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+ '08年03月19日(WED) ... 五星落涙 +

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メモにて連載していましたFSSパロのサイトアップ開始しました。
気がついたら3月更新してないじゃないの!!
と申し訳ない気持ちです。
メモ連載があるとどうも油断してしまうようです。
ぶったも無事完了しましたし、そろそろB子さんも連載の方の続きに取りかかってくれんじゃないかと思ったりしています。


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+ '08年03月18日(TUE) ... ブッダという真理その19〜ラスト +

data/no.gif (x..kb)

ラストです。
このメモではハードなシーンはございませんので、
安心してお読みください。

***
暫くの間、この笑いは続いた。
涙まで滲み、腹筋までもが痛くなってきて、ようやく笑いは静まってきた。
いつの間にか二人の距離はかなり近くになっていた。
顔と顔が、やけにくっついている。
クラウドの瞳の青とセフィロスの翠が、見事に合わさった時、ごく自然でさりげない動作でセフィロスの大きく美しい手が、小さく尖ったクラウドの顎に掛かった。
目はどちらも閉じない。呼気、ひとつ分ほどの短い間、非天と人二人の唇が合わせられる。
触れ合って、離れて、再び触れ合って。
どうして?とはどちらも問わない。
蜜蜂が蜜を吸うように、セフィロスはクラウドの薄紅色の唇の合わせ目に吸い付く。
元より半裸の二人。触れ合うのは容易い。
クラウドは武人としての興味もあり、逞しくも完璧な造形美を持つセフィロスに触れていった。
掌で何度も何度もシルエットをなぞるようにしていると、セフィロスが金色の髪の間をぬって、少し尖った耳までしゃぶってきた。
「クラウド――」
しゃぶりながらクラウドの名を吹き込んでくる。
「お前、妻はいるのか」
「いいや…いないが」
「子はいるのか」
「養い子はいる」
こうして会話をしている間にも、二人の手は止まらない。
仰向けに横たわるクラウドの上に、逞しいセフィロスが乗り上がってくる。
これは愛撫と呼ばれるだけのものなのだろうか。セフィロスは額の生え際から順々に下へと、クラウドを舐め回している。
額が終わると眉を。次は目を。青い眼球までもそっと口づける。
つんと尖った鼻の頭を軽く噛むと、次は舌全体で頬を舐め回す。
唇の輪郭線を辿り口内へと。顎、首、喉仏も軽く噛まれた。
肩までいくと、腕を一本一本とられて、指先から腋の下まで。
小指の先ほどの大きさもない小さな乳首を、懸命に吸ってくる。まるで乳を求める赤子のように。
「養い子は男か女か」
「女だ」
「名は」
「舎脂――」
いや、これは阿修羅族の外での呼び名だ。
彼女が生みの母から贈られたのは、
「エアリスと言う」
神王と非天という立場の違いを越えながら、友好関係を結んでいるクラウドとザックスであるが、二人の関係が上手くいっているのには、エアリスの存在も大きい。
どうやらザックスはエアリスに並々ならぬ想いを抱いているらしく、養父であるクラウドとしては、見守るしかないというのが現状なのだ。
そんなことを考えている間にも、セフィロスは行為を進めていく。
背中を舐められた後、裳を解かれた。薄い下着も一緒にとられてしまい、クラウドは身につけている装飾品以外生まれたての裸となる。
人の交わりと天族との交わりは似ているようでやはり異なる。
天族としての格式が高ければ高いほど、人のような肉の交わりは必要なくなるのだ。
最高位の天部ともなると、見つめ合い微笑みを交わすだけで、官能を共有できる。
もちろん人と同じように交合することもあるが、あくまでも精神的な共有を大切にしていくもの。
クラウドも清童というのではないにしろ、人と同じような交合は経験したことがない。
このように全身をまさぐられて舐められるというのは、未知である。
性器を握られて初めての種類の快楽を感じながらも、心は穏やかに開かれていく。
それがセフィロスの経験が豊富だからなのか。
それとも彼が仏陀となるべき者だからなのか。
クラウドには判じられない。
セフィロスとクラウドは、人と非天という全く別の種であるのだから、性別にこだわるのは無意味なのであろうが、それでも同じ男と男の造りをしていながら、男と女のように触れ合っているのは何故なのか――それすらもクラウドには解らない。
目の前にあるセフィロスの逞しい筋肉のうねりに掌を添わせるながら、セフィロスの股間が視界に入ってきた。
猛々しく勃起した性器は、クラウドのものに似ているが、全然別のものに思えてならない。

勃起をじっと凝視するクラウドの関心を、セフィロスが逸れさせる。
「俺には正妃も妾妃もいる」
「子もいる」
セフィロスに妻も子もいることはクラウドも知っている。
「どんな美姫も、どの子にも、俺は触れたいと思ったことはなかった――」
女とは数え切れないくらい交わってきた。
可憐な処女とも。妖艶な娼婦とも。駆け引きを身体で申し出てきた女も抱いてきた。
あくまでもセフィロスにとっての交わりとは、肉体のみの刹那であり、情など感じたことはない。そもそも妻も子もどうでも良かったのだ。だが、
「クラウド。お前には触れたいと感じるのは何故なのだろうな」
――さあ…
――オレがお前に触れられるのが心地よいのは、何故なのだろうな。
「クラウド。教えてくれ」
「非天であるお前と夢以外でどこで会えるのだ?」
「神々が住むという兜率天ならば会えるのか」
尻の狭間が押し開かれていく。
熱く硬い肉の塊が、じわりじわりと体内に押し入ってくる。
無垢の場所に強引に押し入ってくるのだ。痛みを感じないのではないが、痛みだけではなく不思議な充足感があった。
「解脱すれば会えるのか?」
「会えるだろう…」
「解脱すれば人の身でも兜率天に辿り着けるだろうか?」
「辿り着けるだろうな」
汗ばんでいくセフィロスの背中に手を回す。
広い背中も濡れていた。
「王子よ――オレはずっと求めているものがある」
「それは、お前にしか探せないと聞いた」
「俺だけ…」
「そうだ。王子、オレが欲しいのは“普遍の真理”」
「それはたぶんとても近い所にあるのだと思う」
「誰でも持っているのだと思う」
「だが、オレには探せない」
「兜率天まで探しに行ったが、そこにもなかった」
大梵天ルーファウスも、帝釈天ザックスも知らなかったし、持っていなかったのだ。
「王子、お前ならば答えを探し出せる」
「探し出した答えをオレに差し出すことが出来る」
身体をひとつに繋げながら、ゆっくりとセフィロスが笑う。
「わかった、約束しよう。クラウド」
セフィロスがする、これは初めての約束だった。
「俺がもしお前が求める真理を手に入れることが出来たならば、迷わずお前に差し出してやろう」
「ありがとう――セフィロス」
口づけを交わしながら、セフィロスの動きが更に熱を帯びていく。
頭の中で何かが弾けたのを見ながら、クラウドはこの王子は必ず仏陀となるであろうと確信する。
動きが頂点になって、そして止まった。
クラウドは己の体内にじわりと広がっていく熱を感じていた。
それはどこか遠く懐かしい甘い感覚であった。


阿修羅王クラウドが夢に訪ねてこなくなってから数ヶ月後、12月8日の夜半、セフィロスは王宮を抜け出し、悟りへの長い長い旅路に出た。
セフィロスの現世での旅路の終わりは紀元前386年ヒランニャバッティ河のほとりである。河のほとりにあったサーラの林の中で入滅。
その遺骸は火葬されて舎利は8つに分けられたと伝えられている。

セフィロスは悟りを得て仏陀と呼ばれるようになったが、彼が兜率天に到達出来たのか、何よりも非天阿修羅王クラウドに再び出会えたのかは、どの文献を探してもどこにも記されてはいない。

***
これにておしまいです。
最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。


びーこ 17日22時、終わっちゃうのが残念な方>
続きを読みたいけど、ラストは寂しいという気持ちは、
私にもよく解ります。
ブッダは終わってしまいましたが、終わりがあるから始まりがあるということで、
また次を楽しみにしていただければ嬉しいです。
ありがとうございました。
03/18(TUE)11:21:14  [234-2391]


+ '08年03月17日(MON) ... ブッダという真理その18 +

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先週金曜日の続きです。

***
ブラフマーの塔に連れていってから、セフィロスは劇的に変化した。
その変化は顕著であり、周囲の者は心配したが、心の内を明かさないセフィロスのこと。心配しても見守るしかなかった。
クラウドは毎夜のようにセフィロスの夢へと通う。
ブラフマーの塔に連れていく前は、やってきたクラウド相手にセフィロスは様々な疑問をぶつけ問答をするのが習慣となっていたが、いまは違う。
セフィロスはクラウドの側に静かに座して、何かを瞑想し続けるのだ。
ほんの一言しか言葉を交わさない時もある。そんなセフィロスにクラウドも何も言わない。
クラウドが通い初めて百夜を越えた。
クラウドの感触によると、セフィロスは王子としてではなく、すでに仏陀としての目であらゆる事象を捉えようとしている。
――オレの役目もそろそろ終わりだな。
後はセフィロスが現実世界において、自分の足で目で耳で、最高解脱者としての道を歩んでいくしかない。
そしていつか彼はクラウドが求める普遍の真理を手に入れるのだろう。
セフィロスの手首に窮屈そうにある腕釧に目をやる。
セフィロスと夢の中でのリンクをやりやすいように、現実でのセフィロスに自分の腕釧を与えたのだが、どうやらこの腕釧も役目を終えるようだ。
クラウドの視線の先で、腕釧が音を立てる。
カランと澄んだ音は、セフィロスの動きに合わせて、乳白色の世界に鳴った。
「クラウド――」
セフィロスがこちらにやってくる。
かなり至近距離までやってくると、静かに乳白色の霞の中に座す。
「かなり以前のことだ。俺が城の東門から出ていくと老人に出会った」
昔の出来事を回想しているのだろう。
セフィロスの眼差しがクラウドを見つめながらも、もっと遠い何かを思い浮かべようとしていた。
唐突とも言える話に、クラウドは耳を傾ける。
「汚く醜い老人であった」
「次の日、俺は東門ではなく南門から城を出たのだ」
すると、
「病人がいた。やせ衰え腐った臭いがした」
「俺はその者の側を通り過ぎていくことが、とても鬱陶しく思えてな。城にとってかえすと、西門から出かけることにした」
「西門から出ると、そこに屍がうち捨てられていた」
小国であるといえども、その城だ。いつもならば屍がこんな所に捨てられるなど、有り得ないのに、セフィロスが出たときは確かに西門の目立つ場所にあったのだ。
屍はまだ新しいもので、忌まわしい何かがじくじくと膿んでいるようだった。
腹の部分がきれいにへこんで骨が剥き出しとなっていた。獣が食べたのだろう。
「次の日、北門から出るとそこに僧侶がいた」
――ルーファウスの仕業だな。
クラウドは察する。
これはセフィロスを仏陀とすべく、ルーファウスが打ったという手なのだ。
生死病苦、人が恐怖と嫌悪する四苦を殊更に見せつけて置いて、その後悟りを開いた僧侶を持ってくる。
そうやって出家となるように促そうとしたのだろう。きっとその僧侶はルーファウスのように、涼やかに笑っていたに違いない。
「この世にいて剣をとれば天輪王となり、出家すれば聖王となると、俺が赤子の頃、城に訪ねてきた仙人が言ったそうだ」
幼い頃から周囲から繰り返し聞かされてきた話だが、セフィロスは信じてはいない。
「父王は俺を天輪王にしたがった。俺は僧侶とは極力会わぬようにして育てられたのだ」
だから、
「俺はその時初めて僧侶というものを見た」
「――僧を見て、王子、お前はどう感じた?」
「傲慢だと思った」
それは問いかけたクラウドにも、そしてそうやって見せつけたであろうルーファウスにも、完全に予想外であった。
「病に苦しみ老いに悩み、死してもなお無惨に扱われる現実が、すぐ側にありながらも、ああやって一人だけ高みから見下ろすように、さも自分だけは無関係だというような顔をして――」
「俺はバラモンのことは知らぬが、」
「バラモンとは、己が得た悟りを、人を救う為に使うのが本分だと考えている」
「あの北門で出会った僧侶はそうではなかった」
「あれが僧侶ならば、僧侶とは王よりも傲慢な生き物に違いない」

セフィロスの言葉にクラウドは己を押さえきれなくなる。
身を捩りクラウドは爆笑した。
は!は!は!
滅多と表情をださず淡々としているクラウドのいきなりの大爆笑に、セフィロスは驚くしかない。
乳白色の霞にクラウドの笑い声が響く。
――ああ、これが笑わずにいられるか!
ルーファウスがセフィロスの仏陀への覚醒を促す為に労した作が、かえってセフィロスの覚醒を阻んでいたとは。
最高の英知を誇る神王大梵天ともあろう者が、まさかこういう結果を引き起こすとは考えもしなかったに違いない。
自分の作がセフィロスの覚醒を阻んでいたとルーファウスが知ったのならば、彼はどういう反応を示すだろうか。
あの超然とした物腰が、どう変化していくのか。
――是非見てみたいものだ。
という好奇心も強いが、同時に、
――それすらもルーファウスの計画なのやも知れぬな。
とも思う。
それ程までにルーファウスは、考えの読めない天なのだ。
対であるザックスもルーファウスの真意は読めないのだと言っていた。
どういう形にしろ彼を侮ることは出来ない。
だとすれば、
――オレも王子もルーファウスの掌の上で踊っていただけなのだろうな。
だがそれすらも無性に可笑しくて、クラウドは笑いの衝動が止められないのだ。
初めはクラウドの爆笑に驚くだけだってセフィロスだったが、そのうちに笑いの衝動がうつってきたようだ。
「…ふふ、あははは――」
苦笑から微苦笑に。微苦笑から微笑に。微笑から笑いに。笑いから声をあげた爆笑に。
セフィロスもクラウドと同じように、感情を露わにして笑い続ける。
普段はあまり酷使していない表情筋が、大きく働く。
ここまでくると、セフィロスはクラウドが、クラウドはセフィロスが、互いが互いの爆笑している様子までもが可笑しくなってきて、のたうちまわって笑い転げる。
二人の笑い声は乳白色の霞にユニゾンした。

***
次ラストです。


+ '08年03月16日(SUN) その02 ... ありがとうございました +

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春コミでは遠方までジャンル超えして来てくださりありがとうございました。
楽しんでくださるとありがたいです。

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+ '08年03月16日(SUN) ... 春コミお取り置きの件 +

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お問い合わせいただきました方へはY子の個別アドレスより返信させていただいております。
未着の場合は事故が考えれますので、お手数ですがメモの返信欄よりお知らせください。

当日狩人になっている可能性が高いですが、どうぞよろしくお願いします。

※先頭に来るように日付を変えてあります

Y子 Y子です。
お取り置きの方受付は終了しました。
本日お問い合わせていただきました方へは全てお返事をしてあります。
お返事が届かない場合は事故が考えられますので、
↑に記載しましたようにメモにてお知らせください。

では当日お会い出来ますこと楽しみにさせていただいております。

ありがとうございました。
03/14(FRI)22:26:48  [231-2092]


+ '08年03月15日(SAT) ... 質問です +

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Y子より質問です。
春コミ(3月16日の東京の奴です)にY子は別ジャンルで参加します。
在庫は金銀しかないですが、欲しいって方はいらっしゃいますか?
もしご希望があるようでしたら取り置きしようかと思うのですが・・・。
14日夕方までにメールをくださったら、取り置き方法返信させていただきます。
イベントまでにこの記事が埋もれてしまうと困るので日付を15日にしておきます。
B子さんの更新が読みにくくなってしまうのですがごめんなさい。


+ '08年03月14日(FRI) ... ブッダという真理その17 +

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続きです。

***
滅する――と聞いてセフィロスは大きくうねる螺旋の環が、引きちぎれて消えていくのを想像して身震いした。
セフィロスにずっと巣くっていた虚無が、種の滅亡という恐怖の前にさらさらと溶けてしまう。
虚無が去った後わき上がってきたのは――歓喜。
叩き付けられるように激しい歓喜が、セフィロスを包む。
――なんということだ!
この世界とはこんなにも広いのだ。
セフィロスが見聞きしているのは、ほんの一部分のみ。
人の世だけではない、様々な世界が層となって、現世が構築されている。
滅亡への時計が、今目の前にあるのだ。そんなものが存在するなど、セフィロスは想像さえしていなかったというのに、現実とは想像を超えてしまうなんという感嘆すべきものなのか。
もっともっと、他にもセフィロスを興奮と感動へと誘ってくれるものが、この世にはきっとある。
釈迦国王子という身分は、こんなにもつまらないものでしかなかったのだ。
セフィロスの口元がゆっくりと上がっていく。
自分でも自覚ないままに、セフィロスはあるかなしかの淡い笑みを浮かべていた。
黄金の円盤がまた別の円柱へと移動していく。
セフィロスはむしろうっとりと、その光景を眺めた。
「この円盤の移動は止められないのか?」
時計を止めてしまうことは出来ないのだろうか。
「ブラフマーの塔は少し力がある者ならば、誰でもこうやって見ることが出来る」
天と称される神族でなくとも、クラウドのような非天悪神や、聖人や仙人も見ることは出来るのだ。
だがそれはあくまでも“見る”だけで。
「このブラフマーの塔の存在を知った者で、破滅を止めるべく破壊してしまおうと考えた者は数多いた――」
が、
「神族であろうと非天であろうと、そして人であろうと、何人とりともブラフマーの塔に触れることは出来ないんだ」
“見る”ことは出来る。
だが“触れる”ことは出来ない。
なんたるシステムであろうか。
「触れることが出来ないものは、誰にも壊せない」
よって、
「この塔を止めることに、未だかつて誰一人として成功した者はいないのだ」
「ただし、例外があるそうだ――」
クラウドはここで一旦言葉を切って、注意深くセフィロスを観察した。
人智を越えた神族にも滅多とない美麗を誇る王子は、取り憑かれたようにブラフマーの塔の円盤に魅入っている。
この光景を目の当たりにして、ブラフマーの塔の目的を知った者は、誰しも皆魅入ってしまう。が、それは今セフィロスが感じているものと同じ意味で魅入るのではない。
皆は滅亡を恐れて、恐怖のあまりに魅入る。
セフィロスはむしろブラフマーの塔という人智を超える絶対的存在があることに歓喜して魅入っているのだ。
――この男は滅亡が恐ろしくはないのだな。
やはりこの王子は、精神の基本構造が特別なのだ。
生まれ育ちとか階級などではなく、もっと根本的なところで。
クラウドは意識してこの一言を告げる。
「例外とは――仏陀だ」
「仏陀ならば、この塔に触れることが出来る」
仏陀――と、セフィロスは声には出さずに、口だけを動かした。

***
今週はここまで。
長くなりましたが最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。


+ '08年03月13日(THU) ... ブッダという真理その17 +

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続きです。

***
「王子よ――」
「人は虫ではない」
「牛でも豚でもない」
「果実でもなければ花でもない」
「それでも同じように生きて死ぬ」
「それは、何故だと思う?」
「――…それは、生きているからだ」
「どれも皆、生き物だからだ」
セフィロスの答えをクラウドは是とも否とも言わない。
「オレは非天だ」
「オレには人のような寿命はない」
「だが死ぬ。病ではなくとも、大きな傷を受ければ死ぬのだ」
「天部もそうだ。奴等にも死はある」
――解るか?王子。
「天――つまり神も死ぬのだ」
「何者であろうとも、死とは無縁ではいられない」
虫や動物や植物や人よりは、死と遠いところにあっても、それでも死はある。
「王子。いつかはこの世も死ぬ」
この世の死。それは一切の滅を意味する。
「おもしろいものを見せてやろう」
クラウドは左手の人差し指と中指を揃えると、セフィロスの額に置く。
腕釧が揺れてカランと澄んだ音を立てた。
――この腕釧は…
あの時拾って身につけている腕釧と同じ物だ。
――そうか。クラウドの腕釧だったんだな。
黄金の細い腕釧。きっとクラウドがセフィロスに与えたのだろう。
カラン。クラウドのと同じ音を、セフィロスの手首にある腕釧が立てる。
腕釧の澄んだ音が余韻を響かせる時、セフィロスの目の前に別の景色が現れる。
いつもの乳白色の霞はかき消えて、セフィロスは大きく壮麗な寺院の前にたっていた。
驚き呆然とするセフィロスを後目に、クラウドは寺院の奥へと進んでいく。
慌ててセフィロスも後を追いかけた。
「クラウド――ここはどこだ」
「ベナレス…ではわからんな。お前達が言うところのヴァナラシにある、世界の中心に通じる寺院だ」
セフィロスは知識の地図を詳細してみる。
ヴァナラシとは大河のほとりにある聖地だ。
そこに神の住みともう兜率天に通じる寺院があるのだという。
その寺院は天地創造の時に神が降臨されたとか。
釈迦族の建てる寺院とはどこか違う内部を、クラウドは奥へ更に奥へと進んでいく。
人影はどこにもない。寺院につきものである祈りを捧げる人々もいなければ、寺院に生きる僧侶の姿もない。
寺院の一番奥で、クラウドは止まった。
だが目的地はここではない。
「王子――潜るぞ」
何?――と意味を尋ねようとするよりも前に、セフィロスの身体が沈んでいく。
硬い大理石の床石に沈み、床石を通り抜け地面へと。
それだけでは終わらない。地面をも通り抜けて岩盤へと。岩盤も通り抜けて、地球の中心に至るマントルへと。
痛みを伴う眩しい熱に、セフィロスは顔を両手で覆ってしまう。
己の身体が魂ごと焼き切れると覚悟した時、クラウドの声がする。
「目を開けてみろ」
ゆっくりと目を開けるとそこは神秘の異界であった。
果ては見えない、海か湖か、とにかく広大な水だけの世界が途方もなく広がっている。
生きているものの気配は感じ取れなかった。
その世界の中心であろう場所に、巨大な三本の柱がそびえている。
柱は見る限り三本とも同じ物だ。金剛石だろうか。磨き抜かれた輝きを放つ柱は、同じ大きさのものが、同じ間隔でならんでいる。
ただ同じでないのは、柱に突き刺さっている純金であろう巨大な円盤だ。
巨大な円盤には中央に孔が空いており、金剛石の柱に突き刺さるようになっている。
もっとよく観察してみると円盤は同じものではなく、大きいものもあれば小さな大きさのものもあり、同じ大きさのものはないようであった。
円盤は三本の柱にそれぞれ別の数だけ刺さっているが、どれもより大きな円盤が下に、それよりも小さな円盤が上に置かれてある。
「ほら、動くぞ」
中央の柱に刺さっていた円盤が動いていく。
上へと持ち上がり中央の柱から抜け出て、セフィロスから向かって右の柱へと移動していき、そして自ら刺さっていった。
「…!」
不可思議な光景にセフィロスは言葉も出ない。
「これはブラフマーの塔と呼ばれているものだ」
ブラフマーとはヒンドゥ三神の最高神。破壊と創造の神。
「王子が住む世界の創造神がこれを作ったのだ」
創造神はこの三本の円柱の一本に64枚の黄金の円盤を差し込んだ。
円盤は一番大きなものが下。一番小さなものが上とされ、これを法則とした。
「これは時を計るものだ」
「円盤は常に大きなものの上に小さなものを重ねることになっている」
「必ず一枚づつ動かさなければならない」
これはパズルだ。気の遠くなるようなパズル。
「創造神が一番左端の円柱に差し込んだ64枚の円盤を、法則に従って、全てを右端の円柱に移し替えられたその時――」
「――この世は滅する」
つまりこれは、滅亡への時を計る時計。

***
今週はここでおしまいです。
続きは来週。

♪、拍手、ありがとうございます。


+ '08年03月12日(WED) ... ブッダという真理その16 +

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続きです。

***
人でしかないセフィロスの負担を考慮しつつ、翌日からクラウドは定期的にセフィロスの夢に通うことにした。
釈迦族の王子であるセフィロスは、確かに高い教養を持っていたが、所詮自国から一歩たりとも足を踏み出した経験のない中での、それだけのこと。
知識は持っていても机上の空論でしかなく、実体験は不足している。
セフィロスは当然のようにクラウドに階級(ジャーティ)を問うた。
セフィロスの常識では、人は階級と生まれ(ヴアルナ)によって、生きていく全てが決まる。
僧侶(バラモン)を頂点として、武士(クシャトリア)、平民(ヴァイシャ)、そして奴隷(シュードラ)と厳格な階級が定められているのだ。
そしてこの階級ピラミッドの底辺に非民(バリヤ)がある。
せいぜいこの階級と無関係でいられるのは、沙門くらいであろう。
釈迦国王子セフィロスは士族である。階級は上から二つ目だ。
王子であるセフィロスは大勢の召使いに囲まれて、何も困ることも不足を感じることもなく、醜いものや汚いものとは切り離された満たされた生活にどっぷりと浸っている。
だがそれは武士という階級と、王子という生まれがあってこそ。
そのセフィロスから階級を問われ、クラウドは微苦笑で応じた。
「階級は人が作ったものでしかない」
それは人でない者からすれば、些細で詰まらないものだ。
「階級がないのか?」
「全くないというのではないが、人のようなものではない」
「王子よ――オレは非天だ」
「非天…?」
耳慣れない言葉に、セフィロスの好奇心が刺激される。
知らないことを恥ずかしがるような無知を、セフィロスは持ち合わせていない。
「天部、つまりオレは天族ではない」
「オレは阿修羅族の王。人が悪神と呼ぶ一族の王だ」
悪神――自らをそうだと言われても、セフィロスはどうしても信じられない。
見た目もそうだが、こうして接してみても、クラウドに邪があるようには感じられないからだ。
少なくとも、セフィロスが連想する悪とは、クラウドはかけ離れている。
階級制度に厳しく縛られる世界に育ってきたセフィロスにとって、属する階級はイコールでその者の人品そのものであった。
つまり僧侶はやはり僧侶である。
武士は所作も考え方も、やはり武士でしかなく。
平民は上の階級におもねる者であり。
奴隷はいつも他に階級の顔色を窺いながら、卑屈に生きているだけの一種の家畜でしかなかった。
非人に至っては、セフィロスは遠目ですらも会ったこともない。
それだけ隔てられた、低い存在であったのだ。
クラウドは己を悪神だという。非天であり天族ではないのだと言う。
だが彼はどう考えても悪神でもなければ、低い存在でもない。
クラウドは階級などとは無縁なのだ。
生まれというものとも、無縁なのだ。
困惑したままでクラウドを凝視するセフィロスに、クラウドはあっさりと、
「生まれなど自分では決められぬ」
「肝心なのは、生まれた階級ではなく、その先――」
「どうやって生きるかというところなのだろうな」
この言葉はセフィロスの価値観を根底から覆すものである。
階級はとても大きなものだ。例えば士族がどれだけ力を持とうとも、僧侶には一目置かねばならない。
大国の王であったとしても、僧侶を蔑ろには出来ないのだ。
平民の長者もそうだ。いくら金を持っていても階級は買えない。あくまでも平民は平民でしかなく、僧侶と武士の下に甘んじなければならない。
奴隷と非人は問題外。彼らは生涯家畜以下で過ごすのを定められている。
天と地があり、太陽が出てそして沈んでいく。
雲のない夜には天空に月が出ている。
そのくらい、セフィロスにとって階級とは当然の事象のひとつなのに、クラウドは真っ向からこの世界を否定しているのだ。
「…階級とはなんなのだ?」
困惑したセフィロスの呟きに、クラウドは簡単に答える。
階級に縛られていないクラウドにとって、セフィロスの困惑は理解できない。
「あれは人が作ったものだ。天が作ったものではない」
よいか、
「国はたくさんある」
「その国ごとに法というものが定められているだろう」
「…ああ、」
「つまり法は国によって違っている」
「お前の国では罪に問われることでも、別の国に行けば問題ないものもある」
「お前たちの階級とは、そんなものと同じでしかない」
わかるか?と重ねられ、セフィロスは絶句した。
クラウドの説明は解る。確かにその通りだ。
だが階級というものの存在が大きく重すぎて、セフィロスは簡単には納得できない。
そんなセフィロスの心中を解っているのだろう。クラウドは更に言い募ることもせずに、話を進めていく。
「王子よ、お前は士族だ」
「だが、士族であるお前もいつかは死ぬ」
「僧侶もそうだ。彼らもいつかは死ぬ」
「もしかしたら今すぐに死ぬやもしれぬ」
「数十年後、歳を充分にとってから死ぬやもしれぬ」
「それでも人は死ぬ」
「平民も奴隷も非人も、皆死ぬ」
「階級関係なく、皆死ぬのだ」
「死に違いはない。せいぜい葬儀が盛大になるか、骸をうち捨てられるか、それくらいの差しかない」
その通りだった。
現にセフィロスの母摩耶は、セフィロスを産み落としてすぐに死んだ。
まだ若く美しい人であったそうだが、それでも死んだ。
王の正妃であったというのに、世継ぎを生んだというのに、それでも彼女は死んでしまった。
そして命に替えて産み落とした息子に、顔も覚えられていない。
王の正妃でありながら、彼女はある意味不幸なのかもしれない。
「人だけではないぞ」
「動物もそうだ。必ず死ぬ」
「人に食われるか、病で死ぬかはそれぞれだが、死ぬには変わりない」
「小さな虫も死ぬ」
「植物とてそうだ」
「木も草も花も、皆最後は死ぬ」
「生と死だけは、この世に生きとし生けるもの全てに訪れる荘厳な儀式だ」
悪神クラウドの言葉はセフィロスに響く。

***
長くなってますが、あともうちょっとです。
来週中には終わるでしょう。


+ '08年03月11日(TUE) ... ブッダという真理その15 +

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続きです。

***
肩に置いた手に力がこもったのだろう。
クラウドが気を肩に逸らそうとしたのを、セフィロスは許さなかった。
「俺は足りぬと申すのだな」
いぶかしげに金色の眉が顰められる。
「俺はお前と話すのに、どこが足りぬのだ!」
「それは学べば足りるようになるのか」
――教えてくれ。
「何を学べば良いのだ」
「クラウド――俺は俺が足りぬものを、お前から学びたい」
「――王子…!?」
セフィロスのいきなりの言動に、クラウドはあからさまに怪訝な表情となった。
初めてクラウドが晒す、感情が浮かび上がった表情に、セフィロスは惹きつけられてしまう。
人形めいた硬質な顔立ちが、途方に暮れたようなあどけない表情へと一気に変化するのを目の当たりにするのは、とても心地よい。
ここでセフィロスは手を緩めなかった。
もう一方の手も肩に置き、両肩を揺するようにして、更に言葉を重ねていく。
「俺を学ばせてくれ」
「俺の虚無を払ってくれ」
――その方法を、クラウドならば絶対に知っているに違いない。
セフィロスの剣幕に押されたのか、クラウドは小さく頷いた。
「わ、わかった――」
元よりルーファウスから依頼を受けているのだ。
クラウドとて簡単にセフィロスとの邂逅を放棄するつもりはない。
ただこのように虚無だらけの男が仏陀になるのは有り得ないと感じ、もう暫く時を置いてから再び夢に会いにくれば良いと判断しただけだったのだ。
人ではない寿命のないクラウドには、時間の流れはあまり意味を成さない。
時間が経つという残酷さも、時が流れ自然に物事が解きほぐされていくという優しさも、クラウドには縁のないこと。
セフィロス自身が会いたいというのならば、クラウドに異存はない。
「わかった。お前が学べるように夢に通ってこよう」
「約定とするぞ。違えるな」
セフィロスは尚も言い募る。
どこか必死ともとれる行動の真意は判じかねるが、それでもルーファウスの言うとおり、この男は仏陀となるやも知れぬとクラウドは本能的に察知する。
セフィロスの一言一言はとても重い。深く心の奥まで染み入ってくる。
それがどんなに詰まらないものであろうと、他者を従わせてしまう格がある。
セフィロスが殊更威圧的というのではない。彼はむしろ感情の見えない口調だ。
それでも非天であり、大梵天ルーファウスを前にしても動じなかったクラウドが、たかが人でしかないセフィロスの言葉を当たり前のように受け入れるべきだと、高い優先順位を自然に与えているのだ。
――この男、確かに王の器だ。
必ずしも人の世の王と同じ意味ではないが、この男ならば天輪王にも聖王にもなれるだろう。

***
微妙にマゾりつつ、今日はここまで。


+ '08年03月10日(MON) ... ブッダという真理その14 +

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金曜日からの続きです。

***
ふと誰かが呼ぶ声がする――ような気がした。
セフィロスは目を開ける。
目はしっかりと開いたが、見渡せる空間にはまるで靄が掛かっているようだ。
はっきりとした形になるものは、何も見えない。
おまけに天と地と、つまり上下感覚が感じられないのだ。
今自分が立っている地面の感覚さえない。浮いているのか、それともどこかしっかりとした土地の上に立っているのか。
高い場所にいるのか。低い所にいるのか。
三半規管は狂っており、それすらも不明だ。
乳白色の靄ばかりの空間で、セフィロスはただ立っているのだ。
――ここは?
――俺は夢を見ているのか…
足を一歩、無意識の儘に踏み出そうとした時、カラン、手首の腕釧が音を立てる。
それは小さな音であったのにも関わらず、靄の中に響き渡った。
すると、世界が変わった。
不意にセフィロスの目の前に人が現れる。
上からやってきたのか。下からやってきたのか。前方か、後方か、それとももっと別の場所からやってきたのか。
目の前に現れたのだというのに、セフィロスは何も見なかった。
いきなり彼が出現したのだとしか、セフィロスには思えない。
彼――そう現れた人物は男だった。しかもかなり年若い男だ。大人になりきれていない柔らかなラインは少年期特有のものだった。
少なくともセフィロスよりは10は下だろう。
見慣れない金色の髪と、これまた見たことのない青い瞳と透き通るような肌と。
繊細さと硬質さがアンバランスに同居した容姿は、セフィロスの周りにはいなかった人種だった。
セフィロスよりも小柄な少年は、その青い瞳をひたりと向けてくる。
そうやって少年はじっとセフィロスを観察しているようだ。
やがて、少年の口が開く。薄桃色の唇は処女のように清浄に映るが、出てきたのは少年の甲高いものではなく、しっかりと落ち着いた声であった。
どうやら見た目よりは年上らしい。
「お前がセフィロスか――?」
「釈迦族の王子。父王は浄飯王。母は正妃摩耶」
少年、いや、彼は非人間的なほどに美麗すぎるセフィロスを目の当たりにしても、いささかの心の動きもないようだ。
淡々と落ち着いた音声で問いかけてくる。
セフィロスは無論彼とは初対面であるが、王子という育ち故に、これまでも他者が一方的に自分の存在を認知しているというのはよくあることだった。
だからいきなりこう問われても、疑問に感じることはない。
王子らしく鷹揚に頷いてみせると、
「お前は何者だ?」
見たところ釈迦族の者ではない。
近隣諸国の者でもない。
目と髪の色は混血もある為一概には言えないが、何より生まれてから一度も強い陽差しに晒されたことのないような肌は、あまりにも違いすぎていた。
少なくとも彼は強い陽差しのない国の者としか考えられないが――それにしても何故こんな所にいて、セフィロスの目の前にいるのか、胸騒ぎがしてならない。
「オレはクラウド――」
「クラウド…異国人か?」
彼、クラウドは奔放に跳ねた短い髪を軽く揺らす。
「そうだな…お前からすれば、オレは異国人になる」
含みがある答えであったが、セフィロスは詳しくは聞かなかった。
何となくではあるが、聞いても解らないだろうとの予感がしたのだ。
少なくとも今は、彼は異国人である、とこれだけで充分だろう。
セフィロスは周囲をゆっくりと見渡してから、クラウドと名乗った異国人を見つめた。
「ここはどこだ」
「夢だ」
「夢――?」
ならば、
「これはただの夢なのか?」
「クラウド。お前とこうして対面しているのも、夢の中の出来事なのか…」
それにしてはやけにリアルではないのか。
「…信じられん」
セフィロスは長い腕を伸ばすと、クラウドの肩に触れる。
一見華奢のように見えるが、こうして触れてみるとクラウドの身体は相当鍛錬されているのだと解った。
張りつめた筋肉がしなやかに伝わってくる。
つまりセフィロスは触感がわかるのだ。夢だというのに。
「本当に夢なのか?」
「そうだ。これは夢だ――」
だが、
「お前がこれまで見てきた夢とは違っているがな」
「…?」
「これはお前が見ている夢ではない」
「オレがお前の夢を利用して作った世界だ」
クラウドの語る意味が正確に理解出来たのではない。
ただこの夢はクラウドが作ったものなのだと、それだけ朧気に理解する。
だがそうならば、次の疑問が湧いてくるのは必定。
「何故そんなことをした?」
クラウドの答えは簡潔であった。
「お前に会う為に」
「俺に――?」
「もちろん、お前の顔を見るだけで良いというものではないがな」
それはつまり、
「俺に何か用があるのだな」
そうだ――とクラウドは頷きながら、未だ自分の肩に置かれたままとなっている、セフィロスの大きな手に自分のを重ねた。
「そうだ――オレはお前と話しをしにやってきたのだが――」
「今のままでは、話にもならんようだ」
「!?」
話にならないとは、どういう意味だ?
口を開こうとするセフィロスを、クラウドは微苦笑で押しとどめる。
「虚無が大きすぎる」
――王子よ。
「お前は自分が何者であるのか、まだ全く理解していないのだ」
「理解出来ていない相手とは、話にもなるまい」
それはある意味、セフィロスを否定する言葉であった。
今のお前では話すらも出来ない。
クラウドははっきりこうセフィロスに突き付けている。
これまで天才だと貴い王子であると、容姿から才能まで常に崇め奉られてきたセフィロスにとって、己の全否定に遭遇するのは初めての経験であった。
しかもクラウドに悪意などない。
彼はむしろ淡々と事実を述べているに過ぎないのだ。
――クラウド…
事実を現実だとあっさりと言ってのける、小柄な少年の形をした者の内側に潜む清冽さに、セフィロスは目眩すら覚えた。
この目眩の根源は――感動だ。
セフィロスはクラウドの、己を切って捨てた言葉に、感動している。

***
ここまで。

びーこ 本日11時、叫び逃げの方>

仰るとおりです。貴女は正しい。
マゾってます。
明日はもっと(精神的に)マゾってます。
03/10(MON)16:12:47  [226-1971]


+ '08年03月07日(FRI) ... ブッダという真理その13 +

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続きです。

***
父王の期待を一身に集めたセフィロスは、雨期と乾期それぞれ別に静養出来る二つの専用の離宮を与えられ、文武共に最高の教育を施される。
セフィロスは賢く美しく、そして武にも優れた立派な王子に成長。
16の歳に妻を娶った。
傍目から見れば、どこも欠けたるところがないように思えるセフィロスだが、その実彼には払っても払いきれない深い懊悩がある。
それは底知れぬ――虚無。
才能に秀で何物にも恵まれすぎてきたセフィロスは、自分で何かを成したいとか、何かが欲しいとか、そんな些細な願望さえ持つこともなく、全てが叶えられてきたのだ。
いつでも何の不足もないのが常である。
それが物であるのならばまだ良かった。
あらゆる武術。知恵。努力しても得られないという悔しさ。
それすらもセフィロスにはなかったのだ。
セフィロスは何でも最初から上手く出来た。そして完璧にやり遂げてしまう。
彼は手を伸ばして何かを欲するという経験がない。
手をだすだけで、物も金も名誉も才能でさえも、セフィロスの掌に簡単に乗ってしまう。
まるで神のようだと讃えられても、セフィロスは何も感じない。
何故ならば何でも出来るのが持てるのが当たり前の状態なのだから。
そうしてやってくるのは虚無。
そう、セフィロスは生きることに退屈しきっていたのだ。
正妃を娶り後継たる男子を成してからは尚更のこと、セフィロスは退屈で退屈でたまらない。
生きていることに意味どころか、楽しくもないのだ。
虚しくて詰まらなくて仕方がない。

美しい王子の寵愛を得たいのか、それとも単にセフィロスに恋したのか。
一夜の女は己の豊満な肢体をセフィロスに押しつけてくる。
大きく膨らんだ乳房が、硬い胸板に押しつけられて形を変えた。
男の欲望を煽る手管さえも、セフィロスに何の感慨もない。
すでに女との閨房でさえ、セフィロスにとっては暇つぶしにもならないのだから。
強引に押しつけてくる肌の感触がうるさくて、セフィロスは軽く腕を払う。
暴力を振るったのではないが、あまりにも素っ気ないその仕草に、女の動きは止まった。
宝玉のような翠の瞳は、女を見ず、ずっと遠くにある雪山へと注がれている。
動きが止まった女を無視して、セフィロスは寝台から起きあがった。
いや、無視したのではない。腕を払った時点で、すでに女の存在はセフィロスから抹消されただけ。
全裸で窓際へと向かうセフィロスに、召使いがススっと近寄ってくる。
王子の為に丹誠込めて織られた絹を両腕高く捧げ、召使いは這い蹲った。
この絹一枚だけでも、カースト底辺にいる者ならば、家族が一年は豊かに暮らしていけるだろう。
それ程までに王子は大切にされているのだ。
だがセフィロスはそのような価値には、関心がない。何故ならばそれが当然だから。
彼は自分の有する美貌にも、無関心なのだ。
物心つくより前から、多くの召使いに傅かれてきたセフィロスは、常識としての羞恥心というものがない。自分の裸体を見られても、どうとも感じないのだ。無造作に絹を取ると腰に巻き付ける。
その間に他の召使いが、寝台から女を引きずり下ろし始めた。
微々たる抵抗をする女が起こす僅かに争う喧噪でさえも、すでにセフィロスの耳には届いていない。
王子はずっと雪山を見つめている。
ヒマヴァットは天高く頂きは雲海の彼方にあり、肉眼で捉えることは出来ない。
このヒマヴァットは、セフィロスが生まれる遙かに昔から、ずっとこうしてそびえ立っているのである。
意志の疎通が出来るのならば、セフィロスはこの雄大なる雪山と言葉が交わしてみたかった。
――何故に、人は生きるのだ。
こんな退屈な人生というものを、どうやらセフィロス以外の者は、それなりに充実させて送っているらしい。
セフィロスがこのことに気が付いたのは、自分の成長に手放しで歓ぶ父王を見てからだった。
釈迦族の国カピラヴァスツは、決して大国ではない。
両隣を二大強国コーサラとマガタとに挟まれており、いつ何時攻め入ってこられるか不安定な状況にある。
父王はこの状況を理解していながら、それでもセフィロスの成長に笑う。
セフィロスの為に金を注ぎ込んでくる。
セフィロスに贅を尽くしても、カピラヴァスツが強国になるというのでもなく、またコーサラとマガタからの危機が無くなるというのでもないのに。
――不思議だ…
――何故こんなに歓ぶのだ。
疑問を秘めつつ周囲を観察してみると、身分のあるクシャトリア達ばかりではなく、召使い達カーストの低い者でさえも、苦しいならば苦しいなりに、辛いのならば辛いなりに、生きるという現実を充実させて生きているではないか。
つまり――セフィロスだけなのだ。
これ程までに生に対して執着していないのは。
そうだと理解した瞬間から、セフィロスは虚無の虜となったまま。
雪山を見上げていたセフィロスが、暫くしてから振り向くと、すでに女は影も形もなくなっており、寝台はきれいに清められていた。女の痕跡すらなくなっている。
身体が適度な睡眠を求め始めていることに気が付いたセフィロスは、清潔な寝台に潜り込もうと足を踏み出した。
カラン――足が何かを蹴った。
視線を向けてみるとそれは細い黄金の腕釧ではないか。
セフィロスの視界に入らないようにと注意深く控えていた召使いが、慌てて飛んできて、セフィロスよりも早く腕釧を拾い上げようとする。
が、身振りでそれを止めさせると、セフィロスは自ら屈んで腕釧を手に取る。
一見シンプルにうつるが、こうして手にとって観察してみると、この腕釧がかなり端正に作られていることがわかる。
透かし彫りとなっている部分が波のようにうねり、腕釧の周囲を一周していた。
女が身につける意匠ではない。これは男のものだ。
ただし男がつけるにしては、腕釧のサイズは細かったが。
当然、セフィロスのものでもない。
芸術や美術にも関心がなく、無論装飾品にも価値など感じなかったセフィロスだが、不思議とこの腕釧には興味を惹かれる。
このまま手放してしまうには、惜しいような気がする。
セフィロスは黄金の腕釧を己の手首に通す。腕釧のサイズが細い為、通らないかとも過ぎったが、入れてみると素直にセフィロスの手首に収まった。
ただしやはりあまりゆとりはなく、手首にピッタリと寄り添うようだ。
自分の手首に見慣れない上にサイズの合わない腕釧が填っている。この様子は何故かしらセフィロスに満足感を与えるのだ。
指先で叩くと、腕釧はカランと澄んだ小さな音を立てる。
久しぶりに満足した気持ちを保ちながら、セフィロスは腕釧を付けたまま、寝台に潜った。

***
次回やっとセフィロスとクラウドが出会います。


+ '08年03月06日(THU) ... ブッダという真理その12 +

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続きです。

***
宮殿からはいつも同じ光景が見える。
それは真夏であろうと溶けることのない雪をたたえた偉大なる山脈、ヒマヴァットだ。
気怠げに身体を起こすと、すぐ側にいる女が剥き出しの胸にそっともたれかかってきた。
さっきまで交わっていた女だ。
だが女の名は知らない。生まれも育ちも、その顔立ちでさえも、どうでもいいこと。
セフィロスが一夜の女に求めるモノは、ただの暇つぶしでしかない。
それ以上でもそれ以下でもなく、正妃をすでに娶り後継の子も成しているセフィロスにとっては、この交わりに子作りの意味さえないのだ。
セフィロスは美しい男である。どれ程の美姫でさえも、セフィロスには敵うまい。
癖のない長い髪は一本一本丁寧に紡がれた、絹のようだ。
サラリと滑っていき、余韻さえ残る。
彫りの深い整った顔立ち。あまりにも端正すぎて欠点がない。却ってその美貌は、セフィロスから血肉の暖かさを奪っていた。
敢えて言えば、それが欠点というものか。
女以上の美しい顔立ちをしているものの、セフィロスの美貌はあくまでも男のものだ。
間違っても女には見えない。
ズバ抜けて高い身長。広い肩幅にしっかりとついた筋肉は、研ぎ澄まされている。
引き締まった腰から伸びる左右の脚は、見事なバランスを保ち、長さはあってもいびつではない。
ヒマヴァット山脈を西の麓から仰ぎ見る国、カピラヴァスツ。
ここ釈迦族中心の国の世継ぎの王子として生まれてきたセフィロスは、生まれながらにして全てに満たされた完璧な存在である。
生まれてすぐ母は亡くなったものの、母の妹、つまり叔母によって大切に育てられたセフィロスは、その生を受ける前から特別であった。
セフィロスの母、摩耶は孕んでいる最中、とても不思議な夢を見たのだと言う。
それは六本の牙を持つ白象が、脇から胎内に入っていくものであった。
釈迦族お抱えの高名なバラモンに訊ねると、それは紛れもない吉夢であると宣言した。
(王妃様に宿る御子は、必ずや類い希なる宿命を得るのでしょう)
バラモンの言葉は出産時に証明される。
いよいよ迫ってくるお産を控え、摩耶が実家に戻ろうとしてういたその道中、休憩に立ち寄ったルンビニの花園で急に産気づく。
そのまま摩耶は子供を産道からではなく、右脇から産み落としたのだ。
産まれたばかりの赤子は、すくっと立ちあがると七歩歩き声を発したのだと言う。
(天上天下唯我独尊)
右手で天を。左手で地を指しながら。
――この世で私はもっとも貴い。何故ならば私という存在は一人しかいないからだ。――
この世に生を受けた直後でありながら、セフィロスは森羅万象に向かって高らかにこう宣言したのだという。
もっともそのことをセフィロスは覚えていないが。
こうして異質な誕生となったセフィロスだが、父浄飯王の期待は大きかった。
赤子のセフィロスが城に戻った時、高名な仙人がわざわざやってきたのだという。
アシタというヒマヴァットで修行しているという聖仙であった。
父王が呼びつけたのではない。彼は自らこの世に誕生した赤ん坊でしかないセフィロスに会いにやってきたのだ。
その当時のセフィロスの育児には、大きな問題があった。
頼りない赤子の身でありながら、セフィロスは決して女の乳を飲もうとはしなかったのだ。
乳首を口に含もうともしない。ムリに飲ませても吐き出してしまう。
ただ果汁だけは好んでいるようで、結果乳の代わりに果汁を与えていたのだ。
乳母や側仕えの者は、乳を拒否するセフィロスが異常すぎて、ほとほと困り果てていたのだが、不思議と父王はそうではなかった。
父王はむしろセフィロスが普通の赤子でないことに、満足しているようだった。
そんな時にやってきた聖仙は、赤子であるセフィロスを前に、感動の涙を流す。
驚く周囲を前に聖仙はこう告げる。
「これは素晴らしく貴い方だ」
「この世にあり剣を取れば、長じて地を支配する天輪王となられるであろう」
「出家の道をとられれば、この世を救う覚者、聖王となられるであろう」
父王の歓びは大きなものであった。
彼は驚喜し、セフィロスを天輪王とすることを決めたのだ。

***
ここまで


+ '08年03月05日(WED) ... ブッダという真理その11 +

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続きです。

***
「クラウド、仏陀として彼の者を必ず覚醒させなければならない」
「普遍の真理の為にも――」
何より、
「末法を迎えるであろう、この世界の為にも」
クラウドに言葉を尽くすルーファウスに、ザックスは嫌な感じがする。
――何か企んでるのか!?
普段のルーファウスは理由などいちいち解かない。
ただ命じるだけ。
己の命令に沿わないであろう者に対しては、そもそも命じることさえしないのだ。
それが今回は明らかにルーファウスの命令を聞かなさそうなクラウドに対して、ここまで言い募ってでも従わせようとしている。
――いや、違うな…
――従わせるっていうんじゃないな。
これは、
――ルーファウスはクラウドに行かせたいんだ。
どこに?――仏陀となるべき者の元へ。彼の夢の中へと。
ザックスが己の思考の虜になっている間にも、ルーファウスの説得は続く。
クラウドも頑ななままではあるが、徐々にルーファウスの言葉に耳を傾けようとしている。
元よりクラウドはルーファウスの命令に従うつもりなどないだろうが、普遍の真理なるものを求め続けているのも事実だ。
〜自分の願いを得る為には、何らかの犠牲を払うべきだ。〜
闘神であるクラウドにも、この考えはきっと自分同様根付いているに違いない。
そういう部分では、ザックスとクラウドは似た者同士なところがあった。
ザックスは神王帝釈天である公式の部分ではないところで、クラウドと親交を深くしてきたのも、こんな共通項を感じ取っていたからだ。
神王としての立場を優先すると、クラウドにはルーファウスの命令に従ってもらわなければならないのだろう。
だがザックス個人としては、クラウドの不利になるようなことは、なるべく避けたい。
どうするべきか――とザックスが躊躇っている目の前で、クラウドが鋭く切り返す。
「大梵天はオレにどうあっても、仏陀となる者の夢の中へと入らせたいということか」
――そうだろう?違っているか?
クラウドは馬鹿ではない。
ザックスほどにルーファウスを知っているのでもないが、今回の彼の態度に含むところがあるのは気が付いていた。
切り返されたルーファウスの目が細められる。
核心へと突っ込まれた不愉快さではなく、予想以上に馬鹿ではないクラウドを面白がっているのだ。
「――その通りだ」
タチの悪い微笑を口の端に乗せる。
神王としては相応しくなく、だからこそピッタリな不可思議な微笑だった。
「何故オレにそうさせたいのか?」
ここでクラウドは間を空けて、
「聞いても無駄なのだろう」
「そうだ――」
それに、
「ちなみに、お前が夢の中にはいるのは、仏陀として覚醒させる方法として一番適していることは事実だ」
ルーファウスのうのうと言ってのける。
「大梵天は兜率天随一の知恵者なんだと聞いている…」
「それが本当ならば、オレが真理を求める限り、お前に従わねばならないのだろうな」
「そうだ――阿修羅王は賢いな」
ルーファウスは不可思議な微笑のままで、クラウドを褒めた。
「私は賢い者は好きだ」
それが例え、
「非天であってもな」
クラウドは眼差しをルーファウスに固定したまま、決意する。
「わかった――」
「その者の夢の中へと入ってみよう」
対と好意を持つ非天との間で、ザックスは彼らしくないため息を吐くしかなかった。

***
次回セフィロスの登場です。
だんだんと仏教色が濃くなっていくかも知れませんが、
ただの読み物として解釈してください。

Y子さんにも言われましたが、わからない語句は各自でググってみてください。
ですがあくまでも私アレンジの設定となっておりますので、
必ずしもググって出てきたものには当てはまらない場合もあります。
そこのところは各自脳内補完でよろしくお願いします。

Y子 漢字がむつかしいのです(笑)
ぐぐってます
03/05(WED)22:10:04  [223-1930]


+ '08年03月04日(TUE) ... ブッダという真理その10 +

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続きです。

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元よりクラウドとて、求める答えが簡単に手にはいるとは思っていなかった。
天部や非天には人と同じ意味での寿命はない。
死も老いもあるが、時間はいくらでもある。
それにクラウドは待つのは嫌いではない。
「――解った。待とう」
素っ気なく返答だけをすると、クラウドは玉座にいるルーファウスに背中を向ける。
要件は終わったのだ。兜率宮にもう用はない。
足下にいた鵞鳥たちが名残惜しそうに啼きながら、羽根を広げて見送る。
ザックスも何か一言、と行動に移すよりも先に、ルーファウスが呼び止めた。
「阿修羅王よ――」
「いちいち答えを問いにくる度に、兜率天に攻め込まれては私が困る」
「お前は今日より天部となるが良い」
「神籍を用意しておこう」
意外な申し出にクラウドは足を止めて、玉座を振り仰ぐ。
聞いているザックスもかなり驚いてくらいの、それは破格の申し出であった。
阿修羅族は非天だ。そして地上では悪神と呼ばれる存在だ。
本来ならば兜率天に参上するのでさえ、厳しく規制されるのだ。
理と知の神王ルーファウスは、支配する者の傲慢さそのままに、何より規律を重んじる。
こうやって非天と直答するのでさえ、稀なのに――自ら然るべき神籍を与え天部の列に加えるとは。
――ナンか考えてんな。
ザックスのように好悪のみで動くルーファウスではない。
かれだけにしか解らない、きっと何かがあるに違いないが、残念ながらそれが何なのかザックスには不明だ。
――喰えねぇヤツだぜ、大梵天ってのは。
自分の対であるにも関わらず、ザックスはルーファウスの本性を知らない。
ザックスは真一文字に口を引き結ぶと、ルーファウスとクラウド双方を推し量った。
クラウドもクラウドなりに感じ取っているのだろう。
考えの足りない者ならば大喜びで受けるこの申し出にも、心を動かされているような様子はない。
全てを見通す青い瞳で、ルーファウスを見定めようとしている。
鋭いクラウドの眼差しにも、ルーファウスは動じていない。
足をゆっくりと組んで、クラウドに微笑みかけるのだ。
これでは拉致が空かないと悟ったのだろう。
「――オレは阿修羅王。非天だ」
この言葉を言い残して、クラウドは今度こそ足を止めることなく、兜率宮から去っていったのだ。
阿修羅王クラウドとの会見を終えたルーファウスは、自らの神王の権利を行使した。
よって阿修羅王は非天でありながら天部の籍を持つという、例外的な存在として兜率天では遇されることとなったのだ。

***
短いけどきりが良いのでここまで。

ホントに長くなってごめんなさい。
もうちょいで(次の次くらいで)セフィロスが登場します。


+ '08年03月03日(MON) ... ブッダという真理その9 +

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先週金曜日からの続きです。

***
暫くの間、沈黙が続く。
ルーファウスとクラウドは真っ向から睨み合ったまま、どちらも退かない。
緊張を破ったのはザックスだった。
「もうイイじゃねえか、ルーファウス」
「余分なカッコつけんのは、いい加減ヤメろよな」
いかに対なる者とはいえ、大梵天に対して酷い物言いだ。
だがこれが相容れない対であるルーファウスとザックスの日常会話である。
それでもやはり粗野な無礼は不愉快なのか、ルーファウスはむっつりと押し黙ってしまう。
代わりに問答ではなく、話を進めるのはザックスの役目となった。
「クラウド――俺ら神王には約束事があるんだ」
それはとても重要で絶対の不文律。
ザックスは気軽に“約束事”などと言ったが、その実はもっと重々しい意味を孕んでいる。
もし、神王がこの不文律を破れば、彼らは消滅してしまうのだから。
「まあその約束事ってのはいくつかあるんだが、そのうちのひとつがコレだ」
「“普遍の真理を解き導け”」
クラウドの表情が動く。
いぶかしげな表情はそれでも清らかだ。
全く――悪神だと誰が言ったのか。
「…普遍の真理を、解いて導くのか……?」
それはつまり、現在の段階では解くことも導くことも出来ていないというのとなのか?とクラウドが言葉として発する前に、続きを繋いだのはルーファウスだ。
「その通り――」
「つまり我々兜率天はお前が求める“普遍の真理”をまだ手に入れてはいないのだ」
「そして我々では、“普遍の真理”がこれなのだとは、明確にして指し示すことは出来ない」
ただし、
「我々は普遍の真理を解く方法も、導く者も知ってはいる」
「それは誰だ!」
「仏陀〜最高位の悟りを開いた者〜と呼ばれる者だよ」
「だが彼はまだこの世にはいない」
「時が満ちれば、人間界に産まれる予定となっている」
「人間界――?天部ではないのか?」
その通り。
「仏陀は天部には現れない」
「非天にも現れない。そして神王たる我々も仏陀とはならない」
兜率天には現れないのだ。
仏陀は仏陀として現れるのではなく、単なる人の子として誕生する。
そして彼は長じるに従い己の仏陀たる本性に目覚めていく。
最終的には完璧なる悟りを覚醒し、普遍の真理を森羅万象に示す。
そうやって彼自身の力で兜率天に辿り着くのだ。
「阿修羅王よ、お前が求める答えはその者が与えるであろう」
大梵天でも帝釈天でもなく、仏陀こそがクラウドの求める答えを与えられる唯一なのだ。
「その者の誕生はすぐに迫ってきている」
「阿修羅王よ――答えが知りたいのならば、今しばし待つがいい」
安易に与えられるような、普遍の真理とはそんな簡単なものではないのだ。
いくつもの計画を積み重ね、一見無関係とも言える様々な事象を引き起こす。
そうやって数多なる因果律の糸を寄り合わせていって、やっと世界は仏陀たる者を得ることが出来る。
ルーファウスはそう言っているのだ。

***
ここまで。


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