続きです。
*** コレルにあるバレットの工場にやってきて、もうすぐ二週間となる。 夜が明けてきた。白くあけていく外の風景を頭に描きながら、セフィロスはすぐ隣に眠る愛しいマスターの背中にそっと耳をあてた。 トクン。トクン。トクン。 規則正しい鼓動を耳だけではなく全身で聞きながら、セフィロスは目を閉じる。 クラウドと共に過ごすようになり、セフィロスにとって世界はやっと意味を成すものとなっていった。 充実しているというのは、こういうのを指すのだろうと。 クラウドと共に過ごす時間は、どんな些細なことも歓びだが、その中でも特にベッドの中でのこの時間が、セフィロスは一番気に入っている。 ファティマの皮膚に負けない美しい肌は、透き通るようだ。病的に白いのではない。生きている肌は滑らかで、幾度ふれても飽きが来ない。 動くたびに皮膚の下から現れてくる筋肉のうねりに、やはり彼が騎士なのだと実感はするが、セフィロスにとってクラウドはすでに愛しい存在だ。 目を覚ますタイムリミットまであと少し。 その間まどろんでいようと睡魔に委ねかけたその時、無粋な電子音が鳴る。 ――誰だ。 セフィロスがこの不愉快な電子音に眉を顰めている間に、白い腕が伸びる。 寝間着代わりのシャツの間から伸びる腕は、クラウドのものだ。 さすがに騎士と言うところか。この一瞬に覚醒しきったらしい。 セフィロスの腕と比べても遜色のない筋肉のついた腕は、迷うことなく呼び出しに応える。 『――クラウド。早くからすまねぇ』 バレットの野太い声がする間に、クラウドはベッドから身を起こして、ちゃんと応対出来る体勢をとっていた。 ついさっきまでセフィロスがくっついていた背中は、すでにしゃんと伸びている。 「どうした?なにかあったのか?」 ただし声は、まだ寝起きのままだ。 『エアリスから通信だ。繋ぐぞ』 「わかった」 オフとなっていたモニターが繋がる。 そこには栗色の髪を柔らかく巻いた、いつものエアリスがあった。 セフィロスはこの女が気に入らない。クラウドの側近くにいて、自分よりも付き合いが長いだけでも腹立たしいのに、エアリスはクラウドがセフィロスを娶ったのに反対なのだ。 その上まるで自分のことのように、クラウドを支配しようとしている。 この女にクラウドが仕えているというのも、大いに気に入らない。 今もそうだ。起きる前の幸せなまどろみを、まんまと奪い去っているではないか。 セフィロスも仕方なく起きあがると、モニターの可視範囲から外れた場所から、マスターの横顔を観賞した。 ――クラウドは、きれいだな。 寝起きだからいつもより更に奔放な金髪も良ければ、目尻まできれいに生えそろった金の睫毛の長さも丁度良い。 髭など見あたらない滑らかな頬のラインも、鼻梁の角度も丁度良い。 身体のサイズも丁度頃合いだ。これ以上小さければ長身のセフィロスにとって物足りないだろうし、かと言って自分と代わらないほどゴツイ身体も遠慮したい。 腕の中にしっくりと収まる。思いの丈を込めて抱きしめても、壊れない強さ。 セフィロスという明らかに規格外のファティマを娶ってくれる、強靱でしなかやな精神と。いつまで経っても物慣れない不器用さと。 そのどれもがきれいだ。 いつもならばじっくりと観賞できない姿を、セフィロスは堪能する。
一方、モニターが繋がったエアリスは、クラウドの姿を認めると緊張で強張らせた頬を少し緩めた。 『ゴメン。こんな朝早く』 「いいよ。それよりどうしたんだ?」 エアリスの背後にはザックスの姿があった。モニターには映っていないが、ザックスはエアリスの背後かなり近い位置にいる。 エアリスを気遣ってのことだと、すぐにわかった。 『ゴールドソーサーで騎士の一人が消息を絶ったの』 ゴールドソーサー。星団の中にある中立地帯のひとつだ。クラウド達が滞在しているコレルにほど近い。 中立地帯故に様々な国籍の人間が出入りし、活発な交流が盛んに行われている。 何よりゴールドソーサーの売りは、娯楽だ。 大きなテーマパークが建ち並び、大人から子供まで楽しめる娯楽を提供している。 エアリス配下の騎士がゴールドソーサーで消息を絶つ。 確かに騎士が主との連絡を絶つのは珍しいが、エアリスが早朝からクラウドをたたき起こすまでのことでもあるまい。 つまりもっと深い核心があるということ。 そうと察したクラウドは、余計な口を挟まずに、エアリスが話し出すのを待つ。 『クラウド。知らないかな』 『半年くらい前から、ゴールドソーサーエリアで、いろんな国の騎士が消息不明になっているのヨ』 「騎士が!?」 まさか――といぶかしむクラウドに、 『ホントなの!』 エアリスの説明によると、仕事プライベート関わらずに、ゴールドソーサーに入った騎士の数名が、原因不明で消息を絶っているのだという。 戦闘でも、もちろんない。生死すら定かではなく、かといって中立地帯故にこちらから公に捜索することも出来ない。 そこで神羅以外のそれぞれの星団のトップが秘密裏に話し合い、互いに行方不明者をだしていることを確認。合同で秘密裏に捜査をしようということになったのだが。 『捜査に向かわせた騎士とも、連絡とれなくなって』 ついにはエアリス配下の騎士も連絡を絶ったのだと。 ここまで話を聞いて、クラウドはわかった。 エアリスが自分に何をさせたいのか。彼女はクラウドの身を案じて、言い出しにくそうだが。
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