られるよりも、クラウドにこんな表情をされる方が一番辛いのだ。 「ごめん…――クラウド」 俯いてしまう少女に、 「何回くらい夜中に家を抜け出したの?」 「2回くらい……」 回数を口に出しながら、クラウドを窺う。 少年の青い眼差しは憂いを保ったままだ。 ティファの嘘を見抜くように。 「4回は行ったと思う――…」 すっかりと語尾が弱くなり、普段の気丈さを無くしてしまったティファに、やっとクラウドは表情を緩めて許しを与えた。 こうでもしないとティファは己を過信して、いつ何時取り返しのつかない事態に陥るかも知れないのだ。 特に今はこんな異常な時。クラウドはティファに傷ついて欲しくなどない。ましてや死ぬなど。 クラウドは一緒にいると約束したのだから。 「ティファ、――もう駄目だよ」 「…うん。もう行かない」 素直に頷いてくれたティファにクラウドは安堵する。 ※※※ ここまで。 ではみなさま良い日曜日を!
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