――やはり、マインドコントロールされていないな。 ガストと宝条両博士が何を意図してこうしたのかは解りかねるが、たまにはこんな変わり者のファティマがいても良いだろう。 「――セフィロス」 名を呼べばすぐに反応してくる様子は、まるで忠実な猟犬のようだ。 「オレにもお前にも時間はたっぷりとある」 「まだ知り合ったばかりだ。これからゆっくりやっていこう」 それにな、 「オレはティファしか抱いたことはない」 「男相手は初めてなんだ――出来るだけゆっくりと優しくしてくれないか」 セフィロスは今回初お披露目のファティマだった。 クラウドよりも性体験はない筈。つまり彼はまだ無垢なのだ。 知識はあっても実体験はない。 そんな自分を充分に理解しているのだろう。セフィロスは重々しく、 「わかった。善処する」 でも、 「キスまでは許可してくれないか」 これから先、きっと自分はセフィロスと恋人になるのだろう。 それはティファとの時のように、ただ楽しいだけの関係にはならないかも知れないが、それでもこのファティマを選んで選ばれたのはクラウドだ。 少しずつでも前向きに、セフィロスとの関係を構築していかなければならない。 ――今度犬の躾の本でも読むか… 頭の片隅でこんなことを考えながら、クラウドは了解した。 「いいよ。スキンシップの範囲内ならばオッケーだ」 「スキンシップの範囲内とはどこまでだ?」 「オレが教えてやるよ」 時間をかけて、じっくりと。 そうして、クラウドは初めて自ら口づけてやった。
ファティマシェルから降りる時、一足先に着地したセフィロスは、まるで姫君でも迎えるようにクラウドに手を差し伸べてきた。 クラウドはその手を拒まずに、そっと触れる。 「そういえば――」 「クラウド。さっきお前が使ったあの技は騎士のものではなかったな」 「あれは――ダイバー(魔導士)の技だった」 3Aランクのファティマが見逃すはずもない。 「そうだ。オレはバイアだ」 「騎士と魔導士、両方の能力を持ち合わせている」 騎士、ヘッドライナーが“天を取る者”という意味を持つのに対し、魔導士、ダイバーは“つらぬく者”という意味で呼ばれている。 ダイバーの能力は二種類に分けられている。この二種類の能力を同時に有するダイバーはいない。 ひとつは魔法。三次元以上の時間の力、生死の世界の力をこの次元において物理的エネルギーに変換するのだ。 変換された物理的エネルギーは、炎や雷撃、ショックや克空などとなり、魔導士の思うままに対象を攻撃する。 もうひとつはもっと霊的なものだ。預言や霊力と呼ばれるもので、その偉大な精神力で様々な現象をコントロールするのだ。 魔法が攻撃的な能力なのに対し、預言や霊力は防御的な性質を持っている。 その為か、前者が恐れられるのに対して、後者の魔導士は尊ばれ敬われることが多い。 天文学的な確率になるが、時折騎士と魔導士両方の能力を持って生まれる者がいる。この者をバイアと呼ぶ。 バイアは5星団合わせても10名もいないだろう。それ程までに希有の存在なのだ。 有名なバイアがエアリス。そしてクラウドもそう。 エアリスがセトラの巫女であり預言者であるのに対して、クラウドは魔法を使うのだ。 どうしてバイアが生まれてくるのか―― バイアは遺伝子操作では生まれてこない。故に考えられるとするならば、原因はひとつのみ。その“血の濃さ”だ。 アバランチの女王エアリスは、この世界で今や最も古い血セトラの末裔である為、バイアであるのも至極当然とされている。 だが、クラウドは―― 少なくともクラウドの母は騎士でもダイバーではなかった。 彼女はクラウドを愛してくれたが、秘して語らずに死んでしまった為、母の血の成り立ちも知らず、ましてや父に至っては顔も名前さえも知らないクラウドは、自身のルーツを知らない。 どうして自分がバイアなのかも知らない。 「――バイアだと知って驚いたか?」 騎士とは違いダイバーは嫌悪の対象となる場合もある。 セフィロスは素直に認めた。 「驚いた。バイアに遭遇出来る確率は皆無に近いからな」 だが、 「これでどうして俺がお前をマスターに選んだのか、その理由がはっきりと解った」 「理由?」 「マスターを選んだこと。独占欲、嫉妬心、奇妙なMH、口づけ、そしてバイア――」 「クラウド、お前は俺にいつでも初めてをくれる」 「お前とならば、何年経とうが、どこでどう生きていこうが、きっと退屈すまい」 ひょっとしたら―― 「クラウド。こういう感覚を人は恋愛感情と呼ぶのか?」 透き通るクラウドの肌に朱が走った。 「そんなの、自分で考えろ!」 馬鹿野郎、と言い捨ててクラウドは先にカーゴベースから出ていってしまう。 星団一の高い能力を誇るセフィロスを、バカ呼ばわり出来るのもクラウドだけだろう。 ――出来れば、あの口から睦言を聞きたいものだがな。 今は無理でも時間はたっぷりとある。 クラウドがそう言ったのだ。 「――クラウドは俺のモノだ」 背筋が凍り付く美麗な笑みの目撃者は、アルテマウェポンのみである。
*** これにておしまい。 続きは…きっと書くんだろうなあ。
たくさんの拍手&♪&コメント、ありがとうございました。 もろもろについてはまた後日お返しさせていただきたいです。 明日はインテの日。 参加される方、良かったらお立ち寄りくださいませ。
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