少なくとも、意志があるとしか考えられない不思議な出来事が続き、そのおかげでどんな騎士もアルテマに乗ることなど出来なかったのだ。 ティファのマイトダンカンとバレットは縁が深く、以前より親交があった。 その関係で騎士となったばかりのクラウドはMHを求めバレットの元をティファと共に訪れ、そこでアルテマと邂逅する。 アルテマは選んだのだ。若い少年騎士、クラウドを。 「――それからアルテマはオレと一緒に戦ってくれているのさ」 「そうか…――」 不思議な話だが、信じない理由もなかった。 セフィロスははっきりと感じていたからだ。アルテマがセフィロスを観察している、鋭い意志を。 ――このMHはただの機械ではない。 アルテマはクラウドだからこそ、動くのだろう。 そして今、新たなファティマとなったセフィロスを観察して、自分に相応しいかどうかを推し量っている。 つまり名実共にクラウドのファティマとなれるのかは、このMHの意志にかかっているのだとも言えよう。 「ファティマシェルを見せてくれ」 だからと言って媚びるつもりなどない。 セフィロスはあくまでも己の意志でクラウドと共にいるのだ。 アルテマがセフィロスを気に入らないと拒絶するのならば、力ずくで認めさせてやるだけだ。 「そこだ――」 クラウドが指したのは胸部分の赤いシェル。 セフィロスは跳ぶと直にシェルまで辿り着く。 スイッチを押すと従順にシェルのハッチは開いた。中にいるのはエトラムル。無形態ファティマである。 ティファを失ってから、クラウドはファティマを乗せてはいない。 セフィロスはアルテマとエトラムルを繋ぐ配線に手を伸ばす。 「マスター。もうコレはいらぬよな」 セフィロスというファティマがいる今、エトラムルは必要ない。 「そうだな…」 「ならば、俺の好きなようにして良いな」 セフィロスはアルテマとの配線を素手で千切ると、エトラムルの記憶に干渉を始める。 これまでの戦闘データーを収集、分析するためだ。 こういえば聞こえが良いが、要するにセフィロスはエトラムルの脳を吸い出しているのだ。 エトラムルが記憶しているクラウドに関する全てを消し去る。 突き詰めてみれば、これがセフィロスの本音だ。 メモリーの吸い出しはすぐに終了した。セフィロスはエトラムルをファティマシェルから排除する。 エトラムルを押しのけて、そうしてセフィロスは初めてアルテマのファティマシェルに座ったのだ。 ――匂いがする。 クラウドの匂いではない。微かに薄れてしまっているが、セフィロスにははっきりとかぎ取れた。 ――以前のファティマの匂いか… 確か、名はティファと言ったか。 クラウドが最初に娶ったファティマだ。 彼女が死んだ後も、クラウドは次のファティマを選ばなかった。セフィロスに会うまでは。 足部と頭部のユニットは固定されている為、セフィロスのサイズには合わない。それが余計に苛立たせるのだ。 足をユニットに入れないで、シートから投げだして座り、かろうじて頭部だけはヘルメットに頭を突っ込む。 ――アルテマウェポン…聞こえるか。 MHは確かに機械だ。鉄とボルトとナットとオイルが複雑に絡み合った集合体でしかない。 だがMHに携わる者ならば知っている。これは生き物なのだ、と。 特にファティマは、自分が操るMHと深く交流しなければならない。 ――俺はセフィロス。 ――クラウドのファティマだ。 良いか。 ――俺はクラウドを選んだ。これは絶対に変更のない現実だ。 だから、 ――お前もクラウドと共に戦いたいのならば、俺を受け入れるんだ。 そうでなければ、 ――クラウドをお前から取り上げてやる。 ヴヴゥィーン。 足下からわき上がってくるモーター音がはっきりと聞こえた。 セフィロスはこれをアルテマウェポンからの了解だと捉える。どうやらこのMHは愚か者ではなかったらしい。 ――よし。これからお前と俺はクラウドの両腕となるのだ。 その為にまずは、 ――お前の能力を俺に示せ。 モニターを下ろして、セフィロスは本格的にアルテマウェポンとひとつになる。
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