先週金曜日からの続きです。
*** 暫くの間、沈黙が続く。 ルーファウスとクラウドは真っ向から睨み合ったまま、どちらも退かない。 緊張を破ったのはザックスだった。 「もうイイじゃねえか、ルーファウス」 「余分なカッコつけんのは、いい加減ヤメろよな」 いかに対なる者とはいえ、大梵天に対して酷い物言いだ。 だがこれが相容れない対であるルーファウスとザックスの日常会話である。 それでもやはり粗野な無礼は不愉快なのか、ルーファウスはむっつりと押し黙ってしまう。 代わりに問答ではなく、話を進めるのはザックスの役目となった。 「クラウド――俺ら神王には約束事があるんだ」 それはとても重要で絶対の不文律。 ザックスは気軽に“約束事”などと言ったが、その実はもっと重々しい意味を孕んでいる。 もし、神王がこの不文律を破れば、彼らは消滅してしまうのだから。 「まあその約束事ってのはいくつかあるんだが、そのうちのひとつがコレだ」 「“普遍の真理を解き導け”」 クラウドの表情が動く。 いぶかしげな表情はそれでも清らかだ。 全く――悪神だと誰が言ったのか。 「…普遍の真理を、解いて導くのか……?」 それはつまり、現在の段階では解くことも導くことも出来ていないというのとなのか?とクラウドが言葉として発する前に、続きを繋いだのはルーファウスだ。 「その通り――」 「つまり我々兜率天はお前が求める“普遍の真理”をまだ手に入れてはいないのだ」 「そして我々では、“普遍の真理”がこれなのだとは、明確にして指し示すことは出来ない」 ただし、 「我々は普遍の真理を解く方法も、導く者も知ってはいる」 「それは誰だ!」 「仏陀〜最高位の悟りを開いた者〜と呼ばれる者だよ」 「だが彼はまだこの世にはいない」 「時が満ちれば、人間界に産まれる予定となっている」 「人間界――?天部ではないのか?」 その通り。 「仏陀は天部には現れない」 「非天にも現れない。そして神王たる我々も仏陀とはならない」 兜率天には現れないのだ。 仏陀は仏陀として現れるのではなく、単なる人の子として誕生する。 そして彼は長じるに従い己の仏陀たる本性に目覚めていく。 最終的には完璧なる悟りを覚醒し、普遍の真理を森羅万象に示す。 そうやって彼自身の力で兜率天に辿り着くのだ。 「阿修羅王よ、お前が求める答えはその者が与えるであろう」 大梵天でも帝釈天でもなく、仏陀こそがクラウドの求める答えを与えられる唯一なのだ。 「その者の誕生はすぐに迫ってきている」 「阿修羅王よ――答えが知りたいのならば、今しばし待つがいい」 安易に与えられるような、普遍の真理とはそんな簡単なものではないのだ。 いくつもの計画を積み重ね、一見無関係とも言える様々な事象を引き起こす。 そうやって数多なる因果律の糸を寄り合わせていって、やっと世界は仏陀たる者を得ることが出来る。 ルーファウスはそう言っているのだ。
*** ここまで。
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