びーこです。
どうやらY4は30万回転を越えたようです。 ありがとうございました。 これもこのような色気のないサイトに通ってきてくださいました、みなさまのおかげだと思っております。 これからもよろしくお願いいたします。
番外を読んでおとうさんに投票してくださった方もいらっしゃるようで、 とてもありがたいと思っています。 私はどちらもそれぞれ好きです。
かわいそうなツォン@おとうさん番外その2です。 肩の力を抜いて、いつものようにいろいろとスルーしてお読みください。
※※※ 天気の良いうららかな午後。ツォンはルーファウスの注文品を受け取るべく、神羅系列のデパートにいた。 思えばそれが――不幸の始まりであった。
注文品を受け取ったツォンは待たせている車に乗り込むべく、早足でメインストリートを横断していた。 ここはミッドガルでもかなりにぎやかな通りだ。車も歩行者も多い。 人混みをぬうように進んでいると、右手後方から聞きたくもない声が聞こえてくるではないか。 「おい、大仏」 ――いいや、これは私のことではない。 ――この声は私の知っている声ではない。 「おい、ツタンカーメン。聞こえんのか」 ――私の名はツォンだ。 ――大仏でもツタンカーメンでもない。 「止まらんと正宗の錆にするぞ」 これには止まるしかない。 だれが正宗の錆になどなりたいものか。 しかも単に斬られるだけではないのだと、科研の研究者が話していた。 正宗は正真正銘のあやかしなのだと。殺した相手の魂を吸い取って、更に力をつけていく妖刀なのだと。 そんな妖怪めいた刀に斬られてたまるものか。 ぎぎぎ、と音がしそうなぎこちなさで、ツォンは声の方向を向くと、そこにはやはりあの英雄がいた。
セフィロス――神羅の英雄である。 その完璧な容姿は、欠点など万に一つすらも見あたらない。 私生活は神羅によって隠されており、神秘のベールに包まれている生き神…だと一般人や神羅に所属する多くの者達はそう言うだろう。 憧憬と賞賛を込めて。 だがそれはセフィロスという個性を示す一部分にも当たらない。 数少ないセフィロスのプライベートを知るツォンからしてみれば、彼は英雄などではなく、摩訶不思議でアンビリバボー、常識外の奇人変人であった。 その奇人変人がこんな人通りの多いところで何をしているのか。 英雄見たさに人だかりが出来ているではないか。 車もセフィロスを認めると速度を落とすか、もしくは路上に停止してしまっている。交通妨害も甚だしい。 ツォンはしくしく痛みだす胃を押さえつつ、英雄の周りを囲んでいる三重の人だかりをかいくぐって、セフィロスの前までやっと到着した。 そこはミッドガルでも大手である、電気機器量販店の真ん前。 セフィロスを囲む半径1メートルほどは、ぽっかりと空いたスペースが出来ている。 あまりにもなセフィロスの美貌と圧倒的な存在感に、誰も近づけないでいるのだ。 「やっと来たかワカメ」 ワカメとは、大仏やツタンカーメンとはエラい差がある。 いつまで経ってもまともに名前を呼んでもらえないツォンは、平常心を自らに言い聞かせつつセフィロスの前に立つと、 「何かご用でしょうか?」 そもそもツォンはタークスなのだ。 タークスとは一般人におおっぴらになれない役目が多い。 そうだと知っていながらもこうやって白昼人前で堂々と呼びつけてくるこの不作法さ…ツォンには到底理解不能だ。 まあこの英雄が何を考えているのかなど気にするのは、とうの昔に放棄していたが。 セフィロスは背筋をすっと伸ばし威風堂々とした様子で両腕を組むと、 「子供の成長は早い、――」 「良いか。時間の流れは止まってはくれないのだ」 「一分一秒が惜しい」 ――ああ、彼のことだな… 現在進行形でセフィロスの頭の99%をしめる、英雄の愛おしい養子のことだ。 「俺は新しくデジタルカメラを購入しようと考えここに来たのだが――」 英雄はまるで困難なミッションを前にしたような難しい顔で、 「新機種は4種類ある」 「どれも一長一短。有り体に言ってしまえば、どれも大差ない気がする」 だが、 「肝心なのはどの機種ならばクラウドの賢さ、愛らしさ、素直さをありのままに記録することが出来るのか。この一点だけだ」 それが一番難しいのだ、とセフィロスは哲学者のよう。 「店員はあてにはならない」 「黒子、お前俺の言うとおりに動け」 今度は黒子だ。不愉快さを押さえつつツォンは忍耐をもってセフィロスに応じる。 何をどう説いても、この男には通用しないのだから。 「何をすれば良いのでしょうか」 「そこに立ってポーズをとれ」 「ここでですか!」 メインストリートのど真ん中。人だかりの興味津々な視線に晒されたままか!? 批判を込めるが、案の定セフィロスに通用するはずもなく。 「室外での撮影の出来を確かめたいのだ」 「そこに立って笑え」 「笑うのですか?」 「何度も言わせるな頭の悪い男だな。いいか、クラウドのようにきれいに笑ってみせろ」 「……」 あまりにも理不尽な要求に無言となるツォンなど、英雄は気にもとめず、 「きれいに凛としていて、その上に清潔感に溢れており、なによりも愛らしい――」 「お前ごときではそんなクラウドの役は無理だとわかっているが、この際だから贅沢はいえん。お前で我慢してやるからそんな笑顔を作ってみせろ」 と更に高いハードルを指定してくるのだ。 ――私は少年ではないのに… 英雄の溺愛する養子でもなければ、十代の少年でもない。 確かにクラウドは透明感のあるきれいな男の子だ。部下達が天使だと言う気持ちもわかる。 わかるのだが……
戸惑いと屈辱にさいなまれるツォンの心中など、英雄には関係ないことなのだろう。 セフィロスは新機種のひとつを手に取ると、立ちつくすだけのツォンに向かって構える。 「さあ、笑え」 立派な理不尽たる命令であった。 タークスとは汚い裏の仕事もやる。ツォンも奇麗事では済まない仕事も数多く手がけてきた。 だがしかし、 ――これもタークスの宿命なのか… 様々な思いを噛みしめつつ、ツォンはどうにか笑顔らしきものを作ろうとする。 強張っている上に、そもそも英雄が理想としている笑顔など、ツォンに出来る筈もなく。 セフィロスはすぐに駄目だしをする。 「駄目だ――これではクラウドの笑顔の足下にも及ばないではないか」 いや確かにツォンの笑顔は良くはないだろうが、そもそもスーツ姿の立派な大人を強引に捕まえて置いて、衆人環視の中、少年のように微笑めというのがむちゃくちゃなのだ。 もっともセフィロスは己の要求がむちゃくちゃだとは思いもよらないだろうが。 「もう一度だ。今度はポーズをつけて笑ってみろ」 セフィロスがポーズと指定してきたのは、ピースサインだった。 胃が痛む。目の奥がつーんとしてくる。 小刻みに震える手でピースサインを作りながら、自分は泣き出すのではないか、とツォンは覚悟した。 だがさすがはタークス主任。新機種全てをセフィロスが試してみるまで、ツォンはどうにか持ちこたえることに成功したのだ。 そしてセフィロスの結論は―― 「やはりクラウドを連れてくるべきだな」 「お前ごときではクラウドの代用品にもならん」 冷たく素っ気なくこれだけを言い捨てると、セフィロスは背中を向けて無駄のない優雅な足取りで去っていく。 後に残されたのは、衆人環視の中でポーズを取らされたツォン(タークスの制服であるスーツ姿のただ者ではない男)と、一連のやりとりを見守っていた見物人たちのみ。 ツォンは言いしれぬ敗北感に襲われながらも、見物人達の突き刺さってくる視線を堪えていた。 ――きっと前世が悪いのだ。 こんな目に巻き込まれるのも、セフィロスがまともに名前を呼んでくれないのも、部下達がかなり変わっているのも、直属の上司である御曹司がわがままなのも、きっと前世からの宿縁があるのだろう。 溢れそうになる涙を堪えつつ、痛む胃腸に手をやりながら、ツォンはスピリチュアルな世界へと踏み出そうとしていた。 ※※※
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