こんにちは、びーこです。 同タイトル同設定のお話です。 ザックス登場。
*** 神羅が建設した最高級マンションは、大都会ミッドガルでもひときわ目を引くモダンな造りとなっている。 だが決して外見だけのものではない。なにせ神羅の英雄殿が住んでいるくらいなのだ。 セキュリティもミッドガル一だろう。 まず見知らぬ人間はこのマンションに出入り出来ない。 管理会社の信用ある警備員と受付事務の人間が、一年中365日ロビーに駐在しているのはもちろんのこと、住人の承認がなければそのロビーにさえ行き着けないのだ。 セキュリティも暗証番号などという生やさしいものではない。あらゆる偽装変装に対応出来るだけのシステムは、実際に神羅軍でも使われているものだった。 ザックスからすればまだるっこしいだけのセキュリティの承認を受けている間、ふと思い出してしまう。 ――そういや入隊するんだったよな。 気むずかしい上司、氷の英雄殿の心を溶かしてしまった、可愛い少年のことを。 少年の名前はクラウド。なんでそうなったのかは知らないが、ザックスの上司であるセフィロスの養子である。
ザックスはソルジャーだ。神羅が造り出した超人である。 3rdだったザックスがその功績を認められて1stにあがったのは、ソルジャーになってから半年も経たなかった頃。これはかなり破格の出世であった。 戦闘能力の高さを認められたザックスは、1stにあがってすぐセフィロスの副官となったのだ。 ソルジャーセフィロス。神羅軍の実質の司令官である。 治安維持部門には統括としてハイデッカーという人物がちゃんといるが、あくまでもハイデッカーは飾りでしかないのは、神羅軍の常識であった。 実際に作戦行動を立案して戦闘を動かしているのはソルジャーのトップであるセフィロスなのだ。 これまでも幾度か相まみえたことのあるセフィロスだが、正直ザックスはあまり好きではない。 上司としては認めよう。感情的にならずよけいなプライドだけを振りかざして戦闘に挑まないセフィロスは、ある意味理想の上司であるのだ。 セフィロスの部下となるのは、とても幸運だと思う。少なくともセフィロスの命令さえ聞いていれば、無駄な犬死にはしないのだから。 上司としては認める。が、個人的な関わりとなれば話は別だ。これがザックスの本音。 ゴンガガという田舎で育ったザックスは、戦闘スタイルもプライベートも、あくまでも陽性。自分の思いは出来る限りストレートにぶつけて、そうやって相手も知るのだ。 セフィロスはそうではなかった。どれだけザックスが己をぶつけてみても、理解出来ないどころか、理解をする入り口にも立たせてもらえないまま門前払い。 セフィロスの感情はどこまでいっても冷たく凍り付いていたのだ。 この上司にさすがのザックスも相互理解という理想は無駄なのだと投げだそうとした頃のこと、そのセフィロスが変わったのだ。 初めにおかしいと変化を感じたのは、セフィロスが残業を嫌いだしたことだろうか。 定時に出社して定時に帰宅する。もちろん予測のたたないミッションにもはっきりとは出さないが、嫌がるようになっていったのだ。 いきなりのミッションの命令に、ザックスはこの上司が初めて眉を寄せたのを見た。 それは明らかに不快な表情だった。 それまではどんな無謀なミッションの命令も無表情に受け、そのままの無表情さで感情を出さずに淡々とやり終えてきたのに。 帰宅時間だってそうだ。残業など当たり前。自宅にはほとんど帰らず、仮眠室こそがセフィロスのねぐらだったのに… ――ウソだろ!? おまけによく観察してみると、予定外に遅くなりそうな時には、必ず連絡をいれているではないか。 とすると、考えられるのはひとつだけ。 ――英雄殿に彼女でも出来たのか!? セフィロスのセックスライフなど考えたこともなかったが。 ――彼女んチに通ってんのかな? ソルジャートップたるセフィロスはあまり軽々しい行動はとれない。 彼女の安全を考えれば、そう簡単にお泊まりなど出来ないだろう。 となれば、 ――あの高級マンションに同棲とか。 ――でもわざわざ連絡するくらいだ。こりゃ相当惚れてるってコト!? ザックスが知るセフィロスという男は、他者に振り回されるなど絶対にないのだ。 いくら可愛い彼女におねだりされたとしても、セフィロス自身が納得しなければ、連絡などしないに違いない。 つまり裏返せば、セフィロスが残業の連絡をしなければと思うくらい、その彼女のことを大切に考えているというべきなのだ。 ――うわ〜。待ってくれ。 ――セフィロスが恋愛してるって!? 信じられないとしか考えられない。 しかしザックスがいくら信じられないとしても、現実にそうなのだとしたら。 ――こりゃ確かめないと。 好奇心は大いに刺激されたのだ。
それから数週間後、一見表面上はこれまでと変わりない関係を続けているザックスであったが、セフィロスの行動にはかなり目を光らせていた。 “彼女”とは順調なようで、定時退社が基本となったセフィロスは、帰りに時折お菓子なども買って帰るようになっている。 きっと彼女は甘い物が好きなのだろう。ザックスの経験上からも、女性は総じて甘い物が好きだし。 ザックスのセフィロス彼女説がますます有力になってきた時、ある事件が起こる。 それは一本の電話からだった。
いつもは律儀に定時出社してくるセフィロスが、今日はなかなかこない。なにせザックスよりも遅いのだ。 不審がっているところに電話が入る。セフィロスからの休暇申請の連絡だった。 『体調が悪い。今日は休む』 常よりもさらに機嫌が悪そうな音声ではあったが、ザックスは頭から信じていない。 ――セフィロスが体調不良だって!? そんな訳ない。絶対に、ない。 ソルジャーも強化されたとはいえ体調不良な時も確かにある。だが、セフィロスだけは別だと、ザックスはこれまでの経験上知っていたのだ。 勝負はいつも直球ストレート。ど真ん中狙いで。良くても悪くてもこれがザックスという男。 それにザックスは少々焦れていたのだ。セフィロスの秘密の“彼女”の正体を知りたくて、焦っていたのだ。 いつものミッションと同じく、ズバっと一閃切り込んでみる。 「体調不良って、あんたが調子悪いんじゃないだろ」 『――』 回線の向こうから伝わってくる気配に全神経を傾けて。 「俺、なんとなく解ってるんだ」 「セフィロス、今誰かと一緒に暮らしてるんだろ」 この瞬間、ザックスがストレートに切り込むまで、セフィロスとザックスの関係は、あくまでも仕事上のものであった。 割り切った関係であり、そこにはわずかな情もなかったのだ。 セフィロスがザックスという副官をどのように評価していたのかは、勤務評定で知っている。 だがザックスというひとつの個のパーソナリティをどう考えていたのかについては、まったくの未知数だったのだ。 だからこれはひとつの賭。 ザックスはこのときを逃さないとばかりに、さらに深く切り込んでいく。 「その誰かさんの調子が悪いんだろ」 「病気かい?医者呼んだか?」 「薬いるのか?」 一気にまくしたてた後、ザックスは相手の出方を窺う。 馬鹿な、と否定されればそれでおしまい。だが万が一うち明けてくれれば―― 『――そうか…気がついていたのか』 ザックスは賭に勝った。 自嘲なのだろうか。笑いを含んだ物言いは、ザックスにとって耳新しいもの。 これまで副官という立場では聞けなかったものだ。 『お前、病気に詳しいのか?』 「――いや、詳しいってほどじゃないけど…医者は呼んだのか?」 『医者は呼びたくはないそうだ』 まあ、いい。 『とにかく、俺は今日は休む。自宅にいる。何かあったら連絡してこい』 「わかった。上手くやっておいてやるよ」 だから、 「市販の薬の差し入れなんてどうだい?」 仕事の後セフィロスに家に訪ねていく許可を求めたザックスに、セフィロスはどう思ったのだろうか。 通常のセフィロスならば、例え部下だろうが副官だろうが、絶対に誰の手も借りなかったに違いないが、返ってきたセフィロスの答えはあっさりとしていた。 『薬のほかに病人でも口に出来そうなものをもってこい』 「了解!」 こうしてザックスは堂々とセフィロスの“彼女”と出会える許可を得たのだ。
仕事の後、ザックスは素晴らしいスピードでセフィロスの自宅へと向かった。 セフィロス本人の招きを受けて、初めて部屋へと入ってそこで目にしたのは、“彼女”ではなくて―― 大きなベッド。ダブルはあるだろう。 その真ん中に眠っているのは… (あの時のクラウド、可哀想だったけど可愛かったよなあ) 発熱によって頬の色は鮮やかな朱。時折苦しげに明ける目の色は青。 その青は潤んでおり、本来の色よりもなんとも頼りなげだ。 金髪の長い睫毛がふるえる。短く途切れる呼吸。汚れを知らない天使が苦しんでいた。 見るからに可哀想な光景であったベッドの住人はまだ子供で、しかも少年だったのだ。 いやそれだけでも相当の驚きだが、それよりも一番衝撃的だったのは、なによりセフィロスがとても心配そうに少年の世話をやいていたことだろう。 「サー…この子は?」 呆然とベッドを指すザックスの手をうるさげに弾いて、 「クラウドだ。俺の義理の息子だ」 ――義理の息子…息子!? 「養子をとったんですか?」 まさか、子供好きでもないだろうに。 「昔にとらされたんだ」 そう言いながらもザックスから差し入れを取り上げて中身を確認している。 本当に、この子供以外はどうでも良いらしい。 「一緒に暮らしてるんですか?」 ホントに!? 「ずっと離れて暮らしていたんだが、訳あって同居することになった」 「同居って…サー、子育てしてるんですか!」 思わずザックスの声が大きくなってしまった。 と、熱にうなされている少年がこちらを見る。 その時、信じられないことがザックスの目の前で起こったのだ。 セフィロスは素早くベッドに寄り添うと、少年の頬を撫でる。優しく何度も、だ。 「クラウド。すまん。うるさかったか?」 「…」 応えようと口を開く少年を制して、 「喋らなくていい。それよりも何か食べるか?」 「水分が良いか?」 「水が良いか?それともイオン飲料にするか?」 「果汁を持ってきてやろうか」 何度も何度も少年の頬と額を撫でながら、セフィロスは繰り返す。 ザックスがショック死してしまいそうな甘いとろける声と態度で、だ。 ――もう勝手にやってくれ。 セフィロスがマイホームパパになるとは想像も出来なかった。 たぶん、ザックスだけではなく、誰も想像出来なかっただろうが。 後からクラウドの病気は流行性耳下腺炎、つまりおたふく風邪だときいた。 つまり子供ならば誰しも一度はかかるポピュラーな病気だったのだ。 それでもセフィロスの心配は深いらしい。 ザックスの目の前でも構わずに、クラウドの枕元から離れない。 しきりと世話をやき、少年の体調の悪さを我がこと以上に憂う。 恐ろしいことに、こまめに尽くす英雄が、今ザックスの目の前に存在しているのだ。 ――なまじ彼女が出来たのよりもベタ惚れじゃねえか。 恋愛なんて、珍しいもんじゃない。そんなに大した意味がなくとも「好きだ」って言うことはとても簡単だ。 なにもそれはザックスだけに限ったことではない。 ミッドガルという場所は、恋愛でも純情でもなんでも手軽に出来ているのだ。 でもこの義理の親子だけは違う。 ――ホントに、もう勝手に、好きなだけ可愛がってくれ。
セフィロスの変化の原因であるクラウドの会い、ザックスの好奇心は満たされたかに思えたが、実際はそうではなかった。 そのうちにクラウド自身に関心を抱いたザックスは、この血の繋がりのない親子に積極的に関わっていく。 クラウドから神羅軍に入隊したいとの相談を最初に受けたのもザックスだった。 そして今、少年は自分自身の足で新たな世界に踏み出そうとしている。 神羅軍という場所がどれだけ困難で辛いのか、ザックスはむろん承知している。クラウドにも懇々と言って聞かせもした。 それでもいつか英雄と呼ばれる義父の隣にたつべく、クラウドは進むのだ。 この強い意志の原動力が、義父その人であるのだと、ザックスは知っている。 ――まあガンバレよ。 出来るだけの手助けはしてやろうと。 でもその前に、 ――お祝いしてやんないとな。 どんなのにしようか、と楽しく悩みながら、ザックスはセフィロスの部屋直通のインターフォンを鳴らした。 ***
17日22時、いろいろと楽しみにしてくれている方> 五つ星もSWも裏側も、どれもこれも続きが書きたいです。 で、本日は僕のおとうさんを貼り付けてみました。 お楽しみいただければ嬉しいです。 今回はコメントをありがとうございました。
|