続きです。
*** 肩に置いた手に力がこもったのだろう。 クラウドが気を肩に逸らそうとしたのを、セフィロスは許さなかった。 「俺は足りぬと申すのだな」 いぶかしげに金色の眉が顰められる。 「俺はお前と話すのに、どこが足りぬのだ!」 「それは学べば足りるようになるのか」 ――教えてくれ。 「何を学べば良いのだ」 「クラウド――俺は俺が足りぬものを、お前から学びたい」 「――王子…!?」 セフィロスのいきなりの言動に、クラウドはあからさまに怪訝な表情となった。 初めてクラウドが晒す、感情が浮かび上がった表情に、セフィロスは惹きつけられてしまう。 人形めいた硬質な顔立ちが、途方に暮れたようなあどけない表情へと一気に変化するのを目の当たりにするのは、とても心地よい。 ここでセフィロスは手を緩めなかった。 もう一方の手も肩に置き、両肩を揺するようにして、更に言葉を重ねていく。 「俺を学ばせてくれ」 「俺の虚無を払ってくれ」 ――その方法を、クラウドならば絶対に知っているに違いない。 セフィロスの剣幕に押されたのか、クラウドは小さく頷いた。 「わ、わかった――」 元よりルーファウスから依頼を受けているのだ。 クラウドとて簡単にセフィロスとの邂逅を放棄するつもりはない。 ただこのように虚無だらけの男が仏陀になるのは有り得ないと感じ、もう暫く時を置いてから再び夢に会いにくれば良いと判断しただけだったのだ。 人ではない寿命のないクラウドには、時間の流れはあまり意味を成さない。 時間が経つという残酷さも、時が流れ自然に物事が解きほぐされていくという優しさも、クラウドには縁のないこと。 セフィロス自身が会いたいというのならば、クラウドに異存はない。 「わかった。お前が学べるように夢に通ってこよう」 「約定とするぞ。違えるな」 セフィロスは尚も言い募る。 どこか必死ともとれる行動の真意は判じかねるが、それでもルーファウスの言うとおり、この男は仏陀となるやも知れぬとクラウドは本能的に察知する。 セフィロスの一言一言はとても重い。深く心の奥まで染み入ってくる。 それがどんなに詰まらないものであろうと、他者を従わせてしまう格がある。 セフィロスが殊更威圧的というのではない。彼はむしろ感情の見えない口調だ。 それでも非天であり、大梵天ルーファウスを前にしても動じなかったクラウドが、たかが人でしかないセフィロスの言葉を当たり前のように受け入れるべきだと、高い優先順位を自然に与えているのだ。 ――この男、確かに王の器だ。 必ずしも人の世の王と同じ意味ではないが、この男ならば天輪王にも聖王にもなれるだろう。
*** 微妙にマゾりつつ、今日はここまで。
|