大広間を出て、廊下にまで至って、やっとセフィロスは口を開いた。 腕にあるマスターに、 「宿はどこだ?」 と問う。 何せ早く二人きりになりたい。どこも人目がありすぎる。 セフィロスの問いにクラウドは別の提案をした。 「それよりもオレのアルテマに会いたくはないか?」 ファティマとMHは文字通り一心同体となるべき間柄だ。 クラウドも早く愛機に会わせてやりたかった。 アルテマもセフィロスを歓迎するだろう。なにせこのファティマは、おかしなファティマではあるが、性能はとびきりなのだから。 クラウドの提案にセフィロスは心囚われた。 クラウドと早く二人きりにもなりたいが、クラウドのMHにも会いたい。 別に部屋でなくとも良いのだ。カーゴベースでも二人きりになれる。 こう考えると、クラウドの提案は素晴らしい。 「会いたい――会わせてくれ」 よし。 「預けてあるカーゴルームに行こう」 だが、その前に、 「頼むから、下ろしてくれないか」 「この状態に何か問題でもあるのか?」 問い返すセフィロスは大いに不服そうだ。 クラウドは苦笑で肩を振るわせながら、 「男が男を抱いて運んでいるなんて、目立つだろう」 恥ずかしいなどと言っても、絶対にこのファティマには通用しない。 だからクラウドはあえて、こういう言い方を選ぶ。 そしてこの選択は的確であったようだ。 「目立つのか?」 「ああ、とてもよく目立つ」 「――わかった」 セフィロスは腰を屈めて、そっと下ろした。 まるで深窓の姫君に対する態度に、クラウドは大声をあげて笑いたくなった。 ――オレは騎士だぞ… 騎士はファティマよりも強い。いや、セフィロスならば騎士以上の性能を持っているのだろうが、それでも騎士は騎士。 クラウドが騎士だということを。果たしてセフィロスは理解しているのだろうか。 ――お前さっきマスターって呼んだだろう。 からかいたくなってしまう衝動を、クラウドは首を緩く振って耐えた。 その様子をセフィロスは察知して、 「どうした――」 本当に、主思いのファティマなこと。 きっとティファよりも。 「いや…なんでもない」 「さあ、行こう」 クラウドは先に大股で歩いていった。 セフィロスもそれに続く。
エアリスの用意してくれたカーゴベースは、かなり立派なものだ。 そこにクラウドの愛機、アルテマウェポンは静かにあった。 漆黒のボディを見上げ、セフィロスは翠の瞳を見開く。コンタクトグラスを外しているのだろう。瞳と虹彩との間が妖しく煌めく。 二足歩行型のアルテマはどちらかというとスリムだ。余計な装甲は一切無く、すっきりとシンプルな外見をしていた。 MHの素人ならば、アルテマの真の能力を見抜くことなど出来ない。 ただヘッドライナーならば、MHマイスターならば、アルテマの性能に脅威を感じるだろう。 クラウドはアルテマの装甲に手をかけて、軽く叩く。 漆黒の装甲は見た目よりも遙かに重い音がした。 「どうだ。これがお前の相棒になるアルテマウェポンだ」 どうだ、と言われてもセフィロスは声もでない。 一目見て、セフィロスにはわかったのだ。アルテマの性能の凄まじさを。 「これは…」 「――マイスターは誰だ」 「さあ、オレも知らない」 「知らない!?」 「クラウド。お前の愛機なのだろう?」 「ああ、そうだ」 それでも、 「知らないものは知らない」 「説明してくれ」 「アルテマは造られたんじゃない。発掘されたのさ」 コレルという星がある。そこでアルテマは発掘されたのだ。 鉱山事故で露わになった地層から出てきたMH。それがアルテマウェポンなのだ。 「コレルのMHマイスターにバレットというヤツがいる」 バレット・ウォーレス。マイスターとしては星団屈指の腕前を持つ。 ただしかなり気むずかしい気分屋であり、金で仕事は請け負わない。 「アルテマは発掘された後、バレットの元へ運び込まれた」 そして、騎士が乗りこなせるように改良されたのだが、十年以上誰も乗りこなせないままでいたのだ。 なぜならば、アルテマには意志があったから。
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