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+ '08年04月16日(WED) ... 僕のおとうさんその3 +

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こんにちは、びーこです。
同設定のお話です。
エアリス登場。

***
送ってくれた車から転がるように駆けだしたクラウドは、まっすぐに教会へと向かっていく。
教会と言ってもすでに朽ちかけているものだ。
昔はいざ知らず、今はもう誰もここで祈りを捧げることはない。
だがそれでもやはりそこは教会だった。少なくともクラウドにとっては、特別な場所。
車の音を聞きつけたのだろう。教会の古く寂れたドアが内側から開く。
そこから現れた少女もクラウドを見て走り出していた。
少女の栗色の髪と、クラウドの金髪が寄り添う。
「エアリス!」
嬉しそうなクラウドの声を聞いてから、そっと車を出した。

およそ二ヶ月ぶりとなる義弟にエアリスは満面の笑みで出迎えた。
「エアリス!」
両手を大きく開くと、クラウドも両腕を広げてエアリスを抱きしめてくれる。
――ホント、大きくなったネ。
「クラウド。ひさしぶり」
「うん。本当に久しぶりだ」
二ヶ月ぶりのクラウドの背はまた伸びている。
ほんの数年前までは、エアリスの方がずっと背が高かったのに、すっかりと抜かされてしまった。
こうして抱きしめてみるとその成長ぶりは顕著だ。
一つ年下の義弟は、淡雪の化身のように、儚い骨格をしていた。
女の子であるエアリスよりもずっと華奢で壊れ物のような繊細な子供だったのだ。
男の子よりも女の子の方が成長が早いと言うが、クラウドの成長は標準の男の子よりもゆっくりだったらしい。
引き離された10歳を過ぎてから、クラウドは緩やかに成長していく。
もう男の子ではない。少年だ。しかも少年という殻を鮮やかに脱ぎ捨てて、青年へと羽化しようとしている。
女であるエアリスには、その成長過程は眩しいほどだ。
だからもっと頻繁にクラウドと会い、その成長を眺めていきたいというのに、同じミッドガルに暮らしながらも、なかなか会えないのは神羅軍に入隊が決まったクラウドが忙しいだけではないのなんてエアリスにはお見通し。
――心狭いよネ。
クラウドに気取られないように、静かに離れていく車に向かって、エアリスは心中舌を出す。
――もう立派な“お義父さん”なんだから、ちょっとぐらいクラウドを貸してくれてもいいのにネ。
毎日毎日一緒に暮らしているというのに、ちょっとの時間さえ離したくないなんて。
――でもセフィロス、子供好きなんて、意外すぎだヨ。
――違う。
子供好きなじゃない。
――クラウド、だから好きなんだよネ。
現にエアリスもまだセフィロスの義理の娘なのだが、彼はこの娘には放置のままだ。
無関心などころか、この頃はクラウドを挟んだ邪魔者扱い。
今一番エアリスの存在を嫌うのは、セフィロスだろう。
こうやって久しぶりに出会った姉弟の抱擁でさえ、実は蹴散らしてやりたいのに決まっている。
それでも、
――わたし、ずっとクラウドのお姉さんなんだから。
これだけは譲れない。エアリスとクラウドを繋ぐ大切な絆。
絆がある以上、弟を好きなだけ抱きしめる特権は許されるべきだろう。
自分より少し背が高くなった義弟を抱きしめるのは、本当に心地よい。
以前のような儚さではなく、青年への成長途上の最中にあるクラウドの骨格は、しなやかで伸びやかだ。
弱々しくはない。むしろ無限の可能性目指して一途に向かっている様は、強いと例えるべきなのだろう。
それでいてごつごつと硬くないから、こうやって抱き合っていても心地よいだけ。
ぎゅっと両腕に力をいれてみる。返ってくるのは薄いがしっかりとついてきている筋肉の弾力だ。
「――エアリス?どうしたの?」
ずっと抱きしめたまま離さないで、しかも力をどんどん込めてくる姉に、クラウドは不思議そう。
そんなクラウドの素直な反応に安堵する。
クラウドは変わらない。
二人きりで暮らしていたあの幼い頃から、ちっとも変わっていない。
――セフィロスの悪い影響、受けなくて良かった。
なんて考えて、クスクス忍び笑いしながら、エアリスはやっと手を放す。
ちょっとだけ高い位置になった義弟を見上げて、
「中に入って。一緒にご飯、食べましょ」
ここはまだ細い手首を引っ張って、エアリスはクラウドを教会へと招き入れた。

戸籍上は違うものの、現在エアリスの母代わりとなってくれているエルミナは不在であった。
だがエルミナが用意しておいてくれた心づくしの料理は、どれもクラウドの好物ばかり。
ほっそりした外見と違い大食漢なクラウドは、用意されている食事に目を輝かせた。
大好きなエアリスに美味しい食事。クラウドの年頃の少年にとっては天国そのものだ。
ひっきりないエアリスのおしゃべりにあわせて食事を楽しんでいると、時間などすぐに過ぎていく。
夕方五時の時報を時計が知らせると、ハッとクラウドの身体が強張った。
「どしたの?」
「――そろそろ帰らないと…」
え!?
「今日はお泊まりじゃなかったの?」
「……ちょっと泊まるのは駄目なんだ」
言いにくそうなクラウドにエアリスは悟る。
「セフィロスだネ」
「違うよ!ほらオレ、もうすぐ入隊だから忙しくって…」
必死で不器用な言い訳を取り繕おうとするクラウドをエアリスは黙殺する。
――イヤな奴。イヤな奴。イヤな奴。
クラウドが手元を離れるからって、エアリスとの時間まで邪魔するなんて。
――入隊って言っても、セフィロスも同じ軍人じゃない!
――寂しがってどうするのヨ!
その気になればクラウドが今何をしているのか、セフィロスの特権ならばすぐに解るだろうに。
寮に入るといえども、週末は休みだという。クラウドのことだ。毎週末はセフィロスの元に戻るのだろう。
これまでだって共に暮らしているといえども、ミッションが入ると一、二週間家に帰ってこないのはザラだったはずだ。
だったらクラウドが入寮しても大差ないだろうに。
――ああ!やっぱり、セフィロス嫌い!
見る見るうちに機嫌が悪くなったエアリスに、クラウドは顔色をなくす。
何度か口を開くが、ただでさえ弁が立たないクラウドは、どう言って良いのかも解らずに、口を閉じて見守るしか出来ない。
「エアリス…――」
それでもどうにかして姉の機嫌をとろうとした時、エアリスの緑の眼差しがクラウドに向けられる。
「クラウド!」
「駄目だヨ」
「…?」
「セフィロスをこれ以上甘やかすのは駄目!」
何を言われたのか解らず、青い目を丸くしたクラウドだったが、しばらくしてから、
「誤解だ。オレ、甘やかしてなんかない」
「セフィロスがオレを甘えさせてくれてるんだ」
「それ、違うヨ!」
逆よ。逆。
「セフィロスが甘えてる!」
「セフィロス、子供じゃないんだから、駄目なことは駄目っていわなきゃいけないんだヨ」
姉の言葉にクラウドは静かに首を横に振った。
「やっぱり違うんだ、エアリス」
「本当にセフィロスがオレを甘えさせてくれてるんだ」
だって、
「オレが何も言えなくても、どう言えば解らない時も…――」
「セフィロスはいつもオレの側にいてくれている」
「オレを一番に考えてくれている」
「今日だって…」
「オレ、迷ってたんだ」
エアリスのは会いたかったけど、その時間分だけセフィロスと共にいられないのは、やはり寂しかった。
でもそれは欲張りなわがままだと解っているから、口には出さなかったのに。
「セフィロスは解ってくれた」
(送り迎えをしてやろう)
(俺のところに帰ってこい)
「そう言われて、すごく嬉しかった…」
「クラウド…――」
「ごめん、エアリス。オレ今日は帰る。また来るから」
「……そうね…――また来てね。待ってるヨ」
――わたしたち、姉弟なんだから。

通りに出るとすでにセフィロスの車が待ちかまえていた。
エアリスと顔を合わせて挨拶をしなくても良いだけの、ちょっと離れた微妙な場所で。
エアリスに別れを告げたクラウドが、車に向かって走っていく。
運転席から長身の男が慌てて出てくるのが見えた。
遠目であるエアリスからも解るくらいに、セフィロスは慌てている。長い銀髪が揺れて、クラウドはぶつかるようにして、セフィロスに抱き留められていた。
そんな二人を見つめながら、エアリスは思う。
――解ってるのかナ、クラウドは。
短いが情熱的な抱擁の後、セフィロスがクラウドを助手席に押し込める。
その行動からも早く二人きりになりたいという意図が丸見えだ。
――クラウド。そういうのって恋なんだヨ。
幼い幼いとばかり思っていた義弟は、どうやら無自覚な恋に落ちているようだ。
しかも相手があのセフィロスだなんて。
――ま、もっとも、セフィロス相手ならばクラウドの片想いにはならないだろうけど。
助手席の窓越しにクラウドが手を振ってくる。
エアリスも小さく振り返してやった。
――だってどう考えても、セフィロスの方がクラウドにヤられてるもんネ。
恋は愛が強い方が負けと言うが。――さてこの二人はどうなるのだろうか。
走り去っていく車に向かって、エアリスはもう一度だけ手を振った。
***
拍手&♪ありがとうございます。
読んでくださってるんだなあとわかり、嬉しいです。


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