オーヴァチュア
OP/ZS/2006年にょろそろじー参加作品
no.1
雌雄鑑定士。
文字通り雄と雌の区別を鑑定する職業であり、有名なのは鶏の雛の鑑定だ。
産まれたばかりの雛を雄と雌に鑑定するのは難しいが、繁殖させ増やすのが目的の場合や卵を効率よく取りたい場合など雄雌の区別は重要で、この鑑定力が大きくかかわってくる。
そして、《にょろ》なのだ。 愛称として《にょろ》と親しまれている学名ニョニョリータ。
食虫植物亜種とされている愛の伝導植物《にょろ》。これは雄株と雌株にわかれており見分けが非常につき難い。
ゆえに人の手による繁殖が困難とされているが、稀に雌雄鑑定士のマイスター称号を持つ者がいる。
その人々のおかげで僅かばかりではあるが人の手での繁殖にも成功していて、噂に名高い《愛の涙》抽出に成功していた。
この《にょろ》は愛の伝導植物といわれるだけあって、雄株と雌株の繁殖期に放出される気体や交配時に雌株より出る樹液が《愛の涙》といわれる媚薬として恐ろしいほどの高額で取引されているのだ。
合法であり、副作用もなく、使用者に至福の時を約束してくれる魔法の媚薬。 そんな、《にょろ》なのだが、呑気に航海をする羊船にはまったく関係ない品で、きっと死ぬまでお目にかかることはないであろうと思われていた媚薬だったが、ゾロの一言で全てがひっくり返った。
遡ること二十四時間前。
緑茂るこの島に到着し、先頭をきって飛び出したルフィに半ば呆れつつ、一行が下調べを兼ねて市場に到着した時だ。 市場に売り出されていた観賞用の《にょろ》を発見した。
樹液の媚薬効果だけでなく、観賞用としても高額で取引される《にょろ》が市場で売られていたのだ。
この島は《にょろ》原産の島としても有名だったから、市場で売りに出されていても不思議ではないのだが、事はその先に起きた。
「なんだ雄ばっかりじゃねぇか」
ゾロが株を眺めながらポツリと呟いたその言葉。
「あんた見分けがつくの」
驚いたナミの声に、
「わかんねぇのか?」
「普通はわからないわよ」
ふん。と鼻を鳴らすと自信満々に先を歩こうとするゾロの腕をナミがガッチリと掴んだ。
そうしてゾロはナミによって繁殖家に売り渡されることが決まったのだ。
「しっかり稼いで来てね。
あんたでも役に立つことがあるなんてあたし感動してるの」
ベリー目で潤んだ瞳に見送られ強制的に繁殖家に売り払われたゾロの脇でサンジが涙目になっている。
「ナミさん・・・なんでおれまで・・・」
「サンジくん、ゾロを一人にしておくと何があるかわからないでしょう?ログが貯まったらちゃんと迎えに行くから、それまでしっかり見張っていて欲しいのよ」
「ああナミさんのお願いならなんでも聞きたいとこだけど・・・」
言い淀むサンジの言葉を遮りながらナミが両手を合わせて豊満な胸をぐいっとサンジに近づけた。
「サンジくん。あたし信じてる。あたしたちの食事の心配はしなくていいわ。サンジくんも働きすぎだし、よっく親方さんにはお願いしてあるから、骨休みをして欲しいの」
プルンプルンと胸を揺らしながらナミが迫れば、エロバカコックは鼻の穴を大きくしてヘナヘナと腰が砕けてしまう。
そんなサンジの様子を鼻で笑うとゾロはうっとおしそうにいらねぇと呟いた。
「邪魔くせぇ、おれ一人でいい」
「何言っているのよゾロ。あんた一人にしておけるわけないじゃないの」
「足手まといだ」
心底うんざりしたように言葉を続けるゾロにサンジが切れた。
「おれだってテメエなんかとご一緒したかねぇんだよ」
「じゃ、テメエは留守番してろよ」
「ゾロ!!」
さすがに怒鳴りつけるナミに軽く肩を竦めてみせる姿もサンジの勘に触り口より先に脚が飛び出した。
「テメエ何様のつもりなんだよ」
「キャンキャン吼えるなよ。うっせぇなぁ」
「キャンキャンとはなんだよ。マリモの癖して生意気だ」
サンジの蹴りを軽く避けながら、蝿でも追い払うようにしているゾロにサンジは沸騰しまくりだ。
「おれがいなきゃテメエは飢え死にだろうがよ。飯どうすんだよ」
「飯なんかなんとかなんだよ。《にょろ》を知らなねぇ癖に首突っ込んでくるな」
「め、め、め、飯なんかとはなんだ!!」
「女房でもあるまいし、飯、飯って煩せえんだよ」
「おれがいつテメエの女房になったんだよ」
「じゃぁ母ちゃんかよ」
「ふざけるな!」
真っ赤になって怒り狂うサンジとは対照的にゾロは顔色ひとつ変えず言い切った。
「テメエの世話なんかいらねぇ」
まるで斬り捨てるような一言にサンジの顔から色が消える。
サンジが本気モードで脚を高く上げたと同時にゾロの手も刀にかかる。じりじりと睨み合ったその時、
「いいかげんにしなさい!」
ナミの爆弾が二人に落ちた。
思い切り頭を殴られて我に返ったゾロを無視して、ナミはサンジの手を取ると大きな胸に近づけた。
「サンジくんが大変だっていうのはわかるけど、ここは辛抱してね。あたし信じてる。
サンジくんなら絶対にできるって信じてるから。それに食事のこと以外サンジくんはゆっくり骨休みしてね。サンジくん働きすぎだもの」
「ナミさん!感激だなぁ。おれのことまで考えてくださっていたなんて〜〜〜〜〜〜サンジがんばりますぅぅぅぅぅ」
ハートを飛ばしまくり、ゾロに言われたことをぐっと飲み込んでサンジは仲間に手を振って別れたのだった。