こんにちは、びーこです。
本日から予定しておりました、金銀のいわゆる番外編のようなものをゆっくりと貼り付けます。 そこそこに長いので読んでいただきやすいように、 細かく区切っていきたいと思っています。
※セフィロスはでてきません。 ※よってカップリングものではありません。 ※ニブルヘイムという小さな村に住んでいる、クラウドとティファ12歳のお話です。
いつものごとく変換ミスなど細かい点はスルースキルでお願いします。
※※※ 空を覆う雲は分厚い。幾層にも重なったおどろおどろしい灰色の雲は、完全に日差しを閉ざしたまま、ニブルヘイムの上空を覆う。 日の光を見なくなって何日経つのだろうか。 クラウドは窓から伸び上がって空を眺める。
クラウドはもうすぐ12になるが、生まれてこの方一度たりともこんな不吉な雲は目にしたことがない。 ずっとこの小さな村で暮らしてきたが、どんなに天気の悪い日でも、吹雪や嵐の空でも、このような不吉な雲はなかった。 ――まるで大きな蛇がとぐろを巻いているみたいだ。 背筋が薄ら寒くなり、クラウドは己の肩を抱いた。 ごおおおおおー。 灰色の大きな蛇が吠える。 一層雲が分厚くなった。灰色が幾重にも重なり、暗へと近づいているのを感じる。 ――このままどうなるんだろう。 普通の気象状態から、この雲が起こっているのではないのは、すでに確信だ。 このまま放って置いて済む問題でもないともわかっている。 ――でも、どうしたらいいんだろうか… まだ子供でしかないクラウドには、未知に対する手段など見当さえつかない。 這いあがってくる恐怖におののいていると、戸口をたたく音がする。 耳慣れたノックのやり方にクラウドは我に返る。 「ティファっ!」 クラウドが戸に飛びつくよりも先に、外側から開いた。 飛び込んできたのは予想通り、幼なじみの少女だ。
ティファは狭いクラウドの家に飛び込んでくるとすぐ戸を閉める。 そして自らクラウドに抱きついてきた。 普段は勝ち気なその表情はしおれ、すっかりと怯えている。 ティファも感じているのだ。この雲はただ事ではなく、何かの前兆なのだと。 そしてそれはきっと最悪の忌むべきことなのだと。 ティファの黒目がちな瞳が、怯えたままクラウドに縋り付く。 「クラウド。父さんが集会場から帰ってくるまで、ここにいてもいい?」 ニブルヘイムに住む大人達は、皆集会場に集まっているのだ。 村長であるティファの父ロックハートはもちろん、クラウドの母も参加していた。 「私…家にいたら安全なんだって、父さんから言われているんだけど…――」 でも、やっぱり一人は怖くて――とこの言葉は口に出すだけでも恐ろしくて、ティファは細かく震える。 クラウドは縋り付いてくる幼なじみの背中を出来るだけ優しくあやす。 同じ年齢である二人の体格差はほとんどない。むしろ少女であるティファの方が、心も体も早熟だ。 その上弱味など滅多に見せないティファのこの様子に、クラウドは無性に力になりたいと思う。 「いいよ。ティファ、一緒に村長さんを待とう」 己自身にも満ちている恐怖心を抑えて、クラウドはティファをリビングの椅子に座らせる。 母との二人暮らしであるクラウドの家は、とても質素だ。 古い小さなテーブルに、二つだけの椅子。 家も部屋も狭いが、今はそれが幸いした。こんな狭い部屋ならばどこにいても離れないでいられる。 「スープ飲む?母さんが作っておいてくれたんだ」 まだ暖かいスープをカップにいれてティファへと差し出す。 透き通ったコンソメスープから立ち上ってくる白い湯気は、この小さな家に穏やかさをもたらす。 震えがまだ止まらないティファの両手にカップを差し出すと、彼女は祈るようにしっかりと握った。そのままカップに口をつけると、 「あったかい」 「お代わりあるよ。ゆっくり飲めばいいから」 「ありがとう、クラウド」 母の作ったスープの効果は覿面だった。ティファは少し落ち着いたようだ。 さっきまでの強い怯えは収まっている。 カップの中身をゆっくりと飲み干しながら、ティファは両足を椅子の上まで引き寄せた。椅子に座りながら出来るだけ丸い体勢をとると、意を決したように唐突に口を開く。 「クラウド、――知ってる?」 「何を?」 「大人達がどうして集会場に集まっているのか」 「あの雲のことだろ」 「そうなんだけどね――」 ティファは一度口を閉ざし、頭で整理をしてから、 「昨晩、ウチにお師匠様が来たのよ」 ティファが師匠と呼ぶのはクラウドが知る限り一人しかいない。 高名な格闘家ザンカンのことだ。
この格闘家のことをクラウドは詳しくは知らないが、ティファに格闘を教えているのは聞いている。 そもそもティファの父、村長ロックハートもザンカンの弟子だそうだ。 狭い村のこと。クラウドも年に数回村にやってくるザンカンとは幾度も顔を合わせていた。 会話をしたことも何度もあるが、クラウドの印象としてはあくまでも優しそうなおじさんでしかない。 またクラウドは格闘に興味がないために、ティファから幾度誘われても修行の様子を見に行ったことはなかったのだ。 だがそのザンカンが昨晩村にやってきたというのは気がつかなかったし、村の噂にもまだなっていなかった筈。
「いきなり来たの」 全世界に弟子を持つザンカンは、年中旅をして弟子を渡り歩き指導しているのだという。 ニブルヘイムにやってくるのは、もっと先の予定だった。 それが、 「昨日やってきたお師匠様、いつもと違ってた」 「来てすぐからお父さんと何かを話し始めて――」 二人は別室にこもると、長い時間をかけて話していた。 「お師匠様の話を聞いた父さんは、今日村の大人をみんな集めることにしたみたいなの」 「クラウド…お師匠様の話、何だったと思う?」 この時期に予定外に村にやってきて、何かの話しをした。 今思い当たるのはあの雲のことしかないが、これ以上は考えるだけでも恐ろしくて、クラウドは小さく首を横に振った。 ティファはすっかりと飲み干してしまった空のカップを両手で握りしめ、 「――闇の一族って聞いたことある?」 聞いたとたん、怖気が走る。 闇の一族。これは禁忌だ。 軽々しく口に出しては鳴らない、この世界に住む生きとし生ける物全ての暗闇。 ※※※ 今回はここまで。
|