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+ '08年03月10日(MON) ... ブッダという真理その14 +

金曜日からの続きです。

***
ふと誰かが呼ぶ声がする――ような気がした。
セフィロスは目を開ける。
目はしっかりと開いたが、見渡せる空間にはまるで靄が掛かっているようだ。
はっきりとした形になるものは、何も見えない。
おまけに天と地と、つまり上下感覚が感じられないのだ。
今自分が立っている地面の感覚さえない。浮いているのか、それともどこかしっかりとした土地の上に立っているのか。
高い場所にいるのか。低い所にいるのか。
三半規管は狂っており、それすらも不明だ。
乳白色の靄ばかりの空間で、セフィロスはただ立っているのだ。
――ここは?
――俺は夢を見ているのか…
足を一歩、無意識の儘に踏み出そうとした時、カラン、手首の腕釧が音を立てる。
それは小さな音であったのにも関わらず、靄の中に響き渡った。
すると、世界が変わった。
不意にセフィロスの目の前に人が現れる。
上からやってきたのか。下からやってきたのか。前方か、後方か、それとももっと別の場所からやってきたのか。
目の前に現れたのだというのに、セフィロスは何も見なかった。
いきなり彼が出現したのだとしか、セフィロスには思えない。
彼――そう現れた人物は男だった。しかもかなり年若い男だ。大人になりきれていない柔らかなラインは少年期特有のものだった。
少なくともセフィロスよりは10は下だろう。
見慣れない金色の髪と、これまた見たことのない青い瞳と透き通るような肌と。
繊細さと硬質さがアンバランスに同居した容姿は、セフィロスの周りにはいなかった人種だった。
セフィロスよりも小柄な少年は、その青い瞳をひたりと向けてくる。
そうやって少年はじっとセフィロスを観察しているようだ。
やがて、少年の口が開く。薄桃色の唇は処女のように清浄に映るが、出てきたのは少年の甲高いものではなく、しっかりと落ち着いた声であった。
どうやら見た目よりは年上らしい。
「お前がセフィロスか――?」
「釈迦族の王子。父王は浄飯王。母は正妃摩耶」
少年、いや、彼は非人間的なほどに美麗すぎるセフィロスを目の当たりにしても、いささかの心の動きもないようだ。
淡々と落ち着いた音声で問いかけてくる。
セフィロスは無論彼とは初対面であるが、王子という育ち故に、これまでも他者が一方的に自分の存在を認知しているというのはよくあることだった。
だからいきなりこう問われても、疑問に感じることはない。
王子らしく鷹揚に頷いてみせると、
「お前は何者だ?」
見たところ釈迦族の者ではない。
近隣諸国の者でもない。
目と髪の色は混血もある為一概には言えないが、何より生まれてから一度も強い陽差しに晒されたことのないような肌は、あまりにも違いすぎていた。
少なくとも彼は強い陽差しのない国の者としか考えられないが――それにしても何故こんな所にいて、セフィロスの目の前にいるのか、胸騒ぎがしてならない。
「オレはクラウド――」
「クラウド…異国人か?」
彼、クラウドは奔放に跳ねた短い髪を軽く揺らす。
「そうだな…お前からすれば、オレは異国人になる」
含みがある答えであったが、セフィロスは詳しくは聞かなかった。
何となくではあるが、聞いても解らないだろうとの予感がしたのだ。
少なくとも今は、彼は異国人である、とこれだけで充分だろう。
セフィロスは周囲をゆっくりと見渡してから、クラウドと名乗った異国人を見つめた。
「ここはどこだ」
「夢だ」
「夢――?」
ならば、
「これはただの夢なのか?」
「クラウド。お前とこうして対面しているのも、夢の中の出来事なのか…」
それにしてはやけにリアルではないのか。
「…信じられん」
セフィロスは長い腕を伸ばすと、クラウドの肩に触れる。
一見華奢のように見えるが、こうして触れてみるとクラウドの身体は相当鍛錬されているのだと解った。
張りつめた筋肉がしなやかに伝わってくる。
つまりセフィロスは触感がわかるのだ。夢だというのに。
「本当に夢なのか?」
「そうだ。これは夢だ――」
だが、
「お前がこれまで見てきた夢とは違っているがな」
「…?」
「これはお前が見ている夢ではない」
「オレがお前の夢を利用して作った世界だ」
クラウドの語る意味が正確に理解出来たのではない。
ただこの夢はクラウドが作ったものなのだと、それだけ朧気に理解する。
だがそうならば、次の疑問が湧いてくるのは必定。
「何故そんなことをした?」
クラウドの答えは簡潔であった。
「お前に会う為に」
「俺に――?」
「もちろん、お前の顔を見るだけで良いというものではないがな」
それはつまり、
「俺に何か用があるのだな」
そうだ――とクラウドは頷きながら、未だ自分の肩に置かれたままとなっている、セフィロスの大きな手に自分のを重ねた。
「そうだ――オレはお前と話しをしにやってきたのだが――」
「今のままでは、話にもならんようだ」
「!?」
話にならないとは、どういう意味だ?
口を開こうとするセフィロスを、クラウドは微苦笑で押しとどめる。
「虚無が大きすぎる」
――王子よ。
「お前は自分が何者であるのか、まだ全く理解していないのだ」
「理解出来ていない相手とは、話にもなるまい」
それはある意味、セフィロスを否定する言葉であった。
今のお前では話すらも出来ない。
クラウドははっきりこうセフィロスに突き付けている。
これまで天才だと貴い王子であると、容姿から才能まで常に崇め奉られてきたセフィロスにとって、己の全否定に遭遇するのは初めての経験であった。
しかもクラウドに悪意などない。
彼はむしろ淡々と事実を述べているに過ぎないのだ。
――クラウド…
事実を現実だとあっさりと言ってのける、小柄な少年の形をした者の内側に潜む清冽さに、セフィロスは目眩すら覚えた。
この目眩の根源は――感動だ。
セフィロスはクラウドの、己を切って捨てた言葉に、感動している。

***
ここまで。

びーこ 本日11時、叫び逃げの方>

仰るとおりです。貴女は正しい。
マゾってます。
明日はもっと(精神的に)マゾってます。
03/10(MON)16:12:47  [226-1971]


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