「俺ぁテメエに惚れてるのかな」
差し入れを美味そうにほうばっていた ク ソマリモの眉間に皺が寄った。
「それを俺に聞くか?」
皺が寄りながらも律儀に返事が返るとこがこいつの美徳のひとつなのかもしんねぇ。
「わかんねぇから聞いたんだよ」
「わかんぇフリばっかしてっからわかんねぇだ。テメエはやっぱりアホだな」
傍らの酒瓶を取ると水を飲むようにゴクゴクと音を立てた。
肩に背中を押し付け寄りかかりながら、俺ぁアホか?と素 直に問いかけると、今度はクソの片眉が訝しげに上がった。
「面倒な話しならごめんだぞ。俺は飯の最中だ」
美味い飯くられぇゆっくり食わせろと可愛いことを言う。
「だってよ。わかんねぇんだもん」
テメエは俺を惚れさすって言うけどよ、何処で惚れてるってわかんだ?
終いの言葉は飲み込んだまま煙を吐き出す。
ぷかぷかと浮かぶ煙を眺めていると、行儀よく両手を揃えたクソが差し入れのバスケットを退けると、俺の肩を掴み引き寄せた。
「痛てぇよ」
「いいからくっついとけ」
「偉そうにしてっとオロスぞ。ゴラァ」
口調の割りに素直にそのままになれるのは見張り台の利点かもしれねぇ。
ここは狭ぇから、くっつくしかねぇもんな。
肩口に押し付けられた口元から、クソの吐息が伝わって、おもわずゾクゾクしちまう。
これが絆されてるってことなんだろうか?
「やっぱりわからねぇよなぁ」
呟いた煙の先に朝日が昇るのが見える。
新しい一日のはじまりだ。
昨日とは違う今日という特別な日。
水平線の向こうから、白い光が洪水ようのように溢れきらめいてくる。
綺麗だ。
「なぁ」
「ん?」
半分眠りかけたくぐもった声が返る。
「新しい一日のはじまりだぜ」
腕の中で無理やり振り返ると、クソの鼻をつまんでやる。
「見ろよ。朝っぱらからご苦労さんな船が向かって来るぜ」
「働き者なこって」
つまらなそうに言い捨てクソは名残惜しそうに俺に回した腕に力を込める。
「やっぱ、あれっこっちに来るのかな?」
「来るんだろうな」
俺の視線につられて、遠くを見るクソの頬へ唇を押し付けると、
「誕生日おめでとう」
俺はピアスを弾きながら笑った。
砲弾の水飛沫が舞い上がり、朝日を浴びてキラキラと輝いていた。
輝く水飛沫の中に困った面したクソの顔。
餓鬼くさいその顔を見たその時、俺はこいつが好きだと、そう思った。
「やっぱり惚れてんのかな」
「続きはあとだ」
クソは半分泣き笑いのような面して、そう言うと、俺の頭を二、三回偉そうに叩き、
「敵襲ーーーーーーーーーー!!」
と、怒鳴り、ひらりと甲板へ降りて行く。
ど〜〜ん、ど〜〜んと煩くなった砲弾の落ちる音を聞きながら、俺は煙草を咥え直し、上等じゃねぇのとヤツの後を追う。
続きは後だ。
「とろとろしてんな!!先行くぞ!」
下で焦れたように怒鳴るクソに、
「焦るんじゃねぇよ」
言いながらひらりと飛び降りる。
「忘れもんだろう」
クソの顔を両手で挟むと、しっかり舌まで差し込んで 濃いのを一発かましてやる。
いやらしく腰を撫で付ける手がエロくて最高だ。
「クソッたれ」
「クソッたれはねぇだろう」
「テメエじゃねぇよ」
睨みつけた先には敵船がすぐ脇にまで近づいていた。
「来るのが早ぇ。チクショーまだ終わってねぇのに」
「そこかよ!」
「そこ以外にねぇだろうがよ。ったく、さっさと終わらずぞ」
瞬殺する予定なのかバンダナまでして本気だ。
腹を抱え込んで笑う俺に念押しするように続きは後だからなと、怒鳴る。
「うし。キリキリ働くか」
俺も気合を入れると、甲板を蹴り上げた。