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+ '08年02月29日(FRI) ... ブッダという真理その8 +

続きです。

***
己の鳥獣が初対面のしかも敵対している非天の足下に蹲るのを、ルーファウスは余裕をもって眺めていた。
阿修羅族の王であるのにも関わらず、繊細な容姿は、生き物が一番危うくだからこそ一番研ぎ澄まされた時をそのまま象ったようだ。
彼よりも美しい天部はたくさんいる。
もっと容姿の整った、そして自ら己の容姿を保つ努力をする者たちも、ルーファウスは数多く会ってきた。
今目の前にいる悪神とされる非天は、ルーファウスがこれまで出会ったども者たちよりも、全くの未知である。
鵞鳥がどうして阿修羅王の元に自ら近づき、啼いて羽根を広げて見せて、アピールしたのか、その理由をルーファウスは解っていたのだ。
魅力ある未知に、賢い者は惹かれるのだ。
強い好奇心はそのうちに願望へと変わっていく。
鵞鳥たちは阿修羅王という未知に興味を抱き、好奇心をそそられた。
だからこそ側に行き関心を求めてみせた。
鵞鳥たちの関心は満足したのだろう。
よって好奇心は願望へと姿を変え、阿修羅王の足下に座すこととなったのだ。
鵞鳥の想いは手に取るように解る。
何故ならば――ルーファウス自身でさえも、この非天に強い好奇心を抱いてしまっているのだから。
それは単に毛色の違う者への、深い意味のない珍しさからきているのかも知れない。
だが、もしかしたらそうではなく、それ以上の意味があるのかも――
なにせ、
――ザックスが進んで連れてきたのだからな。
大梵天ルーファウスは己の対たる武神を侮ってなどいない。
特に本能的な部分。刹那に本質を見極める鋭さについては、密かに一目置いているくらいなのだ。
食わせ物な対、帝釈天ザックスが自分の様子を窺っているのを黙殺しつつ、ルーファウスは自ら口を開いた。
「――阿修羅王」
クラウドの眼差しが真っ向から向けられる。
生き物を死へと追いやる悪神とされながらも、クラウドに下品な生臭さはない。
なんの感情を表さない青い眼差しは、実に淡々と事実だけを見定めようとしていた。
「阿修羅王よ――お前は何故に私の前にやってきた」
答えはすぐに簡潔に与えられる。
「真理を求めて」
「真理、か――」
ルーファウスが喋るたびに、その貴い身を包む天衣が揺れる。
天衣はそれ自体も淡く発光しており、玻璃の煌めきとの相乗効果により、大梵天を彩る光背のようだ。
だがそれすらもクラウドには特別な感慨を抱かせないらしい。
少年の姿形をした悪神は、淡々とした態度を崩さないままだった。
「阿修羅王に問う」
「お前が求める真理とは何物ぞ」
「普遍の真理――」
「この世にいる生きとし生けるもの皆に共通するもの」
「何故に悪神であるお前がそのような真理を求めるのだ?」
悪神――はっきりとこう名指しされても、クラウドの態度には僅かな変化もない。
さっきからルーファウスが問答という皮を被り行っているのは、阿修羅王に対する挑発である。
元よりどこか他者を見下す傾向にあるルーファウスではあるが、さすがに時と場所と相手はわきまえていた。
それを今は剥き出しにしている。
もっとも阿修羅王は兜率天に攻め込んできた敵なのだから、そのような態度になるのも当然なのかも知れないが、ザックスはかえってそんなルーファウスにある種の違和感を覚えていた。
違和感と言っても悪いものではない。
胸がおかしなほどに高揚する、それは予感であった。
「オレは確かに悪神だ――」
だからこそ、
「オレは真理を求めるのだ」
ほほう。
クラウドの返答にルーファウス形の良い顎を上げた。
「悪神は探求者でもあるというのか」
「さあな。オレをあんたがどう呼ぼうと、興味ないね」
はっきりしているのは、
「オレは阿修羅族の王であるということだ」
「天部ではない。神と呼ばれるものでもない――オレは非天だ」
「天部でなければ真理を求めてはならないのか?」
「人でなければ知りたいと思ってはならないのか?」
そうだとするならば、
「そんなモノは、オレの知りたい真理ではない」
この世界の頂点たる兜率天に刃を向けたクラウドに、すでに迷いはない。

***
本日はここまで。

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+ '08年02月28日(THU) ... ブッダという真理その7 +

続きです。

***
口の端にあるかなしかの笑みをたたえたまま、大梵天ルーファウスは玉座から阿修羅王を見下ろす。
足下に控える四羽の鵞鳥が時折羽根を動かすささやかな音だけが、玻璃の煌めきの中に溶けていく。
一方の阿修羅王クラウドも堂々たるものであった。
彼はこの玻璃の広間を興味深げに見渡しはしたが、広間の豪華絢爛さに心打たれて見渡したのではなく、単純に知らぬ場所に連れてこられたという闘神の本能がそうさせたのだ。
広間を見渡しこの場での戦いのポイントや、脱出するとしたならばどこからが最適なのか、そういう諸々を冷静に推し量っている。
一通り広間の検分を終えたクラウドは、そうしてからやっと一段高い場所に座しているルーファウスへと関心を向けた。
細い手首に環となっている黄金の腕釧が、さらりと澄んだ音を立てる。
じっと座っていた鵞鳥がその音に反応した。
ゆっくりと首を巡らせて、初めて見る非天に焦点を当てた。
簡素な衣に胸甲だけをつけただけではあったが、戦いの最中であったというのに、クラウドはどこも見苦しくはない。
むしろザックスの方が、甲についた深い傷が戦場の生臭い埃となり漂ってくるようだ。
いくら武神といえども、雅やかではない。
鵞鳥たちはじっとクラウドを見た後、ルーファウスの足下から動き出す。
それも四羽とも。玉座から降りて、クラウドの側へと近づいていったのだ。
この様子に三者は三様に反応する。
まずはザックス。主の対である自分にさえも、いつまでたっても慣れぬ気位の高い鵞鳥が、しかも四羽とも、初対面の非天に並々ならぬ破格の好奇心を示すことが、純粋に面白いらしい。
腕組みをした顔はニヤけていた。
次に鵞鳥の主であるルーファウス。
彼は無意識にあった微笑を引っ込め、黙したまま鵞鳥たちの動きに注目していた。
そしてクラウド。少年の形をした阿修羅王は、自分の元にやってくる鵞鳥に見向きもしない。
気が付いていないのではなく、関心を払っていないのだ。
その証拠に、足下近くまでやってきた鵞鳥たちが「くくぅ」と啼いて羽根を広げると、驚いたように視線を下ろしたのだ。
鵞鳥はクラウドに構って欲しいのか。それとも威嚇でもしているのか。
四羽ともが短く啼きながら、極彩色の羽根を見せつけるように広げるのを認めると、
「――お前達の羽根はとてもきれいだな」
クラウドがこの広間に来て最初に語った相手は、鵞鳥だった。
「オレに見せてくれるんだな」
「――ありがとう」
非天の発する澄んだ声に鵞鳥は嬉しそうだ。
「ぐわぐわ」と啼くと、そのままクラウドの足下に座り込んでしまう。
玻璃の床に極彩色の羽根は美しく映える。
クラウドは単純に、そのコントラストを愛でた。

***
ここまで。


+ '08年02月27日(WED) ... ブッダという真理その6 +

続きです。

***
あの戦いの結末に、帝釈天ザックスによって、二人は始めて邂逅した。
兜率天の中心たる須弥山の高い頂に、兜率宮がある。
天井も床も、柱さえも玻璃で作られた広間に大梵天はいた。
それはクラウドが見たこともないような、神秘の光景である。
玻璃なのに向こう側は透けて見えない。だが光の屈折率は異様に高く、一の光を千にも増幅させて、広間全体を煌めくのだ。
つまりはその煌めきでさえ、大梵天の権威を象徴づけるものであった。
並の天部ならば煌めきに負けてしまい、眩しくて到底大梵天の姿など直視出来まい。
その上大梵天は煌めきの中心に静かに座しているだけなのに、とんでもなく神々しい存在となっているのだ。
数千年に渡る宿敵阿修羅王を迎えても、大梵天ルーファウスは静に玉座に座しているだけだった。
あるかなしかの笑みを含んでいるのは、いつものこと。
付き合いの長い対であるザックスには解っている。ルーファウスのこの表情は、無表情なのと同じであるということを。
つまりルーファウスは宿敵阿修羅王を、何の感慨もないままに、兜率宮に迎え入れているのだ。
敵に対する怒りもない。嘲りも嘲笑も、ましてや恐れすらもない。
神王たる大梵天ルーファウスとは、兜率天というシステムそのものであった。
兜率天というプログラムを緻密に計算して、実行にうつしていくという体制の要。
また兜率天というシステムアナリシスもやってのける。
武神ザックスとはまるで役割の違う神王なのだ。
玉座に座ったまま玻璃の煌めきに囲まれているルーファウスは、それだけで一個の芸術作品のよう。
ルーファウスに初めて対面した者は天部であろうと誰でも、穏やかではなくなってしまう。
無言の圧力に屈してしまい、負けないようにとことさら威圧的に振る舞うか、怯えて卑屈になってしまうか。
ルーファウスからは何もしない。
ただこの広間へと通して、黙して座っているだけで、相手の本質が暴露されるのを眺めているだけで。
今回もそうだった。
阿修羅王を前にしても、ルーファウスは静かに玉座に座して、黙っているだけ。
ザックスも、ルーファウス自身がクラウドの言い分に耳を傾けるかどうかについて、口を挟む気はないのだ。
そもそもルーファウスが、他人の〜例えそれが対たるザックスの言うことでも〜裏付けのない頼みに心を開くことなどない。
ルーファウスは彼自身の耳と目で情報を集め、それによって自分の頭で判断する。
またルーファウスに己を認めさせることが出来なければ、クラウドそれだけの男でしかなくなってしまう。彼の戦いの意味など、完全になくなってしまうのだ。

***
本日はここまで。
♪、毎回ありがとうございます。
本当に嬉しいです。励みとさせていただきます。


+ '08年02月26日(TUE) ... ブッダという真理その5 +

続きです。

***
文句を苦い表情でググッと呑み込んでいくルーファウスを前にして、クラウドが耐えきれずに小さく笑う。
そんなあくまでも傍観者であるクラウドに対し、ザックスへの憤りも込めて、ルーファウスは鋭く睨み付けた。
だが怖気震え上がらせるほど眼差しが冷徹になれないのは、クラウドの笑顔を好ましいと感じているからだ。
皮肉以外で微笑むクラウドは、阿修羅という鬼とは思えないほど、可憐となる。
ルーファウスが気を悪くしているのを見取ったクラウドは、ザックスへの助け船というよりも、むしろルーファウスの為に、話の進行を手助けすることにした。
「それで大梵天はオレ達に何をさせたいのだ?」
ザックスだけとの遣り取りではどうしようもないと手詰まりだったルーファウスは、交渉相手をクラウドへと切り替え、
「クラウド――確か阿修羅族は夢に干渉出来たな?」
普通神王も含め天部は、人に夢による暗示を与えることは出来た。
それはあくまでも暗示のみ。摩耶夫人の胎内にザックスの六本牙の白象が入る夢も、ルーファウスによる暗示のひとつである。
阿修羅族はそれ以上のことが出来るのだ。
夢に直接入り込み、夢の中で実際に対面も出来る。
それどころか触れ合うことさえも可能。現実に邂逅しているのとほぼ遜色ない。
人の夢というものは、往々にして普段隠し通している本音がこぼれ落ちる場所だ。
「仏陀となるべき王子の夢に入り込み、王子の本心を読みとってもらいたい――」
そして出来るならば、
「王子に仏陀となるように、促してもらいたい」
いぶかしげに目を細めるクラウドに代わり、ザックスが反論を上げた。
「ちょっと待てよ」
「それってプログラムの倫理に抵触してないか?」
人界におけるプログラムを遂行する際、厳格な倫理が要求されるものだ。
特に神王や天部が人界に干渉するには、多くの制約が設けられている。
人より優れた存在である神王や天部が、自分たちの思いのままにプログラムを進行させるのを“強制”させないためだった。
つまり緻密で完璧なプログラムでも、現実に実行出来るかどうかに偶然という名の不確定要素も盛り込まれているのだ。
この場合白象を使った仏陀誕生の暗示は許される。
ルーファウスがザックスとクラウドを呼びつけるまでに打った手も、この制約範囲内のものだった。
だが実際に天部が仏陀と対面して、強引に覚醒させるのはかえってプログラムの円滑な進行の妨げになるとされており、仏陀覚醒はあくまでも本人の自主性が基本とされている筈なのに…
ザックスの反論など、ルーファウスの予想内のものだ。
「抵触はしない――」
現実世界で出会えば、ザックスの言うように制約に引っかかるが、
「だから夢だ」
「現実には会わせない」
あくまでも夢の中だけで止めるのだ。
「クラウド。どうだ?やってくれないか?」
大梵天ルーファウスの願いに、阿修羅王クラウドは首を緩く振ってシニカルな笑みで応じた。
「いいや――断る」
「第一、オレは天部ではない。非天だ。ルーファウス、あんたの命令に従ういわれなどない」
それに、
「いくらプログラムが予定通りに進行していないからと言って、仏陀となるのを強制する言われはないな」
果たしてそれが完全なる覚醒者に相応しいのか。
それに――興味ない。
素っ気ないクラウドにルーファウスは動じなかった。
この反応さえも、ルーファウスの想定範囲内なのだ。
「いいや、クラウド――お前は私の願いを聞かねばならない理由があるのだ」
「?」
「兜率天に攻め入ってくるほどお前が欲しがっていた“普遍の真理”――」
――いいか、クラウド。
「仏陀とは“普遍の真理”を我々に示してくれる唯一の存在なのだからな」
仏陀への覚醒なくして、クラウドの求める真理は得られない。
だからこそ――私に力を貸すのだ。

***
始め頭で考えていた時は、短い小話程度の予定だったのですが、
本当に予定は未定ですね。
セフィクラがまだ出会ってもいないなんて。
最後まで飽きずにお付き合い頂けますと有り難いです。


+ '08年02月25日(MON) ... ブッダという真理その4 +

土日とお休みをいただきました。
続きです。

***
大梵天ルーファウスは冴えた一瞥を対に投げかけると、話を進める。
ザックスとじゃれている場合ではないのだ。
「ザックス――私がお前の白象の姿を借りた時のことを覚えているか?」
神王には鳥獣が僕としてついている。
大梵天ルーファウスは四羽の鵞鳥。
帝釈天ザックスは白象であった。
ザックスは文字通り首を捻りしばしの間考える。
やがて思い当たったのだろう。
「あの時か!」
「人間界の女に送った時のことだろう」
「そうだ――人間界の女の夢の中に、お前の白象の姿を借り手送った時のことだ」
さりげなくザックスの記憶の補足説明をいれて、ルーファウスは要件に入った。
「我々は仏陀を人間界に降臨させるプロジェクトを始動させた」
人間界の暦で27年前、このプロジェクトは始まったのだ。
「まず我々は白象を釈迦族王妃の夢の中に送り込んだ」
ザックスの白象は六本牙の形をとって、釈迦族王妃摩耶の胎内に入ったのだ。
そうやって仏陀を人界に降臨させる道筋を作った。
「王妃は見事に懐妊。月満ちて仏陀を産み落とした」
他の人間と同じ産道からではなく、彼女は右脇から子供を産み落として、一ヶ月後に死んだ。
いくらまだ未成熟で幼い赤子でしかなくとも、仏陀を降臨させる奇依となるには、人の女はあまりにも脆弱すぎたのだ。
摩耶は文字通り己の生命力を全て注ぎ込んで、仏陀を降臨させた。
仏陀となるべき子供はこうして人の世に生を受け、王の息子として健やかに育っていたのだが――
「覚醒が遅すぎる」
「プログラムによると、彼はすでに仏陀としての道を踏み出してなければならないというのに」
仏陀となるべき身でありながら、妻と子供をもうけ、時を無為に過ごしている。
少なくともルーファウスにはそう見えるのだ。
彼には絶対仏陀となり覚醒してもらわねば困る。
彼が仏陀とならなければ、真理どころか人の世は乱れ、末法へのカウントダウンが設定以上に早く進んでしまう。
そうなると56億7千万年後に現れる最終救世主弥勒の発動が上手くいかなくなる。
全ては緻密にプログラムされているのだ。
ひとつの遅れは全体の遅れへと繋がり、結果失敗を引き起こしてしまう。
プログラムを組み、正常に発動させ、進行させていく。
そうやって天地と人を真理へと導いていくのが、神王の第一の使命なのだ。
それが解っているのかいないのか、対であるザックスは暢気なもの。
ざんばらに切られた髪を掻きながら、
「ルーファウス。お前がちょっと働きかけてやれば、それで済むだろうに」
などと言ってのける。
ルーファウスは本日何度目になるかのため息をつきつつ、
「それがどうしようもないから、お前達を呼んだのだ」
「お前、もうなんかやってたのか」
――当たり前だろう。
プログラムの進行が遅いと感じた時点で、ルーファウスに打てる手はすでに打っているのに決まっているだろうに。
ルーファウスの打った手に、何の効き目もないからこそ、お前達を呼んだのだ。
と、ザックスに向かって言いたいことは山ほどあるが、ここで一々文句を垂れても、目の前の脳天気な神王は気にもすまい。
長い付き合いなのだ。そのくらいのことルーファウスはわきまえている。
なにせ大梵天というものは、理と知の神王なのだから。

***
今回はここまで。

びーこ ♪&拍手、コメントなどありがとうございます。
下の位置からではありますが、コメントをお返しさせていただきます。

20日21時、新たなメモ連載について、の方>
お読みいただきましてありがとうございます。
この話では、私の創作設定が多くなると思われますので、
学生時代にお勉強されたものとは、微妙にちがってくるでしょう。
その差違も楽しんでいただけると嬉しいです。

24日5時、N様>
メモ連載もSWも楽しんで頂いているようで良かったです。
どちらも最後までお付き合いいただけますと、嬉しいです。

他にも返信不要のコメントを頂いています。
ありがとうございました。
大切にさせていただきます。

02/25(MON)14:34:40  [215-1803]


+ '08年02月22日(FRI) ... ブッダという真理その3 +

昨日の続きです。
♪、ありがとうございます。

***
ザックスの意識に阿修羅王の言葉が響く。
「オレ達阿修羅族は、兜率宮の命じる通り、雨や風を起こし嵐を呼んできた」
阿修羅族とは天部ではない、その地域に根付いた神の一部族であった。
暴風雨を司っている。
「帝釈天よ――知っているか?」
「嵐が起こると作物が育たなくなる」
「作物が育たないと飢饉となる」
人がバタバタと面白いように死んでしまう。
人が死ぬだけではない。それだけではないのだ。
「死人が増えると次は疫病だ」
ここで始めて阿修羅王が嗤った。自嘲の凍り付くシニカルな笑みだ。
「そうやってオレ達阿修羅族は悪神と呼ばれるようになったのだ」
大梵天のプログラムに従った、これがひとつの結果なのだ。
だが、
「俺達が悪神と呼ばれることはどうでもいい――」
問題はそこではない。
「オレ達を悪神と呼ばせるほどに、それだけ人を惨くすることに、何の真理があると言うのか」
――それを教えてもらいたい。
「答えをもらいうけるまで、オレ達は闘い続ける」
姿形と同じく、男にしては繊細な声は、ザックスへと静にしみいってくる。

――コイツは間違っていない。
剣を握る己の手に視線を落とす。
――コイツとは戦えねえな。
闘いを仕掛けてきた阿修羅族よりも、確たる答えを与えられなかった兜率天の方が、ずっと罪深い。
顔を上げた時には、すでに定まっていた。
ザックスは愛嬌たっぷりの大きな笑顔を阿修羅王に向けると、腹の底から一喝する。
「ヤメロ!」
正しく吼えたのだ。
神王帝釈天の一喝は戦場の隅々まで届く。
「俺はもう阿修羅族とは戦うわねぇ」
「お前らも刀を引っ込めろ」
戦場のまっただ中で、何という無茶なことを。
それでも天部達は神王の命令に従うしかない。
また、刀を引いていく敵に対して、阿修羅族もこの絶好のチャンスを使おうとはせず、天部と同じく戦いの手を止めてしまい、自分の王を仰ぐ。
阿修羅王は無表情なままで、ザックスの前に立つ。
人形のようなきれいな顔に、ザックスは再び笑いかけ、
「大梵天に会わせてやる――来な」
「あと、俺の名はザックスってんだ。こっちの名前で呼んでくれ」
神王が真名を教えてしかも呼んでくれと願うのは、とても破格なこと。
ザックスの気持ちはしっかりと伝わった。
やがて阿修羅王は表情を少しだけ緩め、
「オレは阿修羅王クラウドだ――」
自らも真名を名乗る。

ここに阿修羅族との永きに渡る戦いは終結したのだ。

***
今回はここまで。

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+ '08年02月21日(THU) ... ブッダという真理その2 +

昨日の続きです。
注意書きは昨日と同じです。

***
天部にとってはほんの少し前まで、クラウドは敵であった。
西よりいきなり現れた異形の一族、阿修羅族の常に先陣に立っていたのが、クラウドだったのだ。
兜率宮を護ろうと奮戦するザックスは、四天王と十二神将を率い応戦するが、数の上では勝っているのにも関わらず、数千年経っても決着はつかない。
そのうちにザックスはある疑問を持つ。
――こいつの目的はなんだ?
血を好んでいるのでもない。
刃を交えていれば、そのくらい解る。
かといって欲に駆られているのでもなく。
物欲色欲ともに、阿修羅王クラウドとは無縁であった。
むしろクラウドは欲に薄いのだ。
戦闘が長期となり、さしもの四天王十二神将が果てのない闘いに疲労を濃くしているというのに、阿修羅族の士気は一向に衰えない。
――絶対に何か目的があるはずだ。
こう思いこんだザックスはある手段をとった。
大梵天ルーファウスならば別の方法を選ぶだろうが、生憎ザックスはどこまでいっても戦士なのだ。
下手な小細工や駆け引きなど、ザックスには無縁のもの。
阿修羅王とのサシの勝負の合間、刃を激しく交えながらザックスは問う。
何が目的なのか――と。
少年王は青い眼差しを定め、一言。
「真理を――」
ぎりぎりの極限状態での凄まじい闘いを繰り広げている悪神であるというのに、聖女の如き清楚な唇から出たのは、ザックスの予想など遙かに超えた真摯なもの。
「――真理だって!?」
そうだ。と、阿修羅王は青の眼差しを清冽にして、
「オレにはオレの、あんたらにはあんたらの――」
そして、
「人には人の、獣には獣の、それぞれその時々の真理というものがあるのは、わかっている」
形が違えば種族も違う。根本的に相容れないことだってあるのだ。
そのそれぞれの考え方、立場。その時々の状況や置かれている環境などで、正義も悪も肯も否も、とても簡単に変わってしまう。
さっきまで光を求めて叫んでいたものが、次の瞬間には闇夜を欲するなどザラにあること。
阿修羅王が求める真理とはそういう安易で曖昧なものではない。
「オレは――そんな簡単にブレてしまうような曖昧なものではなく、天地全てに通じる絶対の真理を知りたい」
阿修羅王の言葉はザックスの胸奥にまで突き刺さってくる。
目の前で何かが始めた気がした。心が阿修羅王の言葉を求めて開かれていく。
思わず剣を振るう動きを止めてしまい、ザックスは全く無防備となってしまう。
格好の餌食となった敵の総大将ザックスを相手にしながら、阿修羅王は攻撃しなかった。
彼も体格にそぐわない大剣を引き、静にザックスの前へと立つ。
少女めいた容貌と、繊細に整いすぎて血肉の通っていない人形にさえ見える透き通った肌の下には、激しすぎる信念があるのだ。
そのどれもを、ザックスは貴いと感じた。
「――どうして…」
「真理を求めるだけならば、どうして兜率天に攻め入ってくるんだ?」
阿修羅王の返答はシンプルで明快である。
「普遍の真理というものがあるのならば、それを一番先に示し、天地を導かねばならぬ兜率宮が、いつまで経っても真理を指し示さずに明確にもしないからだ」
指摘されてハッとする。
ザックスは神王帝釈天として、ここ兜率天に有り続けている。
大梵天ルーファウスの対として、ずっと生きてきたのだ。
外部から兜率天を仰ぎ見たことなどない。
――そう言われてみれば、その通りだな。
外部から見てみれば、確かに世界の頂点にある兜率天は、常に仰ぎ見るべき神聖な場なのだ。
神王が兜率天には在り、天部が護っている神域。
この神域こそが、この世を正しく導くべき場なのだとそう思うのも当然なのだ。
だがザックスの良く知る兜率天とは、そうではない。
もっと大いなる意識が描く道筋を、大梵天が緻密にプログラムする。
大梵天の組んだプログラムに添って、天部達は忠実に動いているのだ。
このプログラムに反するものや、プログラムを阻害するものは、武の神王帝釈天ザックスが排除していく。
ザックスの知る兜率天は、そういうプログラムを執行する、ただの一セクションでしかないのだ。
阿修羅王の求める真理など、兜率天にはない。

***
今回はここまで。

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+ '08年02月20日(WED) ... ブッダという真理 +

こんにちは、びーこです。
なんとなくもやもやしているので、趣味丸出しのお話を書きました。
いわゆるひとつの
「心にうつりゆくよしなしごと」
というやつです。
いつもの通りお遊びですので、お付き合いしてくださるかただけ、お付き合いください。

*完全なる趣味とお遊びです。
*FFという世界からは遠いところにあります。
*宗教的な意義はありません。
*色々とねつ造創作しまくっています。
*不明な用語はググってみてください。
(でも私が適当に作った物もありますのでご注意を)
*タイトルは上記のものですが、心のタイトルは『仏像万歳』です。
*漢字変換が非常に難しいです。変換ミスはご容赦ください。

***
兜率天は神の住む世界である。
中央にそびえるのが須弥山。須弥山のいただきにあるのが兜率宮。
兜率宮からは神の世界、欲界色界無色界だけではなく、欲界から遙か下に位置する人間界までをも見通す事が出来た。
ここ兜率宮の主は大梵天と言う。闘神帝釈天とならび多くの天部を率いる神王の一人である。
この時大梵天はここ兜率宮に信頼に足りる二人を呼んでいた。


鮮やかな金の髪を高く頭上でまとめ上げ、繊細な意匠の天冠で飾っている。
そんな大梵天ルーファウスの足下には、四羽の鵞鳥が美しい羽根を畳んで、静に控えていた。
天部の頂に立つ神王大梵天は、理知を讃えるノーブルな姿をしている。
手首の腕釧がさらりとした音を奏でて、天衣の間を滑っていった。
青い瞳は伏せられており、いかにも悩ましげなため息を二度三度と吐いて見せている。
理由も聞かされずにルーファウスに呼びつけられた天部二人は、眼差しで会話を交わして、すぐに小柄な天部はついと顔を逸らす。
まるで「話はお前が聞くのが当然なのだ」とでも言うように。
残りの大柄な天部、大梵天と並ぶ神王帝釈天は、口を子供っぽくへの字にしたが、小柄な天部の態度に反抗する気はなさそうだ。
そもそも対である同じ神王たる大梵天と付き合いが長いのは帝釈天なのだし。
対である大梵天の悩みを一番早く深く理解するのも、帝釈天の仕事なのだし。
衣の上に実用的で簡素な甲をつけた神王帝釈天ザックスは、この場にいるのは気心の知れた天部であるということもあり、気安い口調でルーファウスに話しかける。
「なあ、俺らにナンか用?」
大梵天は英知を以て。
帝釈天は武を以て。
共にこの兜率天を治めるという役割を担っている筈の帝釈天の、この品のない態度に、ルーファウスはさっきよりも深く長いため息を吐いた。
「まったく――お前は救いようのない馬鹿者だな」
「あー!ひでぇっ」
筋骨逞しい身体を大きく逸らして、ザックスは不満を露わにする。
「お前がいきなり呼びつけてくるから、急いでやってきたんだぜ」
どこか幼いおしつけがましさに、ルーファウスの柳眉がつり上がっていく。
「私に呼ばれるまで、この事態に気が付かないとは…。お前はおめでたい男だ」
「おい。ルーファウス!」
その言葉聞き捨てならない。
「四方の護りは四天王を据えてある。十二神将もちゃんと配置してある――」
指で空を示し、
「日天、月天もちゃんとそこにいる」
いいか。
「武の護りはバッチリだ」
「俺は武神なんだよ。俺の仕事は立派に果たしているぜ」
確かに神王帝釈天ザックスの言葉は、ある意味正しい。
そしてある意味、正しくはない。
ルーファウスは端正な顔をこれみよがしに歪めてみせる。
――なぜこれが私の対なのだ。
仮にもザックスは神王なのだ。ただの武神ではないのだと、何度言い聞かせてもこの男には通じない。
神王には神王の責務があるのだ。
天界を人界をそして獄界を正しくあるべき方向へと導かねばならないのだと言うのに。

苦渋を露わにしたルーファウスが向けた視線の先に、二人の遣り取りをさも興味なさそうにしてたたずんでいる、小柄な天部の姿がある。
腕を組み、日天と月天が守護する空へと向けているその横顔は、自分は無関係なのだと雄弁に物語っていた。
その繊細な横顔に兜率天の空の色はよく映える。
彼はルーファウスやザックスと比べると、まるで違う出で立ちをしていた。
まずルーファウスやザックスが大人の男である貴人形であるのに比べ、彼はまだ少年にしか見えない。
少年が一番危うく一番美しいその一瞬が、彼なのだ。
もっとも天部は神である。外見と人でいう実年齢が合っているとは限らない。
実際に彼もそうだ。少女めいた神秘的な少年天部に見えるが、これでも彼は一族の王なのだ。
透き通る肌を惜しげもなくさらし、上半身には肩から薄く伸びている上帛のみ。
下半身は朱、緑青、群青で色彩された宝相華文の裳を身につけている。足下も裸足に簡素な板金剛を履いているだけで。
癖のある髪は結い上げてもおらず、無造作に短く切られてある。ルーファウスよりも明度の高い金色の髪は、天冠さえもないのだ。
ただ首から胸へと掛かっている胸飾と腕と手首にある臂釧と腕釧は、全て黄金で統一されていた。
ほっそりとした未発達な肢体といい、半分裸であり甲冑さえつけていない姿といい、誰が彼を天に徒をなしていた悪神だと想像出来ようや。
ただ大梵天ルーファウスと同じ色でありながら、彼よりも強烈な意志を持つ瞳だけが、彼が闘神であるのだと訴えていた。

この少女のような少年天部が、一族の戦士を引き連れ、四天王十二神将を退けて、兜率宮まで辿り着くこと三度。
数の上では圧倒的な差があったというのに、武神帝釈天と数千年に渡り激しい闘いを演じたのだ。
自他共に認める天部一の闘神。阿修羅族の長、阿修羅王クラウド。
それが彼の名である。

***
今回はここまで。
続きは近日中に。

追記:
帝釈天はセフィロスだろうと、私も思っていましたが、
今回彼はブッダとなる前の釈迦国の王子様になってもらいます。
ブッダ×阿修羅王←趣味丸出し。


+ '08年02月15日(FRI) ... 更新しました +

再生への光5をUP
これにてこの章はおしまいです。
次回は英語タイトルになるそうですのでv
(そう英語タイトルはいちゃいちゃですよ!楽しみv)

拍手&♪も毎回ありがとうございました。
ありがたく思っています。


次回更新予定はFSSパロの手直しを順次UPの予定です。

それではよい週末をお過ごしください。

更新係のY子でした。


+ '08年02月08日(FRI) ... 更新しました +

連日更新だととても勤勉な気になれます。
拍手よりSWパロAngelをサイトへ収録しました。
(収録したってことは拍手はまたまた書き下ろしv<挿絵の方の制服は某アニメの真似ですが似ませんでした。元ネタわかる方いるのだろうか?)

それとトップのリンクをミスっていました。
教えてくださった方!
ありがとうございます。
これからもうっかりはちべいへのフォローをよろしくお願いします。


明日東京はまた雪になりそうです。
まじめに寒いです。
喉が痛くなってきています。
みなさまもあったくして連休お過ごしくださいv


♪&拍手もありがとうございます。


+ '08年02月07日(THU) ... 更新しました +

jin_08_02_07.jpg

再生への光4話更新しました。
メモの連載も終了。
無事タイトルが入りましたv
ちなみに他の小ネタのお話にもタイトルが入りました。
メモ連載はB子さんの手直し後、地味にサイトへ上げていきますので、どうぞよろしくです。

週末また関東は雪になりそうです。
お体どうぞご自愛ください。

♪&拍手も毎回ありがとうございます


+ '08年02月06日(WED) ... ダブルパロ御礼&拍手 +

こんにちは、びーこです。

五つの星のダブルパロ、軽い気持ちで書き始めたのですが、
思いの外長くなっております。
つまり…まだ続くということですね…

今回貼り付けている間に、いろんなコメントを頂きました。
返信不要のコメントを多く頂いております。
ありがとうございました。
遡ってレスをさせて頂きます。

1月25日20時、クラウドアイドル状態、様>
毎日楽しみにしていただきまして、ありがとうございます。
このダブルパロに関する私の展望としましては、
セフィロスはクラウド一途で、
周りの人々はみんなクラウドを認めていて、
出来ればクラウドには是非天位を得て、
最終的には剣聖となって欲しい。です。
たぶん続きますので、お付き合い頂けますと嬉しいです。

1月27日17時、あれもこれも続きが読みたい方>
私が妄想のままに書きつづりましたものの、
あれもこれも楽しみにしていただけて、嬉しいです。
ダブルパロにつきましては、気分次第のところもあります。
またメモに貼り付けていると思いますので、
良かったらこちらも覗いてみてくださいませ。

2月1日17時、いいところで終わって「くうう〜〜」様>
おかげさまで、ラストまで貼り付けることが出来ました。
さてどうでしたでしょうか?
また貼り付ける際には、どうぞよろしくお願いいたします。


その他たくさんの♪もありがとうございました。

「いい加減『しょうこりもなくダブルパロ』とかいうタイトルはやめましょう」
とY子さんに叱られてしまいましたので、
はれくいんのもSWのも、この五つの星のもタイトルをつけました。
暫くしてサイトのどこかでタイトルがついていたら、
「ああ、これか」
と眺めてやってくださいませ。

瑠璃 完結おめでとうございます。

拍手!!!!

もう、わんこセフィロスがたまんないです。

追伸、レス不要です。
02/06(WED)21:17:33  [208-1546]


+ '08年02月04日(MON) その02 ... しょうこりもなくダブルパロラスト +

ラストとなります。

***
こうして抱きしめられていれば、ダイバーパワーなどなくとも、セフィロスの心中など手に取るように伝わってくる。
クラウドは内心、苦笑した。
セフィロスは本当におかしなファティマだ。
それに、
――けっこうロマンチストなんだな。
彼はそれだけ潔癖な魂を持っているということなのだろう。
残念ながらクラウドはリアリストだ。
生まれはどうであれ、彼がファティマであるというのに代わりがなければそれで良い。
濡れたままの髪に唇をあて、水気を吸っているセフィロスは、やはり赤ん坊のようだ。
そんなセフィロスを突き放せるほど、クラウドは残酷な騎士ではない。
「セフィロス――」
「キスしようか」
こういってから笑いがこみ上げてきた。
――なんてことだ。
――男のファティマをベッドに誘うなんて。
迷いながら、戸惑いながら、それでも落ちてきたセフィロスのキスはぎこちなかった。
初対面の時はあんなに濃厚なのを勝手にしかけてきたくせに。
「もう一度――」
ぎこちないのは心の戸惑いの現れなのだろう。
クラウドは恐る恐る重なってきた唇に、自ら舌を忍ばせてやった。
唇が離れると自然とため息が零れる。
鼻先と鼻先とを摺り合わせ、セフィロスの眼差しを見つめた。
翠の瞳は欲望に濡れようとしている。
「セフィロス――」
「次のキスは身体にしてくれ」
「身体の、どこにだ…」
「全部。どこでも。お前のしたいところに」
セフィロスの手を引きながら、ベッドに倒れ込む。
清潔なシーツの匂いがした。
のし掛かってくるセフィロスの銀髪が、視界いっぱいに広がっていく。
――まるでおとぎ話のようだな。
セフィロスとの最初のセックスは、性行為というよりも、幻のままで進んでいく。
体内にセフィロスが挿ってきた時も、痛みとか快感とかよりも、全てが淡い幻の中での行為だった。
たったひとつ、自分が身体ごとで愛されているのだけは、確かなことだと感じられる。
それが一番必要だった。


数時間後、気怠いまま目覚めたクラウドの前にいたのは、やはりセフィロスだった。
彼はこの世の苦しみを全て背負ったような、沈痛な面もちでじっとクラウドの側にいる。
「…なんて顔してんだ。きれいなのに台無しだぞ」
伸ばした手は、すぐに握られた。
「怒ってないのか…?」
怒る?
「どうして?なぜオレが怒るんだ?」
「オレから誘ったんだぞ」
「そうだな…――クラウドから、誘ってくれたんだったな」
セフィロスの美麗な顔が破顔する。泣き笑いのような表情はファティマらしくないが、クラウドは存分に気に入った。
「ありがとう、クラウド」
「バカ!礼なんか言うことじゃないだろ」
「いや、是非礼は言わせてくれ――」
――とても、素晴らしかった。
真摯にこう訴えられ、恥ずかしく思わない神経の人間は、いや、騎士もいないだろう。
クラウドはものの見事に赤面し、言葉をすっかりと失ってしまう。
何か言い返そうとは思うものの、恥ずかしすぎて何も出てこない。
そもそもボキャブラリーが豊富な方でも、ましてや口が立つのでもないのだ。
クラウドは早々に白旗を揚げることにする。
「もっと大変なモンかと思ってたけど、案外受け身のセックスもなんとかなるもんだな」
色気も何もないが、これが素直な本音だ。
恥ずかしいからこのくらいにしておきたいのに、セフィロスはやはり許さない。
握っているクラウドの指先を、さも愛おしそうに口づけしながら、
「また求めても良いか?」
「――!」
だから――そんな恥ずかしいことは言うなよ。とか。
そんな予定にたてておくようなものじゃないだろう。とか。
言わないと解らないのか。察しろ。とか。
様々な思考が渦巻いて、クラウドはみっともなく口をパクパクとさせてしまう。
だがそれも――真剣すぎるセフィロスの、いつもと同じような美麗なくせに、どこか情けない表情を前にすると、やっぱり白旗を揚げるしかなくて。
「――いいよ」
「毎回応じられるかはわからないが…」
「オレもお前とのセックスは、良かったと思う」
セフィロスの目元が緩む。
本当に優しい、零れるような笑顔に、クラウドは自然にそっと目を閉じてしまった。
セフィロスとの距離がすぐに近づき、もう何度目か数え切れないキスがやってくる。
キスはどんどんと深くなり、その深さに比例してセフィロスの身体が乗り上がってきて、ファティマの手がまだ裸のクラウドの肌をまさぐり始めた。
すっかりイイ気持ちになりかかっている所に、無粋な電子音がつんざく。
セフィロスは当然のように無視しようとしたが、残念ながら彼の愛しいマスターは真面目で勤勉なのだ。
「セフィロス!ストップ」
まるで躾を受けている犬のように言われてしまうと、さっきまであったとろけるような雰囲気は、あっという間にかき消えてしまった。
どうやら――クラウドは淡泊な質らしい。
セフィロスは渋々ながら手を止めたが、それでもクラウドの側からは離れない。
彼はそこまでは咎めなかった。
ずっとひっきりなしに鳴っている電子音に応じる。
『――すまねぇ。俺だ。眠ってたか?』
クラウドの想像通り、バレットからの通信だ。
彼なりに気を利かせているのか、モニターは切ってある。
「いや。なんだ?」
『エアリスからの通信だ。お前さんらの宿がわからなくて、コッチに繋がってきたんだ』
「ああ、悪かったな――繋いでくれ」
繋がるまでの僅かの時間、クラウドは自分の身体から離れようとしないセフィロスに振り返り、
「ソルジャーの話、エアリスにしてくれるな」
ソルジャーの話をするとなれば、セフィロスの話にも及ぶだろう。
だがそれでも、セフィロスがクラウドのファティマで有り続けるのならば、隠しておけない事。
クラウドはその決意をセフィロスに確認しているのだ。
はっきりとクラウドの意図を理解したセフィロスは、
「ああ――もちろんだ」
はっきりと応えながら、目の前にある愛しいマスターの背中に唇を寄せ、強く吸い付いた。
右の肩胛骨の下辺りに、淡い薔薇色の鬱血痕が生まれる。
光を弾くような滑らかな白い肌の上についた証は、クラウドを愛するというセフィロスの誓いであった。

***
これにておしまいです。
最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
えっちまでさせるつもりは、少なくともまだなかったのですが、
どちらも幸せそうなので、まあ良いことにしてください。


+ '08年02月04日(MON) ... テストです +

これはテストになります


+ '08年02月03日(SUN) ... しょうこりもなくダブルパロその12 +

続きです。

***
軽くシャワーを浴びたクラウドは、上半身裸のまま濡れた髪を乱暴に拭いている。
目の前にあるテーブルからあの不思議な石を手に取った。
見れば見るほど不思議な石だ。
普通の石ではない。
――声がする…
ような気がする。
誰かがクラウドを呼んでいる声が、この石から聞こえるような気がしてならない。
「それはマテリアと言う」
むしろ静かにセフィロスはクラウドの背後に現れた。
まだ服も着替えていないらしい。さっきと同じファティマスーツのままだ。
深い陰鬱な影でさえ、この美麗なファティマにとっては、美貌のスパイスらしい。
重苦しく伏せられた眼差しでさえ、宝石のようだ。
そろそろこの美貌に見慣れてきたクラウドでさえ、思わず息を呑んでしまう。
そしてその薄い肉を感じさせない唇から漏れた言葉、マテリア――もちろん初めて耳にする音だ。
クラウドが疑問を投げるよりも先に、セフィロスは言葉を続けた。
「マテリアは星の命脈、ライフストリームが結晶化して出来たもの」
「そしてマテリアは優秀な媒介でもある」
「媒介?」
そうだ。
「マテリアは魔法を引き出すことが出来るのだ」
「ダイバーでない普通の人間でも、訓練すればマテリアを用いることによって、魔法を操れるようになる」
「誰でも、ダイバーとなれると言うことか?」
「生まれ持つ向き不向きもある。ハードな訓練も必要とするが、まあそんなところだ」
不機嫌さをますます色濃くしながら、セフィロスはむしろ口調は素っ気なく続ける。
「あやつらは、戦士、ソルジャーだ」
騎士ほどではないが、人間以上の能力で襲いかかってきた敵達。
そして、魔法まで使っていた。
「あれはソルジャーと言うのか…騎士の亜種のようなものなのか?」
「騎士などではない!」
断じて、あれは騎士などではない。
「人工的に騎士を作ろうとした挙げ句に出来てしまった、騎士の失敗作のようなものだ」
人工的に、ということは。
「薬物か?」
「いや、違う。薬物などではない――」
薬物よりも恐ろしいもの。
「人を魔晄漬けにするんだ」
「魔晄と言えば――神羅が開発したエネルギーのことか!」
そうだ。とセフィロスは重々しく頷く。
「魔晄は単純なエネルギーではない」
神羅はそこに目をつけた。
「防護なしに人を長時間魔晄に晒すと、ほとんどは狂う――」
狂う確率は9割5分以上。正真正銘の“ほとんど”だ。
「だが稀に狂わない人間もいる」
「その人間は魔晄の作用によって、騎士ほどではないにしろ、人間以上の能力を得ているのだ」
それがすなわち、ソルジャー。

話し終えたセフィロスに、クラウドの蒼い眼差しが向けられる。
ひたりと向けられ、その目映さにセフィロスは戦慄を禁じ得ない。
「セフィロス――」
「どうしてそのことを、お前が知っているんだ?」
向けられて当然の疑問だ。
セフィロスは苦々しさのあまり、思わず顔を背けようとするが、クラウドが優しく逃げるのを許さない。
彼は俯こうとしたセフィロスの頬に、そっと手を置いたのだ。
無駄のない肉の薄い頬を、クラウドの手がそっと包み込む。
あくまでも幼子にするかのような優しい動きであったが、セフィロスにとってはどんな箴言よりも覿面であった。
たまらず、セフィロスは長い腕を伸ばして、クラウドを包み込むように抱きしめる。
シャワーの後の、まだ上気した肌。水が弾ける弾力。
騎士らしくしっかりと鍛えられているが、クラウドの持つラインはどこか伸びやかで幼いままだ。
クラウドの持つ美しさは天然のもの。
人などではない、創造主が愛おしんで生み出した。それがクラウドなのだ。
自分がどれだけこのマスターを請うているのか、セフィロスは泣き出したくなってしまう。
「俺は、普通のファティマではない」
「…そうだな」
そのことは、セフィロスを娶ったクラウドにもすでに解っていることだ。
「ファティマは100%人工DNAが元となり作られるが――」
「俺はその元の段階が違うのだ」
セフィロスはクラウドの金髪に鼻先を埋める。
まだ濡れている金髪。髪に含まれている水分を口づけて吸い取った。
「俺は――神羅が魔晄採掘の時偶然発見した…」
――クラウド。どうか…
「魔晄の海で眠っていた、人外異種生命体のDNAを元に作られたのだ」
――どうか、俺を嫌わないでくれ。
「その人外異種生命体は現在も神羅の研究室にあって、宝条博士が管理している」
「宝条は、人外異種生命体を様々な実験に用いていて、ソルジャーもその実験のひとつから派生したものだ」
「もちろん、俺も――宝条の実験サンプルのひとつとして、生み出された」
「ソルジャーという人工騎士を作り上げる理論の基礎とされたのだ」
人でもない。
だが普通のファティマでもない。
人工生命体であっても、実はそれだけでもない。
人ではない人外の、しかもこの星団には有り得ない異種の、そんな化け物のDNAから自分が成り立っているのを、セフィロスはどうとも感じてはいなかった。実験のサンプルになるのも、何も感じなかった――ただし、クラウドに会うまでは。
ただのファティマならば良かった。
騎士とファティマならば、似合いの一対として公にも認められる。
だがどうだ。自分はファティマの皮を被った人外異種生命体だと知られれば、クラウドはどう思うだろうか。
嘲られるのも罵られるのも、恐れられるのも嫌われるのも――耐えて見せよう。
だが、クラウドの側にいられないのだとしたら――どうなる?
一番恐ろしいのは絶望という虚無だ。
どこまでも空っぽの果てのない深淵を、ただひとりで覗き込むこと。

***
次ラストとなります。


+ '08年02月02日(SAT) ... しょうこりもなくダブルパロその11 +

二桁になってしまいましたが、あともうちよっとです。

***
「クラウドっ!」
二人目の敵も倒したセフィロスが、急に叫んだ。
クラウドは叫ばれる自分の名の中に、警告を覚え、感覚を四方に走らせる。
フッと頭上から熱を感じた。
大きな熱だ。
――チっ。
首をめぐらせた先には、不思議な色味の石を掲げている敵の姿があった。
石は内側から蠢くように輝く。そこから火炎が生まれた。
「ファイラ」
声と共に炎はクラウドへと襲いかかってくる。
あっという間に、クラウドの姿は炎へと呑み込まれてしまった。

炎がマテリアを中心に発生し、襲いかかっていく。
愛する人の金のシルエットが、炎に呑み込まれていくのをセフィロスは直視してしまった。「クラウドーっ!」
殺してやる。
殺してやる。殺してやる。
――俺からクラウドを取り上げる者は、殺してやる。
あれしきのことで騎士であるクラウドが死ぬとは思わないが、あの愛しいマスターが傷つくだなんて。
しかもセフィロスの目の前で。
クラウドは敵がソルジャーとは知らなかった。そもそもソルジャーというモノを知らなかったのだ。
セフィロスはいち早く、クラウドに警告して、正しい知識を伝えるべきだったのだ。
セフィロスが一番に大切にしなければならないのは、クラウドだというのに。
焼けこげた金髪を想像するだけで、血が凍り付く。
額のクリスタルが点滅を始める。
セフィロスの視界が怒りで染まった。

と、不意に炎がかき消えた。
――クラウド!?
貧弱に萎んでいく炎が燃えていた場所から現れたのは、金髪に一筋の焦げさえないクラウドだ。
彼は恨めしそうにまとわりつく残りの炎を、軽く手を振って押さえてしまう。
――そうか!
クラウドはただの騎士ではない。
彼はダイバーでもあるバイアなのだ。クラウドの魔法の力は利かない。
「クラウドっ」
駆け寄ってくるセフィロスに、クラウドは少し意地の悪い笑みで応じる。
そして身振りで、セフィロスが側に来るのを止めた。
自分に炎の魔法を浴びせた最後の敵に向かい合う。
「騎士が簡単にヤラれた理由がこれで解ったな」
「お前――騎士ではない。もちろんダイバーでもない。それなのに魔法を使うとは…何者だ?」
「何の目的で騎士を攫う?」
「………」
クラウドの問いに男は答えられない。
まさか自分の魔法が消されてしまうとは、思いもしなかったのだろう。
敵の異常な驚愕ぶりに、クラウドは首を傾げて考えを巡らして、すぐに思い当たる。
「ああ、オレはバイアなんだ」
バイアに会うのは初めてなのか?
「だからオレに魔法の類は効果がない」
答えようとしない敵に、クラウドはそれ以上求めない。
彼はこれまでと同じく、両肩両足を砕くと喉も潰しておいた。
敵が持っていた不思議な色合いの石を手に取ると、じっくりと観察をする。
クラウドに与えられた仕事のひとつ、騎士失踪の原因はこれで突き止めることが出来た。
後は失踪した騎士達の行方だが――
音もなくセフィロスが近づいてくる。
「クラウド――」
「俺は、その男達の正体に心当たりがある」
「コイツらを知っているのか?」
セフィロスはクラウドの手にある石を食い入るように見つめている。
まだセフィロスを娶ってから日が浅く、この美麗なファティマのことを知り尽くしているとは言えないものの、それでも今のセフィロスはおかしかった。
動揺しすぎている。
「まあ、詳しい話は後にしよう」
まずは、
「バレットに連絡だ。そしてコイツらをどうするのか、エアリスと相談しよう」
血の気など感じさせない蒼白なままで、それでもセフィロスはマスターの命令に従った。

バレット懇意の工場に男共を運び込んでから、クラウドはエアリスと連絡をとった。
驚いていたエアリスだが、すぐに男達の身柄を引き受けると言ってくれた。
エアリスの言葉は本当だった。
一時間もしないうちに、見てくれは一般人のようだが、明らかに軍人であろう一団がやってきて、瀕死の男達をどこかへと連れていってしまう。
それを見送ってから、二人は宿へととって返し、そうやってやっと二人きりとなったのだ。

***
今回はここまで。
あとたぶん2回くらいでおしまいです。
出来れば最後までお付き合いをお願いします。

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+ '08年02月01日(FRI) その02 ... リニュしました +

jin_08_02_01.jpg

時間のなくなる前にと、突然思い立ちリニュしました。
テキストファイルも全部レイアウト変更して書き直していますのでリンクミスなどありましたら、教えてください。

◎だっこのシーンが好きっv


+ '08年02月01日(FRI) ... しょうこりもなくダブルパロその10 +

続きです。

***
ファティマは一般には騎士の85%の能力を有しているとされている。
裏返してみれば、ファティマとは騎士以上の能力を持たないように制限されているのだ。
ただし物事はいつもどこかに例外がつきもの。
ファティマの例外はこのセフィロスだ。

一人目の敵と遭遇する寸前、セフィロスはクラウドから投げられた刀を空中で受け取った。
刀の銘は正宗。
クラウドに娶られたセフィロスが、唯一持参した品物がこれだ。
セフィロスの生みの親の一人となる、ガスト博士がくれた刀だった。
騎士でもないファティマが、自分所有のスパッドや刀を持つことはない。
だがガスト博士は正宗をセフィロスに与えたし、クラウドもまたセフィロスが正宗を所有することを認めてくれたのだ。
正宗は実剣にしては非常に刀身が長く、セフィロス以外には非常に扱いづらい得物であった。
クラウドも自分の身体の大きさと大差ない大剣を奮うが、彼にしては正宗は軽すぎるらしい。
軽すぎて、これでは存分に振り回せないというのが、クラウドの感想だった。
それに、きれいすぎて怖くなるような剣だ――とも。
正宗の長い刀身は、背筋が凍えるような曲線を描いている。
むしろ緩やかな反り具合の曲線は、他の形容〜優美だとか、典雅だとか〜も当てはまるだろうが、それよりもやはり刀を見つめているとゾクリとした震えが足下からせり上がってくる、そんな妖艶さがあるのだ。
「これは魔剣なのかもな」
人に魅入り、血を求める。
そんなあやかしを秘めている剣なのかもしれない。
クラウドはそう言ったが、だといってセフィロスが正宗を持つのには反対しなかった。
むしろ、
「その方がお前らしいな」
と笑ってさえみせたのだ。
クラウドの許しを得た瞬間から、正宗はセフィロスの愛刀となった。

セフィロスは正宗を鞘から抜き放つと、みねの部分で敵を打つ。
クラウドは殺す気はなさそうだ。とすれば、ファティマは騎士の意向に従うべきなのだ。
胴体部分は急所の塊だ。当たり所が悪ければ、即死させてしまう可能性もある。
セフィロスはまず手足をもいで、敵の機動力を削ぐことにする。
計らずしもマスターであるクラウドと同じ行動となるが、これが一番有効なのだ。
みねで右足を。返す刀、鞘の部分を使い利き手である右腕をうつ。
――!?
攻撃は見事に決まり、敵は声もあげられない苦悶の中で、地面へと落ちていくが、セフィロスはある違和感を覚えていた。
――騎士ではない…
そして、
――これは、普通の人間でもない。
薬物を投与しているのか――と考えたクラウドとは違い、セフィロスにはある心当たりがあった。
――まさか…
思索するセフィロスの目前に、もう一人の敵が迫ってくる。
その敵が持つ実剣の鞘に填っている、独特の輝きを持つ石を見つけて、セフィロスの疑念は裏付けられた。
あまり大きくはない石。手に持てる大きさの、これはだがただの石ではなく――
――マテリア!?
マテリアを用いて戦うのは、決まっている。
――これが、ソルジャーか…
人工的に騎士の能力を与えられるべく、改造された人間。
これを研究者達はソルジャーと呼んでいた。

いいや。ソルジャーはまだ理論上だけのものだったはず。
実用化されるなど有り得ない。
いや、現に目の前にいるではないか。
騎士には劣る。だが、人間以上。
それにあのマテリア。何よりの証拠。
様々な考えに囚われそうになるセフィロスの目の前で、敵は鞘に填っているマテリアに手を翳し、ぶつぶつと何事かを呟きだす。
――呪文の詠唱か!
本来ならばダイバーしか扱えない“魔法”を、ダイバー以外の者でも引き出せるようにさせる為の儀式。
こうなるとセフィロスの攻撃に躊躇はなくなる。
正宗の刃を向け、セフィロスは瞬きひとつもない高速で動く。
そしてまず、マテリアが鞘に填っている実剣を持っている左手を、肩関節から切り捨てる。
「あガあああァァ」
次の瞬間、黒いグローブをつけた右手で、敵の喉を潰した。
これで呪文の詠唱は出来なくなる。
――そうか。これが騎士行方不明の理由か。
戦闘能力だけならば、疑似騎士ソルジャーよりも騎士の方が数段上だ。
だがマテリアを使った魔法があるとすれば、話は変わる。
時速180キロのスピードのまま無防備に突進したとして、そこに炎でも氷でも電撃でも、魔法をまともにくらったとしたら、スピードの分だけダメージは絶大となってしまう。
ソルジャーとしての知識があるセフィロスだったからこそ、容易く対応できたが、ダイバーでないと気を許して戦っていたとして、魔法を受け、そこを捉えられたとすれば――
ここでセフィロスはハッと気づく。
クラウドの足下に二人。
セフィロスが二人。
敵は5名いたはずだ。とすれば、残りのあと一人は…
(敵は騎士を狙っているのだ)
「クラウドっ!」
喉も張り裂けよと、セフィロスは愛しい騎士の名を叫ぶ。

***
また明日。


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