「あっつん…」
急に強くなった刺激に思わず声が出て睨むとクソマリモも凄んだ視線を返してきた。
「クソコック!気抜いてるとは余裕じゃねぇか!」
俺だけを見てろというようにそこかしこを食いちぎるように噛み付いてくる。
あまりに刺激が強くてガッツクなと苦情を言えば、
「オメエは悔しいくれぇに美味ぇ」
と泣きそうな顔になるから何も言えなくなる。
だから返事の変わりに顔を引き寄せると額にキスを落とした。
愛がなんなのかは今でもわからない。
クソマリモには“素直じゃねぇ”とか“アホにはわからねぇ”とか“料理以外は最低だ”などどバカにアホ呼ばわりされて毎回派手な喧嘩になるが、男相手に愛だの恋だのなんて考える方が変だ。
クソマリモの手が、舌先が、発火しそうに熱く体中に侵食してくるから本当に食われているような錯覚を覚え、溶け合うように互いの呼吸が重なり出すと、どちらがどちらなのかの感覚さえ曖昧になり、まるでひとつの命のような気にさえなっちまう。
考えることも出来ずに、ただ熱くて、息を吸うのも苦しくて、でも気持ちいいから、手を伸ばしてしがみ付いたその瞬間、奴が大きく具らインドすると俺の上に落ちて来る。
荒い息をしながら、相変わらず泣きそうな顔をしくさるからうっかりほだされそうになる。
星が何処までも続き、綺麗だと思った。
情事の後の一服はことさらに美味くて、見張り台に凭れ、深い群青の空に向かって煙をひとつ。
逃げやしないのに隣には必死のクソマリモがいる。
仕方ないから耳朶に噛り付きながら呟いてやる。言い終えた瞬間に奴がギュウギュウと体を抱きしめて、心底嬉しそうに笑うから思わず蹴り込んでしまった。
「なにしやがるクソコック!!」
「愛の表現だバカ!」
怒鳴り返すと奴はまた嬉しそうに笑い、キスを仕掛けてくるから、調子にのるなと怒鳴ってやる。
「嬉しいくせに」
不適に口端を上げるクソマリモ。
「嬉しがってんのはテメエだろ?」
嫌味ったらしく突っ込めば、
「おうよ。俺ぁオマエに惚れてるぜ」
ストレート、直球、ど真ん中。
あまりに真っ直ぐ返してくるから、思わず耳まで真っ赤だ。
悔しい。
結局最後はコイツにいいようにあしらわれている気がする。縁に額を乗せて肩を震わせながら、どうしてくれようかと思った時だ。
視界の端に映りこむ光。
「終わった後でよかった」
クソマリモもどうやら敵船の光に気がついたようだ。
しかし、言うにことかいで、終わった後でってなんだよ。
俺は溜息を零しながら愚痴る。
「俺はよくねぇよ。もう動きたくねぇ」
「動きたくねぇくれぇに良かったんだから、途中で邪魔が入らねぇでよかったんじゃねぇかよ」
「なんだよ。その理屈。テメエがゴンゴン動くからだろう」
「テメエはひんひん啼いていたよな?」
ニヤニヤしながら肩に腕を回してくる。
ずうずうしい奴だ。
「しゃぁねぇな。みんな起こすか?」
心底ウキウキ聞いてくるから
「ルフィは起さねぇと後が煩ぇだろうなぁ」と、呟く。
クソマリモは俺の肩を抱きこめギュウっと力を入れると、顔を寄せ額にちゅっと音を立て、大きく息を吸い込むで怒鳴った。
「敵襲だぁーーーーーーーーーー!!!」
クソの声と同時に海面には最初の砲弾の水飛沫が大きく上がる。
跳ね上がる水を受けながら、キスされた額を擦ると、俺はクソの襟首を掴んで思い切り濃いベロチュウをかましてやる。
ドド〜〜ンと聞こえる砲弾の音の中でするチュウはなんだか最高にロマンチックだ。
唇を離して、見張り台の縁に手をかける。
「お先に!」
ニヤリと笑うと飛び降りた。
大慌てで俺に続いたクソマリモが隣で不貞腐れたように怒鳴る。
「いつか俺にゾッコンラブだって認めさせてやるからな!!」
なんだよ。そのゾッコンラブってよ。
クソを見上げながら、俺はなんだか可笑しくて仕方なかった。
煙草を出して、一服決めている間にみなも出てくるだろう。
俺はクソマリモの後ろにゆっくり回り込むと、背中を合わせ煙を吐き出す。
「さ、行こうぜ」
「オウ」
船縁に伸ばされる手に向かって大きく乾板を蹴り上げた。