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+ '08年03月07日(FRI) ... ブッダという真理その13 +

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続きです。

***
父王の期待を一身に集めたセフィロスは、雨期と乾期それぞれ別に静養出来る二つの専用の離宮を与えられ、文武共に最高の教育を施される。
セフィロスは賢く美しく、そして武にも優れた立派な王子に成長。
16の歳に妻を娶った。
傍目から見れば、どこも欠けたるところがないように思えるセフィロスだが、その実彼には払っても払いきれない深い懊悩がある。
それは底知れぬ――虚無。
才能に秀で何物にも恵まれすぎてきたセフィロスは、自分で何かを成したいとか、何かが欲しいとか、そんな些細な願望さえ持つこともなく、全てが叶えられてきたのだ。
いつでも何の不足もないのが常である。
それが物であるのならばまだ良かった。
あらゆる武術。知恵。努力しても得られないという悔しさ。
それすらもセフィロスにはなかったのだ。
セフィロスは何でも最初から上手く出来た。そして完璧にやり遂げてしまう。
彼は手を伸ばして何かを欲するという経験がない。
手をだすだけで、物も金も名誉も才能でさえも、セフィロスの掌に簡単に乗ってしまう。
まるで神のようだと讃えられても、セフィロスは何も感じない。
何故ならば何でも出来るのが持てるのが当たり前の状態なのだから。
そうしてやってくるのは虚無。
そう、セフィロスは生きることに退屈しきっていたのだ。
正妃を娶り後継たる男子を成してからは尚更のこと、セフィロスは退屈で退屈でたまらない。
生きていることに意味どころか、楽しくもないのだ。
虚しくて詰まらなくて仕方がない。

美しい王子の寵愛を得たいのか、それとも単にセフィロスに恋したのか。
一夜の女は己の豊満な肢体をセフィロスに押しつけてくる。
大きく膨らんだ乳房が、硬い胸板に押しつけられて形を変えた。
男の欲望を煽る手管さえも、セフィロスに何の感慨もない。
すでに女との閨房でさえ、セフィロスにとっては暇つぶしにもならないのだから。
強引に押しつけてくる肌の感触がうるさくて、セフィロスは軽く腕を払う。
暴力を振るったのではないが、あまりにも素っ気ないその仕草に、女の動きは止まった。
宝玉のような翠の瞳は、女を見ず、ずっと遠くにある雪山へと注がれている。
動きが止まった女を無視して、セフィロスは寝台から起きあがった。
いや、無視したのではない。腕を払った時点で、すでに女の存在はセフィロスから抹消されただけ。
全裸で窓際へと向かうセフィロスに、召使いがススっと近寄ってくる。
王子の為に丹誠込めて織られた絹を両腕高く捧げ、召使いは這い蹲った。
この絹一枚だけでも、カースト底辺にいる者ならば、家族が一年は豊かに暮らしていけるだろう。
それ程までに王子は大切にされているのだ。
だがセフィロスはそのような価値には、関心がない。何故ならばそれが当然だから。
彼は自分の有する美貌にも、無関心なのだ。
物心つくより前から、多くの召使いに傅かれてきたセフィロスは、常識としての羞恥心というものがない。自分の裸体を見られても、どうとも感じないのだ。無造作に絹を取ると腰に巻き付ける。
その間に他の召使いが、寝台から女を引きずり下ろし始めた。
微々たる抵抗をする女が起こす僅かに争う喧噪でさえも、すでにセフィロスの耳には届いていない。
王子はずっと雪山を見つめている。
ヒマヴァットは天高く頂きは雲海の彼方にあり、肉眼で捉えることは出来ない。
このヒマヴァットは、セフィロスが生まれる遙かに昔から、ずっとこうしてそびえ立っているのである。
意志の疎通が出来るのならば、セフィロスはこの雄大なる雪山と言葉が交わしてみたかった。
――何故に、人は生きるのだ。
こんな退屈な人生というものを、どうやらセフィロス以外の者は、それなりに充実させて送っているらしい。
セフィロスがこのことに気が付いたのは、自分の成長に手放しで歓ぶ父王を見てからだった。
釈迦族の国カピラヴァスツは、決して大国ではない。
両隣を二大強国コーサラとマガタとに挟まれており、いつ何時攻め入ってこられるか不安定な状況にある。
父王はこの状況を理解していながら、それでもセフィロスの成長に笑う。
セフィロスの為に金を注ぎ込んでくる。
セフィロスに贅を尽くしても、カピラヴァスツが強国になるというのでもなく、またコーサラとマガタからの危機が無くなるというのでもないのに。
――不思議だ…
――何故こんなに歓ぶのだ。
疑問を秘めつつ周囲を観察してみると、身分のあるクシャトリア達ばかりではなく、召使い達カーストの低い者でさえも、苦しいならば苦しいなりに、辛いのならば辛いなりに、生きるという現実を充実させて生きているではないか。
つまり――セフィロスだけなのだ。
これ程までに生に対して執着していないのは。
そうだと理解した瞬間から、セフィロスは虚無の虜となったまま。
雪山を見上げていたセフィロスが、暫くしてから振り向くと、すでに女は影も形もなくなっており、寝台はきれいに清められていた。女の痕跡すらなくなっている。
身体が適度な睡眠を求め始めていることに気が付いたセフィロスは、清潔な寝台に潜り込もうと足を踏み出した。
カラン――足が何かを蹴った。
視線を向けてみるとそれは細い黄金の腕釧ではないか。
セフィロスの視界に入らないようにと注意深く控えていた召使いが、慌てて飛んできて、セフィロスよりも早く腕釧を拾い上げようとする。
が、身振りでそれを止めさせると、セフィロスは自ら屈んで腕釧を手に取る。
一見シンプルにうつるが、こうして手にとって観察してみると、この腕釧がかなり端正に作られていることがわかる。
透かし彫りとなっている部分が波のようにうねり、腕釧の周囲を一周していた。
女が身につける意匠ではない。これは男のものだ。
ただし男がつけるにしては、腕釧のサイズは細かったが。
当然、セフィロスのものでもない。
芸術や美術にも関心がなく、無論装飾品にも価値など感じなかったセフィロスだが、不思議とこの腕釧には興味を惹かれる。
このまま手放してしまうには、惜しいような気がする。
セフィロスは黄金の腕釧を己の手首に通す。腕釧のサイズが細い為、通らないかとも過ぎったが、入れてみると素直にセフィロスの手首に収まった。
ただしやはりあまりゆとりはなく、手首にピッタリと寄り添うようだ。
自分の手首に見慣れない上にサイズの合わない腕釧が填っている。この様子は何故かしらセフィロスに満足感を与えるのだ。
指先で叩くと、腕釧はカランと澄んだ小さな音を立てる。
久しぶりに満足した気持ちを保ちながら、セフィロスは腕釧を付けたまま、寝台に潜った。

***
次回やっとセフィロスとクラウドが出会います。


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