長くなってます。ごめんなさい。
*** 騎士〜ヘッドライナー〜は通常の人間ではない。 彼らの生体反応速度は時速180キロ以上で地上を駆け抜け、ハイジャンプひとつで30メートルにも達する超人だ。 反応の早さはもちろん、それのみにあらず。 騎士を構成している肉体、筋力、骨力、生命力においても普通の人間という種とは、到底比較にならない。 そして騎士は己の持つ超人的な力を、MHという星団史上最強の兵器をコントロールする為に存分に奮う。 そもそも何故騎士という種がいるのか? 話は星団史以前にまで遡る。星団史以前の昔、文明は現在よりももっと発達していたのだという。 冨と権力とを追い求め、文明を発展させてきた人々だったが、残念ながら現在の人間よりも強欲だったようだ。 優れた科学力を使い、彼らは戦争に明け暮れる。 殺傷能力の高い兵器を作り、大型の火器を作り、惑星さえふっとばせる武器を作る。 そうして行き着いた先にあったのが、“超人”だ。 あまりにも強い大型の兵器では、全てを滅ぼしてしまうことになる。 戦争に勝利したとしても、残るのは残骸となった星くずのみ。 そこでもっと局地的な戦闘を想定し、敵兵だけを確実に屠っていき、味方にダメージの少ない生物兵器を考えたのだ。 人だ。人を改良して“超人”を生み出せば良い。 リスクも少ない上に、大型兵器を開発するよりもコストがかからない。 各国は遺伝子改良にこぞって着手し始める。 遺伝子の段階から組み替え、超人を生み出す。生み出した超人に薬物や過酷な戦闘訓練を課す。 こうして造り上げられた超人は、戦争の最前線に向かった――と言われているが、その顛末がどうなったのかは、星団史以前の資料はまともに残っていないため、誰も知らない。 ただ超人の遺伝子情報は、現在の人間のDNAの中に残った。 現世に稀に出現する“超人”の末裔が、騎士〜ヘッドライナー〜なのである。 騎士の出生率は極めて低く、約20万分の1。つまり20万人に1人しか生まれないとされている。 その上この低い確率から生まれた騎士の力を持つ子供が、立派に成人し必ず一人前の騎士になれるのかと言うと、それは違う。 現在存在している騎士の確率は、1億人〜2億人に500人。 正しく騎士は奇跡なのだ。 ただ“超人”の遺伝子自体は、5つの星団に暮らす全人類にほぼ平等に存在していると言われている。 父親が騎士だからと言って、子供が騎士になるとは限らない。 騎士の遺伝子は最弱とされ、なかなか遺伝されないのだ。 騎士とは世襲が皆無であるとされるのは、これが理由だ。 ただこれにも例外はある。星団史以前から続いていると言われている、5つの星団にある5つの旧い王家は別なのだ。 王が騎士ならば、嫡子はほぼ騎士として生まれつく。 エアリスも騎士の遺伝子が世襲される旧い王家の姫だ。よって彼女はダイバーでもあり騎士でもあるバイアとなっている。
セフィロスに刀を投げつけた後、クラウドはディグを停止させ光剣〜スパッド〜を引き抜く。 スパッドは刃の部分が光学発生式となっている優れものだ。 鞘もいらずレーザー銃としても使用出来る。重くもなくかさばりもしない。 実剣を持つ騎士もいるが、多くの騎士はスパッドを有している。 そしてこのスパッドを所有出来る者は、限られた人物のみとされており、一種の身分証明も兼ねているのだ。 クラウドは普段は実剣を使うが、彼の剣は成人男性の身体ほどの巨大な質量を誇っている為、今回ゴールドソーサーには持ち込んでいなかった。 星団広しといえども、あんな巨大な剣を扱うのはクラウドのみ。 つまりあの剣を振るうことは、クラウドの正体を大声でアピールしているも同じなのだ。 今回の任務は基本隠密である故、クラウドは実剣ではなく光剣を選んでいた。 手の中でスパッドを回す。 ――軽いな。 軽い。本当に軽すぎる。 却ってクラウドにはこの軽さが扱い難い。 そこにレーザーの帯が襲ってくる。 クラウドはレーザーの軌道を捉えると、スパッドの刃を出し、瞬きひとつもない間に、全てのレーザーを切り落とした。 レーザーがクラウドに通用しないのは、予め予想されていたのだろう。 切り落としている最中に、二人の敵がクラウドの斜め後方と頭上から、同時に襲いかかってくる。 この動き。普通の人間ではないが… ――騎士!?ではないな。 騎士にしては動き方が違う。 それに騎士のレベルにしては、新米よりもお粗末だろう。 全体にスピードもパワーもそれなりにはあるようだが、統制がとれていない。 クラウドの脳裏に過ぎるのは、 ――薬物か? 脳に直接刺激を与え、異常なパワーをださせるという薬物は確かに存在している。 しかし普通の人間がいくら薬物の助けを借りようとも、騎士に比べれば段違いに劣っていた。 おまけにこの薬物は副作用が酷くて、一度使用すれば、異常なパワーをだす反動で身体はボロボロとなり、数度使用すれば脳が完全にヤラれてしまう。 よって星団法で禁止されているものなのだ。 だが完全に禁止される筈などなく。闇で改良品が出回っているとは聞いていたが。 クラウドは斜め後方から襲いかかってくる敵に、まず狙いをつける。 スパッドの刃を引っ込めてから、自ら敵に向かっていく。 騎士の走力は時速180キロと言われている。これはあくまでも騎士一般の数字だ。 クラウドは腰を落としバネをたわめて、一気にダッシュをする。 このダッシュは時速180キロを有に超えていただろう。 いきなり目の前に現れたクラウドに、斜め後方から襲ってきた敵の全身に怯えが走る。 そこからのクラウドの攻撃はむしろシンプルだ。 彼は敵に両肩と両太股、それぞれの関節をスパッドで砕いてしまう。 最後とばかりに頸骨を砕かないように軽く撫でて、脳からの伝達機能を麻痺させてしまう。 そうやって身動き出来なくなった敵の身体を片手で掴むと、頭上から襲いかかろうとしている敵に向かって無造作に投げつけたのだ。 無造作に投げつけた、といえどもクラウドは騎士だ。 投げられた敵は人の形をした凶器となって、味方に向かって飛んでいく。 うぎゃ、とも。あぎゃ、とも。なんとも形容しがたい叫び声と共に、ぐしゃりと肉が激しくぶつかる音がした。 何せ頭上から襲ってきていたのだ。当たり前にある重力によって、加速していた敵は、いきなり飛んできた仲間の身体から避けることも出来ず、クラウドの目論見通り激しくぶつかってしまう。 もつれ合いながら地面に落ちてきた二人の敵は、もがこうとしても身体のダメージを受けすぎていてどうにもならない。 おまけに投げられた敵に至っては、脳からの伝達回路がクラウドによって切られているのだ。 意識はあっても手も足も、それどころか首から下はどこも動かない。感覚すらないだろう。 もがく仲間の上に乗り上がったまま、血走った目でクラウドを睨み付けるのが精一杯のところ。 クラウドは歩きながら近寄ると、まだ動ける敵の身体も同じように砕く。 ――あまりにも弱すぎるな。 コイツらが本当に、これまで騎士を攫ってきた犯人なのだろうか。 それにしては弱すぎる。 いくら隙をつかれたと言えども、こんな弱い敵に倒される騎士などいるまい。 ――まあ、それは後で考えることにするか。 そうして敵二人の行動を完全に沈黙させてしまってから、クラウドは自分のファティマへと感心を向けた。
*** 今回はここまで。
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