あぶりだし

 MEMOよりルードレノ


どこからマズかったのかと言えば、それはきっと最初からだ。
でも直接ドジったのはレノではない。ルードだ。ルードは相棒。相棒のミスは己のミスとしろ。厳しい上司が頭に浮かんだレノは、思わず苦笑いを作る。
(わかってるぞ、と)
レノの苦笑いを、殴っていた一人が見咎めた。赤毛をひっつかむと、顔面に唾を吐いてくる。乱暴に掴まれた頭皮からブチブチと音がした。絶対何本か抜けたに違いない。
(ハゲはいやだぞ、と)
己の髪はかなり気に入っているのだ。それにハゲはルードだけでたくさん。
こんな下らないことを考えつつ、長いレノの忍耐は続く。

テロリストのアジトを探れ。タークスとしては代わり映えのしない命令を受けたレノとルードは、様々な探りを入れた。
そこでルードがドジった。…らしい。
らしいというのは、実際にドジを踏んだ現場を見ていないから。
ルードと連絡場所と決めた倉庫で、レノは会うはずなどないテロリストたちに囲まれて、ルードのドジを知ったのだ。
この後はお決まりの拷問。暴力のフルコースに突入。
指先、爪の間に木のヘラをこじ入れられる。生爪を剥がされ、指先を石で原始的につぶされた。
指の次は上衣をむかれて身体中をぶたれる。
打撃の後は刃物だ。背中をナイフでえぐられると、生理現象で失禁をしてしまった。
ここでレノは、どうしてコイツらが顔を傷つけてこなかったのかの理由を、身を以て知る。
「モラしてやがる」
「タークスでもしょんべんするんだな」
ベルトをとられスラックスと下着は切り刻まれた。
裸で四つんばいにされて、目の前にグロテスクなペニスが突き付けられる。
(こういうコトか…)
半分だけ勃起したペニスを、レノは頬張った。

レノはスラムの孤児だった。男とも女とも、幼い頃からセックスをしている。セックスと暴力が普通だという環境で育つ。
今さらペニスをしゃぶるのなんて、大したものではない。むしろセックスに持ち込んでくれた方が、ペニスを三枚におろされるよりもずっと良い。
喉奥まで迎え入れて締め付けてやると、ペニスはすぐ元気になった。
フェラチオするレノを、他の男達が食い入るように覗き込む。
レノは男だ。か弱くもなければ女々しくもない。身長もある上に、細身ながら鍛えてある。自分たちより強い男であるレノを犯す。倒錯的な衝動に男達は酔っていた。
いきなり腰を掴まれ、まだ乾いたままのアナルに無理矢理挿入される。力加減も気づかいもない。ここにあるのは、破壊衝動とセックスだけ。
(チっ)
切れたのはすぐわかった。
これ以上のダメージをこうむらないよう、レノは深呼吸を繰り返す。肋骨と胃が軋んだが、構っていられない。
数度腰をふって男は達した。射精された不快感を噛みしめる間もなく、すぐさま次が入ってくる。
再度深呼吸をしようとした時、口にあるペニスが弾けた。空気の代わりに生臭いザーメンを飲んでしまい、レノはむせる。
(クソったれ)
咳き込むレノに別のペニスが突き付けられた。血の粘液と、たぶんレノ自身のものだろう所々便のついた最低なペニスだ。
「お前が汚したんだ。きれいにしろ」
抵抗しても傷が増えるだけだと承知してはいるが――当然沸き上がってくる怒りをレノはどうにかして飲み込み、口を開けながらしゃぶった。

もう何人に犯されたのか、わからない。意識を保っていられるのは、レノの強靭さのおかげだろう。
(――)
肛門はズタボロ。ただ肛門筋が完全に切れてないのが救いだが。
(人工肛門になるのはイヤだぞ、と)
便を垂れ流す人生もごめんだし。
(さて、これからどうしようかな、と)
色々計画を練っていると、頭上から聞きたくもない声がする。
「おい!顔をあげろ」
なんとかして動かした視線の先には、全裸の男がいる。
大柄で筋肉が瘤のように盛り上がった、たくましい男だ。そのたくましい体は血の色で彩られている。肌の上にはどす黒く鬱血した暴力痕。両手は後ろ手に拘束されており、拘束の端は男の太い首へと巻き付けられていた。拘束を解こうとしたら首が締まる仕掛けだ。
そしてその人物は、
(ルード!?)
ルードだ。ルードに間違いはない。でも
(おかしいぞ、と)
普段のルードではない。
血走った目。瞳孔が完全に開いている。全身から汗がしたたり落ちて、血と混じり合った奇妙なまだらを描いていた。
もっともおかしいのは、股間。ペニスだ。血管が浮き出たペニスの勃起は異常である。尿道口からは先走りの液体が、途切れることなく滴り落ちているではないか。
(薬だ!)
ルードは強い催淫効果のある薬物を打たれている。
「お前ら、コンビだろうが」
「死ぬ前に仲良くつがわせてやるぜ」
ルードは乱暴に引きずられてきた。こんなになってもまだ理性が残っているのか、ルードはレノを前にしても動こうとはしない。そこにレノは光をみる。
軋む体を立て直し、レノは大きく股を開いた。
「…来いよ、相棒」
自らルードを抱き寄せる。

愛撫など何もない。女の腕ほどの太さになったルードのペニスが、さんざん酷使されたアナルをえぐる。大きくて。大きすぎて。串刺しにされたようだ。
と、同時に
――イイっ!
今まで男にヤラれて、肛門を犯されて、感じたことなどなかった。ルードのペニスが動く度に痛みとそれ以上の快感がレノを貫く。
レノも勃起した。それを見て男達が囃し立てるが、もう何も聞こえない。己を貫くルードのペニスだけが世界の全て。
両足をルードの腰に絡めて、レノは自ら腰を動かす。
「あぁっ!スッゲー」
――こんなにイイなんて!
仰け反った胸にルードが噛み付く。歯形どころか血が滲んだ。
両手をルードの首に回すと、唇に吸い付いた。
「もっと――」
全身で快楽を貪るレノは妖艶すぎる。レノに魅せられた男達が生唾を飲み込んだ。
「イイっ!イく!」
レノのペニスが弾けた。だがそれは終わりではない。ルードの動きは止まらず、レノも積極的に応じていく。
「出せよ、ルード!」
「ザーメンを俺に注いでくれ」
一突きされるごとに、レノは淫らに叫ぶ。己の叫びに感じるのか、身悶えしながらレノは再び達する。ルードも何度も射精しているが、それでも終わろうとはしないまま。
そのうちに見物していた男達は参加したくなる。ペニスをむき出しにして、激しいセックスに酔う二人の側に近づいた時、唐突にそれは起こる。

ギャ。ウギュ。グエー。
二人を取り囲んだ男達が一瞬にして倒れた。その数五名。ほとんどが即死だ。
屍の中から立ち上がったのはルード。いつの間にか手と首の拘束が消え、マテリアのはまったロッドを持っている。
ルードの手が振り上げられた。これが男達の見た最後の光景だった。


入院を強いられたルードのもとにレノが見舞いと称してやってきたのは、救出されてから四日後のことだった。
ルードが入院することになった理由は、投薬された薬物のせいだ。粗悪な薬物であったため、後の処置が必要だったから。
「よぉ、相棒」
見るかぎりレノにダメージはない。身も心も。
ルードの拘束を解いたのはレノだ。あの時、激しいセックスをしながらレノの手は的確に動いていた。ルードの拘束を解き、ミニマムで隠していたロッドを渡して。
「いいか…合図したら動けよ」
淫らなキスの合間、大げさにヨガりつつ、攻撃のタイミングを読んでくれたのだ。ルード一人ならば、到底無理だったろう。
ルードは無言のまま、視線を手元に落とす。
「……すまなかった」
とだけ。重々しく。
「なにがかな、と」
「俺がドジを踏んだから…」
自分さえドジを踏まなければ――色々な意味で自己嫌悪に苛まれるルードを、レノは笑い飛ばす。
「気にするなよ、と」
「ツォンさんが言ってたぞ、と。相棒のミスは自分のミスだって」
それに、
「お前とのセックス、良かったぞ、と」
「!」
「デカいペニスだったぞ、と。腰がたたなくなるくらい、感じたぞ、と」
それは――それだけは…
仕方ないことであったといえども、レノとセックスに及んだのは、忘れてしまおうと決めていたのに――
頭のてっぺんまで真っ赤になり、かわいそうなくらい狼狽えるルードに、レノはご満悦だ。
「今度ドジしたら、俺がお前を犯してやるぞ、と」
覚悟しとけよ、と。

タークスのレノの相棒でいるためには、心身共にヘビーでなければいけないのだと、ルードは再認識するしかない。



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