続きです。
*** 「王子よ――」 「人は虫ではない」 「牛でも豚でもない」 「果実でもなければ花でもない」 「それでも同じように生きて死ぬ」 「それは、何故だと思う?」 「――…それは、生きているからだ」 「どれも皆、生き物だからだ」 セフィロスの答えをクラウドは是とも否とも言わない。 「オレは非天だ」 「オレには人のような寿命はない」 「だが死ぬ。病ではなくとも、大きな傷を受ければ死ぬのだ」 「天部もそうだ。奴等にも死はある」 ――解るか?王子。 「天――つまり神も死ぬのだ」 「何者であろうとも、死とは無縁ではいられない」 虫や動物や植物や人よりは、死と遠いところにあっても、それでも死はある。 「王子。いつかはこの世も死ぬ」 この世の死。それは一切の滅を意味する。 「おもしろいものを見せてやろう」 クラウドは左手の人差し指と中指を揃えると、セフィロスの額に置く。 腕釧が揺れてカランと澄んだ音を立てた。 ――この腕釧は… あの時拾って身につけている腕釧と同じ物だ。 ――そうか。クラウドの腕釧だったんだな。 黄金の細い腕釧。きっとクラウドがセフィロスに与えたのだろう。 カラン。クラウドのと同じ音を、セフィロスの手首にある腕釧が立てる。 腕釧の澄んだ音が余韻を響かせる時、セフィロスの目の前に別の景色が現れる。 いつもの乳白色の霞はかき消えて、セフィロスは大きく壮麗な寺院の前にたっていた。 驚き呆然とするセフィロスを後目に、クラウドは寺院の奥へと進んでいく。 慌ててセフィロスも後を追いかけた。 「クラウド――ここはどこだ」 「ベナレス…ではわからんな。お前達が言うところのヴァナラシにある、世界の中心に通じる寺院だ」 セフィロスは知識の地図を詳細してみる。 ヴァナラシとは大河のほとりにある聖地だ。 そこに神の住みともう兜率天に通じる寺院があるのだという。 その寺院は天地創造の時に神が降臨されたとか。 釈迦族の建てる寺院とはどこか違う内部を、クラウドは奥へ更に奥へと進んでいく。 人影はどこにもない。寺院につきものである祈りを捧げる人々もいなければ、寺院に生きる僧侶の姿もない。 寺院の一番奥で、クラウドは止まった。 だが目的地はここではない。 「王子――潜るぞ」 何?――と意味を尋ねようとするよりも前に、セフィロスの身体が沈んでいく。 硬い大理石の床石に沈み、床石を通り抜け地面へと。 それだけでは終わらない。地面をも通り抜けて岩盤へと。岩盤も通り抜けて、地球の中心に至るマントルへと。 痛みを伴う眩しい熱に、セフィロスは顔を両手で覆ってしまう。 己の身体が魂ごと焼き切れると覚悟した時、クラウドの声がする。 「目を開けてみろ」 ゆっくりと目を開けるとそこは神秘の異界であった。 果ては見えない、海か湖か、とにかく広大な水だけの世界が途方もなく広がっている。 生きているものの気配は感じ取れなかった。 その世界の中心であろう場所に、巨大な三本の柱がそびえている。 柱は見る限り三本とも同じ物だ。金剛石だろうか。磨き抜かれた輝きを放つ柱は、同じ大きさのものが、同じ間隔でならんでいる。 ただ同じでないのは、柱に突き刺さっている純金であろう巨大な円盤だ。 巨大な円盤には中央に孔が空いており、金剛石の柱に突き刺さるようになっている。 もっとよく観察してみると円盤は同じものではなく、大きいものもあれば小さな大きさのものもあり、同じ大きさのものはないようであった。 円盤は三本の柱にそれぞれ別の数だけ刺さっているが、どれもより大きな円盤が下に、それよりも小さな円盤が上に置かれてある。 「ほら、動くぞ」 中央の柱に刺さっていた円盤が動いていく。 上へと持ち上がり中央の柱から抜け出て、セフィロスから向かって右の柱へと移動していき、そして自ら刺さっていった。 「…!」 不可思議な光景にセフィロスは言葉も出ない。 「これはブラフマーの塔と呼ばれているものだ」 ブラフマーとはヒンドゥ三神の最高神。破壊と創造の神。 「王子が住む世界の創造神がこれを作ったのだ」 創造神はこの三本の円柱の一本に64枚の黄金の円盤を差し込んだ。 円盤は一番大きなものが下。一番小さなものが上とされ、これを法則とした。 「これは時を計るものだ」 「円盤は常に大きなものの上に小さなものを重ねることになっている」 「必ず一枚づつ動かさなければならない」 これはパズルだ。気の遠くなるようなパズル。 「創造神が一番左端の円柱に差し込んだ64枚の円盤を、法則に従って、全てを右端の円柱に移し替えられたその時――」 「――この世は滅する」 つまりこれは、滅亡への時を計る時計。
*** 今週はここでおしまいです。 続きは来週。
♪、拍手、ありがとうございます。
|