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+ '08年02月03日(SUN) ... しょうこりもなくダブルパロその12 +

続きです。

***
軽くシャワーを浴びたクラウドは、上半身裸のまま濡れた髪を乱暴に拭いている。
目の前にあるテーブルからあの不思議な石を手に取った。
見れば見るほど不思議な石だ。
普通の石ではない。
――声がする…
ような気がする。
誰かがクラウドを呼んでいる声が、この石から聞こえるような気がしてならない。
「それはマテリアと言う」
むしろ静かにセフィロスはクラウドの背後に現れた。
まだ服も着替えていないらしい。さっきと同じファティマスーツのままだ。
深い陰鬱な影でさえ、この美麗なファティマにとっては、美貌のスパイスらしい。
重苦しく伏せられた眼差しでさえ、宝石のようだ。
そろそろこの美貌に見慣れてきたクラウドでさえ、思わず息を呑んでしまう。
そしてその薄い肉を感じさせない唇から漏れた言葉、マテリア――もちろん初めて耳にする音だ。
クラウドが疑問を投げるよりも先に、セフィロスは言葉を続けた。
「マテリアは星の命脈、ライフストリームが結晶化して出来たもの」
「そしてマテリアは優秀な媒介でもある」
「媒介?」
そうだ。
「マテリアは魔法を引き出すことが出来るのだ」
「ダイバーでない普通の人間でも、訓練すればマテリアを用いることによって、魔法を操れるようになる」
「誰でも、ダイバーとなれると言うことか?」
「生まれ持つ向き不向きもある。ハードな訓練も必要とするが、まあそんなところだ」
不機嫌さをますます色濃くしながら、セフィロスはむしろ口調は素っ気なく続ける。
「あやつらは、戦士、ソルジャーだ」
騎士ほどではないが、人間以上の能力で襲いかかってきた敵達。
そして、魔法まで使っていた。
「あれはソルジャーと言うのか…騎士の亜種のようなものなのか?」
「騎士などではない!」
断じて、あれは騎士などではない。
「人工的に騎士を作ろうとした挙げ句に出来てしまった、騎士の失敗作のようなものだ」
人工的に、ということは。
「薬物か?」
「いや、違う。薬物などではない――」
薬物よりも恐ろしいもの。
「人を魔晄漬けにするんだ」
「魔晄と言えば――神羅が開発したエネルギーのことか!」
そうだ。とセフィロスは重々しく頷く。
「魔晄は単純なエネルギーではない」
神羅はそこに目をつけた。
「防護なしに人を長時間魔晄に晒すと、ほとんどは狂う――」
狂う確率は9割5分以上。正真正銘の“ほとんど”だ。
「だが稀に狂わない人間もいる」
「その人間は魔晄の作用によって、騎士ほどではないにしろ、人間以上の能力を得ているのだ」
それがすなわち、ソルジャー。

話し終えたセフィロスに、クラウドの蒼い眼差しが向けられる。
ひたりと向けられ、その目映さにセフィロスは戦慄を禁じ得ない。
「セフィロス――」
「どうしてそのことを、お前が知っているんだ?」
向けられて当然の疑問だ。
セフィロスは苦々しさのあまり、思わず顔を背けようとするが、クラウドが優しく逃げるのを許さない。
彼は俯こうとしたセフィロスの頬に、そっと手を置いたのだ。
無駄のない肉の薄い頬を、クラウドの手がそっと包み込む。
あくまでも幼子にするかのような優しい動きであったが、セフィロスにとってはどんな箴言よりも覿面であった。
たまらず、セフィロスは長い腕を伸ばして、クラウドを包み込むように抱きしめる。
シャワーの後の、まだ上気した肌。水が弾ける弾力。
騎士らしくしっかりと鍛えられているが、クラウドの持つラインはどこか伸びやかで幼いままだ。
クラウドの持つ美しさは天然のもの。
人などではない、創造主が愛おしんで生み出した。それがクラウドなのだ。
自分がどれだけこのマスターを請うているのか、セフィロスは泣き出したくなってしまう。
「俺は、普通のファティマではない」
「…そうだな」
そのことは、セフィロスを娶ったクラウドにもすでに解っていることだ。
「ファティマは100%人工DNAが元となり作られるが――」
「俺はその元の段階が違うのだ」
セフィロスはクラウドの金髪に鼻先を埋める。
まだ濡れている金髪。髪に含まれている水分を口づけて吸い取った。
「俺は――神羅が魔晄採掘の時偶然発見した…」
――クラウド。どうか…
「魔晄の海で眠っていた、人外異種生命体のDNAを元に作られたのだ」
――どうか、俺を嫌わないでくれ。
「その人外異種生命体は現在も神羅の研究室にあって、宝条博士が管理している」
「宝条は、人外異種生命体を様々な実験に用いていて、ソルジャーもその実験のひとつから派生したものだ」
「もちろん、俺も――宝条の実験サンプルのひとつとして、生み出された」
「ソルジャーという人工騎士を作り上げる理論の基礎とされたのだ」
人でもない。
だが普通のファティマでもない。
人工生命体であっても、実はそれだけでもない。
人ではない人外の、しかもこの星団には有り得ない異種の、そんな化け物のDNAから自分が成り立っているのを、セフィロスはどうとも感じてはいなかった。実験のサンプルになるのも、何も感じなかった――ただし、クラウドに会うまでは。
ただのファティマならば良かった。
騎士とファティマならば、似合いの一対として公にも認められる。
だがどうだ。自分はファティマの皮を被った人外異種生命体だと知られれば、クラウドはどう思うだろうか。
嘲られるのも罵られるのも、恐れられるのも嫌われるのも――耐えて見せよう。
だが、クラウドの側にいられないのだとしたら――どうなる?
一番恐ろしいのは絶望という虚無だ。
どこまでも空っぽの果てのない深淵を、ただひとりで覗き込むこと。

***
次ラストとなります。


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