07バレンタインSS

俺の名はセフィロス。俺は一体どこまでが俺なのか。何をさして俺と呼ぶのか。その範囲はどこだ。
自我か。自我がなければそれは俺ではないのか。
自我、それはつまり精神か。
それならば肉体はどうだ。肉体は単なる入れ物に過ぎないのか。
精神は目に見えない。精神は実体ではない。精神を計ることは出来ない。
精神、魂、心。それらも俺を構成する要素であるし、肉体も俺を構成する要素だ。
銀髪でなければ、それは俺ではないのか。
瞳の色が変われば、それは俺ではないのか。
髪の長さが変わってしまえばどうだ。それは俺なのか、俺ではないのか。
目がひとつならばそれは俺か。目が見えなければ、それは俺か。
顔はどうだ。この顔でなければ、俺は俺ではないのか。
顔が焼けただれたとすれば。指が、手が、足がなければ。
正宗を振るえなければ、ソルジャーでなければ、それは俺なのか。

クラウドがいる。俺の部屋にいる。
くたびれたシャツに大きめの綿のパンツをはいて、さっきから本を読んでいるようだ。


クラウドは特別だ。これまであった誰とも違うところにカテゴライズされる。
惹かれているのか?と問われれば否とは言えない。
では、クラウドを特別だと感じるのが、俺なのか。
クラウドが特別でなければ、それは俺ではないのか。
クラウドと交わる。安息を得る。満たされる。エクスタシーという生と、射精という小さな死を感じる。
クラウドと交わらなければ俺は俺でないのか。
他のヤツらを抱いていた俺は、俺ではなかったのか。

座り込んだクラウドの唇がしきりと動く。だが声は出ていない。
本のページをめくる指先はほんのりと紅い。


あの唇の感触を知っている。あの唇に吸い付きたいと思っている。
唇の感触を知らないと、俺は俺ではないのか。
唇に吸い付きたいと思わなければ、俺は俺ではないのか。
クラウドは俺が触れるのを許してくれる。
クラウドに許されなければ、俺は俺でなくなるのか。
クラウドはどこまで許してくれるのか。
俺をどこまで許してくれるのか。
どこまで−−キスは許してくれる。セックスも許してくれる。全身を舐め回すのも許してくれる。
俺のモノをしゃぶってもくれる。俺のモノを扱いてもくれる。
それよりももっと…もっと。もっと。

奔放に跳ねる金髪から耳朶が覗く。
小首を傾げる仕草。瞬きをひとつ。

もっと−−例えば、俺がクラウドの手を切り取ったら。足を千切ったら。目を潰したとしたら。
いや、クラウドは己自身の痛みには無頓着だ。
それ以外の…例えば…ザックスだ。クラウドの友人であるザックスを俺が殺したらどうだ。
ザックスの手を千切り目を抉り、芋虫のようにしてしまう。
クラウドは怒り嘆き悲しむだろう。
例えば、母親。ニブルに住むという母親はどうだ。
俺が母親を殺したとしたら、クラウドはどうするだろう。
例えば、ニブル。故郷に関してクラウドは複雑な想いを抱いている。
その故郷を俺が潰したとしたら。全部燃やしてしまったとしたら、どうなる。
故郷の幼なじみを、俺が殺してしまったら、どうなる。
俺を許してくれるだろうか。
俺を許してくれるだろうか。
クラウドはそんな俺を俺だと認めてくれるだろうか。
もしクラウドに許されなかったとすれば、俺は俺ではなくなるのだろうか。

「あんた、いい加減それ渡せよ」
いつの間にかクラウドが目の前にいる。
手を差し出して、何かを渡せと言っている。
「それだよ。手に持ってるモン」
「それ、チョコレートだろ」
今日はバレンタインだもんな。


ああ、ザックスだ。ザックスがクラウドにやれと渡してくれたモノだ。
俺はずっと持ったままだったらしい。
俺に無関心そうだったのは、どうやら演技だったのか。目敏くクラウドはチョコに気づいていたのだ。

クラウド、教えてくれ。
答えはお前が持っている。
答えはお前が知っている。

クラウドに差し出したチョコは、すぐに包装紙を破かれた。
一口サイズのチョコが6個。箱の中で行儀良く並んでいる。
クラウドはそのひとつを口に放り込んだ。
咀嚼する動きはセックスの動きと同じ。

なあ、クラウド。
お前に許されなければ、俺が俺でないとしたら、俺はずっとお前に許され続けなければならないのか。
お前を殺したい。
ザックスを千切りたい。
お前の母親を殺したい。
お前の幼なじみを殺したい。
そうしても尚、俺はお前に許されたい。受け入れられたい−−愛されたい。

「なに見てんだよ」
あ、
「あんたも食いたいのか」
ひとつを取って、口元に突き付けてくる。

この想いはなんなのだろう。
ここまでしてお前だけにこだわる俺はなんのだろう。
これが俺なのか。俺という業なのか。
ここまで背負わなければ、俺は俺ではないのか。
だとすれば俺はなんと因果な生き物なのだろう。

じっとクラウドを見つめるだけで動かない俺をどう思ったのか、
「仕方ないよな」
「バレンタインだから、特別だぞ」
突き付けていたチョコを自分の口に放り込む。
少しだけ咀嚼して、口移し。
甘い甘い、キス。
俺は舌を伸ばして、口腔全体で味わう。
精神も肉体も堪能するのだ。


そして、疑問もチョコのように溶ける。


***

バレンタインのSSでした


←HOME