続きです。
*** ファティマは一般には騎士の85%の能力を有しているとされている。 裏返してみれば、ファティマとは騎士以上の能力を持たないように制限されているのだ。 ただし物事はいつもどこかに例外がつきもの。 ファティマの例外はこのセフィロスだ。
一人目の敵と遭遇する寸前、セフィロスはクラウドから投げられた刀を空中で受け取った。 刀の銘は正宗。 クラウドに娶られたセフィロスが、唯一持参した品物がこれだ。 セフィロスの生みの親の一人となる、ガスト博士がくれた刀だった。 騎士でもないファティマが、自分所有のスパッドや刀を持つことはない。 だがガスト博士は正宗をセフィロスに与えたし、クラウドもまたセフィロスが正宗を所有することを認めてくれたのだ。 正宗は実剣にしては非常に刀身が長く、セフィロス以外には非常に扱いづらい得物であった。 クラウドも自分の身体の大きさと大差ない大剣を奮うが、彼にしては正宗は軽すぎるらしい。 軽すぎて、これでは存分に振り回せないというのが、クラウドの感想だった。 それに、きれいすぎて怖くなるような剣だ――とも。 正宗の長い刀身は、背筋が凍えるような曲線を描いている。 むしろ緩やかな反り具合の曲線は、他の形容〜優美だとか、典雅だとか〜も当てはまるだろうが、それよりもやはり刀を見つめているとゾクリとした震えが足下からせり上がってくる、そんな妖艶さがあるのだ。 「これは魔剣なのかもな」 人に魅入り、血を求める。 そんなあやかしを秘めている剣なのかもしれない。 クラウドはそう言ったが、だといってセフィロスが正宗を持つのには反対しなかった。 むしろ、 「その方がお前らしいな」 と笑ってさえみせたのだ。 クラウドの許しを得た瞬間から、正宗はセフィロスの愛刀となった。
セフィロスは正宗を鞘から抜き放つと、みねの部分で敵を打つ。 クラウドは殺す気はなさそうだ。とすれば、ファティマは騎士の意向に従うべきなのだ。 胴体部分は急所の塊だ。当たり所が悪ければ、即死させてしまう可能性もある。 セフィロスはまず手足をもいで、敵の機動力を削ぐことにする。 計らずしもマスターであるクラウドと同じ行動となるが、これが一番有効なのだ。 みねで右足を。返す刀、鞘の部分を使い利き手である右腕をうつ。 ――!? 攻撃は見事に決まり、敵は声もあげられない苦悶の中で、地面へと落ちていくが、セフィロスはある違和感を覚えていた。 ――騎士ではない… そして、 ――これは、普通の人間でもない。 薬物を投与しているのか――と考えたクラウドとは違い、セフィロスにはある心当たりがあった。 ――まさか… 思索するセフィロスの目前に、もう一人の敵が迫ってくる。 その敵が持つ実剣の鞘に填っている、独特の輝きを持つ石を見つけて、セフィロスの疑念は裏付けられた。 あまり大きくはない石。手に持てる大きさの、これはだがただの石ではなく―― ――マテリア!? マテリアを用いて戦うのは、決まっている。 ――これが、ソルジャーか… 人工的に騎士の能力を与えられるべく、改造された人間。 これを研究者達はソルジャーと呼んでいた。
いいや。ソルジャーはまだ理論上だけのものだったはず。 実用化されるなど有り得ない。 いや、現に目の前にいるではないか。 騎士には劣る。だが、人間以上。 それにあのマテリア。何よりの証拠。 様々な考えに囚われそうになるセフィロスの目の前で、敵は鞘に填っているマテリアに手を翳し、ぶつぶつと何事かを呟きだす。 ――呪文の詠唱か! 本来ならばダイバーしか扱えない“魔法”を、ダイバー以外の者でも引き出せるようにさせる為の儀式。 こうなるとセフィロスの攻撃に躊躇はなくなる。 正宗の刃を向け、セフィロスは瞬きひとつもない高速で動く。 そしてまず、マテリアが鞘に填っている実剣を持っている左手を、肩関節から切り捨てる。 「あガあああァァ」 次の瞬間、黒いグローブをつけた右手で、敵の喉を潰した。 これで呪文の詠唱は出来なくなる。 ――そうか。これが騎士行方不明の理由か。 戦闘能力だけならば、疑似騎士ソルジャーよりも騎士の方が数段上だ。 だがマテリアを使った魔法があるとすれば、話は変わる。 時速180キロのスピードのまま無防備に突進したとして、そこに炎でも氷でも電撃でも、魔法をまともにくらったとしたら、スピードの分だけダメージは絶大となってしまう。 ソルジャーとしての知識があるセフィロスだったからこそ、容易く対応できたが、ダイバーでないと気を許して戦っていたとして、魔法を受け、そこを捉えられたとすれば―― ここでセフィロスはハッと気づく。 クラウドの足下に二人。 セフィロスが二人。 敵は5名いたはずだ。とすれば、残りのあと一人は… (敵は騎士を狙っているのだ) 「クラウドっ!」 喉も張り裂けよと、セフィロスは愛しい騎士の名を叫ぶ。
*** また明日。
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