こんにちはびーこです。 同設定のお話です。クラウドがミッドガルにきてまだ日が浅い頃のこと。
*** その日セフィロスは休日であった。 義理の息子であるクラウドと共にゆっくりと過ごし、午後からは二人でミッドガルの町へと出かける。 ミッドガルのセフィロスの元へとやってきてからまだ日が浅いクラウドは、見る物聞く物全てに少年らしい好奇心を示す。 その可愛らしさにセフィロスはこみ上げてくる充足感を噛みしめていた。 夕方には勤務を終えてザックスがやってきた。ザックスはセフィロスの部下になる。 クラウドにとっては数少ないミッドガルの知人だ。 ザックスがやってきて三人はセフィロスとクラウドの家でそろって夕食をとる。 何から何まで全てクラウドの好物ばかりでしめられた夕食は、とても充実したものとなった。 そこにセフィロス宛の電話が入ってきたのが、この小さな事件の始まりだったのかも知れない。 電話は通常回線ではなく、ホットラインであった。 神羅軍のホットラインだ。これはいかにセフィロスであろうとも無視出来るものではない。 さっきまで緩んでいたセフィロスの雰囲気が一変する。 美麗な面に浮かぶのは、一言で言うならば“面倒な”であろうか。 これは副官であるザックスにとってはなじみの顔であったが、愛情溢れる義父セフィロスしか知らないクラウドにとっては、とても珍しいものである。 しかしセフィロスがどのような表情になっても、ホットラインは一向になりやまず。 セフィロスは長いため息と共にソファから立ち上がった。 このような時でさえ、あくまでも優美なセフィロスの動きを、クラウドはじっと見守る。 澄んだ青い大きな瞳は、心配でいっぱいになり義父に注がれていた。 大切な息子の憂慮を押し流すべく、セフィロスは奔放な金髪をそっと撫でながら、 「すぐに戻る。ザックスに相手をしてもらっていろ」 「――ザックス。頼むぞ」 アイ・サーとばかりにふざけて敬礼するザックスを無視して、ふっくらとした息子の頬に軽く口づけると、リビングからホットラインのある書斎へと渋々向かっていったのだ。
ホットラインでの通話はすぐには終わらなかった。 通話に長く時間がかかったのではない。単に件数が多かっただけだ。 一件目の通話は短い報告である。これはセフィロスも待っていたものであったため、スムーズにやりとりを終えると、即座に通話を切った。 すると受話器を置いたとたんに次のコールが鳴るではないか。 反射的に受話器をとったセフィロスの耳に届いてきたのは、まだ若々しい声であった。 セフィロスよりも年下でありながら、上司である少年は、神羅の御曹司である。 軍人であるセフィロスにとってはどうでも良い内容の通話に、苛立ちを覚えるが、だからといってここで一方的に切ってしまえば良いというものでもない。 忍耐を引っ張り出して、とりあえず話に耳を傾けているフリをした。 この通話は数十分に及んだ。 セフィロスのあまり豊かではない忍耐の試練はこれだけに終わらない。 御曹司からの通話が終わると、またすぐにコールが鳴ったのだ。 さしものセフィロスもこれには参った。思わず鳴り続けるホットラインに目を剥くが、いくら厳しく睨み付けたからといってコールが鳴り終わるはずもない。さっきリビングでついたのよりも長い長いため息を吐いてから、乱暴に受話器を取る。 三件目の相手は最悪なことにハイデッカーであった。直属の上司に当たるこの男は、現時点においてもっともセフィロスの不機嫌の元だ。 セフィロスの忍耐はすでに十分に切れかけている。ついに彼は忍耐が悲鳴を上げたと判断したその時点で、容赦なく通話を切った。 切った後しばらくの間ホットラインを睨んでしまったが、幸いにも今夜はこれで終わったようだ。 結局書斎に入ってから一時間近く経ってしまっている。 ――クラウドとの休日を邪魔しおって。 長い銀髪をうるさげに掻き上げた時、書斎を誰かがノックする。 開いてみるとザックスだ。 「あっと…電話終わった?」 「ああ」 「えっと…俺、そろそろ帰るわ」 「そうか…」 じゃ、と言い捨ててすごすご帰っていくザックスの様子はおかしい。 いつもならば帰れと言っても帰らない図々しさを平気で振りかざしているのに。 ――なにかあったのか!? 脳裏をよぎるのは、大切な息子のことばかり。 セフィロスは早足でリビングにとって返した。
クラウドは――いた。 定位置であるソファに座っている。 「――クラウド。待たせたな」 背後から静かに声をかけてみると、小さな肩がピクンと揺れる。 明らかに反応がおかしい。 セフィロスは注意深くクラウドの側によると、そっと小さな顔を確かめた。 クラウドはどこもかしこも小さく出来ている。顔も頭も首も肩も、手足でさえそうだ。 まだ幼いからというのもあるだろうが、同じ年頃の子供と比べてみても、全体的に華奢に出来ている。 ただ小さいだけではない。末端に至るまで精巧に造られた人形のように淡い。 もっともクラウドも男なのだから、青年期になれば自ずと逞しく成長するのだろう。 だが現時点ではひときわ逞しいセフィロスの腕にあって、その華奢な淡さは余計に目立ってしまう。 「どうした?」 優しく手を伸ばして頬を包む。 セフィロスの片手だけでクラウドの頭のほとんどは隠れてしまうのだ。 問いに少年は頼りなく首を横に振った。だがセフィロスの目はごまかされない。 少年の眼差しにははっきりとした怯えがあったのだ。 ――ザックス…アイツ何かやったな。 本来クラウドは不器用な性格だ。自分の感情を素直に表に露わにはしない。 歓びも悲しみも苦しみも、全て己の内に秘めて押さえ込んでしまうのだ。そう――恐怖や怯えでさえも。 このようにはっきりと怯えを露わにするのは、とても珍しい。 ザックスが何か怯えさせるようなことをしたに違いない。 だからこそこそと逃げ帰ったのか。と、副官に内心で罵倒しつつ、セフィロスは更に優しく息子に接する。 「クラウド――何があったのか話してくれないか?」 青い眼差しがセフィロスへと向けられて、ややあって、躊躇いながら、 「笑わない?」 聞き逃してしまいそうな小さな声だ。 「笑わない」 「ホントに?」 「俺がお前に嘘をついたことがあったか?」 少しだけ首を傾げてから、クラウドは首を横に振った。 「クラウド。俺は笑わない」 だから、 「話してくれ。ザックスと何があったんだ」 大好きな義父の一言で、クラウドの重い口がやっと動いた。
「――ザックスは悪くないんだ…」 「僕が勝手に怖がっただけで」 ザックスはクラウドにいわゆる都市伝説なるものを語ったのだと。 「手首の話だったんだ…」 クラウドは無意識のうちに身体をセフィロスにすり寄せていく。もちろんセフィロスは小さな少年の身体をしっかりと抱きしめてやった。 クラウドの語る話はとりとめがなく、順序もバラバラで内容も前後をしているために、話の本筋を掴むのは簡単ではなかったが、セフィロスは口を挟まずに最後まで耳を傾けた。 要するに、真夜中ミッドガルのある場所で手首が出現するのだという。 その手首は白い女のものであって、空中に浮いているのだと。 手首の持ち主はすでに死人。襲われて無惨に殺されてしまった女なのだと。 女はこの世を怨み手首となって現れてくるのだ。どうして手首なのかと言うと、女の死体には手首がなかったからだそうだ。 女の死体は火葬されてしまったため、唯一この世に残っている手首だけが姿を見せる――というなんとも言いようのない設定らしい。 「それで、ね…その手首を見た女の人は、三日後の同じ時間に消えてしまうんだって…」 人為的に浚われたのだとは考えられない不自然な唐突さで、まるで煙のごとく消えてしまうかのようにいなくなってしまうのだ。 そして、翌朝、 「女の人は見つかるんだけど…――その時には、」 手首は無惨にも刃物で切られているのだと。 「そのような話、俺はしらんな」 「ザックスがセフィロスは知らないだろうって言ってた」 セフィロスは神羅の支配するミッドガルにおいて、特別な人間である。 一般人ではない。出入りする場所も普通ではない。巷の話など耳にすることもあるまい。 だからセフィロスは知らないだろう、と。 「…ホントなのかなあ」 怯えるクラウドは痛ましい。 だが、すがりついてくる仕草は、素晴らしく愛らしかった。 無自覚なのだろう。いつもは恥ずかしがってしないのに、自らセフィロスの膝に乗り上げて両手でしっかりと抱きついている。 小刻みにふるえているところも、押しつけられた薄い胸から伝わってくる鼓動が激しいのも、食べてしまいたいくらいだ。 ここで、セフィロスにある考えが浮かぶ。 クラウドがここにやってきて共に暮らすようになった当初は幾度かやったが、今ではすっかりと恥ずかしがってやってくれないこと。 もう子供じゃないんだから、と言い訳をつけて、セフィロスが促しても断り続けていること。 だがこれだけ怯えていれば、やってくれるに違いない。 決心すると即実行あるのみ。誰にも与えたことがない優しい仕草で、クラウドの小さな身体に触れつつ、セフィロスはなるべくさり気ない風を装った。 そして、 「そうだな、俺は知らんが、もしかしたらあり得るのかも」 ビクン。セフィロスの腕の中で少年が震えるが一際大きくなる。 「ミッドガルは不可解な事件が多い土地柄だしな」 「だが、気にすることはない」 「女が狙われているのだろう。クラウド、お前は男の子だ。例え手首に会ったとしても怯えることはない」 こう言われて安心出来るのならば、そもそも初めから怯えたりはしない。 セフィロスの計算通り、クラウドは更に強く義父にすがりつく。 内心でほくそ笑みつつ、セフィロスは囁いた。 「まあ物事には万が一ということもあるしな」 「クラウド。今夜は一緒に眠るか?」 ぶんぶんと大きくクラウドの首が縦に振られる。 「風呂にも一緒に入るか?」 「そうだ――クラウドはもう子供ではないのだったな。一人で風呂にも入れるし、一人で眠れるのだったな」 「セフィロス――!」 「お風呂に一緒に入る!一緒に寝る!」 クラウドは泣いているような悲鳴を上げた。
ぶるぶると震える少年を抱き上げて、セフィロスはバスルームへと向かう。 最初はクラウドを怯えさせたザックスに、くだらないことを吹き込んで、と怒りさえ覚えていたが―― ――礼を言わねばならんな。 久しぶりにクラウドと共に風呂に入って、その後一緒のベッドで眠るのだ。 甘えるのに不慣れなクラウドは、こんなアクシデントでもなければ素直になってはくれない。 怯えきったクラウドは可哀想だが、たまにはこんな日もあって良いに違いないだろう。 セフィロスはそう自分に言い聞かせる。 もしクラウドの怯えがなくならないのであれば、有給でもとってずっと一緒にいればいい。 バスルームにたどり着き、脱衣のために一端クラウドから離れようとする。 「いやっ」 そのわずかな間でさえも耐えられないようだ。 必死ですがりついてくる大切な息子の様子に、セフィロスの顔は思いっきり緩んでいた。 ああ、今日はなんて素晴らしい休日なのだろう。 ***
拍手レスです。 20日17時、○タゴラスイッチな方> その通りです。私もこの歌を頭に回しながら、いろいろと妄想しています。 セフィロスが通行人になったり、お客さんになったりというのは、 とても見てみたいですね。 今日も貼り付けてみました。 良かったらお楽しみください。 コメントをありがとうございました。
拍手&♪、ありがとうございます。 嬉しいです。
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