セフィロスという存在が、誰かに譲歩することなどないのだと覚悟していたが、バレットもあまり気安い男ではないと理解しているが、どうして初対面でここまで険悪になれるのかについては、はっきりと解らない。 それでもとりあえず紹介をと、クラウドは自分よりも20センチほど高い二人の間に立ち、まず、 「バレット――これがセフィロス」 「先日のミッドガルのお披露目で娶ったファティマだ」 「セフィロス――彼はバレット・ウォーレス」 「コレルのMHマイスターだ。アルテマも彼の世話になっている」 クラウドの紹介を受けた両者は、言葉も社交辞令もなく、互いに睨み合っている。 こうして並んでみると、セフィロスとバレットの外見は、見事に正反対だ。 身長の高さは、だいたい同じくらい。だが肉の量はまるで違う。整備士であるバレットだが、筋骨逞しい肉の厚い体躯をしている。 対するセフィロスも、逞しい身体をしているものの、これみよがしな筋肉の塊はない。 人工生命体にも関わらず、野性のしなやかな筋肉を持っているのだ。 ただファティマの基準から考えると、セフィロスもなかなか筋骨隆々の範囲なのだが。 バレットの浅黒い肌に対して、セフィロスの白皙。 生々しい傷跡が残る容貌と、欠点のない完全なる美貌と。 いや。例えセフィロスの容姿が自分と正反対だからと言って、バレットが最初から悪意を持つ筈などなく。 考えられるのはひとつだけ。 ――ティファか… バレットはティファをとても可愛がっていた。 ティファのマイトダンカンと親交があったバレットは、クラウドよりもずっとティファとの付き合いが長いのだ。 そのティファが死に、バレットは気落ちするクラウドに次のファティマを娶るのを勧めてはいたものの、やはり現実となり目の前に立たれると良い感じはしないのだろう。 二人の間がこれ以上険悪になる前に、クラウドは先制することにした。 「セフィロス――」 クラウドは己のファティマに命じる。 「アルテマの乗ったキャリアを移動させてくれ」 「バレット――アルテマに用意してくれたゲージは何番だ?」 不審を訴えかけてくるセフィロスを黙殺して、クラウドは話をバレットに振る。 「…25番だ」 ここから一番遠いゲージのナンバーだ。 「そうか。セフィロス、25番ゲージにアルテマをセットアップさせておいてくれ。オレもバレットと打ち合わせしてからすぐに行くから」 言いたいことはたくさんあるだろうが、この場はセフィロスは引いてくれた。 「…――わかった。移動させてセットアップさせておく」 「頼む」 長い銀髪を揺らせながら、セフィロスはモーターヘッド・キャリアに乗り込んだ。 工場の表示を確認してから、25番ゲージへと移動させた。
キャリアが小さくなっていくのを見送っていると、バレットが気まずそうに口を開く。 「…すまねぇな」 「良いよ…バレットの気持ちは、解るから」 「だが、クラウド――どうしてアイツを選んだ?」 これを一番問いたかったのだ。 ティファとよく似たファティマならば、バレットも納得出来ただろうに… 「お披露目の場で、マスターを抱き上げたっていうのを聞いた」 「それは、本当か?」 さすがは星団に名を轟かせるマイスターだ。情報は早くて正確。 だがその情報源に心当たりがあるすぎるクラウドは、事実あったこととはいえ、やや耳が痛い。 「エアリスだな――」 エアリスとバレットの間も親交があった。 「そうだ。エアリスがお前がファティマを娶ったと教えてくれたんだ」 「他にエアリスは何を言ってた?」 不愉快そうにバレットは表情を変えて、 「Dr、ガスト。Dr、宝条。この二大天才マイトの共同作品。信じられないほど禍々しい男のファティマが、クラウドをかっさらって行ったと聞いたぞ」 禍々しい――この言葉に、クラウドは形の良い眉を顰める。 「こうとも言ってたな」 「あれは普通のファティマではない、と」 「俺もそう思うぜ。お前さんが娶ったファティマは、ファティマの形はしているがファティマじゃねえ」 バレットは心配しているのだ。そうクラウドは悟る。
*** ここまで。
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