ラストとなります。
*** こうして抱きしめられていれば、ダイバーパワーなどなくとも、セフィロスの心中など手に取るように伝わってくる。 クラウドは内心、苦笑した。 セフィロスは本当におかしなファティマだ。 それに、 ――けっこうロマンチストなんだな。 彼はそれだけ潔癖な魂を持っているということなのだろう。 残念ながらクラウドはリアリストだ。 生まれはどうであれ、彼がファティマであるというのに代わりがなければそれで良い。 濡れたままの髪に唇をあて、水気を吸っているセフィロスは、やはり赤ん坊のようだ。 そんなセフィロスを突き放せるほど、クラウドは残酷な騎士ではない。 「セフィロス――」 「キスしようか」 こういってから笑いがこみ上げてきた。 ――なんてことだ。 ――男のファティマをベッドに誘うなんて。 迷いながら、戸惑いながら、それでも落ちてきたセフィロスのキスはぎこちなかった。 初対面の時はあんなに濃厚なのを勝手にしかけてきたくせに。 「もう一度――」 ぎこちないのは心の戸惑いの現れなのだろう。 クラウドは恐る恐る重なってきた唇に、自ら舌を忍ばせてやった。 唇が離れると自然とため息が零れる。 鼻先と鼻先とを摺り合わせ、セフィロスの眼差しを見つめた。 翠の瞳は欲望に濡れようとしている。 「セフィロス――」 「次のキスは身体にしてくれ」 「身体の、どこにだ…」 「全部。どこでも。お前のしたいところに」 セフィロスの手を引きながら、ベッドに倒れ込む。 清潔なシーツの匂いがした。 のし掛かってくるセフィロスの銀髪が、視界いっぱいに広がっていく。 ――まるでおとぎ話のようだな。 セフィロスとの最初のセックスは、性行為というよりも、幻のままで進んでいく。 体内にセフィロスが挿ってきた時も、痛みとか快感とかよりも、全てが淡い幻の中での行為だった。 たったひとつ、自分が身体ごとで愛されているのだけは、確かなことだと感じられる。 それが一番必要だった。
数時間後、気怠いまま目覚めたクラウドの前にいたのは、やはりセフィロスだった。 彼はこの世の苦しみを全て背負ったような、沈痛な面もちでじっとクラウドの側にいる。 「…なんて顔してんだ。きれいなのに台無しだぞ」 伸ばした手は、すぐに握られた。 「怒ってないのか…?」 怒る? 「どうして?なぜオレが怒るんだ?」 「オレから誘ったんだぞ」 「そうだな…――クラウドから、誘ってくれたんだったな」 セフィロスの美麗な顔が破顔する。泣き笑いのような表情はファティマらしくないが、クラウドは存分に気に入った。 「ありがとう、クラウド」 「バカ!礼なんか言うことじゃないだろ」 「いや、是非礼は言わせてくれ――」 ――とても、素晴らしかった。 真摯にこう訴えられ、恥ずかしく思わない神経の人間は、いや、騎士もいないだろう。 クラウドはものの見事に赤面し、言葉をすっかりと失ってしまう。 何か言い返そうとは思うものの、恥ずかしすぎて何も出てこない。 そもそもボキャブラリーが豊富な方でも、ましてや口が立つのでもないのだ。 クラウドは早々に白旗を揚げることにする。 「もっと大変なモンかと思ってたけど、案外受け身のセックスもなんとかなるもんだな」 色気も何もないが、これが素直な本音だ。 恥ずかしいからこのくらいにしておきたいのに、セフィロスはやはり許さない。 握っているクラウドの指先を、さも愛おしそうに口づけしながら、 「また求めても良いか?」 「――!」 だから――そんな恥ずかしいことは言うなよ。とか。 そんな予定にたてておくようなものじゃないだろう。とか。 言わないと解らないのか。察しろ。とか。 様々な思考が渦巻いて、クラウドはみっともなく口をパクパクとさせてしまう。 だがそれも――真剣すぎるセフィロスの、いつもと同じような美麗なくせに、どこか情けない表情を前にすると、やっぱり白旗を揚げるしかなくて。 「――いいよ」 「毎回応じられるかはわからないが…」 「オレもお前とのセックスは、良かったと思う」 セフィロスの目元が緩む。 本当に優しい、零れるような笑顔に、クラウドは自然にそっと目を閉じてしまった。 セフィロスとの距離がすぐに近づき、もう何度目か数え切れないキスがやってくる。 キスはどんどんと深くなり、その深さに比例してセフィロスの身体が乗り上がってきて、ファティマの手がまだ裸のクラウドの肌をまさぐり始めた。 すっかりイイ気持ちになりかかっている所に、無粋な電子音がつんざく。 セフィロスは当然のように無視しようとしたが、残念ながら彼の愛しいマスターは真面目で勤勉なのだ。 「セフィロス!ストップ」 まるで躾を受けている犬のように言われてしまうと、さっきまであったとろけるような雰囲気は、あっという間にかき消えてしまった。 どうやら――クラウドは淡泊な質らしい。 セフィロスは渋々ながら手を止めたが、それでもクラウドの側からは離れない。 彼はそこまでは咎めなかった。 ずっとひっきりなしに鳴っている電子音に応じる。 『――すまねぇ。俺だ。眠ってたか?』 クラウドの想像通り、バレットからの通信だ。 彼なりに気を利かせているのか、モニターは切ってある。 「いや。なんだ?」 『エアリスからの通信だ。お前さんらの宿がわからなくて、コッチに繋がってきたんだ』 「ああ、悪かったな――繋いでくれ」 繋がるまでの僅かの時間、クラウドは自分の身体から離れようとしないセフィロスに振り返り、 「ソルジャーの話、エアリスにしてくれるな」 ソルジャーの話をするとなれば、セフィロスの話にも及ぶだろう。 だがそれでも、セフィロスがクラウドのファティマで有り続けるのならば、隠しておけない事。 クラウドはその決意をセフィロスに確認しているのだ。 はっきりとクラウドの意図を理解したセフィロスは、 「ああ――もちろんだ」 はっきりと応えながら、目の前にある愛しいマスターの背中に唇を寄せ、強く吸い付いた。 右の肩胛骨の下辺りに、淡い薔薇色の鬱血痕が生まれる。 光を弾くような滑らかな白い肌の上についた証は、クラウドを愛するというセフィロスの誓いであった。
*** これにておしまいです。 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。 えっちまでさせるつもりは、少なくともまだなかったのですが、 どちらも幸せそうなので、まあ良いことにしてください。
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