これにて最後です。 お付き合い頂きましてありがとうございました。
*** 長くてくだらない一通りの挨拶を終えると、クラウドはすぐにエアリスの側から退散する。 一応エスコートの役目は終えたのだと言わんばかりに、クラウドは会場の中心から離れ、グラスを片手にバルコニーへと出た。 バルコニーからはミッドガルの夜景が一望出来る。 色とりどりの灯りは、まるでおもちゃ箱のようだ。ごちゃごちゃしていてどこか猥雑。 その時大きな喚声が会場から漏れ出てくる。 きっとお披露目が始まったのだろう。だがそれはクラウドには関係のないこと。 人に溢れた場所にいたため、疲弊した神経を休めるべく、クラウドはグラスを煽った。 爽快な喉越しがすっと溶けてしまうこの味わいは、酒に弱いクラウドでも美味だと素直に感じられる。 無論これも神羅マークの製品なのだろう。 ――神羅はいただけないが、酒は美味だな。 収まりの悪い金髪を風が掻き上げていく。 少し目を閉じて、クラウドは体内に入ったアルコールを感じた。 会場からは頻繁に喚声が起こっているようだ。 騎士とファティマ。様々な思惑があろうとも、星団法に縛られるファティマにとって、このお披露目は唯一の自由を行使出来る場なのだ。
ティファとクラウドがあったのは、お披露目の場ではない。 ティファがクラウドを見初めてくれて、追いかけてきてくれたのだ。 騎士である変化を遂げたばかりのクラウドを、彼女は愛してくれた。未熟な騎士に誠心誠意仕えてくれたのだ。 死んだ者は戻らない。500年の寿命があると言われているファティマでも、死ぬ時は死ぬし、壊れる時は壊れてしまう。 失った者をずっと未練し続けるのは、ティファの為にも良くないのだとはわかっているのだが…
フッと、先日あの教会であったファティマを思い出す。 (クラウド――俺の騎士) (俺のマスター) ファティマだと言い切ってしまうには、あまりにも絶対だった。 あのファティマは、どういうつもりでクラウドをマスターだと思ったのだろうか。 彼はクラウドに、何を見たのか。 ――まあ、いいさ。もう会うこともない。 グラスのお代わりをもらおうと、考えたその時、悲鳴そのものである一際大きな喚声が会場から溢れてくる。 自分には無関係であると信じているクラウドは、空になったグラスを片手に、会場へと戻ろうとした。 締めていた両開きの扉に手をかけた時、会場側から勝手に開く。 自然の流れで顔を上げると、そこにいたのは―― ――! 「クラウド。やはり会えたな」 教会の花畑であった、あのファティマではないか。 今回はマント姿ではない。首から手足の先まで、きっちりと覆い隠した革製のファテイマスーツを身につけている。 黒のファテイマスーツの光沢が銀髪に映えて、妖しいほどに美しい。 「――お前は…」 「俺の名はセフィロス」 「ガストと宝条によってつくられたファティマだ」 つまり彼は、今回のお披露目での目玉だったファティマなのだ。 「俺のゲージは3Aを超える」 本当は高すぎて測定不能なのだが。 「騎士以上の働きもするぞ」 「何より――俺は絶対にお前を裏切らない」 哀しませもしない。 「お前だけを護り支えよう」 「俺の忠誠はお前だけに捧げられる」 クラウドが先に死ねば、後を追ってやろう。 「どうだ――ここまで誓うファティマは他にはおるまい」 だから、クラウド。 「俺のマスターになってくれ」 「俺にお前をくれ」 セフィロスはここまでを一気に言い切ると、跪き、クラウドの右手を取る。 そして手の甲に口づけたのだ。 まるで騎士が姫君に、永遠の忠誠を誓うように。
このワンシーンにため息が起こる。 やっとお披露目に現れたものの、「こいつらではない」と言い捨てて、会場中を探し回っていたセフィロスを追ってやってきた人々からわき上がったものだ。 皆この美麗すぎる最高級のファティマが選ぶ騎士を見たかったのだ。 わき上がったため息で、クラウドは我に返る。 手を引こうとするが、セフィロスは放さない。 顔をあげて、ニヤリとタチの良くない笑いを浮かべ、 「今回は立ち会いの騎士も大勢いるしな」 教会の花畑でクラウドが言った言葉を忘れてはいないのだ。 ――なんてヤツだ! どうしようかと頭を働かせるクラウドの視野に、心配そうに見守っているエアリスの顔を認める。その背後によりそうザックスも。 その時不意に湧いてきた感情は、不器用な自分の本音だ。 ―― 一人は嫌だな。 寂しいのも嫌だ。ずっと一人で行動するのも。MHを一人で操縦するのにも厭きた。 こうやって周りからファティマを失った騎士なのだと、気遣われるのにもうんざりだ。 それに、このとびきりきれいだがちょっと行動がおかしいファティマほど、クラウドに忠誠を誓ってくれる者は、この先ももういないだろう。 ティファを忘れるんじゃない。彼女は永遠に忘れない。 でももうそろそろティファを解放してやるべきなのかも。 じいっと見上げてくるセフィロスの眼差し。翠の美しい色合いに不安が混じっているのを、クラウドは見逃さない。 「――…解ったよ」 ――オレの負けだ。 「セフィロス。オレのファティマになってくれ」 「イエス・マスター」 セフィロスはそのまま手を引いて、クラウドを己の腕に抱きしめてしまう。 わーっとまたわき上がった喚声を、クラウドは逞しいファティマの胸の中で聞いた。 お披露目の場でマスターを抱擁したファティマは前代未聞である。
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という感じで二人の始まりでした。
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Y子
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あけましておめでとうございます。
おつかれさまでしたぁ〜〜。 いやん。 どきどきしました。 隙間見てログまとめますね。
そして拍手や♪もありがとうございました。
私信B子さんへ:週明けましたら大阪用のコピー作成に入ります。毎度ギリギリでごめんなさいっ。
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