昨日の続きです。 ♪、ありがとうございます。
*** ザックスの意識に阿修羅王の言葉が響く。 「オレ達阿修羅族は、兜率宮の命じる通り、雨や風を起こし嵐を呼んできた」 阿修羅族とは天部ではない、その地域に根付いた神の一部族であった。 暴風雨を司っている。 「帝釈天よ――知っているか?」 「嵐が起こると作物が育たなくなる」 「作物が育たないと飢饉となる」 人がバタバタと面白いように死んでしまう。 人が死ぬだけではない。それだけではないのだ。 「死人が増えると次は疫病だ」 ここで始めて阿修羅王が嗤った。自嘲の凍り付くシニカルな笑みだ。 「そうやってオレ達阿修羅族は悪神と呼ばれるようになったのだ」 大梵天のプログラムに従った、これがひとつの結果なのだ。 だが、 「俺達が悪神と呼ばれることはどうでもいい――」 問題はそこではない。 「オレ達を悪神と呼ばせるほどに、それだけ人を惨くすることに、何の真理があると言うのか」 ――それを教えてもらいたい。 「答えをもらいうけるまで、オレ達は闘い続ける」 姿形と同じく、男にしては繊細な声は、ザックスへと静にしみいってくる。
――コイツは間違っていない。 剣を握る己の手に視線を落とす。 ――コイツとは戦えねえな。 闘いを仕掛けてきた阿修羅族よりも、確たる答えを与えられなかった兜率天の方が、ずっと罪深い。 顔を上げた時には、すでに定まっていた。 ザックスは愛嬌たっぷりの大きな笑顔を阿修羅王に向けると、腹の底から一喝する。 「ヤメロ!」 正しく吼えたのだ。 神王帝釈天の一喝は戦場の隅々まで届く。 「俺はもう阿修羅族とは戦うわねぇ」 「お前らも刀を引っ込めろ」 戦場のまっただ中で、何という無茶なことを。 それでも天部達は神王の命令に従うしかない。 また、刀を引いていく敵に対して、阿修羅族もこの絶好のチャンスを使おうとはせず、天部と同じく戦いの手を止めてしまい、自分の王を仰ぐ。 阿修羅王は無表情なままで、ザックスの前に立つ。 人形のようなきれいな顔に、ザックスは再び笑いかけ、 「大梵天に会わせてやる――来な」 「あと、俺の名はザックスってんだ。こっちの名前で呼んでくれ」 神王が真名を教えてしかも呼んでくれと願うのは、とても破格なこと。 ザックスの気持ちはしっかりと伝わった。 やがて阿修羅王は表情を少しだけ緩め、 「オレは阿修羅王クラウドだ――」 自らも真名を名乗る。
ここに阿修羅族との永きに渡る戦いは終結したのだ。
*** 今回はここまで。
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